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官能小説 私のことが好きすぎるワンコな彼氏の甘い逆襲 3話


私のことが好きすぎるワンコな彼氏の甘い逆襲 3話

 ――――直央は今の私との行為に満足しているのだろうか。

 それは最初こそ小さな疑問の芽だったのだけれど、ここ数ヶ月で随分と大きく育ってしまっていた。何度か直央にそれとなく尋ねてみたものの『もちろんだよ』と笑顔で言われてしまえばそれ以上は聞けず、一人で悩んでずっと悩んできた。でも、それもそろそろ限界だ。

 部署での飲み会に参加していた私は、安い居酒屋の唐揚げをつつきながら、ちらりと隣の席の文乃を見遣る。

居酒屋の風景

「どうかした?」
「……文乃って、彼氏とマンネリになったことはある?」

「ちょっと!この前『心配しなくても大丈夫』とか言ってたのは誰よ」
「一応言い訳するなら、文乃が心配してたのは『ちゃんとシてるか』でしょ。そこは別に問題なくて……」

 思わず声を潜めてしまうのは、同じ飲み会に直央も参加しているからだ。声のするほうへ視線を向ければ、少し離れたテーブルで上司部下、先輩後輩問わずに囲まれている姿が目に映った。

 まくり上げたシャツの袖から筋の浮いた逞しい腕が覗いているのをぼんやりと眺めながら、私は言葉を続ける。

「前より終わった後の温度が低いというか、そういう感じなの。大事にされてるのは変わらないんだけど」
「へえ?」

「だからマンネリなのかも、と思って。でも直接聞いたら否定されるし……いい解消法とか知ってたら教えてくれない?」
「元がどういう感じなのかは知らないけど、新しいことを試すのはマンネリ解消にいいとは思うわよ。でも、それよりもっと簡単で手っ取り早い方法もあると思うんだけど」

 手元に残っていたサラダを全部かき集めながた文乃が、箸でお行儀悪く私を指した。突きつけられる先端に目を瞬けば、彼女は物分かりの悪い生徒を見るような目つきでこちらに視線を返してくる。

「要するに、もっとガツガツ来られたいってことじゃないの?自分にもっと夢中になってほしいとか」
「……なるほど」

 言われてみれば、そういうことなのかもしれない。漠然と『マンネリ』という単語で表現したけれど、私が心配しているのは彼の熱量の喪失だったり、目減りだったりで、それはきっと小手先のテクニックでどうこうできるものではないのだろう。

 流石は企画部イチの恋愛強者。相変わらず考察が鋭い。

「というわけで、それならとっておきの案があるのよ。今ならタイミングもちょうどいいし」
「タイミング?」

「大江君っているでしょ、あそこで飲んでる……最近異動してきた本郷君の同期。彼があんたを狙ってるって噂があって」
「それがどうかしたの?」

 直央の話をしていたはずなのに、どうして私に惚れている他の人の話になるんだ。

 上手く話が飲み込めずに困惑する私に対し、文乃は相変わらず先生のように続ける。

「つまりはこうよ。マンネリなら、嫉妬させてみればいいの」

 恋愛にスパイスは付き物なんだから。

 そう言って艶やかに、まさしく恋愛強者らしく微笑んだ彼女は、そのまま私に取るべき行動の手順まで細かく教えてくれた。

 恐らく文乃も、百パーセント本気で言っていたわけじゃないだろう。こんな恋愛相談、恐らく彼女の中では雑談の範疇で、ある程度は真剣に考えてくれていたとしても、その場のノリだとかアルコールの勢いだとか、そういうもののせいで『冷静に考えたらちょっとどうかな?』みたいな案を出すことだってあるはずだ。

 しかし、かなり本気で思い悩んでいたところにアルコールの力も加わったことで、私はそういう『暗黙の了解』を全てすっ飛ばして、それを実行に移してしまったのだ。

 いつも爽やかで仄暗いところなんて皆無の直央の、嫉妬する顔が見てみたいかも、なんて思いも手伝ったから。

 だけど、――――まさかこんなことになるなんて。

***

「ねえ、澄香さん。聞いてるの」
「き、聞いてるけど……」

「聞いてるなら答えられるよね。さっき、大江と何話してた?」

 がん、と鈍い音が足元で鳴る。太腿の間に直央の膝から下が勢いよく叩きつけられたのだと一拍遅れて気付き、心臓が小さく竦んだ。直央はゴミ箱に物を捨てるときでさえ投げたりしない、『所作の綺麗なおとこのこ』という印象だったから、ギャップが余計に私を驚かせて。

「なあ、やっぱり聞いてないだろ。あんた」
「ごめ、あの、聞いてはいるんだけど……」

「じゃあ何?」
「直央、どうしてそんなに怒ってる、の……?」

「……」

 私がそう尋ねた瞬間の空気ったらなかった。直央に連れ込まれたのは居酒屋の隅にある男女兼用のトイレで、狭苦しさも相まって彼の威圧感が膨れ上がるように感じる。

 文乃が立てた作戦は単純で、大江君の隣にわざわざ自分から座りに行って二人きりで話をするだけだ。多少身体を寄せたりはしたけれど何か特別なことをした記憶はない。だから私の質問は正当なもののはず、なんだけど。

