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官能小説 初めてのひみつ 1話
いきなりの報告
「今日もおつかれー! かんぱーい!」
志保の明るい声と共に、美咲と綾はグラスを掲げた。
広々とした店内にはテンポの良いエキゾチックな音楽が流れている。黄緑色の壁紙はジャングルを思わせ、椅子やテーブルの設備は木が中心だ。ぶら下げられている照明のカバーには、民芸品と思しき織物が使われていた。
「今回はタイ料理だっけ。志保って、こういうお店好きだよね。スパイシーな店。前のときはインド料理だったし」
「スパイシーなものは定期的に食べたくなるじゃん。綾が選ぶ店だって、こだわりが見えるよ。肉というこだわりが、ね」
「肉は体に必要な成分!」
綾は笑いながらグラスに口をつける。隣にいた美咲はグラスを覗き込んだ。
「それって、何のカクテル?」
「これ? バナナだけど。変わったカクテルだよね。美咲のは? 柑橘系かな」
「うん。グレープフルーツだよ」
「せっかく変わった店に来たんだから、珍しいものを頼んでみたらいいのに」
「でも、さっぱりしていて美味しいよ」
美咲の言葉に綾は苦笑いした。
タイ料理店というだけあって、たしかにメニュー表には変わったカクテルがいくつもあった。バナナ・グァバ・ココナッツ……。そして、店オリジナルのカクテルやタイのビールだ。
志保・綾・美咲は短大の同期である。
彼女たちによる『お疲れ会』は、誰かに大きなイベントが起きたときや、あるいは単なる気まぐれで行われる会だ。美咲にとって、綾も志保も『素敵な女性』である。ふたりとも持ち物もメイクもきらびやかで、いつもいきいきとしている。
注文した料理がいくつか届き、スパイシーな香りがテーブルの上に広がった。

「で、今日は志保の発案だけどー」
綾はカオッパと呼ばれる焼き飯を小皿に取って言った。
「聞きたい? 聞きたい?」
にまにまとする志保に、綾も美咲も苦笑いするしかない。志保には付き合って三年になる年上の彼氏がいた。志保が嬉しそうにするときは、もっぱらその彼氏の話。あるいは、最近ハマっているアイドルグループのコンサートチケットが取れた話。そのいずれかである。
「実は……同棲をすることになりました!」
志保の発言は、本人にとっては爆弾発言であった。しかし、綾はというと「むしろ、いままで同棲してなかったのが不思議」と返した。共に一人暮らしの志保とその彼氏。押しが強いという志保の性格を考えれば、付き合って一年くらいで同棲に話を持ち込みそうだ。
「だから最近、妙に艶っぽかったんだ」
にやにやとする綾が見ていたのは志保の唇。
ふっくらと瑞々しい唇に、ローズレッドのリップが塗られている。その色は派手すぎず自然な血色を出しており、咲いた花のような華やかさを出していた。薄めにつけられたチークとリップのバランスは絶妙だ。
「でも、どういうきっかけで同棲になったの?」
美咲の質問に、志保は満面の笑みをした。
「それはね、もっと一緒にいたいから。寝ても醒めても横に彼がいるんだよ。もう超幸せなことじゃんー!」
「……つーことは、エッチしたい放題だね」
ぽつりとした声だが、綾の言葉はストレートな表現だった。この言葉に志保ではなく、美咲が驚いた。当の志保は「ゴムの消費量が増えちゃうなぁ。買い置きしておかないと」と笑って答えるだけだ。
「志保。ネットだと沢山買えるし、ものによっては安いよ」
「そうなの? 綾はネット派なんだ」
「お店だと種類が限定されちゃう。あと、恥ずかしいしー」
「意外! かわいいところあるじゃん! 美咲は和樹くんと同棲は考えていないの? 付き合ってもう一年も経っているっけ?」
志保に問われて、美咲はたじろいだ。
志保の紹介
和樹とは一年前に志保の紹介で知り合った。美咲よりもひとつ年上の、二十七歳の会社員である。短く切られた黒髪は清潔感があり、スーツが普段着である人当りのよい男性だ。
「たしか、お互いにひとり暮らしだったっけ? でも和樹くんの性格なら、早々に同棲の話は出てこなさそうだもんねー。美咲も自分から同棲のことを言うようなタイプでもないしなぁ。そういう話は当分先ってこと?」
志保は言った。
「いまみたいに、たまにお互いの家に行くのが丁度いい感じかな。欲をいえばもっと一緒にいたいけどね。それに和樹くん、いつも忙しそうだから、きっといまは仕事のことで頭がいっぱいだと思う」
美咲はグラスを手にし、グレープフルーツサワーを口にする。ピロンという音がした。床に置いたボックスに入れた鞄を見た。スマートフォンにメッセージがきたようである。綾と志保が盛り上がっているのを横目で見ながら、美咲はスマートフォンを手にした。
「美咲はアッチの方はどう?」
「……へ? え、な、なんのこと!?」
綾からの質問に美咲は驚く。
「彼氏と夜も仲良く楽しくしてる? ってこと」
「綾って、そういう話が好きだよね……」
「夜の仲良し度は大切だよ。で、どうなの?」
「私は……そのー……」
間を取ろうと、美咲はグレープフルーツサワーをまた口にした。視線を泳がしていると、スマートフォンの画面に辿り着いた。音が鳴った。
『ちなみに、一年間の予定です』
表示されたメッセージ。美咲は画面を凝視した。メッセージの送り主は和樹だ。 美咲はグラスを置くと、すぐに画面をタッチして未読のものを見た。
『単身赴任が決まりました』
――え?
噴き出しそうになったグレープフルーツサワーを、慌てて飲み込んだ。独特の苦みと、つんとした香りが急に口内に広がる。相まって、炭酸がチクチクと喉を刺激する。その痛みによるものなのか。和樹のいきなりの報告によるものか。美咲の目にじんわりと涙が浮かぶ。
「……どうしたの、美咲?」
志保と綾に見つめられ、美咲は力なくスマートフォンの画面を見せた。
「早く電話してきたほうがいいって!」
「そうそう!」
ふたりはいますぐ和樹に電話をするように促した。美咲はスマートフォンとコートを片手に店外に行った。開いたドアから、真っ暗な空が見えた。行きかう人は傘をさしていた。
消えゆく美咲の後ろ姿は力なく、悲しげなものであった。
あらすじ
志保・綾・美咲は短大の同期である。彼女たちによる『お疲れ会』は、誰かに大きなイベントが起きたときや、あるいは単なる気まぐれで行われる会。志保が彼氏と同棲することとなり…