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官能小説 パラレル・ラブ ストーリーA 〜直紀編〜 シーズン11
「やっぱり恋人同士 だったんだよな」●西原ななみ
数日経っても、直紀さんの記憶は戻らなかった。
私は婚約していたことや出会いの経緯、二人で行った場所やしたことなどについて詳しく説明した。何かひとつ思い出せば、その拍子にほかの記憶も掘り出されるかもしれない。
でも、それはなかった。
直紀さんは私のことをすっかり忘れてしまったとはいっても、「他人として」優しかった。私の話をきちんと聞いて、咀嚼しようとしてくれた。だけど……
「ちょっと待って……頭が痛くなって……」
しばらくすると、直紀さんは苦しそうなそぶりを見せ始めた。何度か話したが、そのたびに頭痛は起こった。
「もしかしたら頭に負担がかかるのかもしれないな。少し時間を空けたほうがいい」
一緒にいた要さんがアドバイスしてくれた。
幸いなことに私についての記憶を失ったのは直紀さんだけで、ほかの人たちはこれまでと変わらなかった。要さんや直紀さんのご両親、そしてユリさんも協力してくれたが、結果は同じだった。
私が急に双子になったことは、パラレルワールドやカミサマのことを知る人たちは、「考えてみればそうだった」という感覚なのだと言った。何も知らない人たちに対しては、私たちはあえて何も話さず、もとから双子のように振る舞った。仕事も二人で同じ会社に通っていたことになっていたので、問題なかった。
要さんと話し合い、直紀さんと少し距離を置くことにした。つらくはあったが、直紀さんの体調が第一だ。
「なんでだろうな……あんたが要やほかの男と話していると、なんか、落ち着かない気分になる。あんたの香りも懐かしい気がするし……やっぱり恋人同士だったんだよな」
別れ際に、直紀さんは申し訳なさそうにうつむいた。
「ごめん、がんばって思い出すから」
「いいの、気にしないでゆっくり休んで」
私は無理して笑ってみせた。
「私自身が 前に進むために」●木崎ユリ
正直なことをいえば、チャンスだと思った。
好きな男を自分よりずっとイケてない女に取られた。……と思ったらその彼が、その女のことを忘れてしまったなんて。どん底に落ちたと思ったら、あっけにとられるぐらいの好機がやってきたわけだ。
直紀は西原ななみのことが好きなだけで、私のことを嫌っているわけではない。だからこれまでに学んだことをもとにアプローチをかければ、今度こそ振り向いてもらえるかもしれない。
(って、昔の私なら考えたでしょうね)
私は部屋でひとり、直紀の家の窓を見ながら苦笑した。先日の一件があってから、直紀の部屋を監視する双眼鏡は捨ててしまった。もう私には必要ないと思ったからだ。
(私は、これを乗り越えなければきっと変われない)
悔しいけれど、西原ななみからは学ぶことがたくさんあった。今ここで裏切ったら、それが全部なかったことになってしまう気がした。
だから私は、西原ななみに協力することにした。彼女のためにじゃない。ほかならぬ私自身が前に進むために。
西原ななみが直紀と距離を置いたと知った数日後、私は近くのカフェに直紀を呼び出した。
直紀は私のことも、私が元彼女だということも覚えていたから、何があるのかと警戒している様子だった。
だから私は最初に、二人に協力したいのだと目的を話した。直紀はぽかんとする。
「ちょっと、そんな顔しないでよ」
なんだか私が、すごい悪役だったみたいじゃない。
私は直紀を、もう一度西原ななみと会わせようと考えていた。
「ねぇ、大切な人を忘れちゃうってどういうことよ?」
「俺だって、何が何なのか……」
「あんなにあんたのことを愛して、受け入れて、それで支えてくれる人なのに、馬鹿じゃないの!?」
話しているうちに、私は興奮してきた。私を睨み返した西原ななみと、土下座した直紀の姿が脳裏によみがえる。
私にあんな思いをさせておいて、こんな別れ方をしたら許さない。
「直紀、私に土下座してまであの女に協力することお願いしたのよ!? なのに覚えてないってどういうこと?」
声がどんどん高く、大きくなっていくのが自分でわかる。カフェのほかの客たちがこちらを見ているが、もう止められない。
「頭に負担がかかる? だから何? もっとしっかりしてよ!」
「わ、わかった。会うよ。すぐに連絡する」
私の剣幕に押されるような形で、直紀は西原ななみと会うことを約束した。
「何もしなかったら 何も変わらない」●西原ななみ
直紀さんからデートに誘われた。
記憶が戻ったのかと思ったけれど、そういうわけではなかった。
