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官能小説【1話】きみの声じゃないと駄目なんです!

イヤホン越しのカレの声

★作品について
この作品は、小説サイト「ムーンライトノベルズ」と合同で開催した、「ラブグッズで熱く感じる小説コンテスト」の大賞作品です。

『ねえ、正直に言いなよ。……気持ちいいんだよね?』

イヤホン越しの、意地悪で少し甘い、低くてぞくぞくするような声音が私を詰る。
その声だけで、その言葉だけで、身体の芯までどうにかなりそうなほどにぐずぐずになってしまう私は、他の人から見れば少しおかしいのかもしれない。
それでも気持ちいいのだから仕方がないのだ、――――だって彼もそう言ってる、し。

『そうだよね、気持ちいいよね?いいんだよ。悪いことじゃないから』
「っん、あ……うん……」
『じゃあ素直に言えたご褒美。もう一回、あんたの大好きなここに……これ当てて、いっぱいイかせてあげる』
「ッひ、ああっ……!」

ぶる、と手の中にあったものが、彼に反応するように勢いよく震え始めた。女の子のいちばん気持ちいいところに押し当てていたそれが震えれば、ぎりぎりのところで保たれていた私の平静はあっという間にどろりと溶けていく。
もっと欲しい、何かが足りない。溶けた思考の端で、私の心のやわらかな部分がそう声を上げるのに、身体は勝手にはしたなく上りつめていってしまう。腰が浮く、爪先が丸まる。もう果ては目前で、あと少しでも背中を押されたら身も世もなく喘いでイッてしまいそう。
イキたい、という気持ちと、もう少しこの快感を味わっていたいという気持ちがないまぜになって、私はつい手の中のもの、――――可愛らしいピンク色をしたローターを押し付ける手を緩めようと、して。

『――――逃げんな。やらしい声上げてイくとこ、俺に見せて』

耳元で囁かれた、荒っぽくて雄くさい低い声に背中を押されて、簡単に転がり落ちた。お腹の奥がじゅわりと濡れる。中が食い締めるものを求めるように、きゅんと震えるのが自分でも分かって、堪らなくなる。
彼の声は魔法だ。誰も知らない厭らしい自分を引きずり出す、魔法。
もう嫌というほど硬くなった秘芯に、さらにキツくローターを押し当てる。身体の中に眠っているその芯の根本や、さらに奥にある女の子のだいじな場所まで揺さぶってしまうと分かっているのに止められなかった。じんじんと溜まっていた熱が弾けるように、一足飛びに階段を駆け上がるように、思考が真っ白に塗りつぶされていく。

「あ、ゃ、っん、んん……!」
『ほら、イけ。……はは、かわい。イッて、ほら』
「――――ッ!」

愉悦が滲む掠れた声と同時に、駄目押しのごとくローターの震えが強くなって、私のぺらぺらの理性はあっけなく蕩かされて消える。
がくがくと腰が跳ねさせて、喉を無防備に晒して、――――私はあえなく果ててしまった。

昼休みの他愛ない会話

麗らかな昼下がり。

オフィスの隅にあるカフェスペースにて、お弁当箱の中の玉子焼きをつつきながら、私は重々しい溜息と共に呟きを零した。

「声が好きすぎる……」
「えっ、何?琴原なんか言った?」
「いやごめん、こっちの話」

そうか、なんて不思議そうな顔をする同期に申し訳なく思いながら、私の心は昨日の夜のことを思い出していた。間違っても自分の痴態を思い出していたのではなく、その痴態を引きずり出してしまった『あの声』について。
ベッドの上で一人、布団の中で行われる女性の秘め事のお手伝いをする、――――という名目で配信されている音声作品。こちらに語り掛け、えっちなことを促し、性欲を発散させるそれらの作品を、私は好んで使用している。この場合、使用は言葉通りの意味である。
私がそれらを一人えっちに用いるのは、純粋に本当の一人きりよりもずっとドキドキするからという理由もあるけれど、特筆すべき理由が二つ。
1つは、私が使っているローターとその音声が連動しているということ。音声の方で『彼』がローターのスイッチを入れるような発言をすると、自分の手元にあるローターが実際に震え始めるのだ。『勝手にスイッチが入る』というのは思っているよりもずっと重要なことで、彼がその場に存在しているかのようなリアリティを感じさせてくれる。よって私は、このローターの存在を知ってからは、他のローターを使ったことはない。

