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官能小説 パラレル・ラブ ストーリーA 〜直紀編〜 ラストシーズン
「今となっては 寂しい気もした」●西原ななみ
話しあった末、私たちは気の置けない友人だけを集めたこじんまりした式を挙げることにした。会場は、緑豊かな郊外の小さなダイニングカフェだ。結婚式も挙げられるようになっているところで、チャペルや新郎新婦用の控室も併設されている。都心からのアクセスも悪くない。
「本当に会社の人は招待しなくて大丈夫?」
「いいんだよ。たしかに礼儀としては呼んだほうがいいんだろうけど、会社行事みたいにしたら、来たくない人にまで無理させそうだしさ。それに俺が先例をつくったら、下の人たちもこれからやりにくくなるだろ。ななみのことは本部に戻るタイミングで紹介を考えているから、そのときによろしく頼むよ」
そういわれると確かにその通りだと思ったし、安心もした。
もうひとつ、大事なことを決めた。
結婚式は双子になったもうひとりの私「なみ」と一緒に挙げる。ダブル結婚式だ。
いろんなことが落ち着いて、二人で改めてゆっくり話したときに、「結婚式は二人で一緒がいいね」という話になったのだ。直紀さんや洋輔さんも、私たちがそうしたいのならそれでかまわないと言ってくれた。会場も、ダブル結婚式ができるところを条件に決めた。
さらにもうひとつ、ずっと気にしていたことを直紀さんに相談した。
私の仕事のことだ。今はIT関連会社で経理の仕事をしているけれど、副社長夫人になるからには家庭に入って夫を支えることに専念したほうがいいのではないか。
「ななみの好きなようにしてほしい」
というのが直紀さんの答えだった。
「ななみが今の仕事が好きなら、続けてほしい。そりゃあ妊娠や出産のときは一時的に休まなくちゃいけなくなるだろうけど、家事のことだったら今は家事の代行サービスだってある。俺のためにやりたいことを我慢してほしくない」
やりたいこと、か。確かに今の仕事は好きだけれど、この先もずっと続けていく仕事ではないと思っている。であれば、このタイミングで辞めるのがいいのかもしれない。直紀さんを家庭で支えるというのも、間違いなく「やりたいこと」なのだから。
「でも、俺の希望を言っていいのなら……」
直紀さんの答えには、続きがあった。
「うちの会社に入って、俺の手助けをしてほしいんだ。これから現場を見ながら経営を進めていくにあたって、ななみに意見を出してほしいと思ってる」
思いも寄らない申し出だった。引っ越し業界のことも、会社の経営のことも何も知らないど素人の私が、あくまでも補佐とはいえ、そんな大それた……。
「俺がいろいろ教えるから」とのことだったけれど、「数日考えさせて」と返事をした。
数日後、申し出を受けることに決めた。
期待されているのなら、それに応えたい。
仕事帰り、大きな本屋で、引っ越し業界や会社経営についての本をたくさん買ってきた。簡単なことではないとわかっている。でも、私はまだ何もしていない。まずは努力をしてみようと思った。
結婚式の日程が決まり、心配していたこともクリアになって、あとは式の準備を進めるだけになった。独身生活の残りの日々がカウントダウンされていくのは、何だか不思議な気分だ。
少し前まではこうなることを待ち望んでいたのに、今となっては寂しい気もした。
「これからもっと 幸せになろう」●加藤直紀
結婚式が決まってから、招待状の準備や会場の下見などで、日々はあっという間に過ぎていった。
そして、当日。
俺と「なな」、洋輔さんと「なみ」の四人は、その日の朝、会場のダイニングカフェに到着した。
いつもは花嫁と花婿がそれぞれ使う二部屋の控室は、準備時間の長い花嫁二人が優先的に使うことになり、男性陣の準備にはスタッフ用の控室が用意された。専用の結婚式場ではないので、変則的な対応となったのは仕方のないことだ。
