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官能小説 揺れる明るみ〜包容〜 1話


震える声、震える瞳

「大丈夫?」
俺は、目の前にいる恋人、葵の髪を撫でた。
「雄一」と俺を呼ぶ声が、少し震えているようだったから。

俺たちは今、葵がひとり暮らしをしている部屋のベッドの上。

本人曰く、「小さな胸とくびれのないウエスト」が理由で、葵は今まで、暗い場所でしかセックスができなかった。

俺と付き合い始めて1ヶ月ちょっと。
数日前、最後に会ったときのベッドで、葵は、これから暗くしなくてもいいと、言ってくれた。

そして今、ベッドの上。
見上げれば、蛍光灯が白く光っている。

愛のキャンドル

俺は、ベッドから降りた。

そして、自分のバッグへと手を伸ばす。
4つのキャンドルとキャンドルホルダーを取り出すと、部屋の数か所に置いた。

葵は、半分泣きそうな、半分怖がっているような、それでいて表面は笑顔を作ろうとする顔で、俺を見ている。

葵は確かに、明るくしてもいいと言った。
でも、その「決意」と、「不安」は別だ。
決意をしたからといって、不安が消えるわけじゃない。

「これなら、怖くない?」
蛍光灯のスイッチを切って、キャンドルの薄明かりの中、俺はベッドに戻った。

ゆっくりと頷いた葵と目が合って、ハッとする。
(葵の唇、なんか、すっごくきれい…)

「唇、めちゃくちゃキレイ。いつもと何か違う?」
恥ずかしいほどストレートに訊いていた。

「あ、ヌレヌレ…。新しいグロス」
葵は、下を向いたまま、ドレッサーを指さしている。
そこには、俺の好きな色の口紅の横に、見たことのない化粧品が置かれている。

(すごく、似合ってる…。というか、そそられる…)
照れくさい本音を口にできず、はしゃぐように、口づけた。
長く、長く。

指の向こうにのぞく瞳

「ねぇ、見えるの?」

葵の唇から離れて、鎖骨から腕へと唇を這わせていると、葵が、少し震える声で訊いてきた。

俺は、指先に向けて舌を滑らせながら、「うん、見えるよ。すごく幸せ」と目を合わせる。

葵の瞳は、まだ不安に包まれていた。
しかし、その奥には、不安とは違う色が宿っている。
この瞳は、沸騰したがっている。
今は心地いい温度。
でも、もっと熱くなりたい。煮えたぎりたい。
そう、瞳の奥の小さな一部分が、訴えている。

キャンドルの光が、その切望をあぶり出していた。

唇が、こぼれる…

俺は、その一部分を、もっともっとあぶり出したくて、指の1本1本を順番に口に含んだ。

中指に、チュパチュパと音を立てて吸い付き…、人差し指を、舌で強く指を押し出し…、親指を、優しく噛み…、

「あぁぁぁぁ。雄君…」
葵が息を漏らす。

俺は、葵の小指をくわえたまま、もう一度目を合わせようとした。
その直前…。
俺の目は、葵の唇に釘づけになった。

唇が、溢れ出しそうだ。
しずくになって、こぼれおちそうだ。

グラスから溢れる寸前のカクテルの妖艶さと、草の葉から零れ落ちる朝露の純粋さが、俺を呼ぶ葵の唇から、同時に放たれている。

「キレイだよ」
ありきたりの言葉と、チュルリという唾液にまみれた音を口から出して、俺は、冷静さを保とうとしていた。



⇒【NEXT】「愛しくて、切なくて、吸い続けた…」(揺れる明るみ〜包容〜 2話)

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あらすじ

小さな胸とくびれのないウエストが理由で、葵は暗い場所でしかセックスができなかった。
葵は雄一に「次は、暗くしない」と宣言していたが、部屋の電気をつけたままセックスをしようとする雄一に怖気づく。

はづき
はづき
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