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官能小説 私のことが好きすぎるワンコな彼氏の甘い逆襲 最終話


私のことが好きすぎるワンコな彼氏の甘い逆襲 最終話

「じゃあ、今から俺の番、な」

 そう言って獰猛に微笑んだ直央が、私の太腿を割り開くようにして押し倒してきた。柔い部分に男の人らしい硬い指先が食い込む感覚に、余韻の中を揺蕩っていた身体が目を覚ます。

「ぁ、……」
「ほら澄香さん、切り替えて。……ここからは俺が気持ちよくしてあげるから」

 彼はそう言いながら手早く準備を整えると、ほころんだままの泉に昂ぶりを再び沈めてくる。まだじんじんと熱を孕む内壁が、先端の張り出した部分で余すところなく刺激される感覚に、私は汗ばむ背中をシーツに擦り付けて身悶えた。

「っう、んん……ッ!」

 たった数分ぶりに帰ってきただけなのに、どうしてこんなに大きく感じるのだろう。

 体位のせいかな、なんて考える暇もなく、直央は私の両手と指先同士を絡めると、最奥まで一気に隘路を割り開いた。たっぷりと潤んでいるはずのそこで、燃えるような摩擦熱が起こる。

 先ほど上に乗っていたときは避けていた『好いところ』を的確に抉ってくる辺り、やっぱり『する側』に回った直央は意地悪だ。

「っく、……ぁ、ふは、やっぱいいな、こっちの澄香さんも……」
「んんっ、ぅ……こっちのほうが、好き……?」

「だーかーら、どっちも好きって……もう、ばかだな、澄香さんって」

 仕方ないものでも見るように、慈愛のこもった視線が注がれる。朗らかだった笑い声が、どこか甘さを帯びていく。

「まあ、……ッそう、いう、とこが……かわいいんだけど……、っ!」
「っえ、ぁ、ああっ……!」

 がつんと深く、深く、楔が打ち込まれる。

 そのまま始まったピストンは、私を優しく絡め取り、追い詰めてくるものだった。とん、とん、と快感を掘り返すように奥を甲斐甲斐しく穿たれ、そのたびに直央のものを締め付けてしまう。甘ったるい悲鳴がぽろぽろと零れ落ちていくのを感じながら、私は彼の首に腕を回してしがみ付いた。

 ふ、と笑みを含んだ吐息が耳朶をくすぐって、それだけの刺激でまた私の身体は温度を上げてしまう。

「ッは、かわいい……ほんと、かわいーな、澄香さん……」
「ぁ、ッんん、は、……直央、っも、っと……」

「ん?もっと?もっと欲しいの……?ッ、いいよ、キスも、気持ちよさも、何でもあげる……、っ」

 そう言うなり、直央が私の下唇に柔く噛み付いた。開いた歯列の間から熱い舌が潜り込んで来て、律動に合わせてゆったりと咥内を掻き回してくる。優しいけれど、今までの控えめなものとは決定的に違うキス。飲み込み切れないほどの愛情を注がれ、心と身体が悦楽の中に沈んでいくのが分かった。

「っ、うう、ン……!」

 じゅう、と舌を吸われ、またくらくらと酩酊感に襲われる。直央が微かに笑う気配がして、絡められていた指先に力がこもった。それに素直に反応してしまった身体に、頭上から熱く湿った囁きが落ちる。

「ッ、……は、っまた、締まった、……動きづらいからもうちょい、緩められる……?」
「ぁあっ、ぅ、むり……っ」

「むりかー……はは、無理なの?きもちくて締めちゃうの……?はあ、ほんとかっわいい……」

 とろとろ、どろどろ。直央の声が甘く甘く煮詰められて、濃厚な蜂蜜のように重く滴る。その甘露は私の身体の中心へと流し込まれ、心臓を蕩かせてしまう。

 ――――こんなにあまあまで、この人一体全体私をどうしちゃうつもりなんだろう。

「じゃあこのまま突いていい?たぶんめちゃくちゃ擦れて、澄香さんおかしくなっちゃう気がするけど」
「え、あ……んんッ!」

「っぐ、……!」

 一瞬、火傷しそうな熱がお腹の底を焼いた。眼前に星が散って、遅れて直央がひときわ強く腰を打ち付けてきたのだと理解する。最奥の壁が持ち上げられ、ほんの少しの苦しさと望外の快感を覚えたところで、彼の手がお腹に添えられた。そのまま体重をかけられると、中のものの形がより一層はっきりと分かってしまって。

「ッ…〜〜〜!」
「ハ、……すご、澄香さんのここ、俺の形になっちゃいそ……」

「ぁ、ッあ、ぅ、なお……っ」
「ん……好きだよ、澄香さん……」

 また降ってきた唇が、吐息ごと私の嬌声を飲み込んでいく。私の快感が第一に考えられたピストンが徐々に重さを増して、それに合わせてとんとんと腹部を軽く押し込まれた。視界に散る星の数がどんどん増えていって、目の前で必死に私を見つめる直央のことしか考えられなくなっていく。

 すき、だいすき、あいしてる。二人分の呼吸がその言葉にすっかり置き換わって、もうどちらの言葉なのかも分からないぐらいだ。ずり上がりそうになる身体が押さえ込まれて、指先を繋いだまま強く強く抱きしめられて、――――

