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官能小説 恋のメイクレッスン 3話
花織の家
駅からおおよそ十五分。商店街を抜けた郊外の閑静な住宅街の中に花織の家はあった。大きな家と繋がった小さな美容院のドア横にある小さな立てかけ式の黒板には「店主の都合によりお休みします」と書かれている。
それを無視して花織はドアの鍵を開けると「そこのソファで待ってて」と私を促し、店舗奥の住居の方へ向かっていった。
座り心地の良いソファに体を預けると、私は店内を見渡した。
店舗兼住居の美容院は個人経営だけあってセット椅子は三席と小さいながらも、ナチュラルテイストな店内は無垢フローリングが窓からの自然光で際立ち、所々に置かれた観葉植物と差し色のインテリア雑貨が店内をさらに心地の良い空間へと導いている。
しばらくすると花織が戻ってきて、ソファのサイドテーブルに「ごめんね、もうちょっと時間かかるみたい。これ飲んで待ってて」と二人分のカモミールティーとクッキーを置いた。

「わざわざありがとう。花織の家って美容院だったんだね」
「言ってなかったっけ? うちはお母さんが美容師で家を建てる時に店も作ったの。今は夫婦揃って結婚記念日の旅行に出かけているからお店はお休み。家族にもう一人美容師がいるんだけれど、両親があの人一人にお店を任せるのを不安がってね……あ、ひなたにはその人が担当になるんだけど、腕は確かだから安心して!」
不安、という言葉が少し気がかりになったものの、ここまで来て逃げるわけにもいかず、カモミールティーを飲んで気を紛らわる。花織は私の隣に座り、クッキーを頬張りながらソファの近くにある本棚から数冊ヘアカタログを手に取った。
「どんなヘアスタイルにしたい?」
雑誌をこちらに広げるとそこにはモテ系、カジュアル系、モード系と様々なスタイルの女性たちが華々しく紙面を彩っていた。
「えっと……初心者でもセットしやすくて、黒髪の清楚な感じがいいかな?」
雑誌のモデルたちはみんなカラーリングやパーマをかけており、それにチャレンジするには少し難易度が高いと感じ、無難なヘアスタイルが載っているヘアカタログのページを捲りはじめる。
「へぇ〜、こんな感じになりたいの?」
突然聞こえたハスキーボイスに驚くと、いつの間にか私の隣には花織を少し大人っぽくしたような二十代後半と思われる妖艶な美人が座っており、しげしげと広げられたヘアカタログと私の顔を交互に見ていた。
「もう! 伊織ってば準備にどれだけ時間かけてるのよ」
びっくりして声が出ない私越しに、花織は伊織と呼ばれた美人を叱咤する。
「ごめんねぇ〜、花織ちゃんのお友達が来るっていうから、お化粧に気合が入っちゃって」
うふふ、と笑いながら立ち上がった伊織は、身長が百七十センチ以上ありそうなスレンダー体系で、緩めに巻いた長い金髪がワインレッドのペンシルワンピースに映えている。
伊織はヒールを鳴らしながら私にセット椅子に座るように促した。
「はーい、お友達ちゃんここ座って〜」
促されるままセット椅子に座ると、伊織は私の首元にタオルを巻いて大きなケープをかけた。
「お、お姉さんも美容師なんですか?」
やっと声の出た私は、花織が話していたもう一人の美容師が伊織なのかどうか尋ねた。
「お姉さんだなんて嬉しい〜! そうよ、私も美容師なの。まだまだ新米だけど学校じゃトップクラスの腕前だったんだからね。うんと可愛くしてあげるからお姉さんに任せて〜」
(やっぱりもう一人の美容師って花織のお姉さんのことだったんだ。母娘揃って美容師なんて素敵だなぁ――でもなんで害だとか不安だとか言うんだろう?)
そう考えている間に伊織はウエストポーチの仕事道具を取出し、櫛で私の髪を丁寧に梳かしていく。
腰まで長く伸びた黒髪とも今日でさよならだ。これからは自分を隠さず好きな服を着てメイクをして外を歩きたい。
――――そして瀬戸君に想いを打ち明けたい。
徐々に短くなってくる髪に、私は密かに決意をした。
美容師の正体
「そういえばあなた、名前はなんていうの?」
手際よくカットしながら伊織が尋ねてきた瞬間、大事なことを忘れていたことに気付いた。
(挨拶も自己紹介も忘れていたなんて――!)
失礼なことをしてしまったと、私は恥ずかしさで消え入りたい気持ちを抑えながらケープに落ちた自分の髪の毛を払い落とすと、伊織に向かって深々と頭を下げた。
「も、申し遅れました。私、藤森ひなたです。あの、花織さんにはいつもお世話になっております!」
「こらこら、カット中に動くんじゃありません! うふふ、礼儀正しい子なのね。花織ちゃんにこんなお友達がいるなんてお姉さん嬉しいわ〜」
微笑む伊織に安堵すると再びハサミが動き出す。
「誰がお姉さんよ。私には“お兄さん”しかいないわよ?」
目を細め、可愛い妹ができたかのように浮かれている伊織に、花織はソファで雑誌を読みながら小さく毒づいた。
(――今なんて言った? お兄さん? じゃあこの人は義理のお姉さん……?)
すぐ傍で鼻歌を歌いながらカットを続ける伊織にほんの少し不信感を抱き始めた。鏡越しで見る伊織はやはり女の人にしか見えない。しかし、なんとも言い難い妙な違和感もある。
そこで私は鏡越しに伊織を観察し始めた。
女の人にしては広い肩幅、少し筋肉質な腕と脚。気のせいか喉仏のようなものも見えるし……なにより顎に髭の剃り残しが――――――――!!
(花織はお兄さんって言っていたけれど、まさか、まさか……オ、オカマさん!?)
私が感づいた瞬間、なんとも気まずいことに鏡越しに伊織と目があった。
「あら、うふふ。気づいちゃった? あんまりにもひなたちゃんが見つめてくるからドキドキしちゃったわ〜」
伊織は私の心をすべて把握していたようで、私がどぎまぎしながら伊織の様子を伺っているのを楽しんでいたようだ。
「伊織! ひなたをからかうんじゃありません」
ぴしゃりと叱咤されるも、伊織は「はいはい、ごめんねぇ〜」と反省の色がどこにもないような返事をした。
「ご、ごめんなさい。私、オカマさんを見たのは初めてで……じろじろ見ちゃって不快でしたよね?」
「あらあら、びっくりさせちゃったかしら? そんなこと気にしなくていいのよ。むしろじっくり見られて興奮しちゃった」
「いや〜ん」と体を捩(よじ)る伊織に、鬼の形相になった花織の鉄槌が下ったのは言うまでもない。
あらすじ
一樹に女性として意識してもらうため、ひなたは花織に女磨きを教えてもらうことに。
ファッションの指導の次に向かった先は花織の家。
実は彼女の家族が美容師をしているのだか、その美容師にはある秘密が…?