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官能小説 オンナノコ未満、オンナノコ以上 1話
合コン
★作品について
この作品は、小説サイト「ムーンライトノベルズ」と合同で開催した、「女性の為のHなラブコスメ小説コンテスト」のLC賞作品です。ドキドキの小説をお楽しみください。
その時、座敷で十人ほどの男女が宴会を楽しんでいた。
全国にチェーン展開している安居酒屋の半個室に、すし詰め状態で座っているにも関わらず、誰も不満を漏らすことはなかった。
お酒が入っているからということもあるが、密着することこそが目的の一つであるからこそなのだろう。この状態を暑苦しいだの、狭苦しいだの感じてしまう時点で、私はワンナウトだ。
今日は会社の課をまたいだ非公式交流会――――という名の合コンだ。
ほぼ同数の男女は、席が狭いことを言い訳に、肩が触れ合うほど密着して、時に酒を飲み、時に冗談を言い合っていた。
ほぼ、というのは、残念ながら男性が一名ほど遅刻しているため、女子が一人あぶれてしまっているのだ。それが、石動(いするぎ)亜久里(あぐり)私である。
テーブルの一番端を陣取っている私の正面も隣も、お洒落に着飾ったかわいい女の子が座っていた。彼女たちが微笑んだり、首を傾げたり可愛らしく動き回るたびに甘くて良い匂いが辺りを漂う。たぶんバニラのシャンプーだろう。もしかしたら香水もつけているのかもしれない。
男子の中にはあぶれてしまっている私に時折、申し訳なさそうな視線を向けてくる人もいた。けれど酒が回るに連れてその頻度は減っていき、今ではすっかり私は壁の花どころか、テーブルの角に甘んじていた。
せめてお酒を楽しむことができればよかったのだが、残念ながらアルコールに強くない。匂いだけでも酔えるほど。そんな私は黄色いジュースに逃げることもできなかった。これでツーアウト。
できることといえば冷めた鶏の唐揚げを二杯目のウーロン茶で胃に流し込み、ただひたすら会の解散を心待ちにするばかりだった。
もともとこの手の会が苦手なことはわかっていた。それでもわざわざ参加したにはそれなりのわけがある。結局目的はまるで果たせていないけれど。
目的達成ならず
「石動さんって、髪の毛綺麗ですよね」
「……そ、そうですか?」
隣に座っている井上さんに唐突に話題を振られ、私は戸惑いながら腰の近くまで伸ばした髪に触れてみた。太く堅い髪が指先に絡み、かわいげのない石鹸の匂いがかすかに鼻をかすめていく。それが良いのか悪いのか自分ではよくわからなかった。
ただ、かわいい女の子たちが一生懸命話しかけてくれるたびに、ぺたんこの胸がじくじくと痛んだ。
これは違うんだよ。そういうんじゃないんだよ。ただ、どうしたらアナタ達みたいに可愛くなれるのかわからなくて、ずっとありのままにしてあるだけで、本当はパーマにもカラーリングにも興味津々なんだよ。
いっそ、本当にそんな悩みを口に出せればいいのかもしれない。けれど少なくともそれは今ではない。こういった集まりで同性同士が話し込むのはそもそもマナー違反というものだ。私に話しかけた彼女もそれを重々承知しているようですぐに「ね、すごくきれいだと思いません?」と明るい笑顔を携えて、隣の男性に話を振ってしまった。
「あー、うん。そうだね。綺麗かも。でも、アンナちゃんの髪もすっげー綺麗だよね」
「え、本当ですかー!?」
会話に入るタイミングを失い、私は誰に向けるわけでもない相槌を打つことしかできなかった。
楽しそうな笑い声が、ひどく胸を抉る。スリーアウト。限界。胸にポッカリと空いた穴を埋めるように、私は一気に冷たい烏龍茶を流し込んだ。
「ラストオーダーの時間となりましたが、ご注文いかがでしょうか」
店員が飲み放題の終わりを告げにやってきた。
「あーどうしましょう。姫君、結局来なかったね。キャンセルってきかないんですよね確か」
「そうなんだよねぇ。安かった分そゆとこ融通きかないのー」
