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官能小説 同居美人 プロジェクトB 〜想子編〜 シーズン4
変わることに慣れていく

自分を高めるといっても何をしたらいいのかすぐに思いつかなかった。
でも、わからないからといってぼーっとしている気にもなれない。「何かしなくては」という意気ごみが、体の中でうずいている。
(やれることからやれば、次にするべきことがわかるかもしれない)
手始めにやったことは、肌を磨くことだった。
以前悠さんがくれたボディソープ、「本草絵巻 しろつやびじん」。ボディだけでなく洗顔にも使えるそのソープは、丁寧に泡立てて使うとそれだけで肌に透明感が出て、表情を明るく見せてくれる。もらって以来毎日愛用していたけれど、そういえば前にスペシャルな使い方を教えてもらったことがあった。
あえて泡立てずにそのまま顔に塗り、1分待つ。その後泡立てて普通に洗うか、そのまま洗い流す。要するにパックの要領で使うと、毛穴の黒ずみにも実感があるだそうだ。
(本当だ……)
教えられた通りに洗顔した後、鏡を覗きこむと、顔がさっぱりと白くなって垢ぬけていた。触り心地もふっくらしていて、キメが整っている感覚がある。
加えて、これも以前もらったナデテ ディープマスカットで髪を整えた。髪がさっと落ち着き、すっきりした香りで明るい気持ちにもなれる。
(もっときれいになりたいな)
肌や髪がきれいになると、それを引き立ててくれる服がほしくなった。
(わかった、わたしがするべきこと)
わたしはスタイリストの松垣洸太さんに頼み、何をどうやって着たらきれいに、かつシゼンタイに見えるかアドバイスを受けることにした。
松垣さんに意見を聞くのは二回目だ。前回は「今までより少しだけ明るい印象になれる服」と頼んだけど、今度は全部おまかせすることにした。
その結果、今までの自分とは根本的に変わったとしても、それはそれで構わない。
わたしはいつしか、変わることに少しずつ慣れていた。
「想子ちゃんは地味めなカラーの服が多いけど、顔だちが優しくてやわらかい印象だから、パステルカラーのふわっとした服がいいんだよ」
買い物に付き合ってくれた松垣さんにアドバイスされるままに、わたしはそういった服を買った。
「それと、痩せていてスタイルはいいんだけど、あまりスリムすぎる印象だと持ち前のやわらかさが引き立たないから、あえて体の線が見えすぎない服を選んだほうがいいと思う。そうすればもっと素敵になる」
痩せていて羨ましいといわれることは今までにもあった。それが自分にとっていいことなのかどうかは考えずに、みんながそういうならそういうものかと受け入れてきた。だけど、必ずしもいいことではなかったんだ。
松垣さんが選んでくれたのは、ふんわりしたミントグリーンのニットと白いキュロット、それにショートブーツだった。女の子らしいけれど甘すぎず、きちんと芯のある印象だ。さわやかで、今も気持ちを表わしているみたいでもあった。
買い物を終えると、最後の仕上げに髪を少しだけ明るい色に染め、ゆるっとしたパーマをかけた。
「悠の領分だったかもしれないけど、似合っているし大目に見てもらうとしよう」
美容院から出てきたわたしを見て、松垣さんは満足そうにうなずいた。
さっそく服を合わせてみようといわれて、服を買ったデパートの、トイレの中の着替えスペースで着替えた。
鏡に全身を映してまずははっとし、すぐに弾けるようなうれしさに包まれた。
今までの自分とは全然違う。でも、とても素敵。
これだったらおしゃれな松垣さんと並んで歩いていても、違和感がないと思える。
トイレから出ると松垣さんも目を輝かせて「似合ってるよ!」と褒めてくれた。
帰ろうとすると、雨が降ってきた。
「新しい服や髪を濡らすのもよくないし、喫茶店にでも入ろうか」
松垣さんに誘われる。
「いいですね!」
いやだという理由はない。むしろこの姿では、そんな時間を持てることはうれしかった。
心の距離が縮まった