「何もしなかったら、いつまで経っても何も変わらないからさ。……ユリに怒られたよ」
直紀さんは少し恥ずかしそうに打ち明けてくれた。
「ユリさんが……」
今の状況は、ユリさんにとってはチャンスのはずだ。なのに私のために行動してくれたことがうれしかった。思いきって全身で向かい合って、よかった。
私たちはこれまでの時間を巡るドライブをした。向かった先は、初めてのデートで行った水族館や、直紀さんが入院した病院の周辺、要さんの大学がある街、スペイン料理の隠れ家レストランなどだ。
「直紀さん、私が寒がっていたら上着をかけてくれて」
「あの屋上に一緒に話したんだよ。直紀さんの車椅子を私が押したの」
「そこのベンチで、直紀さんは私と結婚したいって言ってくれて……」
私は行った先々で、思い出話をした。あまり負担がかからないよう、直紀さんの様子を確認しながら話すテンポや内容を選ぶ。
気づいてみれば私たちは二人でいろんなところに行ったり、いろんなことをしたりしていて、ドライブは何日かにまたがった。
直紀さんは思い出すことはなかったが、頭痛に襲われるのは少なくなってきたようだった。
「知ってる感じはあるんだ。どこかで見た、聞いた、感じたというような……でもなかなかはっきり思い出せなくて」
直紀さんは、頭痛とは関係なく苦しそうだった。私に罪悪感を抱いてくれているのだろう。
ある日の別れ際、直紀さんは申し訳なさそうに言った。
「なるべく早く……思い出すようにするから」
「うぅん、いいの」
強がりではなく、ごく自然にそんな言葉が口をついた。
今までの経験や今回の事件、そして数日のドライブを通して、私はひとつの結論を出していた。
「直紀さんが私を忘れても、私は直紀さんが好き。私はどんな直紀さんでも、好きでいつづけます。今まで一緒に過ごしてきた時間を思い出してもらえなくても、必ずあなたをもう一度振り向かせてみせる。そして、今までよりももっともっとたくさんの思い出をあなたとつくりたい」
「ななみ……さん……」
直紀さんの瞳の奥が揺らぐ。
その瞳に映った自分自身を見て、自分でも気づかないうちに私はずいぶん遠くまできたのかもしれないなと思った。
「何も手に つかなかった」●加藤直紀
俺はなかなかななみさんのことを思い出せなかった。
あんなに親身になってくれているのだから、何とか思い出したい。何より、話を聞けば婚約までした仲だというじゃないか。そんな大事な人のことを、まったく思い出せないなんて……。
両親にも要にも呆れられたり怒られたりした。ユリにはすごい剣幕で説教された。あのユリが……と驚いたが、あのユリがそうしてしまったぐらい、俺たちの間にあった絆はきっと強かったのだろう。
だけど、まったく希望がないわけでもない。単なる慣れという可能性もあるが、日を追うごとにななみさんに対する懐かしさのようなものが強くなってくるし、気がつけば彼女のことを探してしまっている。要や、高見さんという人など、男性と話していると妙に気持ちが落ち着かなかったりもする。
(あぁ、いやな感覚だなぁ……早く何とかしたい)
といっても具体的な策はない。頭痛もおさまってきたのだし、ななみさんとなるべく頻繁に会って、様子を見ていくしかないのだろう。
そんなある日のことだ。
引っ越し作業に行った家に、小学生ぐらいの女の子がいた。
母親と一緒に邪魔にならないところに立っていた女の子は、引っ越し作業を見ているうちに泣き出してしまった。
もう何度も同じように泣いたことがあるのか、母親はなぐさめるというよりも「しょうがないって何度も言ってるでしょう」とあきれている。
俺は足を止めた。
親がそうしているなら、しゃしゃり出るのは余計なお世話なのかもしれない。でも、その女の子に何か、何でもいいから、ひとこと励ましの言葉をかけたかった。
「転校して友達と離れるのが寂しいのかな?」
尋ねると、女の子は泣きじゃくったままうなずいた。
「大丈夫だよ。その子たちと二度と会えなくなるわけじゃない。それに新しい世界だって、飛びこんでいけばきっと楽しいことがいっぱいあるよ」
頭を撫でると、女の子は泣きながらうなずいた。言っていることがすべて理解できたわけではなかっただろう。でも、慰めてもらったこと自体がうれしかったのか、その顔にはかすかに笑顔が浮かんだ。
「ありがと……」
彼女は小さな、しかし芯のある声で言った。
「がんばって。この経験が、きっと君を素敵な女性にしてくれるから」
もう一度頭を撫でる。
そう、俺はこういう経験を経て、素敵な女性になった人を知っているんだ。
一瞬めまいがした。
……その人は、誰だ?