女子の視線が男性陣に向けられる。男性陣はヒソヒソと相談し始めた。来なかったのが美女であれば我先にと負担するのだろう。だが男の、それも女子受けのいいイケメンだとすれば、来るも来ないも彼らにとってはマズい状況だった。
「いいですよ。とりあえず私、立て替えておきます。……いっぱい食べちゃったし。また後で五月さんに請求すればいいんで」
「え、いいの〜! ありがとう!」
言い終わるとほぼ同時に、幹事の青柳さんが満面の笑みを向けてくる。それに続いて他の面々も口々にお礼を口にした。
私は注目されていることに居心地の悪さを感じて、曖昧に笑いながら二人分の会費を払った。
「ほんとにありがとね」
青柳さんはもう一度そう言うと、お会計のためにレジに向かった。同じ課の、人当たりがよくて比較的真面目な彼女とは、もっと仲良くなりたかった。ほんとに気にしなくていいから。明るくそう言えればいいのかもしれない。でもそれが言えない私だから、この会を楽しめなかった。
「あー、恵理子さん二次会は?」
「なんと最近駅前に出来たアソコです〜!」
「おお、マジすか! あそこ予約取れないって有名なのに、この大所帯で!?」
「もっと敬え!」
支払いが終わっても空気は萎むどころか、ますます華やぎ盛り上がっていくばかりだ。水を差すようで、ひどく居心地が悪かった。けれどこの空気の中に居座り続ける方が針の筵に違いない。
「あ、私、ちょっと寄りたいところがあるんで。ごめんなさい」
どうにか断りを告げ、私は足早に去った。当然ながらそれを引き止める人もなく。その事実に少し傷つきながら私は駅に向かった。
気になる彼
あ、ひざ掛け忘れた……。
駅も目前というところで私はハッとする。後日改めて取りに戻ってもいいのだが、ああいう賑やかな店に自分一人で近づくのは勇気がいる。私は冷えて疲れた足に鞭を打ち、急いで店に戻ることにした。
店先まで戻ると、そこにはまだ飲み会のメンバー全員が残っており、ちょうど大遅刻をしてきた五月さんと合流したところのようだった。
「あれ、石動さんは?」
「姫君遅いから先帰っちゃったよ。姫君の分も支払いしてくれたんだよ〜感謝しないと」
「うわー本当ですか? 明日謝っとかないとな」
「いや、いいんじゃない別に? だってあの子だって『都合のいい女』じゃん」
ごめん、忘れ物しちゃった。そんな言葉は、情けなく引っ込んでいく。足がすくんで、その場から一歩も動けなかった。
「それ、ちょっと酷くないですか?」
「えーでも面倒な雑用は全部引き受けてくれるし、昼休みもいっつもコンビニに走ってくれるよね」
「ホントホント、見た目冴えないけど仕事は早いから助かるー」
都合のいい女と笑われている。青柳さんは笑ってない。よかった。和を乱してまで私を庇ってまでくれて。それだけで十分だ。
それに都合のいい「女」と言われたのに、そんなことさえ嬉しいと感じてしまう私がいる。
私でも、ちゃんと女に見られてるんだ……なんて不毛なこと思っちゃうから駄目なんだよね。うん。知ってる。でも胸の奥でザワザワ騒ぐ虫を押し込めることはできない。
前髪は眉毛に掛からない程度、長い場合はヘアピンで留めること。
後ろの髪も襟にかかるなら、ゴムで縛ること。
パーマも染色も当然禁止。スカートは膝が隠れる丈。
男女交際 なんて聞くまでもない。
そんなルール、高校時代だって誰も真面目に守ってなかった。私以外は。
わかっていたけど、破る勇気がなかった。破っていいんだよ。誰かにそう言われるのをずっと待っていた。でも馬鹿真面目に守っている私に、そんなことを言ってくれる友達はいなかった。
ずっと真面目にルールを守っていて、気がつくと乗り遅れてた。お化粧の仕方もわからない……。それどころか眉の整え方もわからない。
おしゃれな女の子たちが頬の産毛を剃ってることも、最近まで全然知らなかった。皆はいつから無駄毛の処理をしていたんだろう。私は大学に入って指摘されてようやく知った。
先生に褒められて、親に褒められて、必死にルールを守ることだけが私の存在価値。
校則がなくなって、制服を脱いでしまったら……もう女でさえ、いられない。
どうしたら、オンナノヒトになれるんだろう?
