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官能小説 パラレル・ラブ ストーリーA 〜直紀編〜 シーズン6
「無理を させたくない」●西原ななみ
「秋野さんの研究、私でお役に立てるのであれば協力したいです」
「でも……」
直紀さんは浮かない顔だ。
「何か……あるんですか?」
思いきって尋ねてみる。心配するような何があるんだろう。
「要は悪い奴じゃないんだ。でも研究熱心すぎるところがあってさ。言葉を選ばずに失礼なことまで聞いてくるかもしれない。それに、満足のいく結果が得られないといつまでもそのことから離れようとしないんだ。だからななみも疲れてしまうんじゃないかと思ってさ」
たった1回会っただけの秋野さんを、私は思い出した。どこか投げやりな態度で、現実に興味がなさそうな冷めた空気をまとっているのに、体の芯では熱い火が燃えているような、不思議な雰囲気の人だった。私が感じた火のようなものは、きっと研究への情熱だったのだろう。
「あんなことがあった後なんだから、疲れているだろう? 無理をさせたくない」
「でも私……行きます」
私ははっきり答えた。 直紀さんが目を丸く開いて私を見つめる。
「私、できるだけちゃんと知っておきたいんです。また直紀さんと離ればなれになったら嫌だから」
「ななみ……」
あたたかくて逞しい腕が私を包む。
「俺も行くよ、大切なことだから……。俺も、ななみがまたいなくなってしまうかもしれない可能性や、それを防ぐ手立てがあるなら知りたい」
私たちは抱きあったまま、手と手を強く握った。
数日後、休日を利用して、私と直紀さんは要さんの勤務する大学へ行った。
いろんな書籍や資料が山積みになった狭い研究室で、私たちは要さんと向き合ってソファーに腰かけた。
要さんは小さなパイプ椅子に無造作に座っている。

気のせいかもしれないけれど、前に会ったときよりも、眼光が鋭くなっているように思える。
そのせいもあって、私は覚悟を決めた。
直紀さんから聞いた秋野さんの性格からして、曖昧に答えたり、答えを濁したりすれば、すぐに厳しい追及があるだろう。
それに相手は専門家なのだから、下手に隠しごとをせずに全部正直に話したほうが、ことは早く終わるだろう。
「じゃあ、質問を始めるよ」
秋野さんはタブレットを抱え、机の上に置いたICレコーダーのスイッチを入れた。
「会いたい一心だったんだ」●西原ななみ
秋野さんに尋ねられるままに、私はすべて正直に答えた。
これまでや今の生活のことから始まり、婚活パーティで派手に転んだこと、そこで直紀さんに助けてもらったこと、何度か会ううちに直紀さんに惹かれていったこと。もちろんカミサマのことや、もうひとりの私とは手鏡で連絡を取り合っていることも隠さなかった。
答えづらいことも多かった。
「ふぅん……じゃあ、向こうの世界のあなたと入れ替わったときに、あなたは向こうのあなたの恋人とデートしたんだね」
「恋人と言っていいのかわからないですけど……私のせいで関係を悪くするわけにはいかなかったから。でも最終的には、その人にもパラレルワールドのことを話してしまいました。ずっと勘違いされたままだと……その、やりづらいことも、あったので」
「やりづらいこと、ね。ちなみにこれまではどんな人と付き合ってきたの? 今みたいに、別の世界に行ってしまっただとか、行きそうだと感じたことはなかった?」
「付き合ったことは一度しかなくて……」
私が口ごもっているのを見て、直紀さんは察してくれたらしい。
「俺がいるとななみが答えづらいこともあるだろうから、俺は廊下で待っているよ」
「えっ、直紀さん?」
「あぁ、そうしてくれ」
立ち上がって研究室を出ていこうとする直紀さんを、秋野さんは一瞥すらしない。少し考えたが、こういうときには素直に直紀さんの気持ちを受け取るべきなのだろうと思って、私も止めなかった。
秋野さんの質問は、だんだん私の気持ちに関するものが多くなってきた。秋野さんいわく、「強い感情が何らかのエネルギーになって、物理的な影響を及ぼしたのかもしれない」からだそうだ。
「……じゃあ西原さんは、直紀に会いたい一心だったんだね」
「そ、そうです。とにかく……直紀さんのいる世界に帰りたくて……」
「帰りたかっただけじゃないでしょう。会いたかった?」