洋輔さんと二人で話すと、まだ少し緊張してしまう。洋輔さんの動作もどこかぎこちないから、きっと同じように感じているのだろう。それでも、結婚式が終わったら今度はダブル新婚旅行に行くことになっている。そのときにきっと、打ち解けあえるだろう。
自分の準備が終わると、ななみの控室に行った。
ノックをすると、メイクさんの「どうぞ」という声が返ってきたので、ドアを開ける。
「今、ちょうど終わったところだったんですよ」
と言いながらメイクさんがやってきて、入口にかかっていたカーテンを開けてくれた。
窓辺に、ウェディングドレスを着たななみが立っていた。
きれい、だった。
思わず足が止まってしまったぐらいに。
「外に出ていますから、何かあったら呼んで下さいね」
気を利かせたのか、メイクさんが出ていく。
俺は部屋の中ほどまで進み、じっとななみを見つめた。
「似合わない……かな」
ななみが顔を赤くしてはにかんだ。
「あっ、違……そういうことじゃなくて……俺、見惚れてしまって……」
あぁ、まずい。変な心配をさせてしまった。
近づいて、ななみを抱きしめた。
「こんなにきれいなななみを誰にも見せたくない。俺が独り占めしたいぐらい」
耳元で囁く。やばい、俺、やっぱりどうかしている。いきなり本音が出てしまった。少し落ち着かないと。
ななみから少し離れ、気づかれないように深く息を吸う。
それから改めて、言った。
「俺はななみを必ず幸せにする。結婚できてうれしい。愛してる」
「私も……」
ななみが背伸びして、俺の頬にキスをしようとする。俺はすかさず、自分からななみの唇にキスをした。
二人でくすくす笑う。
「俺、ななみのことをずっと守りぬくから」
「私も直紀さんを守る。守られるだけはいやです。家庭でも、会社でも」
ななみは視線も、声も、力強かった。
最初に会ったときはもっとふわふわした女の子だったのに、今はまぶしいぐらいに凛としている。俺とつきあって変わってくれたならこんなにうれしいことはないし、俺だって置いていかれるわけにはいかないと気合いが入る。
「本当にいろいろあったな……」
つい、しみじみとしてしまった。いいことばかりじゃなかった。つらいことだって多かった。でもそれを乗り越えてきた先に、こんなに幸せな時間があった。素直に誇らしく感じられる。
「いろいろあったけど、これからもっと幸せになろう。ケンカもするだろうけど、この先、どんなことがあっても二人で支え合っていこう。俺はもう絶対にななみのことを離さない」
「私も。直紀さんを絶対に離さないわ」
もう一度キスをする。唇を離すと、ななみは泣いていた。
まったく泣き虫だなぁ……って、あれ? うわ、ちょっ……しまった、俺も涙が出てきてしまった。
しかも、ななみよりもずっとたくさん。
「ん、く……っ、ななみを……離さないから……っ。どこに行っても必ず見つける……からっ!」
男泣きする俺に、ななみは笑ってハンカチを差し出してくれる。俺ってこんなに感傷的だったのか。今さらながら知る自分の一面だった。
たまらなくなって、またななみを抱きしめた。
そのとき、トントンと軽やかなノックの音がした。「そろそろ時間ですよ」と先ほどのメイクさんの声がする。
慌ててハンカチで涙を拭ききった。
「行こう」
ななみの手を取る。ななみも握り返してきた。
「おじいちゃん、おばあちゃんになっても、こうやって手をつないで歩こうな」
「四人で 乗り越えていこう」●西原ななみ
直紀さんと控室を出て建物の出口に向かうと、もうひとりの私「なみ」と洋輔さんが待っていた。
なみは私とお揃いのウェディングドレスを着ている。自分もこんなふうに見えているのかと思うと、少し不思議な気がする。
「きれいよ」
「うん、ななも」
私たちは思わず抱き合った。お互いのドレス姿を見ると、ここまで来た中で重ねてきたいろんな思い出がよみがってきて、たまらなかった。
「幸せに、なろうね」
「うん。これからは四人でどんな困難も乗り越えていこう」
