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官能小説 パラレル・ラブ ストーリーA 〜直紀編〜 シーズン7
「どこまででも 進んでいきたい」●西原ななみ
私は迷った。
迷ったけれど……最終的には、自分が求めるものに正直でいたいと思った。
もうひとつの世界のもう一人の私と入れ替わってしまうようなことがあって、私は少しずつ変化していた。考えすぎて足踏みばかりしていたら、またとんでもないことが起こって、直紀さんに会えなくなってしまうかもしれない。
(もしもそうなったとしても……やれるだけのことはやったんだって後悔しない道を選びたい)
私は、答えた。
「行きます」
直紀さんは私の顔をじっと見つめていたが、少し間を置いて、苦笑した。
「ごめん、急ぎすぎたかな」
「え?」
思いも寄らなかった反応に、次の句が継げなくなる。
「困ってるって顔に書いてあるよ」
思わず自分の顔に触れる。そんなことをしたって、何もわからないのに。
「俺、ななみがもうこの世界からいなくならないように、そばで守りたいんだ。でも、ただ守りたいだけじゃなくて……誰にも渡したくない。そう思ったら……焦っちゃって」
直紀さんの頭の中に、今、洋輔さんの姿が浮かび上がっていることは、いわれなくてもなんとなく感じ取れた。
「あー、俺、自分がこんなに独占欲が強いと思わなかったよ」
そう言って頭を抱える真似をする。照れているんだろう。
嬉しかった。私は直紀さんに、誰にも渡したくないと思われていて、それで直紀さんが焦るぐらい愛されているんだ。
「私、困ってません」
恥ずかしがらずに、本音でぶつかるんだ。後悔しないように。
「私、本当に直紀さんの家に行きたいんです。でも経験が少なくて……過去に一人としか付き合ったことがないし、どうしたらいいかわからなくなるかもしれない。それが怖いんです」
直紀さんは私の顔を覗きこむようにしながら聞いている。
「だから、困っているみたいに見えたとしたらそのせいで……」
「ななみの気持ち、よくわかった。ありがとう」
穏やかな呟きとともに、直紀さんの指が私の唇に触れた。
今度は短く軽い、バードキスをしてくれる。

「とにかくこれだけは約束するよ。ななみがいやがることは絶対にしない」
私を慈しんでくれているとわかる、優しい笑顔が浮かんだ。
この人とならどこまででも進んでいきたいと、思った。
「キスは 終わらなかった」●西原ななみ
スペイン料理のレストランを出て、直紀さんの家に向かった。直紀さんは運転のために、ワインはノンアルコールのものを飲んでいた。
到着してみると、次期副社長とは思えない質素な暮らしぶりの家だった。リビングは少し狭いけれど、そのぶん寝室が広い1LDK。3階で、眺めは決していいとはいえないけれど、窓自体は大きくて、日当たりがよさそうだ。
リビングには冬にはこたつとして使えるローテーブルに中型テレビ。大きな本棚は3分の2は本、3分の1は音楽のCDで埋まっている。
なんだかほっとするような家だった。直紀さんの人柄を、よく表しているような気がした。
ほっとするような家ではあったけれど、それで緊張がおさまるわけじゃない。私は気持ちを少しでも落ち着けたくて、本棚の本やCDを立ったまま上から順に眺めた。
「このネット配信のご時勢にCDなんておかしいかもしれないけど、気に入ったアーティストのCDはどうしても捨てられないんだ」
「わかります、気持ち」
実際、私にも捨てられないCDが何枚もある。
「あ、これ……」
私はある段で手を止めた。お気に入りの作曲家兼ピアニストのCDが数枚並んでいる。
「私も好きなんです、この人」
私が言うと、直紀さんは本当にうれしそうに笑った。
「本当に? 俺もデビューからずっと聞いてる。仕事終わりに聴くと音が体に染みこんで、疲れが溶けるような気分になるんだよね」
しばらく二人でそのアーティストのことを話しているうちに、気分が軽くなってきた。
「よかったらどれか流そうよ。コーヒー淹れるから、選んでおいて」
