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官能小説 同居美人 プロジェクトB 〜想子編〜 シーズン5
もう後には退けない
有本さんのことをこれ以上好きになってはいけない……
わたしは有本さんへのごく淡い恋心を、新しい自分に脱皮して、お姉ちゃんと素直に向かい合えるようになるための心の支えにもしていた気がする。
その支えを、突然外されたようだった。
加えて、もうひとつ衝撃を受けたことがあった。
「想子ちゃんがこの間会ったって言ってた有本さんのストーカーのことなんだけど……」
想子ちゃんも知っておいたほうがいいんじゃないかと思って、と教えてくれたその人は、ビューティ道場の昔の住人だとのことだった。
あのとき有本さんはとくに焦っているようには見えなかったけれど、もしかしたら内心はとても複雑だったのではないだろうか。慣れているように見えたのは、むしろ完璧な演技だったからかもしれない。
わたしは、自分で考えているよりも自分が感情に溺れやすい人間だと知っている。
あれが未来のわたしの姿になる可能性もあり得る。
有本さんとは部屋も隣同士なのだし、気を抜いたらもっと好きになってしまいそうだった。
(距離を置こう……)
その日から、意識して有本さんを避けるようにした。
といっても、わたしはそれほど強い人間ではない。
何度もくじけそうになって、有本さんに会いたい、話したいと思った。
でもそうすればするほど、もっと好きになってしまうのは目に見えている。有本さんと話すのは挨拶や、生活する上での必要最低限に何とか留めた。
(苦しいな……)
でも、ここで弱気になるわけにはいかない。そうなったらまた卑屈な、昔の自分に逆戻りしてしまいそうだ。
そんなことになったら、応援してくれた有本さんやほかのカリスマの人たちはどう思うだろう。
たくさんの人に支えられてここまで来た。もう後には退けない。
(希望がまったくなくなったわけじゃない。卒業すれば、恋愛できる可能性も生まれるんだ。卒業までに有本さんが振り向くぐらいきれいになってみせる)
前向きになりたくて、香りの力を借りることにする。
有本さんに勧められて買ったハンドクリーム「フレテ」。手に塗るだけでなく、うなじに薄くつけて練り香水代わりにした。有本さん直伝の使い方で、首の後ろの保湿対策にもなるんだと教えてくれた。
桃の香りがふわりと立つ。彼の手にそっと頬を包み込まれているような気分になった。
(いつか本当にそうなるように……今はできることを頑張ろう)
鏡を覗き込み、自分に向かって大きくうなずいた。
もっと自分を試したくなった
ここに引っ越してきてからの長くはない間に、わたしは自分のいいところをたくさん知ることができたし、それをさらに伸ばすこともできた。
今できることは、その長所をさらに磨くことだと思った。
芯をつくりたい。これがわたしの強みなんだと胸を張れる芯を。誰かや誰かへの気持ちを支えにするのではなく、自分自身の強みを支えにできる人間になりたい。でなければ、その人と何かあるたびに揺らいで、すべてが振り出しに戻ってしまう。
まずは明るい表情をつくることから始めた。といっても楽しいことがあるわけでもないのにニコニコしてはいられないのが正直なところだ。そこまで器用な人間じゃない。
だから表情筋を鍛えることにした。どんなことにもパッと反応して、花が開くみたいにその感情を伝えられるように。それだけでも十分なコミュニケーション力になるだろう。
ちょっと前にウェディング・プランナーの小島泰明さんの提案で、エクササイズ・インストラクターの平野井大樹さんに教わった表情筋のトレーニングを思い出しながら、部屋で鏡に向かって実践する。
表情筋のトレーニングはどうしても変な顔になってしまうけれど、ひとりでそんな顔をしているのが何となくおかしくて、少し明るい気持ちになった。
松垣洸太さんにアドバイスしてもらったように、全身ふわっとした優しい印象になれるようなおしゃれも心がけた。