「……はい」
意地悪をされているように聞こえるのは、秋野さんの冷たい雰囲気のせいだろうか。
かれこれ1時間近くはそんなことを続けて、疲れを感じてきた頃だ。
「西原さん、ちょっとそこに立ってみて」
秋野さんは壁を指差した。
「こうですか?」
いわれるままに、壁に背を向けて立つ。
秋野さんが近づいてきた。
何をするんだろう? と思う間もなく、秋野さんは私に覆いかぶさってきた。体は触れていないけれど、手を私の顔の横に突き、いつでも襲いかかれるようなポーズだ。
「き、きゃああああっ!」
突然のことに悲鳴をあげてしまう。
「ななみっ!?」
直紀さんが研究室に飛び込んできた。
「嫁さんにする大切な人だ!」●秋野要
「何しているんだよ!」
直紀は怒鳴ると、僕を西原さんから引き離した。
僕は初めて、あぁ、確かにこれは僕が西原さんを襲っているように見えたとしても仕方がないなと理解した。
もちろん、僕の意図は西原さんを襲うことではない。
「西原さんが驚いたときに、何か起こらないか試してみたかったんだ」
「はぁっ?」
「転ばせるのはさすがにやりすぎだろうと思ったからこうしたんだが……」
そこまで言って、今度は西原さんに向きなおる。
「怖い思いをさせてしまったのなら、すまなかった」
「は、はぁ……」
西原さんはわけがわからないといった様子で、口をぱくぱくさせている。 直紀は改めて、西原さんの顔をまじまじと見つめた。
「なぁ……ななみはもうだいぶ疲れているみたいだ。今日はこのぐらいにしておいてくれないか」
僕に眉をひそめてみせる。確かに西原さんの回答のスピードは、少し前にくらべて落ちていた。 このままでは回答の内容にも誤りが出てくるかもしれない。
「わかった、今日は終わりにしよう」
僕はうなずいた。
帰り支度をして研究室を出て行こうとする二人に、僕はふと悪戯をしてみたくなった。
正確にいえば、直紀に。
「直紀、西原さんを俺に譲ってくれ。パラレルワールドとつながる彼女がいたら、仕事でもプライベートでも研究ができる」
あまり品の良くない冗談だと自分でも思った。でも僕は少し、悔しかったのかもしれない。さっきの直紀の怒った顔……長いこと付き合ってきたが、こいつのあんな顔を見たのは初めてだった。
直紀は唐突に、隣にいた西原さんの肩を抱き寄せた。
「馬鹿言うな! ななみはお前の研究道具じゃねぇ! 俺の嫁さんにする大切な人だ!」
すがすがしいほど、きっぱり言いきる。
西原さんがみるみるうちに赤くなっていく。
「って、あれ……?え……えっ?」
啖呵を切ったはずの直紀の頬も赤くなった。
……ひょっとしてコイツ、考えて言ったわけじゃなかったのか? 興奮して、思っていたことがつい口から洩れてしまったのか?
ってことは、もしかしてこれって、直紀から西原さんへのプロポーズになってしまったんだろうか。
自分の悪戯心がことの発端とはいえ、すごい現場に居合わせてしまった。
二人は真っ赤になったまま、お互いの顔も見られずに照れている。
バカップルを前にした僕にできるのは、肩をすくめることぐらいだった。
「お邪魔虫の出番はこれで終わりだ。今日の結果をまとめたら、また改めてヒアリングさせてもらうかもしれないが。西原さん、直紀に愛想を尽かしたら、いつでも僕のところにおいで」
「そんなこと絶対ない! 俺はななみを一生大事にする!」
叫んだ後に直紀は「あっ」と呟き、頬がまた一段赤くなった。学習しろ。
「今日は、帰したくないな」●西原ななみ
「本当にごめん。いやな思いをさせてしまったよな」
その日は直紀さんにひたすら謝られながら帰った。
秋野さんに向かって叫んだことについては、落ちついたらきちんと話したいとのことだった。
私も疲れていたので、そのことについては大事な話になりそうなだけに、場を改めてゆっくり話したかった。
気は急いたけれど、だからこそちゃんと向かい合いたい。
数日後、直紀さんからメールが届いた。先日のことは秋野さんも悪いと思っているらしく、お詫びにということで、自分の知り合いのスペイン料理の店を私たちのために予約してくれたという。隠れ家的なお洒落な店で、味は絶対に保証するとのことだった。
その日、私はまず美容院に向かった。いつもはデートといっても、わざわざ美容院にまでは寄らない。
――俺の嫁さんにする大切な人だ!
