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官能小説 初めてのひみつ 2話
楽しい・つらい
美咲が席を立ち、しばらく経った。志保と綾は料理を食べ進める気にもなれない。代わりにアルコールの追加注文をして、ちびちびと飲み進めた。

「いきなりさ、単身赴任で会えないってキツいね」
ぽつりと綾は言った。
「あのさ……綾の元彼にそういう人いなかった?」
「うん、いたよ。私もそれまでは美咲みたいにラブラブだったけど……でも、いざ離れて会えなくなると不安で不安で……訳分かんなくなっちゃったの。それでケンカ別れ。つーことで、美咲にはそうなってほしくないよね」
「だよね」と志保がうなずくと、美咲が帰ってくるのが見えた。とぼとぼとした足どり、がっくりと落とした肩。
これはまさか恐れていたケンカ別れか。ふたりが思っていると、美咲は席に着くなり言った。
「『そうなんだ! 頑張って行ってきてね。寂しいけど、帰ってくるの待っているから』って言っちゃった……。本当は行ってほしくない。でも勉強のための単身赴任だって言うから、私が自分勝手な理由で止めるべきじゃない。だから笑顔で見送るしかないって思った」
美咲は小さく顔を上げる。雨が頬を伝い落ちた。
「だけど、すっごくつらい。悲しくて、悲しくて……また一年後に会えるのは分かっているけど、けど……!」
言い終えると、美咲は堰を切ったようにぼろぼろと涙をこぼした。美咲の衝撃は、聞いているだけでも志保と綾に伝わった。とりわけ綾は自身の過去と重ね、美咲を抱き寄せた。悲しみに沈んでいる美咲の心に寄り添おうとした。
「えらい! 送り出すときは笑顔が一番。美咲がしたことは正解だよ。よく耐えたね。帰ってきたら存分に彼氏に甘えればいいんだよ。むしろ、それまでに女を磨いて、彼氏をびっくりさせるくらいがいいよ。暇さえあれば、思いだしてつらい思いをするくらいならね」
「ありがとう……」
顔を上げた美咲は涙ぐみながら言った。
志保の問い
「ところで、美咲は楽しいセックスしてる?」
志保に問われ、美咲は慌ててそちらを振り向いた。
「え? ん、んー……してるけどー……」
「……けど?」
「……あまり……分かんない……」
目をぱちくりとさせたのは志保だけでなく、綾もそうであった。
「彼氏と仲いいじゃん」と綾が言うと「……やっぱりおかしいかな、私」と美咲は溜息をついた。それは美咲も内心分かっていた。仲の良いカップルはセックスを楽しんでいるだろう、と。
「もしかして……ううん、とんでもないことをしちゃっているよね。いつも感じているフリをしているの。『感じなきゃ!』って思うんだけど、どうしても分からないの……。それが和樹くんを騙しているようでつらくて……」
それを聞いて、綾は腕を組んで悩んだ。
「たぶんだけど……いまの美咲は彼氏に壁を作ってない? 彼氏の期待や想像に答えようとしていそう。でもウソっていうか、演技っていうか……どうだろう? 私は完全に悪いことだとは思わないけどなぁ。美咲は美咲で、真面目に彼氏とのことについて悩んでいるわけだし?」
志保は、新しく頼んでいたビールをひとくち飲むと言った。
「つらいセックスは何も生まないよ。でもそれは誰のせいでもない。『ケンカよりセックスの数が多ければ幸せ』って言うのを聞いたことがあるし、カップルの本質って結局はセックスによるのかもね。それに、分からないなら分かるようになればいいだけじゃないの」
「……分かるように?」
思わぬ志保の言葉に、美咲は視線を向ける。にっこりとした志保はどこか楽しげであった
「感度は鍛えられる、ってこと」
あらすじ
『お疲れ会』で美咲の彼、和樹の単身赴任が判明。美咲の様子に志保と綾は料理を食べ進める気にもなれず…。