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官能小説 オンナノコ未満、オンナノコ以上 3話
好きな気持ち

私の苦悩とはうらはらに、この日以来、私が付いて回らなくて五月さんの方から私に声を掛けてくれることが多くなった。匂いを探すために自宅に伺ったのも一度や二度ではない。
その事自体はとても幸せなことで、付き合っているわけでもないのに、毎日が充実しているような錯覚を覚える。
間違いなく、私は五月さんが好きだ。優しくて可愛くてかっこよくて、言葉にすると月並みで陳腐になってしまうけれど、たった一人の好きな人。
だからといって五月さんと付き合いたいかといえば、即答できない自分がいた。告白する自信もなければ、付き合ったところで裸を見せる自信もない。
……ってそんなこと思っちゃう時点で私、だいぶ思い上がってる……。幸せを感じる頻度が増えるにつれて、どうしてなのか、ため息の数も増えていった。
そんな中ある日の昼休み。コンビニに向かうために席を立つと、珍しく青柳さんに声を掛けられた。
「石動さん、一緒してもいいかな」
「え、あ、はい!」
てっきり青柳さんの分もお使いを頼まれると思っていたので、面を喰らう。
「あ、その前に御手洗寄ってもいい?」
「はい」
そう言われてなんとなく一緒に御手洗に向かうと、青柳さんは当たり前のようにトイレには入らず化粧直しを始めた。
品のいいベージュ色の化粧ポーチの中から、高級そうな化粧品を次々取り出し手早く化粧を整えていく。その流れるような手さばきに見惚れていると、ふと見覚えのあるパッケージが目の前を横切っていった。
「あ。それって確か……」
「え? やだ……知ってるの? うわあ、恥ずかしい……」
――キス専用美容液だ。
ふわりと爽やかなマスカットの香りが鼻腔を掠める。
「実は今、狙ってる人がいてね。ランチタイムに約束がね……」
「え、じゃあコンビニなんて」
「ふふ、実はそこで待ち合わせてるの」
なるほど。そういうことですか……。頷いて納得していると、青柳さんは慌てて言葉を付け足した。
「……あ、姫君じゃないから安心して」
「いや、私は別に五月さんとは!」
青柳さんは唇に美容液を塗りながら、鏡越しに私に視線を向けてくる。その視線が妙に女性的で、ドキリとした。
「ふーん。まあ、あんまり深く聞かないでおくけど……でも石動さんもコレ使ってるなんて意外だったな」
「え? あ、そ、そうですよね」
五月さんのことを言うわけにもいかず、適当に相槌を打つ。
「そうですよねって、あはは。やっぱり石動さんって面白い」
「……それって褒め言葉ってことでいいですか」
「勿論」
そして青柳さんが化粧直しを終えると今度こそ私たちはコンビニに向かい、私はいつものようにメモを見ながらお使いを頼まれたものをかごに入れていった。
「……こういうの、嫌じゃない?」
何を、かは聞かずともわかった。
けれど、どうして今更、とは思った。私がお使いをやるようになったのは、昨日今日の話ではないのだから。もしかすると青柳さんもあの時、私がいたことを気付いていたのかもしれない。
「もし嫌だったら――」
「正直に言うと、嫌とか、嫌じゃないとかそういうものじゃないです。習慣みたいなものですし。……でも気にかけて貰えるのは、嬉しいです。あとお礼を言って貰えるのも嬉しいです」
都合がいいとか、悪いとかじゃなくて、もっと気持ちよく受け止めて欲しかった。
「どうせ買いに行くんで、ついでに行ってきます」「本当? ありがとう」ただそれだけだ。今までだって別に使いっ走りでいるつもりは、私はなかったのに。まわりはそうは思ってくれない。それだけがもどかしかった。
「……そっか」
青柳さんはそれ以上何も言わず、待ち合わせ相手が来るまで頼まれた品を探す手伝いをしてくれた。
そして頼まれたものをすべて見つけ、ちょうどレジに並んでいる時に約束の相手はやってきた。
「ありがとうございました。後は私だけで大丈夫です」
