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官能小説【2話】きみの声じゃないと駄目なんです!

呼吸を止めた一瞬

★作品について
この作品は、小説サイト「ムーンライトノベルズ」と合同で開催した、「ラブグッズで熱く感じる小説コンテスト」の大賞作品です。

「そういえば琴原さん、猫飼ってるんでしたっけ」
「実家でね。見る?」
「見たい」

ひょい、とケータイを覗き込んでくる高峯君は、お酒が入るとまた少しだけ気安くなる。平素は歳よりも落ち着いて見える彼が、まるで新卒のように思えてくるから不思議で、かわいい。
高峯君のお陰で無事に仕事が終わった私は、会社の飲み会に顔を出していた。同期の彼も無事に仕事は終わったようだったけど、近くのテーブルにはいないらしい。まあ、うるさいからいなくていいんだけど。
がやがやと騒がしい居酒屋の座敷の端では、周りの人の声も上手く聞き取れなくて、結局隣に腰を下ろした高峯君とばかり話してしまう。

「ええと……写真、写真……」

適当に開いていたネット画面を消して、アプリをスクロールして、――――指が滑って、あのアプリを開いてしまう。画面いっぱいに広がる、玉子焼きさんをイメージしたらしい二次元イケメンの、CDジャケット風のイラストたち。

「は!!」

閉じた。閉じたが、これはもう手遅れなのでは……?
私は呼吸を止めて、おそるおそる高峯君の顔を見上げる。高峯君は酒精のせいか微かにとろりとした目をしていて、どこかぼんやりとした様子で私の手元、すなわちケータイのディスプレイを眺めていた。

「……琴原さん、」
「っは、はい……」
「ぼーっとして、どうしたんですか?まさか、酔って写真アプリがどれか分からなくなったとか」
「そ!……そんな簡単には酔わないから。まだ三杯しか飲んでないし……」
「っすよね。琴原さん、酒、つよいし……」

どこかふわふわとした口調でそう言った彼は、そのままへらりと笑ってみせる。かわいいなあ、なんて思ってしまう呑気な頭を叩いて、私は酒で動きの鈍くなった思考を急いで回す。
確かにさっきの一瞬、高峯君の目にもあの画面は映ったはずだ。でも、この反応や言動からしても彼があれらの意味を正確に理解しているとは考えにくい。お酒が回り始めているみたいだし、一瞬のことだったし、よく分からなかったのかも。
それに、見られていたとしても、あれが私のいわゆる一人えっち用のおかずであることに辿り着かれることはないだろう。相手が女性だったらちょっと怖かったけど、高峯君がこのアプリを知っているとも思えないし。

「と、とりあえず猫だよね。ちょっと待って」

何とか呼吸を整えて、まだ微かに震える指で写真アプリを開く。どこにあったかな、なんて気まずさを誤魔化すようにむにゃむにゃと呟きながら操作をしていた私は、そのときの高峯君がどんな顔をしていたか、ついぞ知らないままだった。

カレが手に持つのは…

というのが三時間ほど前の出来事だ。
そして飲み会がお開きになり、終電がとっくになくなった現在、――――私の自宅リビングには、何故か高峯君が転がっていた。

「高峯君、大丈夫?」
「ん、んん……はい……」
「大丈夫に見えないなあ……」

水でも持ってこようかと尋ねてみれば、高峯君はゆるゆると頷いてみせる。その幼い仕草に苦笑しながら、私はキッチンへと足を向けた。
高峯君が完全に潰れたのは、もう飲み会も終わろうかというタイミングだった。私よりも随分と酒に弱いらしい彼は、終電の時間までに意識を取り戻すことが出来ず、――――私の同期や彼の同期女子たちの力強い後押しを受けて、私が持って帰ることになってしまったのだ。

「まあ、誰も高峯君の家がどこか知らなかったし……」

仕方ないなという思いが半分、やっぱり断っておけばよかったかもという思いが半分。嫌なわけじゃないけれど、恋人でもない男の人が家にいるというのは落ち着かなかった。それが高峯君なら尚更。
1LDKの自宅は、当然昨夜の私が一人えっちを行った場所だ。そこに、先ほどアプリを一瞬とはいえ見てしまった高峯君がいるという状況は、私が彼のことが気になっているという背景を除いても落ち着かない。
でもアプリのことは考えすぎだろうって分かったし、そんなに過敏になることじゃないか、――――そんなことを内心呟きながら、水を注いだグラスを持って高峯君のところへと戻る。