あれからずっと、私の頭の中では直紀さんの声が何度も繰り返し響いている。
私は、その日だけでも特別な私になりたかった。もうひとつの世界で見た、モデルになっていた私。 今、ここにいる私も、もしかしたらあのぐらいキレイになれるかもしれない。だって同じ私なんだから……。
いつもよりドレスアップしていつもの美容院に行くと、いつもの担当美容師さんが迎えてくれた。
藤本幸也さんというこの美容師さんは、以前から私にはもっと「伸び代」があると言ってくれていた。ななみちゃん、こんな髪型はどう? あんなメイクも似合うと思うよ……そんな藤本さんの提案を、しかし、私はいつも断っていた。変わる勇気がなかったからだ。
でも、もう、違う。
「今日はとても大切な日だから、藤本さんが言ってくれたことを信じて変わりたいんです」
みなまでは言わなかったけれど、藤本さんはわかってくれたようだ。
「まかせて。ずっと狙ってたななみちゃんだからね。絶対にきれいにしてみせるよ」
藤本さんはコームを片手にウィンクした。
数十分後、私は自分でも見違えるほど華やかになっていた。
「すごい……ですね」
鏡に向かって絶句する私の肩を、藤本さんが苦笑しながら軽く叩く。
「だからプロの腕を信じろって前から言ってたのに」
ありがとうございます、と頭を下げると、藤本さんは最後に「これ、恋がうまくいくお守り」といって、小さな白いバラのコサージュをくれた。
「今のななみさんちゃん、無敵だから。がんばって」
ドレスの胸にそれを飾って、私は美容室を出た。
待ち合わせ場所に迎えにきてくれた直紀さんの車に乗りこむと、直紀さんはすぐに車を発進させた。
まっすぐ前を見てはいるものの、運転しながらこちらを気にしているのがわかる。
「いつもと少し雰囲気が違って、いちだんときれいだね」
「そ、そうですか?」
「うん。今日は……」
直紀さんが、少し迷う。それから、
「今日は、帰したくないな」
そう、呟くように言った。
「こうやってずっと抱きしめていたい」●西原ななみ
「秋野さんからお話は伺っています。こちらへどうぞ」
スペイン料理のお店で私たちを迎えてくれたのは、高遠亮太さんというまだ若い副料理長さんだった。 秋野さんはこの店の常連で、一人でもよく食事に来るという。
私たちは個室に通された。まずは赤ワインが運ばれてくる。慣れた手つきでグラスに注ぐと、高遠さんは部屋を出ていった。
乾杯しようとグラスを掲げると、直紀さんが「ちょっと待って」と片手をあげた。
「今日は俺も素直になるから、ななみも素直になってほしい」
いつにも増して真剣なまなざし。私は黙ってうなずく。
直紀さんはまず、このあいだ秋野さんの前で言ったことについて、先走ってしまい申し訳なかったと謝った。
「嫁さんにしたいという気持ちに嘘はないよ。少し前まで、結婚にまったく興味がなかったのが嘘みたいだ。でも、そういうのはまずななみあってのことなのに……俺のことを理解してくれた人に会えたと思って、舞い上がってしまった。俺を見てゆっくり決めてくれればうれしい」
頬を赤らめながらも、直紀さんは目を逸らさなかった。続けて、私のどんなところを、いつ好きになったのかを教えてくれる。病院の屋上が運命の場所だったと言った。私は結婚なんて関係なしに思いついたことを話しただけなのに、人生はどこで何がどう転ぶかわからない。
食事が運ばれてきて、いったん会話を中断した。
「俺さ、少し嫉妬しているんだ」
食事が終わるころ、直紀さんが切り出してきた。
「嫉妬?」
「うん。ななみは、もうひとつの世界で別の男とデートしていたんだよな。そのことを考えていたら、なんだか妙に……さ」
高木さんのことを言っているのだろう。そのことを秋野さんに説明したときに、直紀さんはまだ隣にいた。あれはもう一人の私のために……と説明すると、直紀さんは「わかってるよ」と少しだけ口をとがらせた。
その様子が何ともいとおしかった。
デザートが終わると、高遠さんが部屋に来た。
「このレストランは庭園も名物なんですよ。よかったらご覧になっていきませんか」
きれいにライトアップされた外の庭は、さっきから気になっていた。もちろん断る理由はない。
私たちは揃って外に出た。ごく自然に手をつなぐ。
ちょうど店のほうから見えなくなったあたりに、白いベンチがあった。
並んで座ると、直紀さんが体を寄せてきた。拒否しないでいると、今度は抱きしめてきた。 一応、距離をはかりつつ行動しているようだ。大きな体で細かい気遣いをしてくれることが、無性にうれしい。
「よかった、とにかくななみが無事で」
直紀さんは私を抱きしめる腕に力をこめる。でありながら、強く締めすぎないよう気を使っているのも伝わってきた。
「ななみを守りたい。こうやって、ずっと俺の腕の中で抱きしめていたい……愛してる」
少しだけ体を離して、私の頬を両手で包む。
直紀さんの唇が近づいてきて……
私たちは、キスをした。
唇を離してから、直紀さんは言った。
「今日は帰したくないんだ。ななみ、家に来ないか?」
私は迷った。まだ少し早い気もするし、もう一歩先に進みたくもある。
どうしよう……
あらすじ
なんとか元の世界に戻ってくることができたななみ。
退院間近の加藤から告白を受けて二人は付き合うことになり…。