それは本心だったけれど、青柳さんはどうにも歯切れが悪い表情を浮かべていた。
「……お互い、頑張ろう」
そう言うなり、青柳さんは私に背を向けた。彼女の背筋はピンと伸びていて、かすかに緊張感を帯びている。その背中が、彼女の言葉が心の底からの本音であることを語っていた。
最初は「頑張ろう」という言葉が何に向けられたのかわからなかった。でも、そうじゃない。なんでもいいんだ。仕事でも、交友関係でも、好きな人でも。どれかひとつ自信があれば、背筋を伸ばすことができる。頑張ろうと思える。そしてそのひとつが、きっとすべてに繋がる。
事実、青柳さんは仕事は勿論、約束相手に対しても、私に対してまで精一杯頑張っている。
支払いを終えた私は、反射的に彼女の背中を追いかけた。既に約束相手と合流して、彼女は歩き始めている。
「青柳さん!」
「……石動さん?」
青柳さんは少し驚いたようで、目を見開いていた。隣の男性も戸惑いながら、けれどチラリと青柳さんの表情を見て口を出さずに背景に徹してくれた。さすが、青柳さんが選ぶ人だ。そう思うと、背筋のこわばりがわずかに解けた。
息を吸い込み、全身で声を出す。
「……私も頑張ります! 青柳さんみたいに!!」
周りの目は恥ずかしかった。でも、いつも俯いて言い訳して恥ずかしい思いをしているんだ。これくらい……うん、やっぱり恥ずかしい。
「……うん!」
でも青柳さんも一緒に付き合ってくれたから。それがとても心強かった。
リップ
その日は、五月さんの誘いを断り、帰宅後すぐに五月さんが好きと言っていたリップ美容液をインターネットで探してみることにした。
大手の検索エンジンに掛ければ、すぐにそれは見つかった。それだけじゃなくて、私の悩みに応える品物が山ほどあった。宝の山だ。
私の中の不安も山ほどある。けれどまずはひとつだけ。そのひとつを買うだけでも、心臓がバクバクして、たまらなかった。購入ボタンをクリックするまでに、一時間も掛かってしまった。
でも、私は買った。買ってしまった。
既に反射的に後悔してしまっている。根拠のない不安感に襲われる。でも、確かに小さな達成感があった。この一歩が私を変えてくれると信じて。私を支えてくれると信じて。
高揚感に背中を押されるまま、私は五月さんに週末に会おうというメールを送ったのだった。
服を決めるのに五十分、メイクに苦戦すること四七分。予定していた出発時間を五分遅れて、私は自宅を後にした。
向かうは勿論五月さんの自宅。もう迎えに来てもらわなくても迷うことはない。
けれど改札を抜けると、そこで五月さんは待っていてくれた。
「石動さん、おはよう」
「おはようございます」
考えてみれば五月さんと休みの日に会うのは初めてだった。当然私服を見るのも初めてだ。
ピンドットの上品なシャツにカジュアルな紺のジャケットに紺色のチノパンを合わせた綺麗めのスタイル。けれど足元にはド派手可愛いピンクのスニーカーが輝いていた。
「……可愛いです」
「ありがとうございます」
五月さんはわざとらしく深々と頭を下げる。その仕草がおかしくて吹き出してしまうと、ますます五月さんは面白がって頭を下げた。
「もう、やめてくださいよ」
「ごめんごめん。それよりお昼ってまだだよね。この辺で食べてもいいし、もうちょっと移動してもいいけど――ってあれ?」
五月さんは目を限界まで細め、私の顔を凝視した。見られ過ぎて恥ずかしい。
「キスの?」
「……はい。本当に自信が付くか試してみたくて買っちゃいました」
そう告げると、五月さんは匂いを確かめるように鼻をひくつかせる。
「でも自信がっていうのは紅茶の方だったよね? 石動さんのは……」
「いえ、これで合ってるんです」
そう。私が購入したのは、ベリー系の香りのものだ。
「……どうしてか、聞いてもいい?」
聞かれるのはわかっていた。覚悟はしていたものの、心臓が跳ね全身に緊張が走った。
五月さんの顔を見ることができず、誤魔化すべきか答えるべきか迷っていると、小さなため息が聞こえてきた。
「ごめん……今のなし」
「え?」
「とりあえず俺の家に来て貰ってもいいかな」