直紀さんはキッチンに向かい、お湯を沸かし始めた。
やがて、コーヒーのいい匂いが部屋中に広がった。
私が選んだCDを、直紀さんはプレイヤーにセットする。よく澄んだ水がさらさらと流れるようなピアノの音が、私たちを包んだ。
「あのさ……」
横に座った直紀さんが切り出す。
「さっきの店で話した通り、結婚のことはよく考えて答えを出してほしい。でも、それとは別に今、知りたいことがあって……ななみは俺のこと、どう思ってる? 素直な気持ちを教えてほしいんだ」
直紀さんは顔をわずかに染めていたけれど、言い淀んだり、ごまかしたりはしなかった。
「私は……」
少しだけ目を閉じて、いいたいことを頭の中で整理する。溢れるぐらいたくさんあるけれど、正しくきちんと届くように。
「もうひとつの世界で直紀さんと離れていた間に気づいたんです。直紀さんのことが……とても好きなんだって。だからもう離れたくない。この先も一緒にいたい」
次の瞬間、私は直紀さんの胸の中にいた。
直紀さんは私が言い終わるとほとんど同時に、私を抱きしめていた。
応えるように、私もその腰に手を回す。引き締まった筋肉の感触を、服ごしに感じた。
唇が近づいてきた。流れる水をさらに豊かにするような、優しい雨のようなキス。
私たちはじっくりと舌を絡めて、お互いを味わった。
「ん……っ」
唇から離れた後も、キスは終わらなかった。直紀さんのキスは、首へ、そして鎖骨へとだんだん下がっていく。
「自分でも自分が よくわからない」●西原ななみ
体がふわっと浮き上がった。私は直紀さんに、横抱きに抱え上げられていた。
「……っ!」
驚く私に笑みを投げかけながら、直紀さんはベッドへと進んでいく。
壊れやすいものを丁寧に扱うような手つきで、ベッドに横たわらせてくれた。
視界が少し暗くなる。直紀さんが真上から覗きこんできたからだ。
「……いやじゃない?」
変わらず笑ってはいるが、声から緊張が滲み出ている。
直紀さんも怖いんだ、とわかった。私と同じように。
「直紀さんとなら……」
私は答えた。二人で進むなら、きっと怖くない。
直紀さんがだんだん近づいてくる。私に覆いかぶさると、厚い筋肉が私の胸を柔らかく押し潰した。少しだけ苦しいけれど、それ以上に甘くとろけるような感覚が体じゅうに広がっていく。吐息が漏れてしまう。
もう一度、キス。舌を絡めながら、直紀さんは大きな手で私の体をゆっくり撫でた。体の曲線をそっと確かめるように、力を入れず、ゆるゆると。肩や胸、太腿と、春のそよ風みたいに直紀さんの手が通りすぎていく。そんな優しい手つきなのに、私の息はどんどん荒くなっていく。
舌がさらに深く入りこんできた。
「は……ふぅ……っ」
呼吸をするのも許してくれないぐらいの舌づかいに、そこからとろけていきそうになる。太腿に硬いものが当たっている硬いものを、熱く感じる。
手が胸に触れる。その手は、もう離れていかなかった。乳房を包みこむようにして、じっと止まっている。
指が、弾力の中にわずかに埋もれた。
「あ……っ」
うれしい反面、ブランクがありすぎてまだ少し怖い気持ちもあった。「進みたい」と「もう少し時間がほしい」がないまぜになって、自分でも自分がよくわからなくなる。
直紀さんが唇を離した。
「無理するなよ、絶対」
頭を撫でるような声音に、目をうっすらと開く。
「勇気を出してくれるのはうれしいけど、無理はしてほしくない。無理して前に進むんじゃなくて、その時、その時をもっと楽しみたいし、楽しんでほしい。ななみ、一緒に一歩一歩進もう」
直紀さんの手は、それ以上どこにもいかなかった。かわりに私の頬を包みこんだ。
覆いかぶさった姿勢から添い寝の体勢になる。私も体をそちらに向けると、そのまま抱きしめてくれた。
そうやって、どのぐらい時間が経っただろう。直紀さんの気遣いに、緊張がほぐれていく。服が皺になることも忘れて、うとうとし始めた。
意識が眠りの淵に落ちていきそうになったとき――
突然、直紀さんの家のチャイムが鳴った。
「二人の仲を壊さなければ」●木崎ユリ
