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官能小説 パラレル・ラブ ストーリーA 〜直紀編〜 シーズン9


「俺に ひとり占めさせて」●西原ななみ

私は照れながらもキスを受け入れる。うぅん、受け入れるしかなかった。直紀さんに強く抱きしめられて、身動きがとれなかったから。窮屈だった。でも、幸福だった。

直紀さんがワンピースのファスナーを下ろす。抵抗しなかった。簡単に下着姿にされた。恥ずかしかったけど、覚悟していたことだった。


「シャワーを浴びたい……」

呟くと、直紀さんは残念そうに私を離した。

「あとちょっとだけ、おあずけだな」


苦笑した顔が、少しかわいかった。


まず私がシャワーを浴び、次に直紀さんがバスルームに入った。

抱き合う男女

私はベッドに腰掛けて直紀さんを待っていた。直紀さんが出てくると、組み敷かれるようにして押し倒された。

「いやなことがあったら、言って……」


抱きしめて、優しい言葉をかけてくれる。でもその体はすごく熱い。


私はほとんど反射的に、手で体を隠そうとした。直紀さんは素早くその腕を掴んで、動けなくした。

「ダメ、隠すのは許さない。俺のものだから、俺に見せて。俺にひとり占めさせて」


がっちり両腕を押さえつけられる。だけど、痛みはない。直紀さんはまじまじと私の肌を見つめた。

「やっとななみの全部を見られた。きれいだよ」

恥ずかしい。けど……うれしい。


直紀さんの指が、体をなぞっていく。まずは髪から始まり、頬を撫で、首筋に触れ、肩を辿り、さらに降りていく。指に先導されるように、唇が続く。


指と唇は、体の曲線や柔らかさを確かめるように動く。とくにバストとヒップは、女性特有の弾力を楽しむかのように時間をかけた。ときどき甘噛みもする。そうされると感じてしまって、

「ひゃっ……ん」


声が出た。

「感じちゃった? かわいい」


耳元で、直紀さんがいたずらっぽく囁く。

「じゃ、ここは?」


今度は硬く尖った乳首を舌先で突いた。私は直紀さんの頭をぎゅっと抱いた。

「あ……んっ、だめっ」

「だめって、感じすぎるから?」


直紀さんはくすくす笑う。

脚が自然に開いていく。体が、直紀さんをもっと欲しがっている。直紀さんの指は内腿を経て、芯へと近づいていった。

とろとろになったその部分に触れられたら、もうだめだった。私は我慢できなくなって、直紀さんにしがみつき、手を伸ばしてその体のあらゆるところを撫でた。太い首、がっしりした肩、二の腕、厚い胸板、腹筋、引き締まった腰からつながる下半身……。本当のことをいえば、ひそかに、ずっと欲情していた筋肉に、思う存分触れる。直紀さんがしてくれたみたいに、大切な宝物に接するように。