服だけじゃない。今まで痩せすぎだったから、きちんとつくべきところにお肉がつくように料理研究家の池部宗一郎さんに相談して、良質のたんぱく質や脂肪を積極的に摂った。肌つやそのものを良くするために、今まで夜型に傾きがちだった生活を規則正しい朝方に切り替えた。
さらに新しく取り入れたのはプリリーナだ。
「お尻をきれいにするためのジェルだけど、全身に使ってもいいんだ。ぷるぷるになるよ」と、有本さんからもらったマッサージジェルだった。肌がぷるぷるになれば、ふんわりした印象にさらに近づくかもしれない。
バスルームで、有本さんからいわれたスペシャルな使い方を思い出して、やってみた。
まずは湯船にゆっくり浸かりながら、香りを楽しんでリラックスする。体が温まったら全身をマッサージ。このとき、洗い流す前に時間を置く。
(有本さんもツルツルのお尻が好きなのかな……)
お尻や太ももに塗り込むとき、有本さんのことを思い出してドキドキしてしまった。白くキレイになったお尻を撫でられて、甘噛みされて、そして後ろから……なんて妄想が止まらなくなってしまう。
わたしにはセックスの経験がない。でも、知識だけは人並み程度にはある。
(初めては、有本さんがいいな……)
その未来に近づくためにも、まずは卒業だ。
バスルームを出ると、濡れたままの体にプエラリア・ハーバル・ジェルを塗った。顔も含めて、全身にたっぷりと。濡れたままなのは、そのほうが浸透がよくなる感覚があるからだ。
仕上げにスリリーナを、これも全身に塗り込んだ。シルクのような肌触りになるボディセラムだ。肌が露出する部分で、見られたいところにはとくにたっぷり塗る。プエラリア・ハーバル・ジェルを塗ってからのスキンケアはよく浸透するみたいだ。
肌そのものは相変わらずしろつやびじんを使って、もちもちの感触を保っていた。
ある日、わたしは内野さんにコンタクトした。
以前、自信がなくて断った仕事をまだ受けられるかどうか。
日々少しずつ工夫や努力を繰り返してちょっとだけ自信がついてきて、仕事でももっと自分を試したくなった。
内野さんからの返事はすぐに届いた。
あれは勘違いだったのでは
数日後、近くの喫茶店で内野さんと打ち合わせをした。
わたしが考えていた仕事はもう別のイラストレーターさんに振ってしまった後だったものの、やる気があるのならほかの仕事を紹介できるかもしれないと言ってくれた。
「担当外の雑誌なんですけど、今ちょうどイラストレーターを探している編集者がいるんです。上塚さんの連絡先、伝えておきますね」
「ありがとうございます。よろしくお願いします」
話しながら、内野さんへの気持ちが薄れていることを感じる。
今にして思えば、そもそもあれは勘違いだったのではないか。
内野さんはこれまでのどんな担当さんよりも、一緒に仕事をしやすい編集者だった。やりとりが丁寧だし、はっきり言ってくれる意見はどれもわかりやすい。納品した後には必ず、その作品のことを具体的に褒めてくれた。そういったところが、好きになった理由だった。
でもそれは、仕事への理解や情熱が嬉しかっただけではないだろうか。
恋心というよりも、仕事を通してでも自分のことをもっと理解してくれる人を欲していただけかもしれない。
今、わたしはカリスマさんたちに囲まれて、みんなに自分のことを理解してもらっている。
今日ここにいる内野さんは、わたしに何も求められない、純粋な、ひとりの男性だった。
確かに内野さんは魅力的だと思う。大きな出版社で編集として何人もの作家さんやイラストレーターさん、カメラマンさんとやりとりして、世の中に大きな影響を与えるような雑誌をつくっている。忙しいのに体型も維持している。
でも今は、ほかにもっと魅力的だと感じる男性がいる。
「あの、内野さん」
打ち合わせが終わると、内野さんに切り出した。
「以前、おっしゃっていたお姉ちゃんとのこと……近いうちにセッティングしましょうか」
内野さんの動きが止まる。
彼はわたしをまじまじ見つめた。
その底に今まで見たことのない熱があった。その熱は今日会ってしばらくしてからずっと見え隠れしていた。でも今、はっきりと、強く感じられた。
「……いえ」
