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官能小説 パラレル・ラブ ストーリーA 〜直紀編〜 シーズン4
「私、やっぱり……好きなんだな」●西原ななみ
邪魔をしてはいけない――
そう思ったのは、病室の中から聞こえてきた声が、若い女性の声だったからだ。 それに口調からして、看護婦さんではなさそうだ。
「だから現場なんかやめたほうがいいって言ったでしょう、直紀」
名前を呼び捨てにしている。
直紀さんに今、彼女がいるとは聞いていないし、そういうそぶりもない。
それにたぶん彼は、彼女がいながら別の女性と出かけるような人じゃないだろう。
だとしたら……
(元カノ?)
私は以前、直紀さんが現場に移動したせいで彼女にフラれたという話を思い出した。
現場の仕事を嫌っているような話し方からしても、その可能性は高そうだ。
でも、別れた後もお見舞いには来るものなのかな。
「直紀は将来もっと大きな仕事があるんだから、ちゃんと体を大事に……」
「うるさいな。引っ越し屋に現場以上に大きな仕事があるか」
どこか甘ったるい元カノさんの声とは裏腹に、直紀さんの声は突き放すようだ。
このやりとりだけを聞く限り、フったのは彼女ではなく、直紀さんのほうじゃないんだろうかと思ってしまう。
でもとにかく、元カノさんとの話を立ち聞きしているのも趣味が悪い。
(帰ったほうがいい……よね)
私は病室を離れようとした。どこか近くで時間をつぶして、また改めて来よう。
だけど、足が動かなかった。
ここにいたい。ふたりの今の関係を、どれぐらい親密なのかを、知りたい。
(私、やっぱり……直紀さんのことが……好きなんだな)
花束を抱える手に、ぎゅっと力を入れる。
切なかった。
そのとき、加藤さんが顔を上げた。
おそらくは彼女との間にできた空気が気まずかったのだろう、顔をさりげなくこちらに向ける。
廊下に立っていた私と、目が合った。
「ななみさん!」
名前を呼ばれて焦ったのが半分、嬉しかったのが半分。
「そんなところに立ってないで、中に入ってよ」
直紀さんは私を手招きした。

部屋の主人に招かれたからには、入らないわけにはいかない。
私が病室に入ると、元カノさんは一瞬だけいやそうな顔をしたが、すぐに笑顔で椅子を出してくれた。
この病室のことを、少なくとも私よりはよく知っていそうなそぶりだ。
きれいというより、かわいい感じの女性だった。茶色のさらさらのストレートに、クリーム色のワンピース。 肌が真っ白で、目が大きくて、人形みたい。 一見しただけではそうとはわからないけれど、バッグも靴も、よくよく見ればブランドものだった。 私もこんな容姿に生まれていれば、違った人生を歩めていたかもしれない。
「直紀、この方、誰?」
元カノさんはかわいらしい声で尋ねたが、目が笑っていない。
「今、お付き合いしている、西原ななみさん」
直紀さんははっきりと答えた。
「え……」
私は絶句して、直紀さんをしげしげと見つけてしまった。
直紀さんの頬が、少しずつ赤くなっていった。
「なんだか少し、寂しくなった」●西原ななみ
結局元カノさんは、自分からすぐに病室を出ていった。 去り際、直紀さんには気づかれないような角度で、私を睨んでいった。
「ごめん、元カノなんだ」
出て行くと、直紀さんはすぐにそうフォローした。やっぱり。
「彼女だなんて言ってびっくりしただろう。でもああでも言わないと帰りそうになくて……自分から別れたいって言い出したくせに、何かあると口出ししてくるんだ」
「そうですか……」
私は少しだけがっかりした。彼女を返すための方便だったんだ。私のことを本当にそう思ってくれたわけじゃない。
でも、それはそうだろう。何を都合のいい期待をしていたんだろう。
幼なじみで、別れてからも関係が切れていないというのにも心がざわついた。もしかして彼女は、ヨリを戻したがっているんじゃないだろうか。
「今日はいいお天気ですね。こんなふうに病室にこもっているのがもったいないぐらい。足、早く治して下さいね」
私は内心を悟られないように、精一杯笑顔を浮かべた。嫉妬しているなんて思われたくない。少なくとも今は、まだ。
だが、直紀さんは私がおかしいことをあっさり察した。
「……何か、あった?」
壊れやすいものを心配そうに窺うような目。 素直になっても、いいのかな。
「……なんだか少し、寂しくなっちゃったんです」
私はまた笑ってみせたけれど、今度はその中にある悲しさを隠さなかった。
「ななみさん……」
直紀さんは私から目を逸らさない。 暖かくて、優しい視線だった。
「おーい、加藤、大丈夫か!」
そのとき、病室の入り口から元気な男性の声がした。
「まったく丈夫なだけが取り柄のお前がさぁ」
直紀さんも私も、飛び上がりそうになるのをこらえて、入口を振り返る。 いかにも快活そうな男性が二人、入ってきた。一人は花束を持っている。
「あ、あぁ、お前らか」
直紀さんはぎこちなく笑って手を挙げた。
「なに、彼女? ごめん、邪魔した?」
「彼女さん、すみません、俺たちはすぐ帰りますから〜」
二人はどうやら私たちのことを勘違いしているらしい。
「ご想像におまかせするけど、お前ら、ここ病院だからな。静かにしろよ」
直紀さんが苦笑する。
「加藤にこんなにかわいい彼女がいるなんて聞いてなかったぞ。最近、様子が変わったように見えたけど、そうか、彼女ができたせいだったのか!」
