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もう一つの愛のゆくえ(夏目かをる小説)【LCスタイル】

もう一つの愛のゆくえ(夏目かをる小説)

朝のティータイムの場所を変えてみようと、
私は実家近くのオーガニックカフェに入ってみた。
自由が丘駅前には洒落たカフェが多いが、路地の一角に以前から気になっていた小さなお店がある。
10人ぐらい座れるカウンターと、中央に大きな丸いテーブル席。

店内には心地良い女性ボーカルのボサノバが流れていて、
ハーブティ始め、コーヒーやジュースのドリンクがメインのオーガニックカフェには、
朝8時台ということもあって、人影はまばらだった。

官能小説;朝のオーガニックカフェのマグカップ
「いらっしゃいませ」

カウンターに座って“気分上々ブレンド”というハーブティを注文した。

ラベンダー、レモンバーム、スペアミント、レモンバーベア、
タイムというハーブがブレンドされ、
原産国はフランス、スペイン、ポルトガルだという。
レモンバームとタイムの香りが特に強く漂い、
昨夜遅くに就寝した頭を爽やかに刺激した。

「こちらもよかったらどうぞ」

と私と同じくらいの30代初めぐらいの女性が小さなプレートに
温かなパンをのせて差し出した。
「お砂糖を一切使っていない天然酵母で作ったオーガニックパンなんです。
これから発売の予定で、お客様にはいち早く試食していただいています」

胃の中にはお茶以外、何も入れたくなかったが、私はお礼を言ってプレートをもらった。
「ご挨拶が遅れましたが、私はこの店のオーナーの一人で、小池歩美です」

歩美さんはロングヘアをかき分け、水玉のミニのスカートにブーツを履いて
にこやかに話しかけてきた。なかなか男好きする女性だ。
さぞかしモテるだろう。

「いらっしゃいませ」

一人の中年男性が店に入ってくると、歩美さんの顔は花が咲いたように
ぱーっと明るくなった。

男性は中年といってもジーパンにTシャツに一目でわかるブランドもののジャケット、
そしてサングラスを上着のポケットにさりげなくお洒落に入れているのが、
いかにも業界の人っぽい。

髪をショートカットにして、白髪が目立たないように若作りをしているとこなど
いかにも不良中年といった感じ。私の恋人の稔と全く正反対のタイプだった。

稔は天然パーマでちょっと地味だけど優しい感じの風貌だ。
稔の穏やかな笑顔が働いている女性の心にビビビッとくるのは、
彼の優しさが笑顔ににじみ出ているからだと思っている。

ほどなく若くて華やかな女性たちが数人店内に入ってきた。

不良中年っぽい男性の連れのようで、テーブル席に座って、勝手に注文を始めた。
歩美さんは少し困惑した表情をすぐに隠して、オーダーをとった。

どうやら歩美さんは不良中年っぽい男を好きだが、
彼の周囲の女性が気に入らないのだろう。
でもお店をやっていると断れないのだろう。

私はまた稔のことを思った。

彼は飲食バーのチェーン店の店長になってから不眠が続いている。
昨夜の結婚話もどこへやら…
いつになったら稔と一緒に暮らせるのだろう。
店内が騒がしくなったので、私はそっと出て、会社へ向かった。

恋人の稔とは結婚話もおあずけ。でも幸せ!

私は映画のバイヤーで、今年で数年目になる。

会社は六本木で、昨夜は買い付けの洋画の公開オープニングセレモニーで気分が高まって、
思わず「行っちゃえ〜」と浜田山にある稔のマンションを訪ねてしまった。

稔は私よりも13歳年上の45歳。もちろん独身。

官能小説;色とりどりのビー玉

元カレで、今は本命カレ。

彼のことをとても愛している。稔は優しいから。
でも稔は「どうして婚約者と別れて僕のところへ戻ってきたの?」と
同じ質問を何度もする。
元婚約者と自分を比較しているからかもしれない。

「女の影がチラついていたから」

それは疑惑ではなく、元婚約者に複数の女性がいると
私は確信していた。
婚約者のマンションのトイレで、ペーパが三角に折られていたのを
発見したときに、 証拠を見つけたような気分に襲われた。
きっと婚約者が私と暮す前日に、 女が彼の部屋に泊まったのだ。
そうに違いない!

