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官能小説 初めてのひみつ 3話


私だけじゃない

和樹が単身赴任をしてから1ヶ月が経った。

和樹と美咲は時間が合えば、夜にビデオ通話をしていた。ビデオ通話をしようと誘ったのは美咲からである。
普段は会いたいときに会えるからと滅多にしないビデオ通話であったので、イヤホンで和樹の声を聞くことに初めは慣れなかった。耳で反響する声にドキドキが止まらなかった美咲であったが、何度か通話を重ねていくうちに慣れていった。

しかし、ふとしたときに「美咲ちゃん」と低い声で呼ばれるとやはりドキっとする。

「美咲ちゃん」

画面に映る和樹を見つめていた美咲は、呼びかけられてハッとした。

「そのパジャマ、可愛いね」
「え! そ、そうかな? ありがとう。嬉しいよ」

ふわふわとした生地のパジャマを着ている美咲は照れた。

(いつもよりも可愛いパジャマを選んでいてよかった!)

美咲にとって、この時間がとても楽しみだった。大好きな和樹と会うので、画面越しといえども気を遣った。通話をする前は身なりをきちんと整えて、映らない場所も含めて部屋を綺麗に片付けていた。

単身赴任の彼を部屋で待つ女性

「美咲ちゃんの部屋はいつも片付いているね。俺の部屋なんてこんな状態だよ」

苦笑いをしながら、和樹はカメラで部屋の状態を映した。
おそらく美咲と同じくらいの広さのマンションの一室であろうが、美咲は和樹が言うほど散らかっているようには思わなかった。
床には数冊の分厚い本が置かれているくらいである。家具もいくつか見えたが、そもそも生活に必要なものしか部屋に置いていないように感じられた。

「和樹くんはインテリアにこだわる方?」
「うーん。勉強や仕事さえできればいいかなって思っているかも。使うにしても、やっぱり利便性をまず求めるかなぁ」
「和樹くんらしいね」
「……でも美咲ちゃんの部屋、俺は好きだな。可愛い過ぎず、シンプル過ぎず。いると落ち着くね。だから、いまこうして話していると……なんだか、すぐ隣にいるような気になってしまうよ。まるで一緒に暮らしているような……」

美咲はドキっとした。

「えっ?」
「う、ううん。なんでもないよ。そろそろ寝ようか」
「じゃあ、和樹くん。明日も頑張って。風邪とか引かないようにね」
「ありがとう。美咲ちゃんも。寒い日が続くから気をつけて」

スマートフォンに向かって美咲は微笑む。ほころぶ口元、優しい眼差し。
それに答える和樹の笑顔も素敵だ。美咲は和樹の笑顔が大好きである。
ふたりは手を振り合い、通話終了ボタンを押した。

ひとりエッチ

エアコンの音に混じって、カチカチと壁時計の秒針が動く音がする。美咲はクローゼットを開けた。取り出した小さな段ボールをベッドに置く。ダンボールは今日届いたばかりのもので未開封だ。商品名には『雑貨』と書かれていた。
美咲はベッドに腰かけ、何度も大きく深呼吸をした。そして、段ボールをゆっくりと開ける。 おそるおそる中から取り出したのは、厚めのビニールの袋だ。美咲はそれを手にすると、大きく深呼吸をした。

『感度は鍛えられる、ってこと』

そう言った志保はラブコスメというサイトを美咲に教えた。

『ずばりポイントはひとりエッチ。ひとりエッチは感度アップだけじゃなくて、他にもイイコトが沢山あるの』

ウィンクつきで言った「イイコト」について、志保は具体的に教えてくれなかった。
けれども、美咲は自分を変えたいと思い、お疲れ会が終わって家に帰るとすぐにラブコスメを見た。
そこには自分のように「中でイけない・感じない」ことについて悩んでいる人に向けてのコラムが沢山あった。

(私だけじゃない。悩んでいる人は沢山いる……)

胸に抱えていた重いものが、少し軽くなるのを美咲は感じた。

(恥かしいことじゃない……「中でイけない・感じない」のは誰のせいでもない。ただ……自分での練習が足りないだけ)

コラムを読み終えた美咲は『マリンビーンズ』と呼ばれるバイブと、アロエで作られている『LCハーバルローション』を買った。

「自分が変われるかもしれない」という緊張。
「どのようなものが到着するのだろうか」というワクワク感。
商品が届くまでの間、美咲は初めての大人のおもちゃに毎日がドキドキであった。

⇒【NEXT】『初めてのひみつ』4話

あらすじ

和樹が単身赴任をしてから1ヶ月が経ち、美咲はベッドに腰かけ、何度も大きく深呼吸をした。
志保から『ラブコスメ』というサイトを教えてもらった美咲は…

凛野あかり
凛野あかり
マルチな活躍を目指す小説書きです。女性向け・男性向け、…
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