わたしは喫茶店で、今まで何があったのか、どんなふうに自分の考えが変わっていったのかを松垣さんに改めて詳しく話した。
ゆるやかなクラシック音楽をバックにコーヒーを口に運びながら、松垣さんはじっと耳を傾けてくれた。
華のある職業のわりには、彼はカリスマの中では生真面目で、時には融通が利かないとまでいわれている。そんな性格がよく表れているように、身じろぎひとつしない。
「そうか、大変だったね。でもその分、道が開けたみたいでよかったよ」
松垣さんがふわりとした笑みを浮かべてくれると、認めてもらったみたいで、きちんと話してよかったと思えた。
私の話が終わると、彼はしばらくのあいだ残り少なくなったコーヒーをスプーンでかき混ぜていた。何か考えこむのに手を動かさずにはいられない、そんな様子だった。
しばらくすると、「別に話してくれたお礼ってわけでもないけど」と前置きして、今度は松垣さんが自分のことについて語り始めた。
それは松垣さんが、ビューティ道場に入るずっと以前のことだった。
「昔、まだ修業時代のことなんだけど……俺の先生だった大物スタイリストが、あるモデルのスタイリングを長期で担当することになってね」
松垣さんは相変わらずコーヒーをかき混ぜている。まるでコーヒーの中に隠れている思い出を探そうとするように。
「きれいな人だったんだけど、彼女はなぜか自分に自信がなかった。そのせいか押しに弱くて、ダメ男に振り回されるので業界では有名だったんだ。でも先生がスタイリングを担当することになってから、自分のいいところや見せ方がわかって、自信がついて、ダメ男ときっぱり別れられたということがあったんだ」
その姿を見て、自分も女性をただ美しく着飾らせるだけでなく、幸せにするスタイリングができるようになりたいと思ったそうだ。
「とはいっても、言うは易く行うは難し、ってね。センスの塊みたいな先生と比べて俺はそういうの皆無だから、人より努力と経験を積み重ねないといけない。でもそれがかろうじてできているのは、そのときの経験があったからなんだ」
コーヒーをかき混ぜる手は、少しずつゆっくりになっていった。カップの底に見つけた思い出を、今度はゆっくりと優しく埋めていくようだ。
「そのモデルさんのこと、好きだったんですね」
ごく自然に、そんな言葉が出た。普段だったら気づいても遠慮して絶対に言えない。でも松垣さんの手つきがあまりにも優しくて、あまりにも寂しそうで、切なくて……言葉になっていた。
松垣さんははっとした表情でわたしを見ると、頬をかすかに染めた。
「もう、全部終わったことだから」
答えはそれで十分だった。
わたしたちはしばらく何も話さず、沈黙の中に身を浸し合った。緩やかに流れる音楽のおかげもあっただろうけど、不思議に居心地が悪くはならなかった。
華々しく、何もかも手にいれたように見えるカリスマの人たち。でも表面からそう見えるだけでつらい時期はあったのだろうし、それは今にも影響を及ぼしているのかもしれない。
うぅん、もしかしたら今だってつらいことはあるのかも……。
雨上がりの道を、わたしは少しだけ松垣さんとの心の距離が縮まったように感じながら歩いた。
今さらながら誇らしくなった

わたしは今まで以上に、いろんなことに積極的に関わっていこうという前向きな気持ちになった。
福生さんが何を考えているのか、もっと知ってみたいと思ったのもそれが理由だ。
以前、「この人ももっと前向きになりたいのかもしれない」と感じた、その内側に近づいてみたい。
(であれば、本を読んでみるのもいいかもしれないな)
わたしは福生さんの本を数冊買って読んでみることにした。「貸して」と真正面から頼んだら照れから断られそうな気も少しするし、クリエイターのはしくれとして「作品」にはきちんとお金を払いたい。
とはいえ、作品がクリエイター本人とは別物なのだというのはわたし自身がいちばんよくわかっている。わたしのいわゆるオシャレ系の絵を見て、「ご本人のイメージとは違いますね」と驚かれたことも少なくない。福生さんの本を読むのは、あくまでも福生さんを知るきっかけに留めるつもりだ。
それでも、描写の繊細さやロマンティックな内容は意外で、そして惹きつけられた。
研ぎ澄まされ、鋭くありすぎる結果として透明感があり、それゆえにどこか哀しく感じられもする本当に美しい文章と物語。
福生さんが書いたことがよく納得できるようでも、まったく似合っていないようでもある。
わたしが福生さん本人と照らし合わせてどう感じるかはともかく、こんな小説を書ける人と一緒に暮らしていたことが、今さらながら誇らしくなった。
誇らしさは、イラストを描くことのよりいっそうの意欲へとつながっていった。
パソコンを立ち上げてタブレットに向かい、これまでに描いたことのない水彩画のようなタッチでイラストを描く。福生さんの小説から受けた印象をそのまま、白い画面に流し込んでいくイメージだった。
「これ、福生さんの『午前四時の戸惑い』をイメージして描いたんです。よかったらもらってくれませんか」
プリントしたイラストを渡すと、福生さんは目を丸くし、数秒して今度は顔を赤くした。
「読んだのか」
「えぇ、とても素晴らしかったです。『こんな人たちと一緒にいたら大変だろうな』って思うぐらい登場人物がみんな自分勝手なのに、すごく純粋で、読み終わるころには全員愛おしくなっていました」
「……ありがとう」
福生さんは赤くなった顔のまま、イラストを受け取ってくれた。
俺のストーカーなんだ