「……う、うん」
そうして、私達は五月さんの自宅に向かった。五月さんの家に向かう途中、会話がなかったのは初めてのことだった。
ベリーの香り

「自惚れていい?」
背後で扉が閉まる音がする。正面に立つ五月さんは私との距離を詰め、私の背中はそこへ押し付けられた。
五月さんの家に入ってすぐ、私は彼と扉に挟まれ動けなくなってしまった。
ひんやりとした感触が背中を包む。対して、五月さんが触れるほど近くにいる体の前半分は焼けるように熱い。
「……それを選んだのって俺の好きな匂いだから?」
「そ、そんなんじゃ……」
反射的に否定してしまい、私は自分の口を手で押さえ込んだ。
五月さんの顔を見るのはたまわらなく怖い。けれど鼻と鼻の頭が擦れるほど五月さんの顔は近くて、俯こうものならあちこち体がぶつかってしまいそうだった。そのせいで結局目と目は合ったまま。いつになく真剣味を帯びた視線が私を微動だにできないよう縫い留める。
「……俺のこと、好きだから、その匂いを選んだの?」
「ち、違います」
今度こそ私は心の底から否定した。認めてしまったらもう二度と今の関係には戻れない。だから必死になって、彼の目を見て嘘をつく。胸にじくじくとした疼痛が走る。
「じゃあ俺のこと嫌い?」
五月さんは泣きそうな顔をしていた。――彼の瞳に映る私も泣きそうな顔をしていた。
「きらいなわけ、ないじゃないですか」
「……ズルい言い方だったね。悪い」
五月さんは目を伏せ、ゆっくり私から離れていく。そして靴を脱ごうとして、そのまま玄関に座り込んだ。
「……俺は石動さんのことが好きです」
不意打ちの告白に、息が止まりそうになる。
「だから、舞い上がってます。石動さんが俺とキスしたいって思ってくれてることに」
まるで頭がついていかない。私はただ呆然と俯いて座る五月さんを見下ろすことしかできなかった。その間にも五月さんはどんどん言葉を重ねていく。そのどれもが信じがたいものだ。
「初めは……俺の匂いに気が付いたのかなって思ったんだ。だからビクビクしながら観察してたら……石動さんって本当に真面目でいい子で……そのせいで結構沢山損してて……でも」
五月さん言葉に詰まり恥ずかしそうに自分の頭をかいた。けれどひとつ大きく息を吐くと、覚悟を決めたように顔を上げて、私をまっすぐに見つめた。
「でもすっごい可愛いなって思ってた」
いつもの、たまらないくらい優しい笑顔に心臓が鷲掴みにされた。
「……ずっと好きでした。それで……最近話すようになって、もっと好きになりました。だから付き合ってください」
私は悩んで、悩んで……言葉を咀嚼して。それから素直に、はっきりと頷いてみせた。
「五月さんが、好きで、好かれたくて、自信が欲しくて……これ、買いました」
もともと好きな匂いというのも勿論ある。けれどやはり彼に好かれたいから、そう思ってこの香りを選んだ。
「嬉しい。似合ってる」
五月さんはそう言うとまた立ち上がり、私を思い切り抱きしめた。その腕は思っていたよりもずっとゴツゴツとしていて力強い。柔らかな熱とほのかに甘い五月さんの香りに包まれながら、私は遠慮がちに彼の腰に腕を回した。
「……このままホントに食べちゃいたいくらい」
「あ、あの、それは……」
不穏な言葉に驚いて、私は思わず五月さんから体を離した。
「うん、焦らないよ。でも気持ちだけは伝えておきたくて」
「……ありがとう」
お互いの存在を確かめるように、再び抱きしめ合う。抱きしめることが、こんなに気持ちよくて幸せだなんて知らなかった。
湯船に浮かんでいるようなふわふわとした浮遊感と、何人たりとも進入を許さない拘束感。
五月さんを見上げると五月さんも幸せそうな、とろけそうな笑顔を浮かべていた。
その顔がゆっくり近づいてくる。もう焦りはない。初めてでも、怖くない。
そっと瞼を閉じて、彼の唇を受け入れた。唇が熱を持って、甘い香りが強くなる。ただ触れただけなのに頭の奥がクラクラした。
近づいてきたときと同じように、五月さんはゆっくり、ゆっくりと離れていく。
