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官能小説【5話】あなたのすべてが性癖なのです。
踏み出せない一歩
★作品について
この作品は、小説サイト「ムーンライトノベルズ」と合同で開催した、「女性の為のHなラブコスメ小説コンテスト」のLC賞作品です。
「わぁ〜凄い疲れた顔〜。もしかして昨日は性なる夜だったんですか?」
聞き覚えのあるセクハラまがいの声に振り返る。
予想通りの人物がそこにいて、私はさらにげっそりとした顔をした。

「何だ……森村か」
「何だってなんですか?樫原さん酷いなぁ」
口を尖らせながら私の横にやってきた森村は顔を近づけて、こっそりと耳打ちしてくる。
「どうせ外崎さんにねっとりと激しく攻め立てられたんでしょ?あの人、樫原さんに対してはしつこそうだもん」
「あんたが変なこと外崎に教えたからでしょう?」
「元々外崎さんは興味のあるものは突き詰めるタイプじゃないですか。たしかにきっかけは私のせいかもしれないけど、ここまで拗らせたのは鈍い樫原さんせいでもあると思うけどなぁ」
たしかに森村の言っていることは当たりだ。が、半分は納得がいかない。私が外崎の気持ちに気付かなかったのって、私のせいか?外崎もさっさと腹を括って告白してくれればよかったのに。まぁ、それでも当時彼氏持ちの私は断っていただろうけれど。
「それで?何のプレイをしたんですか?」
「…………猫」
「あぁ!原点から試したんですね!」
森村は何故か嬉しそうにガッツポーズを取っていた。
森村雛子は見た目大人しそうな女性ながらも、その実中身はドSのおじさんだ。しかも胸もでかい。
本人はバイを公言していて、外崎とは正反対の開けっ広げな性格。
彼女、もしくは彼氏ができたら即幸せ報告。
別れたら悲報を部署の皆に触れ回って、そしてまたいつの間にか恋人を作っているようなタイプだ。
どこで見つけてくるのかは詳しくは聞いてはいないがその恋人たちはいずれもドMで、森村はその恋人がどれほど可愛いのかを語ってくる。とても幸せそうに。ついでにどれほどドSに愛でているのかも。
言うなれば、外崎ともまた違ったタイプのキワモノだ。
「それで?晴れて同期から彼氏に昇格した外崎さんはどうです?」
「…………まだ彼氏じゃない」
「わぁお!セックスはしたのにまだ付き合ってない?焦らしプレイとは樫原さんもなかなかですね」
別に焦らしプレイをしているわけじゃないんだけどね。
けれど私は昨日、ホテルで一緒に朝を迎えてその後ランチして別れるときも答えを出さなかった。外崎も急かさなかったし、答えをすぐに出してくれとも言わない。ただ、じっくり考えてくれと。
私はそれに甘えて二人の関係を宙ぶらりんにしているのだ。
「って言うか、森村は外崎の気持ち知ってたんだ」
「直接聞いたわけじゃないですけどね。でも外崎さんを見ていれば分かりますよ。樫原さんにねっとりとした視線をいつも送ってますもん」
「…………よく分かったね」
「分かりますよぉ。外崎さんは私と似たタイプですからねぇ。だからそういう話も合うし。あ!誤解がなきよう言っておきますけど外崎さんとはそういう話はしますけど、肉体関係とかはいっさい持ったことはありませんので。似すぎて合わないって言いますかね。それに今私彼氏いるんで」
「いや、大丈夫。そこはまったくもって心配はしていないから」
森村の歴代恋人たちを見れば分かる。
どう考えても外崎がそれに当てはまるわけがない。
「私としては……樫原さんの方が好みなんですけどねぇ」
「森村……」
ゾクッとするような艶のある声を出しながら、森村は私の手を握ってきた。
本当、顔とのギャップがあり過ぎるこの色気がヤバい。これに堕ちる人が多いのだろう。
私は惚れたりはしないけれど。
「樫原さんはなんだかんだ言ってどんな変態なプレイでも受け入れてくれると思うんですよねぇ。潜在的なM?いいですねぇ。外崎さんも女性の趣味はいいと見える。どうですか?もしこのまま外崎さんを振るのであれば、私と私の彼氏と三人で……」
「やめろ森村。樫原に変なことを吹き込むな」
何か恐ろしい誘いを受けようとしているとき、後ろから外崎の声が聞こえてきた。
二人で後ろを振り返ると、ちょうどイヤホンを外しながら呆れたような顔をしている彼が。
「おはよう、樫原」
「お、おはよう」
ちょっと顔を合わせるのは照れくさい。昨日の今日だから何となく意識してしまう。
けれども外崎はさすがと言うべきか、ポーカーフェイスは完璧だ。いつもと変わり映えしない表情。私だけが意識しているようで悔しい。
「変なことって失礼な。自分だってその変なことを似たようなこと、樫原さんにしたんでしょう?」
「だとしても、こいつは今俺が口説いているんだ。横槍するなよ」
「はぁい」
二人の会話を横で聞いていて、顔を赤らめるのを必死に抑えた。
口説いてるって……たしかに外崎に口説いていいかと聞かれたけれど、改めて聞くと凄いことだなとドキドキしてしまう。本当に外崎は私を彼女に望んでいるんだと。
そして、私は外崎を彼氏にするか、それとも同期のままでいるか決めることができるのだと。
「樫原?どうした?」
ボーっとして考えていた私の顔を外崎が覗き込む。
間近で見てもいい男だ。
以前から色男とは知っていたけど、彼を男と意識しだしたらさらに男っぷりが増して見える。
この人が、私の彼氏に?
――――あの変態的なリストを持った彼が?