幼いころから、ユリは直紀と結婚するんだよと言い聞かされて育ってきた。
今となってみれば親同士が友人だったゆえの冗談だとわかるけれど、子供時代は本気にしていた。私より7歳年上の直紀は、きっと最初から冗談だとわかっていたのだろう。親同士がそういうことを口にするたびに、苦笑いして、「信じなくてもいいんだよ」と耳打ちしてくれた。
私の親も、直紀の親と同様、会社の役員をしている。親たちは大学の先輩・後輩の間柄らしい。
直紀は年が離れているせいか、いつもお兄さんのように接してくれて、私はそんなふうに扱われるのが好きだった。もし本当に結婚することになっても、ずっとこんなふうに暮らしていきたいと思っていた。
私が高校生や短大生のころは、真面目すぎる直紀があまり格好よく見えなかったこともあった。夜遊びもしないし、車も外車じゃないし、オシャレなお店をたくさん知ってるわけでもないし、服装も流行には無頓着だ。女の子の扱いだってそんなにスマートじゃない。
だけど社会人になって自分もお父さんの会社で働くようになり、24歳を過ぎて結婚についてそれまでよりずっと真面目に考えるようになってから、そういう男性のほうが結婚には向いているんだってわかってきた。……車はやっぱり外車がいいけど。
それに直紀はなんといっても、次期会社役員、それも副社長だ。
私はお父さんよりも社会的地位が下の人との結婚は考えられない。贅沢がしたいわけじゃない……とは断言できないかな。本音をいえばそこそこの贅沢はしたいけど、それよりも、お父さんを見て育ってせいか権力を持つ人に憧れているという理由が大きい。これはもう、私のフェチといっていい。フェチだから、非難されたってなおせない。
私は耽々と直紀に近づく機会を窺った。そして直紀が彼女と別れたタイミングを見計らって告白した。直紀と彼女はけっこう長続きしていたので、2年も待ってしまった。もちろん奪ったり、別れるように画策したりというキタナイ手は使わなかった。直紀がそういうことを嫌っているのは知っていたから、もしもバレたらダメージが大きいだろう。
結局、私から3回告白して受け入れてもらった。けれど、直後に寝耳に水の大事件が起こった。なんと直紀が本部から現場に自分の意志で異動してしまったのだ。2年限定といっていたけれど、その2年も私には我慢できそうになかった。だって、そんなことをしているうちに、私はアラサーになってしまう。次期役員と27歳までに結婚する予定をこっそり立てていたのに。
本部に戻って、彼のいとこのように早くポストを継ぐための準備を進めてほしいとお願いしたけれど、直紀は聞く耳を持ってくれなかった。
私は考えた末、別れを告げることにした。といっても、本気で別れるつもりはない。別れを切り出すことで、私がどれだけ本気でいやがっているかわかってもらいたかった。たぶんここまですれば直紀は理解してくれる――それはもしかしたら、幼ななじみゆえの甘えかもしれなかった。
直紀は、私を引き止めようとしなかった。それどころか止める人がいなくなって、さらにいきいきと現場の仕事に打ち込み始めた。
(どうして私の気持ちをわかってくれないの……うぅん、わかっているのに何もしてくれないの?!)
傷ついた私は休職して、いつしか直紀のまわりでこっそり動向を確認するようになっていた。どうすれば直紀が私のところに戻ってきて、なおかつ現場を離れてくれるか、そのことばかり考えていた。きっと毎日観察していれば、手がかりが掴めるはずだ。
そんなことをしている間に、直紀のまわりをひとりの女がウロチョロしだした。お見舞いのときに初めて会ったその女は、私とはくらべものにならないぐらい華がなくて、年も上だった。
どうにかして二人の仲を壊さなければ……でもどうしたらいいんだろう。ただ邪魔をするだけじゃ、私が直紀に嫌われる。
そんなふうに悩んでいたある日だった。お父さんに頼んで本来の部屋とは別に借りていた、直紀の家の窓が見えるマンションから、夜、双眼鏡でそちらを観察していると、家の中に影がふたつ、あらわれた。
(あの女だ……!)