そしてもう1つは純粋に、――――好きなのだ。聞いている作品の『彼』の声が。

「ああ、そういや今日の飲み会だけど。七時半スタートだって聞いたか?」
「あー……そういえばそんなこと言ってたかも。仕事終わるかな」
「琴原は大丈夫だろ。昨日だって『終わんないかも……』とか言いながら人の分の仕事までザクザク片付けて、さらっと定時に帰ってたし」
「いや、まあそうなんだけど……今日はあんまり自信ないかも。資料作成が残ってて……」
「でも、他の仕事はもう大体終わってんだろ?」
「資料作成が一番苦手なんだよ……」

同期を他愛もない会話を交わしていると、ふと手元のお弁当に影が落ちる。つられて顔を上げると、ほど近い場所に人が立っていた。

「琴原さん、確かに資料作成だけ異様に遅いっすよね。他の仕事はあんなに速いのに」

はは、と気安い笑い声が頭の上から降ってくる。私はどきりとした心臓を慌てて押さえつけながら、そのかんばせに「こんにちは、高峯君」と微笑んでみせた。
高峯侑真。私の二つ下の後輩で、仕事もしっかり出来る落ち着いた雰囲気の好青年だ。今時の子らしく染めていない真っ黒の髪も、フラットだけど失礼にならない距離感の喋り方も好感が持てるのと、慕ってくれることも相まって、私にとってはついつい可愛がってしまう後輩でもある。

「お、高峯。お前もメシ?」
「いや、俺はもう食ったんですけど……琴原さんに用があって」
「私?」

自分を指差せば、高峯君は少しだけ視線を彷徨わせてから、するりと頭を下げた。

「昨日、仕事手伝ってもらったので……改めてすみません。ありがとうございました」
「そんな、わざわざいいのに……」
「何だ、お前が手伝ってたの高峯の仕事かよ。相変わらず高峯に甘いよな〜」

同期がにやにやしながら箸で私を指差してくる。行儀が悪い、と零してもどこ吹く風で「で、何でそんなに甘やかしてんの?」なんて堂々と聞いてくるから、行儀どころか始末も悪い。私は額に手を宛てて、同期も高峯君も見ないままに言葉を吐き出した。

「だって……仕方ないでしょ。かわいい後輩だし」
「だってさ高峯」
「……あのね先輩、余計なこと言わないでくださいよ」
「悪い悪い。でも大丈夫だって、琴原死ぬほど鈍いから」

だから二年も彼氏が出来ねーんだよ、なんて腹立たしいことを嘯いた同期は、全く悪びれるふうもなく、再び箸を弁当箱に戻す。こいつ……。
まあ、同期はこういう男だから仕方がない。私は彼への文句を溜息ごと飲み込んで、改めて高峯君へと向き直った。

「それで、結局用事って何だったの?さっきの謝罪?」
「あ、それで……今日の仕事で何か手伝えることあったら、って思ってたんすけど。良ければ、さっき話してた書類作成巻き取ります」
「え!」

いいの、と期待のこもった目で高峯君を見上げると、彼は何故か少し眩しげに目を眇めたのち、力強く頷いてくれる。さらさらとした黒髪が揺れて、一瞬だけ彼の耳元を覆い隠した。

「俺、そういう型のある仕事のほうが得意だし。それに……琴原さんが残業で、今日の飲み会来ないのも嫌だし……というわけで、俺に任せてください」
「ありがとうね……すごく助かる……」
「はい」