さっきも泣いたのに、また涙が出てきてしまう。
そんな私たちを、直紀さんと洋輔さんは優しい目で見守ってくれていた。
カフェに併設されたチャペルでは、一組ずつ順番に誓いの儀式を行った。
まずは私と直紀さんが先に入って、牧師さんに聖書を読んでもらい、誓いの言葉を述べ、指輪を交換し、そしてキスをした。

次になみと洋輔さんが入ってきて、横で待つ私たちの隣で同じことをする。
お父さんはバージンロードで私となみの手を順番に引いてくれた。「二回も出るなんて、悪目立ちして困るなぁ」なんて言っていたけれど、世界がふたつに分かれたりしなかったら一度で済んでいたのだと思うと、変な気分だった。
キスは、うれしかったしドキドキもしたけれど、それ以上に緊張した。きっと後になって少し落ち着いたときに、じわじわとこみあげてくるものがあるのだろう。
チャペルの外に出ると、待っていてくれた参列者にブーケトスをした。私はもちろん、ユリさんに向かって投げた。私が投げたブーケを、ユリさんは苦笑しながら軽々と受け取った。
ユリさんの隣には高見さんがいた。今回のことで、二人はよく話すようになったみたいだ。ほかにこんなことを信じてくれる人もいないだろうし、一緒にいて安心するのかもしれない。食事のテーブルも同じにしたけれど、喜んでくれたらいいな。
なみのブーケは、私たちの共通の知り合いである会社の後輩の女の子が受け取った。
食事の会場は、広い庭に設営されていた。よく晴れていた日で、澄んだ空とそよ風が気持ちよかった。
司会の音頭でみんなで乾杯をすると、友人たちのテーブルにそれぞれ挨拶に行くことになっていた。
それぞれとはいっても、最初に行こうと決めていたテーブルは共通同じところだった。高見さんとユリさんがいる席だ。
だけどなぜか二人の姿は見えなかった。用意された料理にもまだ手がつけられていない。
「どうしたんだろう」
気になったけれど、探しにいくわけにもいかない。先にほかの人たちに挨拶することにする。
私と直紀さんは親族席をまわったあと、秋野要さんの席に向かった。一緒の席にはシェフの高遠亮太さんもいる。プロポーズは高遠さんのレストランの庭だったと思い出す。
「おめでとう」
要さんは笑顔を浮かべて立ち上がり、直紀さんと私に握手を求めた。クールな印象の人だけれど、お酒が少し入っているせいもあるのか、今日はいつもより陽気に見える。
「プロポーズの言葉を引き出した立役者は俺だからな。いつまでも感謝しろよ!」
満面の笑みで、直紀さんの手のひらに軽いパンチを入れる。
「わかってますって。秋野センセー」
直紀さんもおどけた。
「人生でいちばん 大切なものだ」●西原ななみ
次に直紀さんが向かったテーブルにいたのは、直紀さんが入院したときに病室にいた男性二人だった。現場の同僚だと紹介してくれる。
病室で会ったとき同様に、二人は明るかった。
「病院ぶりですね、おめでとう!」
などと、私にも気さくに声をかけてくれた。
「あのときはうまくごまかされたけど、俺はずっとこうなると思っていたよ!」
直紀さんはさんざん茶化されたすえ、グラスシャンパンを一気飲みすることになった。お酒に弱い人ではないけれど、少し心配になる。
しかし私の心配なんてよそに、直紀さんはジュースみたいに飲み干してしまった。
「よし加藤、じゃ何か一言!」
グラスが空になったタイミングで、すかさず一人が声をかける。
「お前らも結婚したくなるような、最高の夫婦になることを誓います!」
直紀さんは大きな声でそう言うと、いきなり私を抱き上げた。
「ひ、ひぇぇぇっ!」
お姫様だっこの体勢だ。鍛えた体だから安定感はあるけれど、まわりの視線がいっせいに集まったので恥ずかしかった。
「よっ、副社長!」
「さすが、引っ越し屋!」
二人はほとんどヤジみたいな声をかける。祝ってくれるのはうれしいんだけど、お願い、もう少し、こう、小さな声で、あおらないように……。
「どこにも運ばねぇぞ!俺の人生でいちばん大切なものだからな!」