「高峯君、水持って、き、……」

ばしゃん。
手が傾いた拍子にグラスから水が零れて、足を濡らす。でもそんなことはどうでもよく思えるぐらい、私の視線は高峯君の手の中にあるものに釘付けになっていた。

「ああ、琴原さん。おかえりなさい。水、盛大に零れてますけど大丈夫すか?」
「た……高峯君、それ……」
「ん?」
「その……手に持ってるそれ、ど、どこから……」
「そこの引き出しです。開いて中身が見えてたんで」
「へ、へえ……」

わ、私の馬鹿!!
頭を抱えてその場で蹲りたい衝動に駆られながら、私はグラスを置いてじりじりと高峯君から距離を取る。彼の手の中にあるもの。薄いピンク色の、可愛らしいフォルムの『それ』は、――――くだんの音声作品と連動する、私の一人えっち用ローターだった。死にそうだ。
高峯君は距離を取ろうとする私を、しばらく静かな瞳で眺めていた。でも、じわじわと毒が回るようにそこに熱っぽい、嗜虐の色が浮かんでいくのが分かって、背筋がざわりと粟立つ。

「それで……これ、何ですか?」
「……」
「ね。これ何?教えてよ、琴原さん」
「ええと、その……」

にんまりと歪められた目が私を捕らえて放さない。
この場で相手をなじる権利があるとすれば、私のほうのはずだ。勝手に部屋を漁った高峯君のほうが責められて然るべきなのに、彼の雰囲気にあっという間に気圧されてしまって、口の中がからからに乾いていく。激しく脈打つ心臓と、ぐるぐると回る思考の中で、私は誤魔化すことも出来ずにその名称を口にした。

「ろ、ローター、です……」
「へえ、」

高峯君の唇が、ぞろりとした笑みを描く。

「琴原さん、これでいつもやらしいことしてるんだ?」
「っ……」
「はは、顔赤いね。かわいー……」

会社で聞く彼の声より、少し低く掠れた熱っぽいそれ。今日の昼休憩中に聞いた、愉悦が溶けた『玉子焼き』さんのものによく似たそれは、一瞬のうちに私の心と身体を縛って、しまう。何で急にこんなことに、とか、高峯君さっきまで潰れてたのに、とか。そんな思考が意識の外へと追い出されていくのが分かった。

声の正体

そうして息を止めて立ち尽くす私に、高峯君はさらに笑みを深めて、ぐいっとこちらの手を引いてみせる。

「でもこれ、普通のローターじゃないですよね」
「え……?」
「アプリの音声と連動するやつ」
「え!?な、なん、なんで知って、」
「飲み会のときに見えたんで、アプリが。流石に対になってるローターの形状までは知らなかったんで、当て勘だったんすけど……その反応だと当たり?」
「いや、だから、そもそも何でそれを知って……」

先ほどまでより近付いた顔が愉しげに私を見遣る。どんどんいじめっこっぽくなっていく彼に、どうしようもなくドキドキしてしまうこの心臓が憎い。
やっぱり、この声がいけない。耳元で聞かされると余計に駄目で、それだけで身体の奥からとろりと熱が零れてくるような感じがしてしまう。似た声に毎日のように絶頂へと導かれ続けた身体が、正直すぎるぐらいに反応しているのだ。
だから、この私の大好きな声に似すぎている高峯君の声がいけない。
八つ当たりのようにそんなことを考えていた私に、――――高峯君は予想外の言葉を口にする。

「だって俺、何本か出演してますし」
「……は?」
「だから、俺が声当ててる作品も何本かあるんで。だから見てすぐに気付いたというか……」

俺、何本か出演してますし。
俺が声当ててる作品も何本かあるんで。

高峯君の、しれりとした言葉が脳内をぐるぐると掻き回す。出演という単語を飲み込むまでに三十秒ほどかかって、そして私はようやく彼の言っている言葉の意味を理解した。
彼は、私の後輩は、あのアプリで女の子をなじって、きもちよくするお手伝いをしている、らしい。

「ま、……まって、ちょっと待って」

恐ろしいことに気付いてしまった。高峯君が声を当てたものがあのアプリ上にあるとしたら、それは、それは。
背筋が冷たくなっていくと同時に、度し難い私の身体の芯だけが熱く、蕩けるように火照っていく。いやまさか、確かに似てる似てるとは思っていたけど、まさか本当にそんなことがあるなんて思わないでしょう!