「響子はやきもち焼きだなあ〜」

と稔がにやにや笑うので、ムッとした私は
「稔だって私に男の影がチラチラしたら不愉快でしょう」
と言い返すけど、稔はすまして
「ぜんぜん。だって男ができても、響子はまた帰ってくるんでしょう」
と、ワインを美味しそうに飲む。憎たらしい。

さらに追い討ちをかけて
「僕と別れた理由って何だっけ」とすまして聞く。
「うるさいわね〜」
と私が稔の後ろから抱きついて目隠しをすると、「はは、ふざけるなよ」と嬉しそう。
よかった。私はほっと安堵した。

稔が不眠症から鬱になりそうな気配を感じていたので、
心配していたけど、ふざけている姿は微笑ましい。

友だちから
「元婚約者が映像の有名なディレクターだということも
稔さんのプレッシャーになっていたんじゃないの?」と言われて、
私の心はフクザツだったけど… 「それで僕と一度別れた理由は何?」

稔がまた聞くので、私は黙ってキスをして彼の口を塞ぐ。
パーティの酔いも手伝って、私は久しぶりに自分から彼をベッドに誘った。

恋人とのセックスは穏やかで最高…

彼とのセックスは穏やかだけど、時々ふいに情熱を感じることがある。
いつものように服をゆっくり脱がせてもらって、
彼のベッドへするりと入り込んでお互いに感じるところを愛撫しているうちに、

「ここ、感じる?」
と稔から聞かれるととても嬉しくなる。
耳たぶが感じやすいところだと気づいたのは、稔が発見してくれたからだ。

官能小説;女性の耳とうなじをみせた後姿
それからは稔のところにやってくるときは必ず、
イヤリングをはずすようにしている。
耳たぶを軽くかまれるたびに感じやすいようにするために。

いやいやをすると、稔は普段の優しさとは打って変わって、
私を歓ばせるために体位を変えてくれるけど、でも一番好きなのは正常位。

しっかり抱かれていると思うと、稔との距離が縮まっていくのがわかって、
心から嬉しくなる。

もう、どこにもいかない。
絶頂に近づいた頃に、私は彼の腕に強くしがみついた。

歩美さんの恋は、不安定な恋?

ケーキがおいしいお気に入りのカフェが内装工事のため臨時休業になったので、
私はオーガニックカフェへ頻繁に行くようになった。

官能小説;植物の写真
自然に歩美さんと話す機会が増え、歩美さんは私と同じ年齢ということもあって、
プライベートなことも打ち明けられるような関係になっていった。

ある夜、ふらりと入ると、夜は不在がちな歩美さんが少し疲れた顔をしながら
カウンターでお茶を飲んでいた。

「今夜はお客なの」と歩美さんはリキュール入りのハーブティーを見せた。
「リキュール入りも美味しいわよ」
と勧めるので、私もと注文すると、歩美さんはとても喜んだ。

「よかった。誰かアルコール入りを注文する人がいないかと期待していたの」
それはまるでお酒を呑む人を探していた、というような、妙に淋しげな言い方だった。

歩美さんお勧めのリキュール入りのハーブティから
ほわっとした温かさが伝わり、私が「素敵な味ですね」と褒めると
「嬉しいわ」と歩美さんがまたの淋しげに答えた。

彼女の淋しさの原因は何かしら?あの業界人っぽい中年男性?

聞きたくて言葉が咽喉元まで出掛かっているのを押さえて、
私は歩美さんの手元にあるブルーの容器に入っているサプリメントをとってみた。

それはムクナというミネラル系のハーブが入ったサプリ で、
稔にこれを見せたらどんな顔をするかなと想像していたら、
歩美さんが口を開いた。

「それ、好きな人のところにあったの」
「あ、二人で飲んでいるとか」
「二人、というのは私じゃないの。彼が今つきあっている女の子。
きっとその子からもらったんだと思うけど」

「好きな人?その男性は他の女性とつきあっているの?あなたと三角関係」
「いえ、私が彼のことを好きで、彼は私のことを彼女じゃないって」
「どういうこと?」

リキュール入りハーブティどころではなかった。
歩美さんの恋は、私がこれまでひたすら避けていたタイプの恋愛で、
相手は思った通り、あの業界人ぽい不良中年。

安らぎのコーヒー
名前は大村晋。
カメラマンで写真家業界ではちょっとした有名人だそうだ。

「彼女じゃない、と言われても好きなの」

浮気ばかり繰り返している彼を愛しているという一途な彼女の恋愛は、
不安定な恋愛の代名詞のようだった。

「私は歩美さんのような恋はできない。だって辛すぎるもの」

打ち明けられた彼女の恋愛は、
封印していた私の恋愛のウィークポイントを突くような内容で、
私は過去の狂おしい恋愛をどうしても思い出さずにはいられなかった。

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あらすじ

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