顔から驚きがすべて消え去る前に、内野さんは絞り出すように答えた。
「ちょっと、考えさせて下さい」
「……そうですか」
意外だった。
わたしは1冊読んで以来すっかりファンになった福生さんの小説をさらに読み、そこから受けたイメージをイラストにする作業をずっと続けていた。
といってもこれは仕事ではない。趣味のようなものだ。創作の幅を広げるためにも、描きたいと心から思えるものを自由に描きたかった。
描いたイラストは自分の作品として保管する一方で、もう一枚プリントして福生さんにも渡した。福生さんはいつも、少し照れた様子で受け取ってくれた。
福生さんの作品を読み続けるうちに、あることに気づいた。
どの小説にも共通して出てくる女性がいる。主役だったり脇役だったり、出てくる立場もときには時代もさまざまだが、性格や行動の描写から同じ人なのだとわかった。
きっとモデルがいるのだろう。
「どんな方がモデルなんですか?」
あるときわたしは気づいたことを伝え、そう尋ねてみた。
途端に福生さんの表情が険しくなった。
(ひょっとして聞いちゃいけないことだったのかな……)
でも、もう遅い。
「別に、そういうわけじゃ……」
福生さんは苦々しげな顔を見られたくないとでもいうようにさっと振り返り、自室に戻ってしまった。
(聞いては悪いことだったんだろうな。もう触れないようにしないと……)
謝ってもさらに気分を悪くさせそうだったし、そう決めて自分も部屋に戻った。
避けられている気がする

最近、想子ちゃんに避けられている気がする。
どうしても気のせいだとは思えなかった。
ある日、部屋を出るタイミングが同じになった。想子ちゃんが慌てたように中に戻ろうとするのを呼び止めた。
「どうしたの?最近、なんか変だよ」
避けられている、とは言わないでおいた。何にしても、核心を突くような質問をいきなりするのはよくない。少しずつ外堀を埋めていったほうがいい結果が出ることは、経験で知っている。
「特に何も……気のせいじゃないですか?」
想子ちゃんは顔を真っ赤にしてドアを閉めた。目が泳いでいて、明らかに動揺していた。
やっぱり、気のせいじゃなかった。
同時に直感した。
想子ちゃんは掟のことを知ったのだ。そして多分……俺に好意を抱いてくれているからこそ、避けている。
思い込みではない……と思う。ストーカー事件があった日、家に帰ってから、想子ちゃんは何か様子がおかしかった。そのあたりまで含めて考えれば、そんなふうにつながる。
であれば、今は想子ちゃんの意志を尊重するべきなのだろう。
無理をしてこれまでと同じ「仲良し」の状態を保とうとすれば、次のストーカーをつくってしまうことにもなるかもしれない。
「彼女」と再会したあの日、想子ちゃんの前では何気ないふりを装っていたけれど、内心の焦りと不安は相当なものだった。
彼女がストーカーになったのは、俺のせいだという罪の意識もある。想子ちゃんがいなかったら、以前敦に「彼女にはもう優しく接するな」と忠告されたことも無視して、声をかけに行ったかもしれない。
謝るために、だ。
もっと早く拒んでいれば立ち直れたかもしれないのに、中途半端に優しくしてしまったばかりに彼女は壊れてしまった。
想子ちゃんの部屋のドアの前に立つ。ノックはせず、心の中でそっと話しかけた。
(これからは想子ちゃんのこと、少し離れて応援するから)
いつものように頭をぽんぽんと撫でてあげたいと思って、だがすぐにそんな自分がいやになる。
考えもなしにしていたそんなことも、想子ちゃんをきっと苦しめた。
小さくため息をつく。それは、心の穴に開いた穴から漏れていく空気のようだった。
俺も、少しずつきれいになっている想子ちゃんのことを、好きになり始めていたのだと思う。
それからも挨拶をされたり、メイクについて聞かれることはあったが、俺たちの間には明らかに壁があった。
そっけなく返すようにしているが、内心はとても苦しい。
そんなある日、想子ちゃんのお姉さん、瞳子さんからメールが届いた。
有本さんからのメイクのアドバイスは、ほかのカリスマさんたちへの伝言やメモの形で届くようになった。