「愛してる、ななみ」

「私も……直紀さんのこと大好き」


引き寄せ合うように、私たちは唇を重ねた。舌を絡めて、お互いの唾液を味わう。

「挿れるよ?」


直紀さんが私の目を覗きこむ。


私はただ、うなずいた。

すっかり花開いたそこに、直紀さんが入ってくる。

「は……ああぁぁんっ!」


直紀さんの背中を強く抱く。肉の襞が開かれていく感触。お腹の底から、むずがゆいような快感が少しずつ湧き上がってくる。

 やがて、奥まで達したのがわかった。十分濡れていたから、痛みはなかった。

「ひとつになれて……うれしい。好きだ」

「うん……うれしい」


私たちは今度は、深くつながったままキスをした。

「離れたくない 離れられない。」●西原ななみ

つながっても、私たちは手を握りあっていた。

「ななみ、愛してるよ。幸せにする」


直紀さんの視線が、私にじっと注がれる。とろけてしまいそうに甘くて、熱い視線だった。

ゆっくりと腰を動かされると、興奮が今までにも増して高まってくる。

「直紀さんっ……直紀さぁん!」


気がつくと直紀さんの名前をうわごとのように呼んでいた。

気持ちよくて、くるおしくて、いとおしくて……体がどうにかなってしまいそう。

「あ……、あぁぁんっ!」

「ななみ……イクよ。ななみの……中でっ」

直紀さんはコンドームをつけている。だから不安ではなかった。

「んっ……直紀さん……好き、大好き」

コンドーム越しにも形のわかるそれを感じながら、どこかに飛ばされないように抱きついた。

「俺もだ……愛してるっ」


動きが早くなる。呼吸が荒くなる。直紀さんも私を抱き返した。

もうこの人と、離れたくない。離れられない。

そうして、直紀さんの愛情がまっすぐに放たれた。

「はぁ……っ」


大きく息を吐いて、体を弛緩させた。


もう一度見つめあう。何度見つめあっても、まだ足りない気がする。どれだけ見つめあって、愛しているといいあったら、満ち足りたと思えるようになるのだろう。

キスが降ってくる。受け止めて、舌を絡めた。交わしあった唾液が体に染みわたっていくみたいだ。

「……えっ?」

まだ入ったままの直紀さんがぴくりと動いたので、声が出てしまった。

「ごめん、俺、まだ足りない」

私がさっき思っていたのとまったく同じ言葉が、直紀さんの口から出てくる。

「ずっと我慢していたから……男の部分がまだおさまらない」


驚く暇もなかった。直紀さんは素早くコンドームをつけかえると、今度は私を後ろから抱いた。


お尻にさっきと変わらず硬いものがあたる。


後ろ向きになって、初めて窓のほうを向いた。カーテンが開け放されたままだったことに、今さらながら気づく。美しい夜景が広がっていた。


直紀さんの愛撫に、その夜景が揺らぐ。

後ろから首筋を吸われ、胸を揉まれる。指先が乳首をくりくりと摘まむ。さっきので終わりだと思っていた体は、快感に対してあまりにも無防備だった。

「あ、あんっ……はぁ……っ」


膝を立てて、手を突いて……と導かれるままに、よつんばいになった。

「ここ、ひくひくしてて……エロいんだけど」

声の近さから、直紀さんの顔がどこにあるのかわかる。

「やだ……そんな近くで……見ないで」

言い終わらないうちに、熱い息がかかった。続いてぬめった感触。

直紀さんの舌が侵入してきたのだった。

「あ、や……あっ……」

こんな体勢で舐められたのは初めてだった。恥ずかしくて、でもそれが何だか気持ちよくて、喘ぎ声が止まらない。


舌の動きが止まった。

「また……挿れるから」

太い腕が、私の腰を力強く押さえた。硬くなったものが、もう一度私を押し開こうとする。

さっき愛情を確認できたせいか、顔の見えない体勢でも怖かったり、不安だったりはしなかった。ただただ、直紀さんを感じる。

「ひゃ……あぁぁっん」


その体勢で激しく、でも優しく、突かれた。

体位は何度か変わった。いろんな形で求められるうちに、私の体は以前以上に快感に目覚めていた。快感に溺れそうになって、恥ずかしがる余裕がだんだんなくなっていく。私は自分から直紀さんを欲しがり、腰を動かした。

直紀さんを感じたい。私のことも感じてほしい。そう思いながら動いた。夢中だった。


ふと我に返ると、直紀さんは隣で私の髪を丁寧に撫でてくれていた。

「娘さんを 幸せにします」●西原ななみ

それからしばらくして、直紀さんが両親に会いに来てくれた。

「ご挨拶が遅くなってすみません」


玄関先に迎えに来たお父さん、お母さん、妹を前にして、直紀さんは直立不動から深く頭を下げる。

「まぁまぁ、頭を上げて下さい」


お母さんは慌てて直紀さんの肩に手をかけた。

家の中に通されると、直紀さんはそこでもまた深々と頭を下げた。

「ご挨拶が遅くなってすみません!」

本当に真面目な人だなぁと思いながら、今度は私が直紀さんを起こす。その真面目さがうれしかった。

直紀さんはお母さんに手土産を渡した。

「これ、よろしければ皆さんで召し上がって下さい」


お父さんが好きな和菓子だ。私に聞いて、用意してくれた。

妹が和菓子を開けて、お茶と一緒に出してくれる。みんながテーブルについた。

いつも娘がお世話になっているみたいで、とお母さんが口火を切る。こんなときはお母さんの物怖じしない性格がありがたい。


しばらく雑談した後、直紀さんは居住まいを正してお母さんとお父さんを交互にまっすぐ見つめた。

「娘さんを……ななみさんを幸せにします。結婚させて下さい」


あまりにもストレートな、でも直紀さんらしい挨拶だった。

「あのー、少しだけ聞いたんですが、直紀さんはその……ゆくゆくは副社長さんになられるご予定なんでしょう? ななみは普通の家庭で普通に育った女の子です。ななみみたいな子で本当に大丈夫ですか?」

お母さんがおずおずと尋ねる。直紀さんの仕事については、失礼にならない程度に両親に話していた。突然話題にして、場が混乱するのは避けたかったからだ。つまり両親には最初から「心の準備」をしてもらっていた。直紀さんにもそれは伝えてある。

