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官能小説 同居美人 プロジェクトB 〜想子編〜 シーズン9
「お別れを言いたい」
わたしは考えた末、なぎささんには有本さんではなく池部さんに会ってもらうことにした。
有本さんに会わせるのは、申し訳ないけれど危険な気がする。逆上する可能性だってあるし、そもそもまだ卒業していない中途半端な状態なのだから、下手な動き方はしないほうがいいだろう。
「なぎささんに、会いに行きましょう」
そう持ちかけると、池部さんは困ったような顔をした。
「いやがるんじゃないかな、彼女」
今までさんざんお節介を焼き、説教もしてきた彼女は、きっと自分のことをよく思っていないというのだ。
そんなことないです、とは言えなかった。
なぎささんは池部さんを「好きになれたらよかった」とは言ったけれど、今、彼に対してどんな気持ちを抱いているのかはわからない。
池部さんの気持ちは、苦しいぐらいわかる。だから、かけてほしい言葉もわかる。
でも、今、わたしがしなくてはいけないのは、ほしい言葉をかけてあげることではない。
彼にとって、必要だと思う言葉を伝えることだ。
「池部さんが出ていくと決めたならわたしには止められません。でも、なぎささんに対して挨拶さえすることもなしに消えてしまったら、絶対に後悔します。池部さんは、わたしだったらどうするか、と聞かれましたよね。わたしだったら、最後の悪あがきをします」
だから、一緒に行きましょう、とわたしは池部さんをまっすぐに見つめた。
お世話になった人だ、後悔させたくない。
私は以前、自分の勘違いからお姉ちゃんを傷つけ、謝りに行ったときのことを思い出していた。
何か問題があったとして、話せば必ず解決するわけではないけれど、解決する可能性は上がるはず。
「悪あがきに、付き合ってくれるのかい?」
「ええ」
わたしは笑ってうなずいた。

わたしたち三人は、小さな喫茶店で会った。
結果からいうと、池部さんの恋はやはり実ることはなかった。
それでも、二人にとってまったくの無駄にはならなかった……と思う。
「ありがとう、池部さん、私のためにわざわざ……」
なぎささんは涙ぐんでいた。
「もう、前に進まないといけないんだよね。みんなのことも……悠のことも、もうあきらめるよ。じゃないと、ここまでしてくれた池部さんにも申し訳が立たないよ」
「僕のことは、別に……」
池部さんは寂しそうに笑って目を逸らす。
そして、この物語は静かに終わりを迎えるはずだった。
だが、後悔したくないという気持ちは、なぎささんにもあったのだ。
別れ際、彼女は迷いながらもこんなことを切り出してきた。
「私、最後に悠に会いたいの」
「え……」
私と池部さんは揃って絶句する。
「最後に会って、ちゃんとお別れを言いたい。じゃないと、後悔すると思うから」
私たちは何も言えなかった。その願いは、つい数日前まで池部さんが抱いていたものと同じだったから。
「……わかった、僕が何とかするよ」
しばし押し黙った後、池部さんは答えた。びっくりするぐらい落ち着いていた。
なぎささんと別れた後、池部さんは、もしも何かあったら自分が傷ついてでもなぎささんを止めるとわたしに言った。
「これが恋の力」
俺は想子ちゃんと宗一郎から、なぎさちゃんに関する一部始終を聞いた。
まず胸に沸き上がったのは、自責の念だ。
今、宗一郎が苦しみ、想子ちゃんを困らせているのは、元を辿れば俺のせいだ。
何だかんだ言って、俺はなぎさちゃんから逃げていた。彼女は何事につけ、白黒をはっきりさせたがる子だった。しかし、だからといって女の子の好意をはねのけるのはいたたまれない。自分からあきらめて去っていってほしいという甘えがあった。
その結果が、これだ。
なぎさちゃんに会わなければ。そして、きちんと伝えるのだ。
君を受け入れることはできないのだと。
想子ちゃんとのことを話そうとも考えたが、やめることにした。これはあくまでも俺となぎさちゃんの問題であって、想子ちゃんを「巻き込む」わけにはいかない。
だが、想子ちゃんは違っていた。
「わたしはなぎささんに、わたしたちの気持ちをちゃんと話しておいたほうがいいと思うんです」
