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官能小説 アストロロジーの恋愛処方箋 第三章 3話
離れる時間が愛を育てる
鞠と雄基はビデオ通話で会話をしていた。
二人で話していると、そのうち、どうしても会話が『そっち』の方向へ流れて行こうとする。
『そういえば、新しいグッズの取り扱いを始めたんだ』
また、違うラブグッズが出て来た。
彼の職業柄仕方がないが、鞠にはまだそれの良さが理解できず、逢ってしたい、という想いを強く掻き立てられるだけだと思っている。
しかし、雄基はエスカレートするように、まくし立てた。
『これは、遠距離でも楽しめるラブグッズの頂点だと思う。離れていても繋がれるような体験が出来るグッズの開発は進んでいるんだ。まして、これから量子世界になるし、ゲーム界隈ではVRMMOやメタバースも取り入れていく。チャットでの行為もAIでもっと高度化する。しかし、体験できるモニターが足りてなくて……』
「なんだ、それなら最初からそう言えばいいのに。お仕事なんでしょ」
『テレワークの到来でそう言った需要が増えていて、モニターをと思ったんだ。しかし、君は嫌がるから、とりあえず実物を送ってみたんだ。抵抗がないようなデザインは、一先ず成功かな』
「デザインは、確かに可愛いわね。インテリアに見えるわ」
『そうだろう!世の中には猫好きな女性が多いから、仔猫がちょこんと悪戯する……なんていうのも、愛らしいと思ってね』
雄基はずるい。
「愛らしい」なんて素敵な言葉がすぐに出てくる。
――愛おしいわ。
そのストレートさが。
うきうきとした様子で話す雄基の声を、いつもよりいっそう愛しく感じて、鞠の口が、無意識に開いた。
「雄基……帰って来て」
――とうとう、本音を零してしまった。
が、雄基は「ん?」と声をくぐもらせる。
『今、一瞬切れたみたいだよ、鞠』
ノイズで聞こえなかったようで、鞠はほっと胸を撫でおろす。
「遠いからね。……もうすぐ帰国日ね、って言ったの。雄基、お願いがあるんだけど。一緒に来てほしい場所があるのよ」
――お二人でいらしてみてはどうでしょう?
七海の言葉を思い出しながら、鞠は口にした。
『こっちのお願いは?――その、仔猫の』
鞠は素直に仔猫に手を伸ばした。
朝陽が眩しい。
でも、何となく、罪悪感は薄れている。
帰って来て、と素直に言えたからだろうか。
遠距離でもしたい。
遠距離は寂しいからしたくない。
二つの葛藤が合わさるような時間が過ぎていく。
星占いで何が変わるのだろう?
何かが変わるのだろうか。
雄基の帰国まで二週間を切った。
行動するなら、今なのだろう。
「……七海さんに連絡……」
雄基との甘い時間を終えた後、七海に連絡をしようと再びスマホを手にする。
朝から電話は迷惑だろうと、メールを打った。
そしてもうひと眠り、と微睡むのだった。
「今日はいらっしゃらないのかな」
七海は僅かな不安を抱いていた。
接客の合間、鞠の姿を探すが見当たらない。
と、鞠からのメールに気がついた。
念のため大樹に転送して接客を続けるも、姿を現さない鞠のことを心配して、ただただ時間は過ぎていった。
罪悪感と、愛情
眩しい陽光が、鞠の顔を照らし上げる。
「え?あ、何時?!」
慌てて時計を見ると、お昼過ぎ。
ああ、やってしまった。一人では、何もできないのかもしれない。
そう、私は……遠距離は嫌。
そばにいて欲しい。
もっと頼って、甘えたい。
その想いはずっと前から、胸の奥に秘めてきたはず。
(帰って来てほしい……二年間、我慢できたのに……どうして……)
サイドテーブルに飾られた二人で映っている写真は数年前のもので、この部屋を改築した時に撮ったものだ。
どうしようもなく切なく、涙が零れた。

鞠が現れたのは、三時過ぎだった。
珍しくノーメイクに、普通の格好。
「お昼、食べそこねちゃって」と恥ずかしそうな鞠に、七海は
「何かありました?」と尋ねてみる。
鞠は、旦那が遠距離での行為を強いて来て、それが嫌ではなかったこと。
朝の中の行為に罪悪感どころか、心地よくなって半日過ぎてしまったこと。
それが、今度は羞恥心となって襲い掛かり、圧し潰されそうになったこと――。
それらを滔々と語った。
この相談、私では無理かも……と思いつつ、自身の過去の遠距離恋愛を思い出した。
(あの頃、幼過ぎた恋はすぐに駄目になったけれど……二人には乗り越えてほしい)
そこへ、大樹がパンケーキを片手にやって来た。
「ちょ、お客様の前で、」
大樹はさらっと「聞いていたんだけど」といつもの調子だ。
「別に太陽の下での行為は悪いものじゃないでしょ。罪悪感はおかしいな。そんなにつらいなら、そういう行為から離れてみれば?」