ふ、と吐息を零して高峯君が笑う。その瞬間に、私の心臓が一瞬動きを止めた。

やっぱり似てる、――――昨日、私を散々イかせてくれた『彼』の声と。

カレの声を意識し始めて…

最低なことを考えているのは分かっているけれど、似ているものは似ている。仕方がない。一度似ていると思ってしまえば、その思考をなかったことにするのはすごく難しかった。
甘い声で卑猥に詰って、おんなのこを追い詰める『彼』の名前は、『玉子焼き』さんという。正直何故その名前なんだと思わないでもないけれど、その適当に決めたっぽい感じも今となっては魅力だった。つまり、私は完全に頭をやられている。
そして高峯君は、その玉子焼きさんと非常に、ものすごく、声が似ていた。普段の声もそこそこ似ているけれど、笑う声や吐息が特に。玉子焼きさんのほうが低くて掠れた声をしているので、高峯君が風邪を引いて声が嗄れていたときは、正直私のほうが死にそうだった。
聞くだけでドキドキして、お腹の奥がぐずぐずになって、身体の芯が全部あまく痺れるようになってしまった声に、会社の後輩の声が似てる、――――なんて。こんなの天国なのか地獄なのか、自分でも良く分からない。

官能小説挿絵:きみの声じゃないと駄目なんです!で登場するイケメンボイスの男性

「……琴原さん?どうかしました?」
「……」
「琴原さん、」
「……ああ、ええと、ごめん。ちょっとぼんやりしてた……」
「珍しいっすね。大丈夫ですか?」

ちょっと心配そうな顔をした高峯君が、失礼しますと断って私の前髪を持ち上げる。会社の同僚としては少し行き過ぎたように思えるスキンシップだけど、高峯君は意外にもそういうところに鈍いのか、私と彼の間では往々にして起こることだった。だからそこは問題じゃない。
問題は、今の私の身体の状態だ。

「っ……、高峯君、ちょっとストップ」
「でも琴原さん、顔赤い……」

高峯君のひんやりとした指先が、額にゆっくりと押し当てられる。それだけなのに、他人の温度に反応した身体が、じくじくと熱を持ち始めてしまう。うなじがざわざわして、お腹の奥がきゅんとする感覚。昨夜の余韻が抜けきっていないのに、玉子焼きさんのことを思い出して、高峯君の声にやられて、触れられて、――――会社のカフェスペースだということは分かっているのに、どうしようもなく、気持ちいい。
は、と息をついて、これ以上自分の浅ましい姿を見ないようにと瞼を下ろせば、高峯君が微かに息を呑んだ気配がした。指先が額から頬を滑って、首筋を辿っていく。

「……身体、熱いね」

掠れた、熱っぽい声だった。敬語を失くして、愉悦が溶けたそれは今まで聞いた高峯君の声の中でも、一番『彼』に似ている。頭の先から、臓腑を通って爪先まで。全身を甘美な痺れが駆け抜けていくのが分かった。反射的に太腿を擦り合わせてしまって、あるはずのないローターの感触を探してしまう。
――――これ以上は、駄目だ。

「――――高峯君。手、離して。もう大丈夫」
「……そうすか」
「うん。今日ちょっと暑かったから、少しのぼせちゃっただけだと思う。心配かけてごめん」
「ん、それならいいんですけど……でも、ちょっとどっか人のいないとこで休んだほうがいいと思います」
「え、そんなにひどい顔してる?」
「ひどい、って言い方はアレですけど……」
「けど?」
「……俺が心配なんで。かわいい後輩に免じて、その顔あんまり他の人に見せないでください」

よく分からないけど分かった。
私が頷くか頷かないかのうちに、高峯君はぱっと距離を取ると背中を向けて去っていく。途中で私のデスクに近寄って書類をいくつか取り上げているのも見えた。たぶん、さっき巻き取ると言っていた資料作成用のプリントだ。ああ、いい子だなあ。そんないい子に私は……と思うと、つい箸を握りしめたまま盛大に項垂れてしまう。
高峯君の気配が遠ざかった途端、現金なことに頭の中がクリアになって、先程までの病的なまでの熱っぽさとじれったい快感はどこかへと消え失せていた。冷静になると本当に死にたくなってくる。仕事のサポートもしてくれて、体調まで気遣ってくれるイケメンで美声な後輩に、おかずにしている声の主を重ねて欲情するなんて……私は最低だ……。

私がカレを思う気持ち…

「あれ?高峯戻った?」
「戻ったよ……」
「ふーん」

お弁当を平らげたらしい同期が、ちらりとこちらに視線を寄こす。さっきまでのこちらの様子には全く気付いていないようで何よりだ、――――なんて思っていたら、彼は急に爆弾を投げ込んできた。