直紀さんも負けない大声で切り返す。
「お前、なにをさらっとうらやましいこと言ってるんだよ!」
二人はまたガハハと笑った。
直紀さんの腕に抱かれて、私は真っ赤になっていた、と思う。でも同時に、とても幸せだった。
お互いの両親の席にも挨拶に行って、いったん席に戻った。ユリさんたちはまだ戻っていない。
「どうしたんだろうね」
直紀さんとこっそり言葉を交わす。
そのとき、司会の声が響いた。
「さて皆さま、ここで新郎新婦四人にとって思い出深い方から、花束贈呈です!」
同じテーブルに並んで座っていたなみや洋輔さんたちとも目を合わせた。そんな予定、聞いていない。
いったい誰なんだろうと思っていると、カフェの建物のほうから誰かが出てきたようだった。
「幸せがいつまでも 続きますように」●西原ななみ
やってきた人を見て、私たちはあっけにとられた。
それは、高見さんとユリさんに連れられたカミサマだった。蝶ネクタイつきの子供用のスーツを着ているのが何ともほほえましい。手にはふたつの花束を抱えていた。
カミサマが私たちのテーブルの前に立ち、その後ろに高見さんとユリさんが控えた。
「皆さんの共通のお友達という、えぇと……神(ジン)くんです」
司会がカンニングぺーパーを確認しながら進める。
「それでは花束の贈呈です!」
カミサマは明らかに照れくさそうだった。でも、一度は消えたはずなのにどうして……。
「この二人は本当にさすがだよ」
花束を渡しながら、カミサマは高見さんとユリさんにさりげなく視線を流す。
「二人に念じられて、むりやり連れ戻されたんだ」
「むりやりって……」
カミサマには申し訳ないけれど、つい噴き出してしまう。カミサマまで引っぱってきてしまうなんて、二人はやはりスゴイ力の持ち主なのだろう。
「この式には僕がいなければダメだろうと言われて……まぁ、僕もその……まんざらではなかったから」
そう言われるとうれしかった。そういえば、こんなふうに照れたりするカミサマは初めて見た。人間みたいなところもあったんだ。いつまで覚えていられるのかわからないけれど、そういう一面を知ることができたのはうれしかった。
高見さんとユリさんがやってきた。二人とも晴れやかに笑っている。
ユリさんは「幸せにしてもらいなさいよ」と私に言い、「幸せにしなさいよ」と直紀さんに言った。その声に昔のようなとげとげしさはない。明るく透き通っている。
「ユリさんも……」
少し迷ったけれど、そう声をかけると、「大丈夫。私も幸せになるわ」とチラリと高見さんのほうを見た。あれ、これってひょっとして……?
「みんなで写真を撮ろうか」
高見さんがデジカメを取り出した。
「いつまでもこの日のことや、この日を迎えるまでに何があったのか忘れないように、ね」
「僕は写真には写らないんだ」
カミサマが少しすねたように言うと、「でもとにかく入って、ね」とユリさんが優しく彼の手を引いた。ユリさんはいいお母さんになるかもしれない。
ほかの人たちも呼んで、みんなでフレームの中におさまるように立った。
「はい、じゃあ撮りますよ〜」
司会がカメラマンになってくれる。
隣のなみをちらりと見た。目から涙が溢れだしそうになっている。
「だめよ、泣いちゃ」
「ななだって」
私たちは泣きながら、笑い合った。
「泣いてる顔だって、いい思い出だよ」
横から洋輔さんが声をかけてくる。
「あぁ、俺も何だか涙が出そう」
さっき控室で泣いて涙腺がゆるくなってしまったのか、直紀さんの目もうるんでいた。
「いいですか。じゃあいきますよ、1、2……」
この幸せがいつまでも続きますように。うぅん、続くようにがんばるんだ。私はここまで来られた。だから、これからも進んでいける。
もう一度直紀さんと目を合わせて、そしてカメラのほうを向いた。
END
あらすじ
直紀との結婚式はななみと、もう一人のななみとなった「なみ」とのダブル挙式。
式は順調に進み、最後にサプライズが…!