頭にかっと血が上る。迷っている場合じゃない。
手遅れになる前に、何とかしなきゃ。
私は急いでメイクをして、家を飛び出した。
「直紀さんのこと信じてるから」●西原ななみ
直紀さんはぱっと飛び起きて、共同玄関が映るモニターを確認しに行った。
その横顔がこわばっていく。
私のいるところからも、モニターの映像は見えた。そこには以前病院で会った、直紀さんの元彼女というかわいらしい女性が立っていた。
玄関はオートロックになっていて、入居者がそこにある自動ドアを開けるボタンを押さないと入れないから、彼女はそこから先には進めないでいる。
「今、大事なお客さんが来ているんだ。帰ってくれないか」
直紀さんがマイクに向かって告げると、
『帰らない』
彼女はフルートが鳴るようなきれいな声で、きっぱり答えた。
『家に入れて。じゃないと私、ここから動かない』
「……勝手にしろ」
直紀さんはモニターのスイッチを切った。
ベッドに戻ってきたけれど、「続き」をする雰囲気ではなくなってしまった。
「ごめん。どうして突然あいつが来たのかわからない。でも信じてくれ。あいつとは、もう何もない」
「大丈夫」
私は首を横に振った。
「直紀さんのこと、信じてるから」
本音をいえば不安だった。でもこういうときは、疑われるほうがずっとつらいはずだ。
しばらく重い空気が流れた。水のようなピアノの音も、濁ってしまったように感じる。
直紀さんが立ち上がり、もう一度モニターのスイッチを入れた。
「何やってんだ……」
彼女はまだそこに立っていた。どうやら本当に帰らないつもりらしい。
「あの……家に入れてあげたほうがいいんじゃ。何か困っていることがあるのかもしれないし」
私が言うと、直紀さんは驚いたように目を開いた。
「だけど、ななみ……」
「仕方がないです。集合玄関とはいえ、女の子を夜中にひとりで立たせておくのもよくないと思うし……」
もちろん、本当はいやだ。でも自分がもし何らかの理由があって彼女の立場になったらと考えると、やっぱり放っておけない。
「……悪いな」
直紀さんは目を伏せて、自動ドアを開くボタンを押した。
家に入ってきた彼女は、まず私に向かって自分は木崎ユリという名前で、直紀さんの婚約者だと話した。何か困っていることがあるのではと少し心配していた私は、たじろいだ。
「わけのわからないことを言うんじゃない。俺はお前と婚約なんかした覚えはない」
直紀さんは私のほうを気にしながら、強い口調で否定する。
「だってもう両親だって納得してるじゃない」
「あんなの、冗談だったに決まってるだろう」
直紀さんは私にユリさんと直紀さんの両親の関係を説明してくれた。
ユリさんは私をまじまじと見つめた。
「病院でも思ったけど、やっぱりあなた、地味ね。直紀と一緒に歩いていて、恥をかかせているんじゃない?」
「ユリ! いい加減にしろ!」
直紀さんがついに怒鳴った。
ユリさんもさすがに言いすぎたと思ったらしい。「……冗談だけどね」と言い訳のように小さく付け加える。
私はじっと黙って、できる限り毅然としていた。このペースに巻き込まれてはいけない。それにしても、まさか自分の人生にこんなことが起こるなんて。
ユリさんは何とか居座ろうとしていたけれど、何もないなら帰れと強くいわれて、追い出されるように家を出ていった。それでも私は何だか落ち着かなかった。何だかまだすぐそばにユリさんがいて、またインターホンを鳴らすような気がした。直紀さんもそわそわしている。
私たちは結局その日、何もしなかった。直紀さんは夜中すぎに私を家まで車で送ってくれた。
数日後、とんでもないことになった。
ユリさんが直紀さんの両親に私のことを伝えたらしい。そして、何をどう伝えたのかはわからないけれど、直紀さんのご両親は、私に会いたがっているらしかった。
「結婚も決まっていないのにこんなことになってしまって本当に申し訳ないんだけど……会ってくれないかな。ふたりとも根は気さくだから、気負うことはないよ」
「うん……」
私は直紀さんがそれで助かるならと受け入れた。
でも、気負わずといわれてもそれは無理だ。いつもの自分でいられるはずがなかった。
あらすじ
直紀さんを信じて進むななみ。
甘いひと時を過ごそうとする2人に思わぬ来訪者が…