悩みを抱えながらも、毎日は当然のように走り去っていく。仕事は楽しい。だから頑張る。けれど高校時代が遠くなればなるほど、悩みは凝り固まり胸の奥底に沈んでいった。
そんな社会人生活の中で、私は彼を見つけた。
休憩時間になるといつもほのかに赤みがかった唇に、可愛らしい匂い付きのリップクリームを塗っている彼。
パステルカラーやピンクを平気で身に付ける、しかもそれが似合ってる彼。多分身長は170cm代前半くらい。 最初は男の人なのに、変なのと思った。でも、自分の好きなものをよく知っていて、それを恥じることなく好きだと言える彼はとても格好良かった。
それが、五月(さつき)春(はる)さん。まわりからは姫君と呼ばれていた。
内面の凛々しさとは裏腹に羨ましいくらいの小顔に、色素の薄い柔らかくて細い髪。
榛色の瞳はクリクリと愛らしく、睫毛なんて驚くくらい長い。
肌も白くてスベスベで、持っている小物なんかは羨ましいくらいセンスが良くて可愛い。そのくせ、可愛すぎない。
彼が持っているお財布は、花柄だった。フェイクレザーに大柄の、けれど品のいい大輪の花が咲いている、お洒落なもの。
「春って名前だからかな。花、好きなんだよね」
それを嫌味なく使いこなす彼は、私にとってまさに『姫』で憧れの存在だ。
彼みたいになりたかった。彼と仲良くなりたかった。だから、彼のまわりを金魚のフンのようについて回った。
その結果が『都合のいい女』。結局、私じゃ駄目なんだよね。友達にさえなれなかった。
気まずい思いを抱え、立ち去ろうと踵を返したその時だった。
「あ!!」
五月さんが大声を上げた。
驚いて足を止め、振り返ると……恐ろしいことに彼と目が合った気がした。
「どうしたの?」
「ちょっとコンビニで買い忘れたものがあるから、先、店に行ってて。じゃ、よろしく」
「もう遅刻すんなよ〜!」
他の面々は――主に男性陣は、すぐに店に向かって歩き出した。それにつられて、後ろ髪引かれながらも女子も歩き出す。
その姿を見送ってから、五月さんはゆっくりと私の方を振り返り、ニっと口角を上げた。
その不敵な笑みに私が目を奪われている数瞬の間に、五月さんは一気に私との距離を詰めて、彼の長いまつげの一本一本が見えるほど顔を近づけて言った。
五月
「聞いてたでしょ?」
「え、あ、あの……」
五月さんは当たり前とでも言うように、私の目を見て話している。でもそんなもの、私が見返せるはずもなく。
ふいに鼻腔をくすぐったのは甘酸っぱい、少女めいた匂いだった。出処は勿論目の前の彼。そんな匂いが似合っているからまた憎らしい。この匂いは――
「……いちご」
「え?」
「い、いえ、なんでもありません!」
人の匂いを嗅いでいたなんて知られたら、もう口もきいてくれないだろう。慌てて否定すると五月さんは面食らったとでもいうように口を閉ざした。
窮屈さを感じるほどの距離感で、何とも言い難い沈黙が横たわる。
「あ、そうだ!」
突然五月さんが沈黙を破ったかと思うと、彼は財布から何枚かお札を取り出し私に差し出した。
「立て替えありがと」
「で、でも……五月さんは食べてないし」
受け取って当然のお金だ。頭ではわかってる。でも反射的に私はそれを拒絶してしまった。
「でも俺の分でしょ? 遅刻した俺が悪いんだし、それこそ石動さんは自分の食べた分は払ってるんだから」
私自身、うんざりするような対応をしてしまったのに、五月さんは少しも機嫌を悪くした様子はなく、不思議そうに小首を傾げていた。
向けられているのは純粋な疑問。彼のそのこざっぱりとした対応が、私の中の湿り気まで吸い取ってくれる。
「あ、ありがとうございます……」
素直に受け取ると、五月さんはようやく得心がいったというように、清々しい笑顔を浮かべた。いつもは女の子よりもかわいい彼が、好青年に見える。どう転んだって彼はイケメンだった。
そんなイケメンをこの距離の中で見つめ続けるのは、あるいは彼に見つめられるのは体に毒だった。