「一生、放してあげない」

 注ぎ込まれた許容量以上の快感に包まれ、その言葉を最後に意識がふつりと途切れた。

***

 いい、匂いがする。

「ん……」

 途切れたままだった意識がゆっくりと浮上していく感覚。いつかこんなようなことがあったな、と頭の端で考えながら、私は瞼を押し上げた。

 部屋の中は真っ暗で、いつの間にかきっちりとカーテンが引かれている。数秒考え込んでから確認した自分の身体は、清潔でゆったりとした部屋着を纏っていた。ちゃんと上下の下着まで付けられているのが面白くて、気だるい唇に笑みが滲む。そのままベッドサイドに置かれていたスマホに触れれば、時刻が表示された。

「夜の七時……あ、」

 はっとして飛び起きた私は、寝室を飛び出してリビングへと向かう。そこにはまさにダイニングテーブルの上に料理を並べている最中の、甲斐甲斐しい恋人の姿があった。

「あ、おはよう。澄香さん」
「ごめん直央……!私が作る予定だったのに……!」

 同棲を始めるときに決めたルールにより、この家の食事当番は曜日固定になっている。今日は私の担当曜日だったはずなのだけど、どうやら直央が夕食を作ってくれたようだ。湯気を立てるビーフシチューはしっかりと煮込まれているのが見て取れて、彼に私を起こす気がこれっぽっちもなかったことの証明のように思えた。

「全然いいですよ。寝かせておいたの俺だし……そもそも、澄香さんをそうしちゃったのも俺だしね」

 そう言って爽やかに笑う直央は、先ほどまでの雰囲気こそ残していないものの、私と同じように部屋着姿だ。それにちょっと安堵して、私は配膳を引き受ける。準備はすぐに終わって、私たちは部屋着に寝ぐせという格好で、いつも通りの夕食を始めた。

 昼間に散々体力を使ったせいかとにかくお腹が減っていて、お皿の中のビーフシチューはあっという間になくなってしまう。付け合わせのサラダもパンも平らげたところで、私より先に食べ終えていた直央が、思い出したように声を上げた。

「そういえば、今日はちょっと隠し味を変えてみたんだよね。どうだった?」
「すごく美味しかったよ。……直央って本当に料理上手だよね。レパートリーも多いし。私ももう少し上手くなれたらいいんだけど」

「俺は澄香さんの料理も好きだけどな。和食なんかは俺より上手いし……それに、別に二人ともが料理できる必要ないでしょ」
「……同棲してるからってこと?」

 ごちそうさまと手を合わせつつ、私は首を傾げる。直央は小さく笑って「それはそうなんだけど、そうじゃなくて、」と言葉を切り、何かの躊躇いを振り切るように、一度ゆったりと瞬きをした。

 そして、ダイニングテーブル横のキャビネットから小さな箱のようなものを取り出して、――――

「結婚するなら、お互い得意なことで助け合えばいいんじゃないかなって思うんですけど。どうですか」
「え……」

婚約指輪

 箱の中から取り出した銀色に光る輪を掲げると、直央は悪戯っぽく微笑んでみせた。

 目を瞬く私の左手が、直央の手の中に収まる。薬指の先にその銀色の輪が触れ、ひんやりとした感触を伝えてきて、――――私はそこでようやく我に返ることができた。

「え、あ……えっ、嘘でしょ」
「ひどいな、嘘じゃないよ。……困りますか、こういうの」

「そんなことない!」

 反射的に大きな声が出てしまったのは、ここで誤解されたくなかったからだ。でも直央はそんな私を見て、全部分かってるみたいな顔でまた微笑んで。

「だよね。もしかしたら断られるかもって思ったから、もう少し外堀埋めてから渡そうとしてたんだけど……ここ数日の貴方を見てたら、早く渡したくて堪らなくなっちゃって」 「直央……」

 少しだけ照れたような響きの混じる声が、優しく私への想いを紡いでいく。きゅう、と胸の奥が疼く感覚。幸福感がじわじわ浸透してくるのを感じながら、直央の目を真っ直ぐに見つめた。

 彼の気持ちに応えるという、覚悟と喜びをもって。

「ありがとう。……すごく嬉しい。嵌めてくれる?」
「いいんですか?一度嵌めたら『やっぱりナシ』は聞かないですけど」

「直央こそ、『やっぱり返してください』なんて言い出したら嫌だよ」
「言いません。絶対」

 真剣な顔をした直央が、そのまま私の薬指へと銀色の輪を、――――婚約指輪をゆっくりと嵌めていく。指の根本にぴたりと収まったそれは、天井に手をかざせばきらりと眩しく輝いた。思わず、万感混じりの溜息が零れる。

 昼間から二人で戯れて、そのまま寝過ごして、遅めの夕食をとって。気の抜けた部屋着と寝ぐせ姿でプロポーズ。いまいち決まりきらないのに、それでもこの瞬間がどうしようもなく特別に思えるのは、お互いがお互いにとって特別だと確信できたからだろうか。

 空っぽになったビーフシチューの器の上で、直央の手が私の頬を包み込む。触れたキスは甘くて、少しだけしょっぱい味がして。

「これから一生、俺だけのものでいてね」

 そうやって蕩けるように笑う直央は、きっとこれからも私のことが大好きで、ワンちゃんみたいな一面があって、――――それでいてかっこいい、私の大好きな人で居続けるのだろう。

 彼に教えられたばかりの深い深いキスで彼の愛情に応えながら、私はそんな予感にそっと瞼を下ろすのだった。


END

あらすじ

夜を重ねるたびに澄香は直央の深みに嵌っていく。
そしてまた直央も…

皆原彼方
皆原彼方
フリーのシナリオライター・小説家(女性向け恋愛ゲーム/…
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