 見上げた先で直央の顔がゆっくりと笑みの形を作る。しかし瞳にはいつまで経っても朗らかな感情は浮かんでこなくて、彼が苛立っているのがよく分かった。

「あは、……そういうこと聞いちゃうんだ」
「え、あ、直央……ちょ、待って」

 直央の膝がスカートを巻き込みながら上へとずれていく。硬い膝の骨が、私の足のあわいの柔い部分の食い込む感覚。反射的に彼の太腿を押さえてみたけれど、おとこのひとで、しかも体格のいい直央に敵うはずもなくて、――――ぐり、とショーツ越しに秘芯が潰されてしまった。

 瞬間、甘い電流のような快感が身体の中心を突き抜ける。

「ッ、ひぁ……!」
「あんた、ほんと俺のこと分かってないんだな」

 耳に吹き込まれるいつもの声音が、低く、どろりと重い執着を孕む。ぞくんと背筋が震えると同時に、腰骨の辺りを大きな両手に掴まれ、引き寄せられた。

「……逃げんなよ」
「あ、っ……」

 耳に甘く噛み付かれ、また秘所に膝の硬い部分が押し込まれる。柔い肉が潰される感覚に、そこからは微かに粘着質な水音が立った。そのまま何度か浅い場所を抉られると、徐々に淡い快感が蓄積していって、腰が震えてしまう。

 直央のこんな顔もこんな振る舞いも初めてで、何かを言わなければと思うのに、上手く言葉が出てこない。ただ瞳を見つめることしかできない私に、彼は首筋へと噛み痕まで残し始めた。

「ッ……!」
「ン、……大江にはにこにこ近付く癖に、彼氏の俺から逃げるなんてことしないよね?」

「ぅ、ぁ……っしな、いけど、でも、直央……変だよ」
「変?俺が?」

 ハ、と吐き捨てるように直央が笑う。そのどこか粗野で卑屈な印象の笑みも、初めて見るものだった。片側だけ持ち上げられた唇がキスの距離まで近付いてきて、なじるような言葉が零れ落ちていく。

「変なのは澄香さんだろ。俺以外の男になんて興味ないと思ってたのに……交流の薄い男の隣にわざわざ座って、肩が触れ合いそうな距離で喋ってさ。いつもはあんなことしないのに誰の入れ知恵?」
「え?」

「……それとも、俺よりあいつのほうがよくなった?」

 声音がさらに一段低くなって、一緒に彼の責めが苛烈さを増す。ぐりぐりと好いところを擦られ、ひときわ強く首筋を噛まれると、纏めようとしていた言葉が全て意識をすり抜けていってしまう。問いかけに答えることもできず、ただ彼の膝の上で揺さぶられるだけの存在に成り下がって。

「は、……そう。それならちゃんと、もう一度教えてあげないとな。今更逃がすかよ」
「ンっ、ぁ、ひぅ……っな、お、」

「あーあ、せっかく澄香さんの好みに合わせて『いい子』にしてたのに。……まあ、でも、仕方ないか。俺もそろそろ限界だと思ってたし」

 彼の口調が、語気が、どんどん崩れていく。それと同時に誤解が加速していっているような気がした。ここまでくれば私だって、先ほどの大江君とのやり取りが直央の地雷を踏んだのだということは分かる。とにかく一度落ち着いて話し合わなければ、――――そう思う一方で、彼に与えられる快感に思考が飲み込まれてしまう。

 奥から、どろりと熱の塊が垂れ落ちる感覚がした。

「もうここぐしゃぐしゃだよ、澄香さん。前から思ってたけど、あんた本当は『する』より『される』ほうが好きなんじゃない?」
「え、……ぁ、なに?」

「だから、……SじゃなくてMでしょって話だよ。そうじゃなきゃ俺にトイレなんかで苛められて、こんなに濡れたりしないだろ」

 ふ、と今度こそ愉しそうに笑った直央が、膝ではなく指先をスカートの奥に潜り込ませる。器用にクロッチ部分を端に寄せたその指先は、そのまま蕩けた秘所を引っ掻くように弄び始めて、――――

「ッ、ぁ、待っ……!直央、やだ……!」
「こーら、腰逃がすな。分からず屋の澄香さんには、ちゃんと教えてあげないといけないんだから……」

「待って、ほんとに……っい、っちゃ……」

 指の腹が、先ほどまで散々なぶられていた小さな芽の根本を擦り上げた。指紋の溝さえ感じとれてしまいそうなほどに敏感になったそれは、きゅっと摘ままれると堪らない性感を生み出し、私を果てへと押し上げようとする。

「イッちゃう?いいよ?俺にこんなところで怒られて苛められて、気持ちよくなっちゃってること……ちゃんと認めながらイッて」

 直央がそう囁いた瞬間、コップから水が溢れるように快感が規定量を上回る。

 溢れ出たそれが全身を貫いて、――――溺れるような感覚と共に、私は絶頂に飲み込まれた。

⇒【NEXT】「ずっと、そうしたいなと思ってたの……?」(私のことが好きすぎるワンコな彼氏の甘い逆襲 4話)

あらすじ

澄香は悩んでいた。
直央は自分とのセックスに満足しているのか。

飲み会で文乃に打ち明けてみると…。

皆原彼方
皆原彼方
フリーのシナリオライター・小説家(女性向け恋愛ゲーム/…
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