どうして? と尋ねると、
「わたしが有本さんのことを思っている以上、有本さんだけの問題にしたくないんです。一緒に背負いたい。それにそのほうが、なぎささんも余計な期待をしなくて済むような気がします」
確かに好きな人がいない状態で断るのと、いる状態で断るのとでは、前者のほうには「隙」があるような気がする。
「厳しいようですけど、今のなぎささんに必要なのは、ちゃんと退路を断つことだと思うんです。だから……」
「わかった、心強いよ。ありがとう」
俺はうなずいた。俺やなぎさちゃんのことをそんなにまで思ってくれるなんて、本当にありがたい。
だが、想子ちゃんは睫毛を伏せて、浮かない表情をしている。そうはいっても不安なのだろう。
「もし何かあっても、俺が絶対に想子ちゃんを守る。だから安心して」
言葉に力を入れてそう言うと、想子ちゃんはびっくりしたように顔を上げて、それから「はい」と柔らかく微笑んだ。
自分に少し驚いた。楽天的で、責任逃ればかりしてきた俺が、こんなふうに胸を張れるなんて。
これが恋の力なんだろう。
―――
同じ過ちを繰り返さないよう、俺は敦に、なぎさちゃんと会うときの立ち居振る舞いや言葉遣いをどうするべきか聞いてみた。
「もうわかっているみたいだな。俺から言うことは特にないよ」
敦は俺の考えを一通り聞くと、肩をぽんと叩いてくれた。
「必要以上に冷たくする必要はない。ただ、今度こそちゃんと『突き放して』あげれば、それでいい」
突き放す。俺はその口の中でもう一度呟いた。自分に言い聞かせるように。
―――
数日後、俺と想子ちゃんと宗一郎は、なぎさちゃんに会った。場所は、先日三人で会ったというカフェだ。
なぎさちゃんはまず迷惑をかけたことを俺に謝ってから、どうしてあんなことをしたのかを話した。
俺への執着、みんなに忘れられることの恐怖、いっそ早く終わりになってしまえばいいという破滅願望……そんな気持ちが入り混じっていたという。
「ちゃんとお話しできてよかった。許してくれるかどうかはわからないけど、少なくとも自分はすっきりした」
付き合わせちゃってごめんね、と彼女は寂しげに笑って、ぺろりと舌を出してみせた。
「俺のほうこそ、すまなかった」
なぎさちゃんの話が終わると、俺はその場で丁寧に頭を下げた。できるだけ深く、しっかりと。
なぎさちゃんがたじろいだのが気配でわかった。
「悪いのはむしろこっちだ。俺は悪者になりたくなくて、君への気持ちをはっきりせずにいた。そんなことは本当の優しさじゃなかった」
そこまで言って顔を上げる。そして、まっすぐになぎさちゃんを見つめた。
「俺は君とは付き合えない。ごめん」
俺となぎさちゃんは、しばらく見つめ合っていた。
どちらも目を逸らさなかった。
そうだ、俺にはこの時間が必要だったのだ。なのに、逃げていた。
やがてなぎさちゃんが口を開いた。
「ひとつだけ、聞いていい?」
「何でも」
「悠、今、好きな人がいるの?」
俺ではなく、想子ちゃんと宗一郎が小さく肩を震わせた。
「愛おしい、守りたい」
有本さんは、なぎささんから目を逸らさなかった。
「想子ちゃんが好きなんだ。愛おしい、守りたいと思ってる。だから今はまだ付き合うことはしないで、想子ちゃんの卒業を待ってる」
店の中は静かとはいえなかったのに、その声は凛ときれいに響いてわたしの耳に届いた。
なぎささんがこちらを見た。まるで答えを求めるように。
わたしは言った。
「好きだとは……言えません」
なぎささんや有本さんだけでなく、池部さんも驚いてわたしを見る。
「わたしにとって有本さんは、単に好きだとだけ言えるような相手ではありません。いろんなことに気づかせてくれて、成長させてくれた、とても大事な人です。尊敬、信頼、葛藤、いろんな気持ちがありすぎて、好きというだけではとても収まらない。だから、どんなふうに表現したらいいのか、自分でもよくわからないんです」
すぅっと一度息を吸う。言いたいこと、いや、言わなくてはいけない肝心なことは、まだ残っていた。
「でも、これだけは断言できます。有本さんを思う気持ちは誰にも負けない。もちろんあなたにも」
これが、わたしの答えだ。この答えで、わたしはなぎささんを傷つけてしまったかもしれない。うぅん、きっと傷つけただろう。でもいちばん正しい答えを選んだ。