ひとりが大袈裟に驚いてみせたので、私はすっかり照れてしまった。嘘でもお世辞でも、照れるものは照れる。
「しかし、お前が骨折だなんて」
「俺だってヘマすることもあるよ」
直紀さんは、何だか居心地が悪そうだった。ひょっとしたら私がいることで、いつものように仕事仲間と話せないのかもしれない。お二人のほうがずっと直紀さんとの付き合いは長そうだし、仕事の内容上、部外者には伏せておきたいことだってあるだろう。
「私、花瓶を借りてきますね」
私はさりげなく病室を出た。 ちょうど戻ってきたタイミングで、私は意味の分からない単語を耳にした。彼らのうちの一人が、直紀さんを軽く小突きながら口にしていたのだ。
「それにしてもさっきの子とはどういう関係なんだ、次期副社長?本部に戻る前にちゃっかり奥さん候補を見つけやがって」
「来てくれてうれしいよ」●西原ななみ
二人が帰った後、また気まずい空気が流れた。
「副社長って、どういうことですか?」
何度、そう尋ねそうになったか知れない。だけどそうしてはいけないのだということは、なんとなく伝わってきた。
「お互い、足の怪我で気が合うね」
そんなふうに笑う直紀さんが、何だか痛々しかった。
「ずっと退屈だったから、来てくれてうれしいよ」
「そう言ってもらえるなら、またすぐ来ちゃいますよ。助けてもらった恩返しをずっとしたかったんです」
「まだそんなこと言ってるのか。気にしないでいいって言ったのに」
「助けられたほうがずっと覚えているものなんです、こういうことは」
私たちは冗談っぽく言い合ったけれど、間には薄くて透明な膜のような壁があった。
「……外に出たいな」
話が途切れたところで、直紀さんがぽつんと口にした。
「でも、歩いたりしちゃ……」
「車椅子に乗るから、押してくれる? 車椅子で院内を回るぐらいなら許可されているんだ。外の新鮮な空気を吸いたい」
看護婦さんにお願いして車椅子を運んできてもらう。私たちは病室を出て、屋上に向かった。
真っ青に晴れ渡った初秋の空の下は、秘密を打ち明けるには格好の場所に思えた。
直紀さんはさっきの言葉の意味を教えてくれた。それは現場にいられないことの本当の意味だった。
(大変だな)
それが、私が最初に感じた正直な気持ちだった。直紀さんの会社は、引っ越し会社といえば大抵の人がまず挙げる超大手だ。まさかそんな大きなものを背負っていたなんて。そのために、好きな道を好きなように進むことができないなんて。
現場の人の多くは直紀さんの「正体」を知らないけれど、さっきの二人はそれを知る数少ない親友だという。
私に説明することで、自分が置かれた状況を再確認したのだろうか、全部語り終わった直紀さんは、明らかに気落ちしていた。
「大丈夫ですよ」
私はそっと手を握った。大丈夫だなんて無責任かもしれないと思ったけれど、とにかく直紀さんに少しでも元気になってほしかった。
「何か方法があるかもしれない。例えば幹部クラスの人が定期的に現場に行けるシステムをつくるとか……あと、その……」
何も知らないのにいい加減なことを言うと、我ながら思う。だから言いながら、泣きたくなった。
直紀さんは黙って、寂しそうな微笑を湛えている。私はたぶん、空回りしていた。
何かが「ずれた」感じをどうにも修復できないまま、私たちは病室に戻った。
まだ一緒にいたい。いたいけれど、これ以上いても、溝が余計広がっていくだけかもしれない。
今日はもう、帰ろう。
「あと2年、現場で頑張れるんですよね。でも本当に怪我には気をつけて下さいね」
「うん、退院したら、また出かけよう」
私はバッグを肩にかけた。頭を下げて、病室を出て行こうとする。
「……待って」
背を向けたところで、直紀さんが突然私の腕を掴んだ。
「もうちょっとだけいてほしい……」●加藤直紀
「もうちょっとだけ、いてほしい……」
俺は言う、というより訴えかけた。
女性の前でこんな行動をとるなんて、それまでの俺からすれば考えられないことだった。
常にいいところ、格好いいところを見せたいと思っていたのに。……好きな相手なら、とくに。
好きな相手。そうだ、俺はななみさんが好きなのだと、もう自覚していた。
さっきの、屋上でのやりとりのときに。
自覚ではなく、確認したといったほうがいいかもしれない。
俺が次期副社長になると知ってなお、現場の仕事についてまっすぐに、気持ちを込めた意見を言ってくれたことがうれしかった。 このことを知った他の女性も、元彼女も、副社長のポストのことばかり囃し立てて、俺の気持ちなんて理解しようともしなかった。
感謝した。この人とならわかり合えると思った。この人ともっと一緒にいたいと思った。 一緒に幸せになりたい、幸せにしたいと思った。先走りすぎているかもしれないけれど、できることなら、この先ずっと――。
ななみさんはびっくりした顔でベッドの上の俺を見下している。 そりゃあそうだろう、こんな筋肉ダルマにいきなり腕を掴まれたりしたら。
「ごめん」
俺は慌てて手を離した。
「……どうかしたんですか?」
ななみさんが心配そうな表情で、こちらを覗きこんでくる。
どく、どくと自分の心臓が高鳴っているのがわかった。
いわなくては。伝えなくては。彼女をこのまま帰らせたら、彼女の中で俺は「かわいそうな次期副社長」のままだ。
そうじゃなくて、俺は……!