「じゃあ……私は……」
慌てて踵を返し、今度こそ駅に向かった。
「あ、うん……」
五月さんはやはり私を引き止めることない。鼻の奥にツンとした痛みが走る。
傷付くくらいならもっと話せばいいのに。そしたらもっと仲良くなれるかもしれないのに。もし引き止めてくれたら、今度こそ私から――有りもしない妄想が私の中を駆け巡る。駅に向かおうとするのに、私の足は鉛みたいに重たかった。
「石動さん!」
「え?」
呼び止められて、体中の血液が一気に沸騰する。私は心臓が飛び出ないようにキュッと唇を引き結び、そっと振り返った。
五月さんはカスタードクリームみたいに甘くて可愛らしい笑顔を浮かべていた。その姿に胸が大きく高鳴る。
「もう遅いし、気を付けてね」
「う……うん」
女の子扱いしてくれるのが、たまらなく嬉しい。
「じゃ、また会社で」
でもだからこそ「送ってくれないんだ」なんて我儘な気持ちが鎌首をもたげる。
向けられる笑顔が、まだ熱の篭った胸を柔らかく抉った。
今度こそもう帰らなければいけない。何か、何かないだろうか。彼ともう少し話がしたい。
その時、店の中から同い年くらいの女性が顔を出した。居酒屋のエプロンをしている彼女は店員なのだろう。その店員が私の顔を見た途端、パッと花開くような笑みを浮かべた。
「お客様、よかった……こちらお忘れ物です」
そう言って差し出されたのはひざ掛けだった。
「あ、ありがとうございます……ちょうど、これ、取りに来て」
「そうだったんですか。申し訳ありません、気が付くのが遅れてしまって」
「いえ……私こそ……そのありがとうございます」
「それでは、お気をつけて」
素敵な店員だった。マニュアル以上の言葉を当たり前のように使える。
纏っているのはお酒の匂いと、清潔感のあるオレンジの香り。ささくれだった気持ちがほんの少し和らいでいく。
私は今度こそ五月さんの顔をまっすぐ見た。端正な顔立ちも笑顔も変わらない。余計なことをする必要なんてない。
「また会社で」
私は微笑み返し、ようやくその言葉を伝えることができた。
店員が店の中へ引っ込んでいく。私は踵を返し歩き出す。五月さんは――
ちょっと付き合ってくれない?
「あのさ。石動さんって本当に都合のいい女なの?」
私の腕を掴み、そんな言葉を口にした。
「だったら、ちょっと付き合ってくれない?」
「え、えっと」
投げつけられた言葉を何度も咀嚼し、ようやく理解したところで、なお私の口から飛び出すのは戸惑いだった。
憧れの彼からの誘いに乗る勇気なんてない。けれど断るなんて、もっとできない。
「迷ってる?」
その通りです。
「わかった。じゃあ」
そう言った彼は猫みたいなイタズラな表情をしていた。そして携帯電話を取り出しどこかに電話をかけ始める。
「ごめん、今日やっぱり無理」
それだけ言うと五月さんは電話を切ってしまった。
「もう二次会断った」
石動さんのために、断った。言われなくても、はっきりと理解する。そういうものを察知するのは昔から得意だったから。
「今から、ちょっと顔貸してよ」
甘い香りがする。彼の汗の香りと混じったいちごは、どこかイヤラシい。
私は結局首を横にも縦にも振れず、それなのに五月さんの後ろをついていった。道中、五月さんは色々話題を振ってくれたけれど、ほとんど頭に入らない。
私の頭の中は、これから起こることでいっぱいだった。
⇒【NEXT】憧れの彼五月に呼ばれ、連れてこられた場所は…?(オンナノコ未満、オンナノコ以上 2話)
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あらすじ
亜久里は飲み会の苦手な地味系女子だ。
彼女は社内合コンでも壁の隅を陣取り、
解散の時を静かに待っていた。
そんな亜久里がわざわざ飲み会の混乱を我慢して
会に参加したのにはある理由があったのだ…。