相変わらず、有本さんにもメイクやスキンケア術を教えてもらった。
いろんなことが順風満帆に進んでいると感じる。
勇気を出して殻を破ってよかった。
「やっぱりイラストレーターだから色彩感覚やバランス感覚が優れているんだよね。メイクの上達がびっくりするぐらい早いよ」
有本さんはそんなふうにわたしを褒めてくれたし、実際、自分でメイクをしても上達は感じられた。
「想子ちゃんの笑顔を見ていると、俺も頑張らなきゃなって思うよ。もっともっと自信がつけば、お姉さんにも負けないようになると思う。現在進行形で素敵な女性になっているよ」
面と向かっていわれると赤面してしまうけど、それでも素直に受け取れる。
メイクやスキンケアのほかにも、わたしはカリスマさんたちのおかげで少しずつ自分の良さがわかり、卑にならずそこを伸ばそうとすることができた。
他人に素直に意見を尋ね、それを実行に移す勇気の大切さが今はよくわかる。
「そんなのは似合わない」と思っても、まずはやってみること。やってみてどうしても好きになれなかったらやめればいい。もしそうなったとしても、自分のある一面を知ることができたという点では無駄にはならない。
編集の内野さんと会う機会がないのが少し寂しくはあったけれど、その感情はあくまでも「少し」になっていた。
(わたし、前ほど内野さんのこと好きじゃなくなっているのかな)
寂しいような、解放されたような、不思議な気持ちだった。
あるとき、有本さんと一緒に最寄り駅のそばのドラッグストアにメイク用品を買いに行った帰りのこと……
背後に違和感を感じた。
「気づいた?」
隣を歩いていたサングラスの有本さんが、そっと声をかけてくる。
「俺のストーカーなんだ。しばらく現われなかったんだけど、ここ最近、また見かけるようになって」
ちらりと振り返ると、細身で中背の女の人だった。まだ若く見える。帽子を目深にかぶっているので表情や顔つきはよくわからないが、何となく雰囲気が異様だ。
「家を特定されるとまずい。ちょっと回り道をして撒(ま)こう。申し訳ないんだけど付き合ってくれる?」
有本さんは眉をひそめる。
うなずく以外の選択肢はなかった。
好きなのかもしれない
わたしたちは住宅街の中をぐるぐる歩いたり、途中で意味もなくコンビニに寄ったりした。
本来かかる時間のざっと3倍以上は歩いたおかげで、いつしかストーカーの気配はなくなっていた。
それでも家に入るときにはまわりを気にしながら素早く、別々に入った。
「はぁ〜……っ」
わたしよりも後に入ってきた有本さんが玄関のドアを閉めると、いきなりどっと疲れた。自分のことではないにせよ、ストーカーなんて初めてだ。
「人気者ってやっぱり大変ですね」
溜息とともに吐き出す。
「んー、まぁしょうがないよね」
追われる当の本人である有本さんは、しかし意外とのほほんとしていた。男性だし、慣れているのもあるのかもしれない。
「それより歩かせちゃってごめんね。疲れたでしょ。付き合ってくれてありがとう」
有本さんは私の頭をぽんぽんと撫でる。
その途端、なぜか……顔が熱くなった。
「ご、ごめんなさい、わたし喉が渇いたから……キッチンに寄って何か飲んでから戻ります」
わたしは慌てて、廊下の向こうのキッチンに駆け込んだ。
隣同士の部屋なのだから一緒に階段を上がればいいのに、顔を見られたくなかった。
「んー、わかった。お疲れ」
有本さんの声が廊下を過ぎていく。
幸い、キッチンには誰もいなかった。
(どうして……)
頬に触れてみる。やっぱり熱い。きっと真っ赤になっているだろう。
心臓が高鳴っているのが自分でもわかる。
有本さんに頭を撫でてもらったのは今までも何度かあったのに、わたしは今、初めてドキドキしていた。
頭を撫でられたからというよりも、今まで自分でもよくわからないうちに溜まっていたものが、それをきっかけに溢れ出してきたみたいだった。
その日の夜、篠村さんの部屋に呼ばれた。
「ビューティ道場の掟について、想子ちゃんにも話しておいたほうがいいということになって……」

「掟?」
何でも福生さんが千織さんに話す機会があったことから、福生さんが篠村さんに私にも伝えておいたほうがいいと提案したらしい。
いわく、ビューティ道場では入居者同士の恋愛は禁止。もし破ったら男女とも道場を出ていかなくてはいけない。
「正直なところ、悠に尊敬以上の気持ちを抱き始めているみたいだったから、言っておいたほうがいいのかなとは迷っていたんだ。でもこういうことは禁止するとかえって気になってしまうから、どうしたものかと思っていたんだけど……」
「だ、大丈夫ですよ」
わたしは慌てて首を横に振った。
「わたしが好きなのは、内野さん……編集さんですし、有本さんはあくまでも憧れているだけです……からっ」
「そう。ならいいんだけど」
そう答えはしたものの、篠村さんのことだから、わたしの気持ちの底にあるものに気付いたとしてもおかしくない。
気持ちの底にあるもの……それは自分でもまだなじみのない、どう扱っていいかわからないものだった。
わたしは、有本さんのことが好きなのかもしれない。
もし有本さんと恋愛をしたければ、全員に認められてここを出ていくしかない。でも、それは一朝一夕で叶うことではなかった。
わたしは……
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あらすじ
悠や姉の瞳子に追いつけるよう、自分磨きを頑張ろうと決心した想子。
想子は手始めに肌を磨き始めた。
メイクアップ・アーティストの悠が以前くれた、洗顔にも使えるボディーソープ「本草絵巻 しろつやびじん」で肌を磨きはじめると…