「……ていうか琴原さ」
「何?」
「お前、高峯に惚れてんの?」

同期の黒々とした瞳が、明日の天気でも尋ねるかのような気安さで私を捉えた。

「は、――――グッ、ゲホッごほ、な、なん……なに!?」
「死ぬほどむせてる辺り怪しいよな。ぶっちゃけどうなの?」
「どうもこうもないけど!?」

心臓がうるさく早鐘を打つ。そう、どうもこうもない。そのはずだ。
確かに高峯君はいい後輩で、人となりにも好感が持てて、おまけに顔も佇まいも結構好みで、さらには私の大好きな声によく似た美声をお持ちだが、それだけで好きだ、なんて。
再び熱くなっていく頬を意識の外から追い出して、弁当箱に最後まで居残っていたトマトを口に放り込む。

「大体、そういう勘違いは高峯君にも失礼でしょ……」
「俺の見立てによると勘違いでもなんでもないけどな。お前、高峯にだけやたら構うし、よく見てるし」
「確かに可愛がってはいるけど……よく見てるのは、直属の後輩だから絡む機会が多いだけだよ」
「まあ、そりゃあそうだろうけど……でも、琴原さ、」

同期がその言葉の続きを口にするより早く、オフィス内に気の抜けたチャイムが響き渡った。私はこれ幸いとばかりに荷物をまとめて立ち上がる。あと五分で始業時間だ。

「あっこら琴原、話はまだ終わってねーぞ!」
「はいはい、そういう話は飲み会のときにして。あんたも仕事早く片付けないと飲み会行けなくなるよ」

ひらりと手を振ってやれば、同期は何だか微妙な顔をして、のろのろと片付けを始めた。それを横目に自分のデスクへと向かえば、少しだけ減った書類の山と、――――見覚えのないコンビニスイーツのプラカップに出迎えられる。
イチゴと生クリームがふんだんに乗ったそれは、私がよく食べているコンビニスイーツの新作のはずだ。ちょっと前から出回っていたけど、普段食べているのより少しだけお高くて、どうしようかなあなんて思っていたやつ。自分で買った記憶はないから、誰かからの差し入れだろう。
そんなことを考えながらプラカップの蓋部分を見つめて、そこに付箋が貼りつけられていることに気付いた。

「……あ、」

おやつにどうぞ。お大事に。

どこか素っ気なくみえるその文字に、私ははっきりと見覚えがあった。この二年で何度も見た筆跡。署名がないのも、きっと気を遣わせないようにという彼なりの配慮なのだろう。

ちらりとその文字の主を窺えば、彼、――――高峯君は難しい顔をして、既にディスプレイを覗き込んでいた。

「……」

その横顔に何だかきゅんときてしまうのは、たぶんきっと気のせいだ。

「はあ……」

私は椅子を引き、腰を下ろす。仕事を始める準備だけを手早く済ませ、ケータイを手に取る。
ディスプレイに並ぶアプリの群れの中、隠すように端の方に置かれているそれ。それは昨夜も使った、ローターと連動する音声作品などを再生する用のアプリである。そのアプリを開けば、玉子焼きさんの出演作品たちが目に飛び込んできた。どれもこれも、最低でも十回ずつは聞いたと思う。
玉子焼きさんの声が好きだ。こんなに好きな声の人は今後現れないんじゃないかってぐらい、好きな声だ。でもその声に似てるからって高峯君のことが気になってしまうのは、やっぱり不誠実な気がする。でもそう思うのと同じぐらい、こういう優しさに触れたとき、あまり見られない笑顔を見たとき、真剣な横顔を見たときに。本当は少し彼にときめいてしまっているの。

「……わたしは、」

高峯君のことをどう思っているのでしょうか、かみさま。

⇒【NEXT】「……ねえ、その顔。何か隠してますよね」(きみの声じゃないと駄目なんです! 2話)

あらすじ

『ねえ、正直に言いなよ。……気持ちいいんだよね?』
耳元で囁かれるイケメンボイスは、荒っぽくて雄くさい低い声。私はこの声が好きだ。
毎晩、このイケメンボイスを聴きながら、ひとりエッチを楽しんでいて…

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