やはり私はそこに引っかかりを覚えて一歩踏み切れずにいた。
同期に大好きと言った日
一昨日は猫のコスプレをして彼のこだわりを受け入れたとはいえ、あれが付き合ったら毎回とかになると考えると付き合いきれるのだろうかと心配になる。普通にセックスをしてくれるのであれば最高なんだけどな。全然普通のでも気持ちよかったし、身体の相性は悪くないはず。
きっと外崎のことだから、あのピンクのリストを消化させようとするんだろうけれどどうなんだろうか。
私は彼の期待に応えられるのかな?
私は最後の一押しがなくて決めかねていた。
かと言って、このまま年末を迎えるのもなぁ……。
昼休み。
一人でゆっくりと考えたくて私は、一人で食堂の隅っこであまり進まないランチを突きながら考えた。
あまりこういうのは引き伸ばしたくないというのが私の考え。
けれども、はっきりとあの性癖を受け入れられるかも分からないのも本音だ。
外崎も強引にでも奪いに来てくれたのならいいのに。
まぁ、そう思ってるってことはまんざらでもないってことなんだろうけれど。
私が思い悩みながらふと顔を上げると、食堂の入り口付近にいる外崎を見つけた。
午前中彼は顧客回りをしていて会社にいなかった。帰ってきていたんだ、と思いながら私は何となく彼の動向を見ていた。
すると、女性が一人彼に近づいてくる。
彼女はたしか受付にいる可愛い子だ。
元カレが心を奪われたふわふわ綿菓子みたいな女子力高めな女の子。うちの部署でも人気だったなぁと彼女のデータを頭から引きずり出していた。
そんな彼女は、外崎に何やら懸命に話しかけているようで、彼はそれに眉一つ動かさず淡々と答えている。
いつもの光景。今の今までは私が外崎に『おモテになりますねぇ』と茶化すような場面でもあった。
けれども今はそんな茶化しの気持ちは一切生まれない。
告白されてから一ヶ月以上外崎を男として意識させられ続けたからか、それとも私の気持ちが変わってしまったのか、大きなモヤモヤが生まれてきていた。
あ、そっか……。
私はその光景を見て思い知った。
もしこのまま外崎を性癖を理由に断ってしまったら、私だけに見せてくれた甘えた顔や嬉しそうな顔、優し気な笑み、驚くほどの気遣いに、興奮した姿も。すべて見られなくなるんだなぁ。
時間が経てばあのとき私が感じたドキドキや幸せな気持ちを、他の女性が味わうのかと思うと嫌で仕方がなかった。
ってことはさ、外崎の性癖を差し引いても、私は彼が好きなんだなぁ。
いつの間にか好きになってしまっていたのだと思い知った。
私が胸を高鳴らせながら自分の気持ちを再確認していると、いつの間にか外崎がランチを持ってこっちにやってきていた。
受付の女の子は遠くで恨めしそうな顔で外崎を見ているが、そんなこともお構いなしに彼は私の目の前にやってくる。
「おかえり」
「ただいま。ここ、座っていいか?」
もちろん断る理由もなく、私はどうぞと頷いた。
今日の外崎は天麩羅蕎麦。結構麺類が好きで、ランチもその割合が高いかもしれない。
人参が食べられなくて、ここのかき揚げには人参が入っていないから助かるとも言っていた。できればレンコンの天麩羅も食べたいけれど、メニューにないからしょうがないともぼやいていたなぁ。
今まで彼の性癖は知らなかったけれど、その他はいろんなことを知っている。
食べ物の趣味や癖、行きつけの店や好きなブランド。家族の話もしたっけ。ときどき学生時代の話や友達の話もしてくれたし、私も同様に外崎にした。
この五年、多分元カレよりも一緒にいる時間は多かった。
一緒に残業することも多かったし、仕事の悩みも聞いてくれて一緒に悩んでくれて。
それだけずーっと一緒にいても、私は外崎と一緒にいるのに飽きたり嫌な思いをすることはなかった。
たしかに彼の性癖は……大変だ。
でもそれを補って余りあるほどに、外崎と一緒にいる楽しさや喜びを私はもう知ってしまっていた。
もう後戻りできないほどに。
「あのさ、外崎」
「何だ」
「ここで言うのも何だけど、私、外崎の告白を受けようと思って」
私がそう言うと外崎は蕎麦を食べる手をいったん止めて私を見つめ、いつもと変わらぬ顔で『そうか』と言ってきた。
『そうか』って……それだけ?
拍子抜けだ。
「もっと喜んでくれてもいいんじゃない?」
「これでもかなり喜んでいる」
全然見えないんだけど。
いつもと変わらない外崎にしか見えない。
けれど彼は蕎麦を食べるのをやめて、私をずっと見つめている。
こういう微細な変化が彼の気持ちを表しているということなんだろうか。
私は彼の澄ました顔をあえてここで崩してみたくて、ニヤリと笑う。
「大好きだよ、譲」
「…………っ!」
外崎が箸を落とす。
その姿が思った以上に愛おしい。
「言ってほしい言葉、第一位だっけ?これからはいくらでも聞かせるから、覚悟してよ?」
外崎の目元がほんのりと赤く染まる。
「…………顔がにやけるのが止まらない」
崩れた顔を隠すように手で覆う外崎は、とてもとても私の性癖に突き刺さった。
年越しに二人で過ごした私は、先日のセックスを録音したものを聞かされながらセックスするというとんでもないプレイをさせられて、『もう一度お付き合いを考えさせてください』と言うことになるが、それはまた別の話である。
あらすじ
ドSなキワモノ後輩に茶化された朝。
外崎との関係に一歩踏み出せない理由は『特殊な性癖』のせい。
だけど、外崎に対して以前とは違う感情を持っていることに気付いて…。