正しいことがいつも本当に正しいとは限らない。でも、今、そうしなかったらなぎささんは結果的にもっと傷ついただろう。だからこれは、わたしなりの精一杯の優しさだった。
「そう、わかった」
なぎささんは、小さな明かりをそっと灯すような微笑を浮かべた。
「ちゃんと話してくれてありがとう。私、これからは二人を応援するよ」
どこかはかなげで、美しくて……池部さんはきっとこんなところに惹かれたのだろう。
―――
その後、池部さんはなぎささんに気持ちを伝えたものの、なぎささんはやはりその気持ちを受け入れることはできないと断ったそうだった。
「僕はやっぱり道場を出ていくよ。今はとても……女性を幸せにしようという気力が湧かないんだ」
池部さんは有本さんの部屋にやってきて、わたしと有本さんに話してくれた。篠村さんにはまだ伝えていないものの、もう心は決まっているという。
篠村さんや福生さんは、もともと池部さんに道場から出ていってもらおうと迷っていたようだから、となればこれは逆に「丸く収まった」ことになるのだろうか。
「ちょっと待てよ、宗一郎」
有本さんは慌てたようだった。
「お前がそんなふうに思ってしまった原因は、そもそも俺にあると思うんだ」
もともと女性が不安定になりやすい場所なのに、それを知っていて中途半端な対応をしてしまったから、と。
「でも、それだったら有本さんのせいだけじゃないと思います」
わたしは付け加えた。こんなことでメデタシメデタシになるなんて、おかしい。
「少なくとも篠村さんは有本さんの対応を知っていて、それを放っておいたんでしょう。そうしてどうにもならなくなったら追放だなんて……もう少しほかにやり方はなかったんでしょうか。もしほかにも知っている人がいれば、その人にも責任があると思います」
事は有本さんや池部さんだけの問題じゃない。
これをきっかけに、ビューティ道場のあり方自体を問うべきではないだろうか。
「わたし、篠村さんに意見します」
「こんなに思ってもらえるなんて」
篠村さんへの直談判には、わたしの考えに賛成してくれた千織ちゃんも付き合ってくれることになった。
「最初はなぎささんだけが悪いんだと思っていたけど……確かにそうだよね。自立を目指す場所だとはいえ、放っておくというのも冷たすぎる」
卒業が決まっていない状態ではあったけれど、意見するのは怖くはなかった。そのあたりはきちんと分けて考えてくれる人だと信頼している。
わたしは、篠村さんに訴えた。
ただ追放するだけではなく、できるだけのサポートをする必要があったのではないか。
また、なぎささんの自立心のなさや不安を見抜けず何もできなかったのも、池部さんのせいだけにはできないのではないか。
その点で誠実に関わった池部さんだけが傷つき、出ていかなくてはいけないのはおかしい。
千織ちゃんも頼もしかった。
「私だって、自分のこれまでを振り返ると、暴走しそうになることはたびたびありました。考えてみればなぎささんとは紙一重だった気もするんです。私はたまたま運が良かっただけだといえるかもしれない。もし私がなぎささんみたいになっていたら、やっぱり助けてほしかったと思います」
篠村さんは目を閉じ、じっと黙っていた。
わたしたちは知らなかった。ちょうどその頃、池部さんとなぎささんに何が起こっていたかを……。
―――
都内のとある病院から僕のスマホに電話があったのは、ちょうどテレビ番組の収録が終わったときだった。
「池部宗一郎さんでよろしいですか?」
「あ、はい。えっと、どちら様でしょうか……」
数分後、僕はスタジオを飛び出し、タクシーを捕まえていた。
なぎさちゃんが道で栄養失調で倒れ、病院に運ばれたという。
僕に連絡が来たのは、スマホの履歴から頻繁に連絡をとっていたことがわかったから、身内か仲のいい友人だと思ったらしい。
タクシーの中で、僕は自分を責めて唇を噛んだ。
どうして忘れていたんだ……心の浮き沈みが体に現れやすいタイプだということを。悠さんと想子ちゃんを応援するなんて、あんなのは空元気だったに決まっている。
病院に着くと、彼女は思いのほか元気だった。点滴を打ったら、すっかり体調が良くなったという。
「ただの貧血だよ。大袈裟に騒ぐほどのことじゃないって」