「……私にもうちょっと自信がついたら、その時は」
この先も、きっと五月さんとなら幸せだ。
「何に自信がないの?」
「え? あ、あの……私……」
想像していなかった突然の質問に戸惑い、慌てて口を開くも舌が絡まりまともな言葉にならない。
「もともと、私、オシャレとかいろんな女の子っぽいことに乗り遅れてて……それで体とかにも、自信がなくて」
「……あぐりは、十分可愛いけどな」
「あ、あ……」
本当に五月さんの不意打ちは心臓に悪い。泡を吹いて倒れるところだった。
「え、まさか間違えた!?」
「う、ううん。あぐり、です」
私の反応をみて衝撃を悟ってくれたはいいけれど、問題はそこじゃないんです。
「よかった。これからはあぐりって呼ぶよ?」
「いや、え、でも」
「あぐり、可愛い。たぶん裸も」
「や、やめてください……見てもないのに……そんなの」
「見せてもないのに、否定しないで。可愛いので間違いないって確信してる」
五月さんは優しくて、私をオンナノコ扱いする稀有な人だった。それが両思いになると更に加速するなんて想像していなかった。たぶん想像していなかった私が馬鹿なんだ。
「う、そう言ってくれるのは嬉しいけど……恥ずかしいものは、恥ずかしい、から」
「うん。それよくわかる――でもさ、だからこそ見逃せない」
五月さんはトロトロの笑顔のまま、腰にズンと響く低い声で告げた。
念願
「あぐりの悩みって、隠しても解決しないよね。だけど俺に見せることで逆に解決するんじゃない?」
頭の奥をかき回されているような気分になる。甘い甘い響きに目が回る。
「どうしても無理だと思うならそう言って、無茶はしない。でも無理じゃないなら」
何も言えなかった。五月さんの指が私の頤を掴んで上を向かせる。五月さんの瞳はしっとりと濡れそぼち、吸い込まれてしまいそうだった。
ところが実際に近づいてきたのは五月さんの方で、そのまま再び唇を塞がれた。けれど今度の口づけは、ただ触れるだけのものではなくて口の中に舌を差し込まれ、かき乱される。
にゅるりとした生ぬるい感触は、他には感じたことのないもので、驚きを隠せない。だからといって嫌な感じはせず、その代わりに口の中の熱が体中のあちこちに飛び散らかるようだった。特に下腹部が、ぐずぐずと落ち着かない。
口づけが深くなるにつれて、その感覚は強くなり、五月さんの手が腰を撫でると一瞬目の前が真っ白になるような強い電気が脳裏を横切った。
「……大丈夫?」
「なん、とか……」
そのまま崩れ落ちそうになるところを五月さんに支えられて、靴を脱ぎ、ようやく部屋に上がる。
しかし促された先はベッドの上で、私は固まってしまった。
「やっぱり、無茶だった?」
無茶だとは思う。だけど……私だってやりたくないわけじゃないのだ。ただ恥ずかしい気持ちが、不安な気持ちが大き過ぎる。
「お風呂……あの、だって汚いですし……」
どうにか否定の言葉を飲み込んで、それでも結局私は言い訳を重ねた。五月さんは怒りもせず、焦りもせず、優しく髪をなでてくれる。
「気にしないんだけど……って俺が言っても説得力ないな。じゃあ一緒にお風呂入ろう」
「え、でも、そんなの……!」
「いいからいいから」
五月さんにお風呂場に押し込まれた、かと思うと彼は豪快に服を脱ぎだした。
意外と筋肉の付いた彼の身体が露わになり、見てはいけないような……でも見たいような気持ちがせめぎ合う。
「脱がないの? ……それとも脱がせて欲しい?」
「い、いえ!!」
経験のない私に、こんなのいきなりハードルが高すぎませんか。
そう思っていても口に出せないのは、そんなことを言おうものなら本当に服を脱がされかねないと思ったからだった。……もう好きにして、とはまだ言えない。
あらすじ
あぐりの苦悩とは裏腹に、
五月とあぐりは距離が近い存在になっていく。
同時にあぐりの彼を好きな気持ちは大きくなっていった。
しかし、彼女には五月に告白する勇気も自信もなくため息をつくばかりだった。
そんな時、同じ職場の青柳がキス専用美容液を使っているのを目にし…。