わたしが目指していることを、話さないながらも外見やちょっとした行動からきちんと理解してくれるのは、さすがだと思う。
彼はあるとき、ナチュラルながらも優しく透明感溢れる印象になれるおすすめのコスメとして、コイイロ ファンデーションとコイイロ ブライトクリーム、コイイロ チークをくれた。
「ブライトクリームはハイライトがわりにして使ってみて。チークは米粒ぐらいの大きさを両頬に乗せて、手で伸ばすんじゃなく、ファンデーション用の大きめのスポンジでポンポンと軽く叩くようにしながら伸ばすと自然な感じになるよ」
そんなメモの通りにメイクをすると、確かに自然に見えながらもパッと垢抜けた顔になった。
だが、「きれいになったね」といちばん言ってほしい人は、そばにいないのだった。
一方、仕事では進展もあった。
福生さんが、わたしが描いたイラストを新刊の表紙にしたいと言ってくれたのだ。
「イラストを描いてくれた作品の続編なんだけど、自分の考えるイメージによく合っていたからね」
イラストレーターとして幅を広げられることが素直に嬉しかったし、怒らせてしまったと思っていた福生さんと思わぬ形で近づけたことにもほっとした。
内野さんの紹介だという編集者さんからも連絡が来て、新たな企画を進めることになった。
だが、仕事がうまくいけばいくほど、ふと気を抜いたときに恋愛が叶わない苦しさを強く感じた。
当たり前だが、仕事と恋愛は別物だ。一時的に忘れることはできても、完全に代わりにすることはできない。
前向きに頑張ってはいるつもりだけれど、わたしだって不完全なのだから、ときどきは泣きたい気分になることもある。
ビューティ道場を卒業するまでで、有本さんのことを嫌いになれるか、何も思わないようになりたい……
それが今の願いだった。
そんなある日、わたしは有本さんとお姉ちゃんが電話で話しているのを偶然耳にした。
有本さんの部屋の前を通りかかったとき、声が聞こえてきたのだ。有本さんが「瞳子さん」と名前を呼んでいたことで、お姉ちゃんだとわかった。
背筋が冷たくなる。そのくせ顔は熱くなって、額からいやな汗が滲む。いやな予感がした。
こんなことをしてはいけない――そう思いながらも、ドアに近づいて耳をそばだてる。
二人は仕事がないはずの休日に、会う約束をしていた。場所はこの間三人で会ったカフェ。一緒にランチをしようと話していた。
(でも、わたしにもきっと知らせてくれるはず)
そう思って、自分を安心させようとした。有本さんとは、お姉ちゃんに関することで進展があったら知らせてほしいと約束したのだから。
でも、しばらく待っても有本さんからもお姉ちゃんからも何の連絡もなかった。
それはつまり、わたしを置いてけぼりにして二人だけで会おうとしているということだった。
わたしの気持ちがすっかり不安定になってしまったことに最初に気づいたのは福生さんだった。
彼はわたしが渡した表紙のラフ案を手に、わたしの部屋にやってきた。無表情ではあるが、底から怒りが沸き上がっているのがわかる。
「なんだ、この絵は」
紙の束をこちらに突きつける。
「こんな適当に描いたような絵がほしいわけじゃない。私は魂を削って小説を書いている。その小説に、こんな表紙はとてもつけられない」
彼は容赦なかった。自分でも納得できてしまうのがつらかった。
せめて……せめて仕事ではもっと結果を出したいと思ったのに、わたしはそれさえもできないのだろうか。
自分が情けなくて仕方がない。
涙が溢れ出してくる。いけないと思うが、どうしようもならなかった。
「……何か、あったのか」
福生さんの口調が若干柔らかくなった。
それだけで、ふっと気が緩んでしまう。今まで自分を追い詰めすぎていたのかもしれない。
わたしはすべて、福生さんに打ち明けた。
「ふん、そうか……」
話を聞き終わると、福生さんはこんな提案をしてきた。
あらすじ
悠のストーカーに遭遇した一件以来、想子は悠への想いに気がついてしまった。
しかし、道場では同居人同士の恋愛は禁止されていると聞かされ、悠のことをこれ以上好きになるわけにはいかなかった想子は、悠と距離を置くことにする…。