「……ねえ、その顔。何か隠してますよね」
「エッ、い、いや、何も……」
「もしかして、俺のやつ聞いたことあります?」
「そ、んなこと、」
「あるんだ?」
「ねえ高峯君酔ってるよね!?」
「酔ってない。だって今日全然飲んでないし」
「は、」

あのアプリを見た瞬間に私の『秘め事』を悟った彼は、真相を確かめるべく潰れたフリをしたのだと笑った。
かわいがっていた後輩のしたたかすぎる一面に面食らい、脳味噌と一緒に身体も硬直させた私を、高峯君はさらに引き寄せて腕の中に閉じ込めてしまう。二年ぶりの『おとこのひと』の感触と温度。心も身体もうずついて、自分の唇から滑り落ちていく吐息が濡れて、熱い。たぶんその熱さも、心臓の鼓動が早すぎるのも、全部高峯君にばれているのだろう。肩口に顔を埋めた彼が、くすりと笑う気配がした。

官能小説挿絵:きみの声じゃないと駄目なんです!のエロボイスの男性に押し倒されるシーン

「……『ねえ、正直に言いなよ』」
「!」

耳たぶに触れそうなぐらい近くで、高峯君が囁いた。その声音に、台詞に、今までの比じゃないぐらいにぞくぞくする。だって、その少し欲を孕んだ語尾の震え方は、なじるような台詞は。
――――昨日聞いたものと全く同じだ。そう思った瞬間に、昨夜散々自分でなぶった秘芯がぶるりと震わされる感覚。ローターは彼の手の中にあるはずなのに、何故かその静かなモーター音さえ聞こえてくるような気がして、腰が軽く浮く。だめ、だめだって、何勝手に気持ちよくなってるの。
高峯君にばれる前にと必死に身体の制御を試みるが、抱きしめられている以上、それはどだい無理な話で。

「なに?俺の声聞いただけできもちくなっちゃうの……」
「ッち、ちが、」
「何が?俺のやつ聞いたことあるんですよね?……もしかして、最近俺のでシたとか?」
「……!」
「……はは、ビンゴか。嬉し……」

ぎゅう、と私を抱きしめる腕に力がこもる。逞しい腕の輪郭までがはっきりと感じられて、快感ばかりに浮かされていた心がじわりと温かくなる。
高峯君の声が本当に嬉しそうだったのもあるだろう。私を追い詰める声音とは少し違うそれに、私は思わず口を挟んでしまった。

「何で、そんなに嬉しそうなの?」
「何でって……」

情欲の灯

私の肩口から頭を上げた高峯君が、きょとんとした顔で私を見つめる、――――次いで、へにゃりとやわい笑みを浮かべてみせた。

「俺、琴原さんのこと好きなんです」
「は、」
「琴原さん、全然気づいてなかったけど。結構皆も俺の気持ち知ってたし」
「え、は、嘘……」
「嘘じゃない。だっておかしいでしょ、酔って潰れた男を、女の琴原さん一人に押し付けるって。あれは俺が『今日絶対決めます』って色んな人に宣言したからです」
「は!?」
「だから、今日ほんとは普通に告白するつもりで。でも、琴原さんがあんなアプリなんか見せてくるから……」

高峯君の瞳がゆらりと揺れる。もし情欲の灯というものが見えるとしたら、きっと彼のそれに浮かんでいるものがそうなのだろうと思った。

「きれいで真面目で尊敬してる、大好きな人が。俺の声とローターで気持ちよくなってんのかなって思ったら……すげえ、興奮した」

ぞくり。

言葉通りの興奮を隠そうともしない視線が、私の身体を舐めるように滑っていく。
視線だけで犯されているみたい、だ。
でもどうしてか、その熱量が嫌じゃなくて、初めて見るはずの高峯君のそんな顔を『好ましい』と思ってしまっている自分を知って、唐突に理解する。

玉子焼きさんの声に似ていると思ったとき、少しだけ後ろめたいような感覚がしたのは、たぶんきっとその時点で高峯君のことが好きだったからだ。
性欲処理に使っているものに重ね合わせるなんて最低だって分かっているのに、何度も玉子焼きさんの作品を聞いた。好きだと思った。

どうしようもなくドキドキした。

⇒【NEXT】「とんでもないこと言った琴原さんが悪い。だから、キスしたい。それからその先も」(きみの声じゃないと駄目なんです! 3話)

あらすじ

会社の飲み会で完全に酔っぱらってしまった高峰。
仕方ない、と介抱のため自宅に迎え入れたものの、引き出しに隠していたローターを見られてしまう。
意地悪な笑みを浮かべた彼に、『何か隠してますよね』と迫られて…。

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