確かに声にもそこそこ力がある。だが、顔色は悪かった。全体的にやつれている。
入院するほどでもないようで、看護師からは遠回しにすぐに帰るように言われた。
病院から出ると、僕はなぎさちゃんの手を取った。
彼女は振り払おうとしたが、離さなかった。
「どこ行くの?」
「君の家に行こう。料理をするよ。まずはおいしいものを食べるんだ」
迷惑をかけてしまったという負い目からか、彼女は逆らわなかった。
家に着くと、なぎさちゃんをベッドに寝かせてから、近所のスーパーに買い物に行った。
戻ると、なぎさちゃんは寝息を立てていた。起こさないように料理を始める。
メニューは、栄養失調でも受け入れられるような、消化の良い、優しい味のもの、今のなぎさちゃんを、お腹の中から温めてくれるようなもの。レパートリーは多くなくていい。確実に食べられる量と種類で。
なぎさちゃんはなかなか起きてこなかったから、もう一度あたためなおすことになってしまったが、僕の料理は一度冷めたぐらいで味が落ちたりはしない。
ベッドにまで運んであげた料理の前で、なぎさちゃんは小さく手を合わせた。
「ありがと……いただきます」
温かいスープをスプーンで口に運ぶ。
ひとくち、ふたくち……
やがて、その目から涙がこぼれだした。
「おいしい……」
僕は何も言わず、ハンカチを渡した。
「こんなに思ってもらえるなんて……私……」
拭いても拭いても、涙は止まらないようだった。
「卒業? わたしが?」
わたしはこれを、特別なことが起こったのだとは思わない。
起こるべくして起こったのだと思うから。
篠村さんは、自分のやり方に落ち度があったことを認めて、池部さんに自分の未熟さをお詫びした。福生さんも、篠村さんと同じように考え、行動したを謝った。
「女性を幸せにしたい……なんて言いながら、目の前の女性が不幸になっていくのを仕方がないと思っていた。想子ちゃんや千織ちゃんや、それから宗一郎がいなかったら、気づけずにいたよ」
近々改めて、ビューティ道場の存在意義についてみんなで話し合うつもりだそうだ。
しかし池部さんは、それでも道場を出たいと言った。
道場にいることがいやなのではない。このまま道場に住んでいたら、なぎささんが遠慮するからだそうだ。
「遠慮?」
わたしたちはみんなで声を合わせてしまう。池部さんとなぎささんは、もう終わったのではなかったのだろうか。
「うん……最近、また会うことが増えてきて」
池部さんはわずかに頬を染めた。
どうやら彼は、わたしたちが知らない間に何か新しいスタートを切ったようだった。
―――
それから数日後。
わたしは篠村さんに、卒業決定だと伝えられた。
「決め手は宗一郎の問題だったよ。あそこまできれいに解決してくれたからには、もう認めないわけにはいかない。本当に見事だった。ありがとう」
「えっ……えぇっ?」
うれしいのと、照れと、驚きと、いろんな感情がごちゃまぜになって、うまく言葉が出てこない。
卒業? わたしが?
目指していたこととはいえ、いざ言われてみると、どうしていいのかわからなくなってしまう。
千織ちゃんは一足先に卒業が決定していたそうだが、数日も違わないということだった。
「改めて卒業パーティもやるから、都合のいい日取りを二人で決めておいてよ。でも、まぁ、その前に……」
篠村さんはにやりと意味ありげに笑う。
「パーティはもう少し先のことになるけど、真っ先に一緒に祝いたい相手もいるだろ」
顔がかぁっと赤くなる。有本さんのことを指しているのだとは、いわれなくても当然わかる。
篠村さんはわたしたちに、二人での外泊許可をくれた。
その夜、有本さん……うぅん、悠さんはわたしを抱きしめて、キスをしてくれた。
唇だけの軽いキスだったのは、本気のキスは「その日」のためにとっておきたいからだそうだ。
悠さんは、一日仕事を空けるから昼も夜もゆっくりしようと言ってくれた。
「俺、この間偶然見えた想子ちゃんのお尻が忘れられないんだよねぇ」
「ゆ、悠さんっ!」
冗談だとはわかっていても照れてしまって、悠さんの胸をポカポカしてしまう。
「ま、それはさておき……どこに行こうか」
あらすじ
ストーカーだったなぎさの問題を解決すべく、想子はなぎさに思いを寄せている池辺と一緒に彼女に会いに行く…