「俺、ななみさんのことが……気になっているんだ」
彼女の目が見開かれる。そのまま動きが止まり、顔が少しずつ赤くなっていった。
「ななみさんといると、何だかほっとするんだ。しばらく結婚したくないなんて言ったけれど、その……」
うまく、言葉にならない。
ななみさんが、さっき彼女の腕から離れてさまよっていた俺の指をきゅっと掴んだ。その指先が熱い。
俺はもう片方の手で、ななみさんの頬にそっと触れた。同じぐらい熱い。そして柔らかかった。
「……立てるようになったら、抱きしめてもいい?」
ななみさんは真っ赤な顔のまま、こくんとうなずいた。
「抱きしめるだけ、じゃないよね」●西原ななみ
熱に浮かされたみたいな気分のまま、家に帰ってきた。 頬に触れられたとき、ぞくっとした。
(直紀さんって……こんなふうに、セックスするのかな)
私だって健全な女子だ。あんなことをされたら……やっぱりそういう気分になってしまう。
抱きしめて……って、抱きしめるだけ、じゃないよね。もういい大人なんだし……じゃあ、直紀さんの足が治ったら、つまり……)
枕に顔を押しつけて、ベッドで足をじたばたさせる。
真夜中を待って、私は鏡を手にした。
(これ、もう……我慢できないよっ……!)
とにかく誰かに伝えたかった。 おしゃべりできる友人がいないことはないけれど、ほとんど同志みたいな感覚の、もう一人の自分に真っ先に話したかった。
鏡に吸い込まれる感覚があってから何となく怖くてお互い連絡を取っていなかったけれど、あれからずいぶん時間が経っている。 ほんの少しだけ……今日あったことを伝えて終わるだけならきっと大丈夫だろう。
鏡を見つめてじっと念じると、鏡面が一瞬揺らいで、もう一人の私が現われた。
「どうしたの?」
もう一人の私は少し不安そうだ。悪いことをしてしまったかなと思う。
「手短に言うね。私……直紀さんに、加藤さんに告白されたの!」
「えっ、本当に?」
あちらの私が顔を輝かせる。
こんなふうによろこんでくれるなんて、うれしい。
「じつは私も話そうと思っていたんだ。私……高木さんと……」
彼女が言いかけたとき、体が軽くねじれるような感覚に襲われた。続いて、大きなめまい。
――鏡に、吸い込まれる。
恐怖と不快感で、目をぎゅっと閉じる。
そのまま、何秒かが過ぎた。
次に目を開けると、私は自分の部屋にいた。
だけど、そこはさっきまでの自分の部屋ではなかった。
私はベッドに寝転んでいたはずなのに、今の私はサイドテーブルに肘をついて鏡を見ている。
(これって、ひょっとして……)
テーブルの上にあったスマートフォンを手に取る。ロックを解除して、メールの履歴を確認した。直紀さんとのやりとりでいっぱいだったはずの受信画面は、高木さんとのやりとりで埋まっていた。
(私たち、入れ替わっちゃったんだ!)
もう一度鏡に向かって念じる。もう一人の私と、もう一度話せますように。もう一度あちらに戻れますように。
だけど鏡はここにいる私の顔以外、何も映さなかった。
私のせいだ。私が話したいなんて思ったから、もう一人の私も巻き込んでしまった……。
自己嫌悪でいっぱいになって、その夜は一睡もできなかった。
翌朝、少しだけうとうとしかけたとき、夢の中にカミサマが現われた。 真っ白の布を巻きつけたような服を着ていて、この間会ったときよりずっとカミサマっぽかった。
「世界がやっぱり不安定なんだよね。まずはお互いを元に戻せるように頑張ってみるけどさ……」
彼は口を尖らせて、手のひらの中で何かをひたすらいじっていた。
ごめん、ごめんねと謝りたいが、声が出ない。そうしているうちに目が覚めた。
翌朝、私はまずメールをもう一度きちんと確認した。
あちらの私がこちらに戻るまでの間、高木さんとの仲をきちんと保っておかなければいけない。
メールによると、今週の週末、高木さんと会う予定になっていた。
私は……
あらすじ
仕事中に足を怪我したという加藤を心配して、
彼が入院している病院にお見舞いに来たななみ。
しかし病室に入ろうとしたとき、中から話声が。
こっそり見てみると加藤が彼が女性と話していて…?