「経営のこととか、何もわからないでしょうし……」

「それよりも、ななみさんが自分を理解してくれたこと、信じてくれたことのほうが自分にはずっとうれしかったんです。自分にはななみさんが必要だと思いました」


直紀さんがいい終わると、場がいったん静まった。みんな直紀さんの言葉を、それぞれ頭の中で繰り返しているようだ。


お父さんが口を開いた。

「いちばん大事なことを伺いたい。直紀さんの立場が何であれ、ななみを一生守ってやってくれますか?」

その目は真剣だった。いつもぼーっとしているイメージしかないお父さんだったから、少し驚いた。同時に、それほどまでに愛されていたのだと今さらながら気づいて、感謝がじわりとあたたかく胸に広がった。

「もちろんです。副社長の妻だから苦労させない、などとは言えません。役員だからこそ、人一倍苦労を掛けてしまうかもしれない。でも、だから不幸だとは思わせません。たとえ苦労があったとしても幸せだと思ってもらえるように守り、愛します」

「苦労ねぇ……」


お母さんが苦笑した。直紀さんの宣言をあまり好意的には受け止めなかったことは、その表情から窺えた。堂々と「苦労させてしまうかもしれない」と言ったところに、ひっかかりを感じたのだろう。

「いや、いい。できもしない約束をするより、ずっと信頼できる」

お父さんもすぐにお母さんの反応に気づいた。

「だいたい、長く一緒に生活していれば多かれ少なかれ苦労はある。問題はそれを乗り越えていける絆があるかどうかだ。ななみは……」

「私、直紀さんと一緒になりたい。直紀さんとだったら乗り越えていける」

お父さんに聞かれる前に、私は胸を張った。

「直紀さんに守られるだけじゃなくて、私も直紀さんを守っていきたい」

お父さんとお母さんが揃ってきょとんとした顔をした。お父さんがほぅと大きく息をつく。その顔は幸せそうに緩んでいた。

「……甘ったれで寂しがりのななみが、そんなことを言うようになるなんてな」

「そんなふうに言われちゃ止められないわね。本当にいい出会いだったのね」

お母さんもゆっくりとうなずいた。

「ななみにはもったいないぐらいの話だわ。娘を、よろしくお願いします」

「俺のほうが 甘えている」●加藤直紀

その後、ななみとお母さんは一緒にキッチンに入っていった。

「せっかくだから、うちの料理を食べていって。味に慣れてもらわないとね」


お母さんが言う。

こういう立場で黙って食事を出されるのを待っているだけというのも心苦しくて、俺は一緒にキッチンに入ろうとした。

「あ、あの、何かお手伝いできることがあれば……」

「あらー、座ってていいのよ。でも手伝ってくれるのなら、そこに棚の上にあるお皿とってくれる?」

「わかりました」

皿は高いところにあったので、俺の背丈が役に立ちそうだった。が、その瞬間、

「あっ、直紀さん、危ないっ」


脇のテーブルにあった片栗粉に手がひっかかって、ひっくり返してしまった。

「うわぁぁっ!」


駆け寄ったななみと一緒に真っ白になる。

「すっ、すみません!」

「いいからいいから! 早くこれで拭きなさい!」

「おい、どうした……ぷっ、なんだ、その顔」

お父さんもやって来る。

結局、キッチンはドタバタになってしまった。だけどそのおかげで、俺はななみの家族とさっきまでよりもずっと打ち解けられた。


食事が終わると、ななみと一緒に俺の家に帰った。

「うわー、すごく緊張したぁ……」

着くとすぐカーテンを閉めて、スーツを脱ぐこともせずベッドに仰向けになる。

「え、緊張してたの? 直紀さんはこういうときもしっかりしていてすごいなぁと思ってたんだけど」

ななみが隣に座った。

寝転んだまま、その腰に手を回して抱き寄せる。

「そんなわけないだろ。大切な人のご両親に会うんだから、俺だって緊張するよ」

「そっか、がんばってくれたんだ。……うれしい」

ななみの顔がゆっくり降りてきて、唇を重ねてくれた。何回かセックスして、体も気持ちも慣れてきたのか、ななみはだいぶ積極的になった。自分のほうから求めてくれることもある。


「隣、来て」

手を引くと、隣に添い寝してくれた。

髪に顔をうずめて、耳を撫でる。今日は俺のほうが甘えている。ななみはそんな俺をいたわるように、ゆっくり頭を撫でてくれる。今まで意識して男らしいところばかり見せていたけれど、最近はこういう部分も出してしまうようになった。

途中、インターホンが鳴ったが居留守を使った。ユリだとしたら関わりたくないし、そうではなかったとしても応対する気分になれない。


シャワーを浴びてさっぱりすると、買っておいた結婚情報誌を開いた。ご両親への挨拶が済んだからには、次は結婚式の具体的なプランニングだ。どこでするのか、いくらかかるのか、誰を呼ぶのか……決めることはたくさんある。