……その人は……
婚活パーティを抜け出して入った喫茶店で、「あの人」は話してくれた。
――私、小さい頃、親の仕事の都合で引っ越しばかりしていたんです。
――だから『力持ちには優しい人が多い』って、今でも思ってます。
そうだ、俺はあのときに、「あの人」に興味を持ったんだ。
ななみさん……西原、ななみに。
仕事が終わると、俺はすぐにななみに電話した。留守番電話だったので、すぐに会いたいと用件だけ入れた。よかったら、俺の家に来てくれないかと。
ななみは少し残業があったようで、俺は一時間ばかり待つことになった。
待っている間はいても立っていられなくて、何も手につかなかった。
しばらくすると、チャイムが鳴った。
玄関を開ける。
立っていたななみを抱きしめた。挨拶なんてできなかった。
「全部、思い出したんだ」
「心から 愛している」●西原ななみ
何が起こったのか、すぐにはわからなかった。
一瞬、息ができなくなった。
直紀さんにいきなり抱きしめられたのだと理解したのは、それからほんの少し経った後だ。
「ごめん、待たせて」
直紀さんは私を抱きしめたまま囁いた。
「ずっと姿を探してしまった理由がわかった。ななみのこと……心から愛している」
声が震えている。
直紀さんは抱きしめる腕をゆるめ、私を覗きこんだ。その目がわずかに潤んでいる。

「直紀さん……」
私は手を伸ばし、その頬をそっと包んだ。もう離したくない、離れたくない、そんな思いを込めて。
「私も、直紀さんのことを心から愛しています」
玄関に立ったままで、私たちは熱いキスを交わした。
その夜のセックスは、今までの中でもとくに激しかった。
「直紀さん……私、もう……」
「だめだよ。まだ……ななみがほしい」
一度果てても、直紀さんはすぐに私を求めてきた。
体中を優しく舐めまわし、とくに乳首やクリトリスといった性感帯を丁寧に攻めて、何度も私の情欲を回復させる。私だって何度か絶頂を迎えたのに、直紀さんの指や唇で触れられるたび、濡れた。
挿入した後は、Gスポットやポルチオを執拗に刺激された。直紀さんは私の体のこともすっかり思い出している。
「直紀さん、イっちゃう……っ、そこ、そんなに突かれたら……」
「いいよ、イって。ななみがイクところ、見たい。一緒にイこう」
直紀さんの逞しい体を抱きしめて、私は昇りつめた。
それから数週間後――。
私たちは結婚式の予定を組んでいた。といっても、まだはっきりしたことは何も決まっていない。結婚情報誌を広げて、あれがいい、これがいい、ああでもない、こうでもないと、まだ無責任でいい意見をあれこれ交わしている段階だ。
「やっぱり高原の教会とか?」
「会社の人、呼ばなくていいの? 次期役員なのに……」
「それはそれであとで報告すれば大丈夫だよ。ななみはそんなこと気にしなくていいんだ」
「でも結婚するからには気にしなくちゃ」
それにしても、探せば探すほど、どれもこれも魅力的に見えてくる。
私たちは……
あらすじ
カミサマの力で、ななみは2人になり双子として生きることになった。
だが直紀は世界ひとつになった衝撃で記憶喪失に…!