アンソニーとも、大樹とも取れない状態は、七海も初めて見るものだった。
七海は「こっち」と大樹をキッチンに連れ出す。
鞠は「離れる……?」と繰り返している。
「昼間の大樹は関わらないんじゃなかったの?」
「いや、アンソニーの意識がどうしても言えと。メッセージと言うのかな。たまに、あるんだ。七海さん、僕は不思議だよ。どうして行為は夜と決めつけてしまうのか」
「何を言い出すのよ」
「だって、愛は光だろ?そこに罪悪感を持つべきか?特に獅子座は太陽の影響が強い。それなら、その下でと望むのも当たり前だろう」
気まぐれにいうと、大樹は「予約、入れてやって」と去ろうとする。
「ちょっと、このパンケーキは!?」
「あとで取りに行くから。早くお客様のところに戻りなよ」
それもそうだ、と慌てて接客に戻っていった。
そんな七海の背中を見送りながら、
「だから獅子座は手強いんだよ」と呟いたのは、大樹かアンソニーか……。
***
夜、雄基といつも通りの電話中のこと。
「わたし、帰国まで連絡はしないわ」鞠がそう言い出すと、雄基は少し驚いた様子だった。
『こっちも打ち合わせで忙しいから……。しかし、全く連絡を取らないというのは不安だ。鞠。何を考えている?』
雄基は時折こうだ。
ライオンのような威圧感がある時がある。
「……離れてしても、罪悪感が募るだけですから」
『罪悪感か。それなら、しばらく遠距離での行為は控えよう』
……これで、いいのよね。
「うん、自分を見つめ直して見たくなったの」
『帰国を遅らせようか』
「それは嫌。早く逢いた過ぎる」
自分の口から出た言葉にはっとする。
性欲が溢れてしまうのも、何かが足りていないから?
でも、それってなに?
『お二人でいらしてみてはどうでしょう?』
ふたりで、何かが分かるのなら。
七海から予約のメールが来ていたのを思い出した。
雄基は陽が昇って来ると告げて、仮眠するよと通信を切った。
どこか、元気がなかった気がする。
――私達は幸せなほうかもしれない。
世の中には、こうも頻繁に連絡を取り合える環境にない人もいる。
でも、知るべきなんじゃないだろうか?籠の鳥だって、外を見たい。
自由な七海が羨ましかった。
結局今日は何もできていない。
それでも、今日もお日様は眩しい。
特別なお客様
「こんにちは」
聞き慣れた声に、七海は勢いよく振り向いた。
いつも通り、オシャレな出で立ちの鞠がそこにいた。
(今日は、普通の格好でいらしたわ。先日はよほど思い詰めていたのかしら)
「星占い、旦那と受けてみるわ」
「……!ありがとうございます。多分、そのほうが良いと思って。友人なのですが、今まで何人ものお客様のお悩みを解決しているので」
本当はプロなのだが、七海は敢えて『友人』とした。
「以前お話したと思うんですが、私も昔遠距離恋愛をしていて。その時は、時間のすれ違いや束縛でダメになったんです。でも鞠さんたちは違うと思います。一緒に生きて来た基盤があるから。少し、羨ましいんです」
鞠は微笑んだものの、首を横に振った。
「やっぱり、離れているのは辛い。それに耐えられるのはほんの数日。でも、電話越しに行為をすると少しだけ充たされる。その後で罪悪感が押し寄せて来る。それがなぜなのか、わからなくて」
パーテイションの向こうから声がした。
「まるで、一瞬だけ切り取ったダイヤモンドのようだろう。夢と、愛の現(うつつ)で。数十年間共に暮らし、息使いまで刻まれている。鞠さんの手を雄基さんは良く知っているだろう。お互いが、お互いの最高を演じているのだから」
(大樹?!いや、その口調は……アンソニー?)
目を丸くする七海に「店、閉められる?」と大樹が言う。
「あ、はい」
七海は慌ててお店を出て、入口に掛けているプレートを『close』側に裏返した。
急いで戻ろうとしたものの、ドアが開かない。
大樹が中から鍵を掛けたのだ。
(え、どうして?)
考えてみれば、そもそも、普段は夜しか占わない……というか、アンソニーが出てこないはず。
今回は、何かが『特別』なのだろうか。
しかしこれも、「誰かを助けるために、この能力を使いたいんだ」そう告げた大樹が取った行動だ。
七海にどうこう出来るはずがない。
レースのカーテンが閉められた窓を、七海は外からちらりと覗く。
よく見えないが、恐らく今、大樹はアンソニーの状態になっているのだろう。
鞠は硬直したままに何度も頷いている。
話の内容は、もちろん聞こえない。
――「今日は、獅子座の新月なんだよな」。
あの日からずっと、大樹の中にアンソニーが『いた』のだろうか。
考えても仕方ない。
「また、パンケーキ焼いてあげるからね」
七海はそう呟くと、店を離れた。
あらすじ
鞠と単身赴任中の旦那雄基はいつものようにビデオ通話で話すうちに、遠距離での行為を試してみようという話になり…。