「私、新婚旅行のホテルは、海の見えるリゾートホテルがいいな」

「海外?」

「うん、南の島とか」


ベッドに入って雑誌のページをめくりながら、ぼんやりとした希望を口にしあう。


今日はタイミングがなかったな、と思う。じつは婚約指輪をすでに買っていた。ご両親への挨拶が終わったら渡そうと思っていたけれど、何となくそんな雰囲気ではなくなってしまった。

ひととおり読み終わると、電気を消した。

「がんばってくれたから、今日は私がいっぱい気持ちよくしてあげる」

ななみが囁く。そのパジャマのボタンに、指をかけた。

「世界をひとつに できるかも」●西原ななみ

数日後、直紀さんから婚約指輪をもらった。


家に行くと、突然片膝立ちをされた。何が起こるのかと思っていると、直紀さんは後ろに隠していた指輪のケースを差し出した。

「ななみ、一生一緒にいてくれ」


少し冗談じみた声音ではあったけれど、それは照れ隠しなんだとすぐにわかった。目の奥は笑っていなかったから。

「ありがとう……」

受け取ると直紀さんは立ち上がり、私の左薬指に指輪をはめてくれた。

そんなふうにして、幸せな日々は過ぎていった。


だけど私は知らなかった。


こんなふうに幸せを噛みしめている間に、何が起こっていたのかを。


それからまた数日後、私はまたカミサマに会った。直紀さんの家の前で、私を待っていた。

「話したいことがある」という。


直紀さんはカミサマのことを知ってはいたけれど、見るのは初めてだったから、そのあまりの「普通の小学生っぽさ」にひそかに驚いたようだった。


カミサマの話は、ユリさんについてだった。


ユリさんは要さんに、直紀さんとのことを相談したという。要さんとは、直紀さんと付き合っているときに知り合ったそうだ。要さんは、どうせ信じないだろうと思って、パラレルワールドや入れ替わり事件、カミサマのことを話した。こうと決めたら揺らがない直紀さんから少し距離を置かせるために、わざと信じそうにないことを言ったらしい。


だけどユリさんは信じてしまった。信じて、何とかして私をもうひとつの世界に追いやってしまいたいと考えるようになった。どうやったら私に、世界をまたがせるようなショックを与えられるだろう。憎いというよりは邪魔なだけなので、無意味に傷つけたくはない。どうやったら……


そんなとき、ユリさんはカミサマに出会った。正確にいえば引き寄せたのだとカミサマは言う。もともとユリさんは何かを強く思う「念」の力が強く、それがパラレルワールドに関わることだったため、カミサマが引きつけられてしまったらしい。

ちょうどそのとき、世界を何とかひとつにまとめようとあれこれ試行錯誤し、気を張っていたカミサマは、ユリさんの強烈な念にあてられてパッタリ倒れてしまった。このときはまだカミサマをカミサマとは知らなかったユリさんにしてみれば、いきなり目の前で見知らぬ男の子が倒れたわけだが、そのままにしておくわけにはいかない。

急いで救急車を呼ぼうとしたが、男の子はほかの人の目には見えないようだった。


何が何だかわけがわからないまま、しかし放っておくわけにもいかず、ユリさんは男の子を部屋に連れていって介抱した。


目を覚ましたカミサマは、ユリさんの念の力の強さに改めて驚いた。この力の助けがあれば、世界をひとつにできるかもしれない。


カミサマは自分の正体や、ユリさんの念の力の強さが自分を引き寄せたことを話し、協力してほしいと頼んだ。


答えは、ノーだった。

「世界がどうなろうと関係ない。直紀とあの女が一緒になるのだったら、力を貸すのはイヤ」


それがユリさんの考えだった。


ユリさんはカミサマの手には負えなかった。そこでこっそり抜け出して、私に相談しに来たという。

「このまま世界がひとつになれば、記憶や人間関係に多少混乱は生じるものの、ななみは二人とも生き延びることができるだろう。だが分かれたままでは、前にも話した通り、いずれどちらかの世界ごと消えてしまう可能性が高い。それは私にとっても避けたいことなんだ」

つまりカミサマは、私に直紀さんをあきらめ、直紀さんにユリさんと一緒になるように説得しに来たのだ。そうするしか、ユリさんの心を動かす方法はないだろうと。

「冗談じゃないわ!」


私は思わず叫んでしまった。


⇒【NEXT】「信じて、待ってるから」(パラレル・ラブ ストーリーA 〜直紀編〜 シーズン10)

あらすじ

無事直紀の両親への挨拶を済ませたななみ。
ホッとするのもつかの間、次は直樹がななみの両親に挨拶が待っている。

松本梓沙
松本梓沙
女性向け官能、フェティシズム、BLなどを題材に小説、シ…
poto
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毎日小説「夜ドラ」の挿絵も担当。書籍、ウェブ、モバイル…
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