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官能小説 同居美人 プロジェクトB 〜想子編〜 シーズン8
「好きだと思えたところ」
わたしが手こずることになったのは、ウェディング・プランナーの小島泰明さんが教えてくれる「結婚にもつながる自己アピール力磨き」だった。
千織ちゃんも苦戦していたみたいだけれど、たぶんわたしとは違う理由だろう。
わたしは小島さんから、自己否定感の強さを改善しなければいけないといわれた。
ビューティ道場にやってきてからは、以前よりもずっと自信がついた。だが、生まれてからほとんどの時間付き合ってきたこの考え方や感じ方は、そう簡単になおせるものじゃない。
何か褒めてもらっても、「自分が褒められるわけがない、きっと偶然だ」とまずは思ってしまうし、仮にそれが本当だったとしても、またすぐに元の状態に戻って、以前以上に劣等感に塗れることになるのではないかと怖くなる。一度舞い上がって谷底に落ちるよりは、最初から底辺にいたほうがましだという気持ちだ。
ここに来てつけた自信だって、さんざん傷つき、まわりにも迷惑をかけた結果つけたものだけれど、普通ならみんなもっと簡単に手に入れるものではないだろうか。
それに、今はその自信が卒業に向けてのよりどころになっているものの、じゃあそこからさらに次のステップへ、という器用なことが、なかなかできない。
「むやみに自信を持つことは危険だが、なさすぎるのも問題だ。自分はまるっきりダメだけど受け止めてほしいなんて願うのは、相手に対する甘えだよ。もちろん人間なのだから完璧な必要はないし、いくつかあるダメなところのカバーをお願いするのは大事なことだけど、あまりに多くを委ねようとするのはよくない。相手にばかり負担になるそんな関係は、長くは続かない」
小島さんの説明に、確かに……と納得する。でも、納得したからといって、すぐに変われるものでもない。
「じゃあ、こうしよう」
と、小島さんはある方法を提案してくれた。
「毎日3つずつ、その日、自分が自分のことを好きだと思えたところを練る前に書き出すんだ。『できたこと』じゃなくていい。『好きだと思えたところ』というのがポイントだよ」
(好きだと思えたところ、か……)
だがわたしは、そんなことさえ上手にできなかった。どうしても、ああすればよかった、こうするべきだった、もっとああできたのに……と、嫌いになるようなところばかり思い出してしまう。
せいぜいひとつ書ければいいほうだった。
「いとおしいと思う気持ち」
ある休日、俺は想子ちゃんを外出に誘った。
とくに目的があったわけじゃない。ただ、想子ちゃんが何かに悩んで沈んでいるのが何となくわかったから、町を歩くことで気分転換になればという思いだった。
カレンダーの関係ない仕事をする俺たちの休日は、世の中の人にとっては平日で、町はどこもそこそこ空いていた。
それでも、「どこか行きたいところがある?」と尋ねると、想子ちゃんは「静かなところ」と答えた。
俺たちは都心にある、大きな公園に行くことにした。
一周するのに二時間はかかるであろうそこは、どこも初夏の光を受けて木々の葉をきらきらと輝かせていた。お母さんと子供や、仕事の合間に休憩をしているらしいサラリーマンなどといった人々があちこちに点々としている。
何があったの、とは聞かないことにした。沈んでいるときにあまり詮索されてもイヤだろう。話してきたら受け止めようと思った。
爽やかな初夏に似合わない、どこか暗く、硬い雰囲気がしばらくの間、俺たちを取り巻いていた。
が、それもそう長くは続かなかった。
「きゃっ!」
俺の前で石段を登っていた想子ちゃんが悲鳴を上げた。
位置からして、スカートを履いた想子ちゃんを見上げないようにしながら続いていた俺だったが、その声にとっさに顔を上げてしまう。
「お……」
思わず固まってしまった。
目の前には、想子ちゃんのお尻があった。
風にスカートが吹き上げられたのだ。
(うわ、Tバック……!)
きれいになったとはいっても、おとなしい印象のある女の子だったから、そんなセクシーな下着を選んでいたのは意外だった。
もっと意外だったのは、お尻がすごーくキレイだったことだ。
一瞬見えただけだが、白くてすべすべで、男だったらみんなきっとちょっと噛んでみたくなるような、そんな……って、何を言っているんだ、俺は。
「ご、ごめんなさいっ!」
なぜか想子ちゃんが謝って、スカートを押さえつつ振り向く。顔が真っ赤だ。
「あ、あの、わたし……好きなところを何とか見つけたくて、それで、悠さんが教えてくれたプリリーナで、お尻がきれいになったから、べ、べつに誰かに見られたいわけじゃないけど、Tバックとか、挑戦してもいいかなって、その、あの……」
完全に混乱している。何を言っているのかさっぱりわからない。好きなところを見つける? 何、それ。
まずは近くのベンチに座って落ち着いてもらうことにした。
想子ちゃんは小島さんに卒業に向けて指導されているものの、そのアドバイスをうまく実行できないことについて悩んでいると打ち明けてくれた。気のせいか、さっきより少しだけ肩の力が抜けているように感じる。
「そうか。でもそうやって自分に厳しくて、常に最悪のパターンを考えられることは、俺は長所だと思うけどね」
「長所?」
正直な意見を述べると、想子ちゃんは驚いた顔をした。
「あのさ、短所って、どんな場所にいてどんな生き方をしているかで、長所にもなり得るんだ。そう考えたらちょっと気が楽にならないかな。俺はどっちかというと楽天的すぎて、何でもかんでもうまくいくと根拠もなく思ってしまうのがダメなところなんだ。だから想子ちゃんと一緒にいたらちょうどいいのかも」
「有本さんと、一緒に……」
想子ちゃんの頬がほんのり赤くなる。
その様子がかわいくて、俺は秘密にしようとしていたことを思わず口にしてしまった。
「じつは今、想子ちゃんのためだけのルージュをつくっているんだ。想子ちゃんにいちばん似合うと思う色を調合して、化粧品メーカーの友人に頼んで製品にしてもらってる。卒業のお祝いに渡すよ」
「本当?」
笑顔がぱっと咲きこぼれる。
いとおしいと思う気持ちが、ふいに溢れ出した。
「大丈夫、君ならできるよ」
だめだ、止まらない。
俺は彼女の頬に、唇を近づけていく。
「キスされる!?」

有本さんに、キスされる――!?
思わず目をぎゅっと閉じる。
……ん? なかなか来ない。
おそるおそる目を開けると、同時に耳元でチュッと舌が鳴る音がした。
「今はこれくらいで我慢するよ」
熱い息をはらんだ囁き声。
また、顔が赤くなる。今日何度目だろう。
「あ、あの……っ」
顔を上げると、有本さんはニッと笑って言った。
「続きは、卒業したらね」
短所も、状況次第では長所になる――そう聞いてから、確かに気が楽になった。
その日から「好きだと思えたところ」が2つは挙げられるようになった。「いいこと」や「よくできたこと」でなくてもいいのだ。たとえばドジを踏んだとしても、自分らしくて悪くないと思えれば、それも数えた。
まだ「満々」というわけにはいかないが、少しずつ自信がついてきているのがわかる。
そう感じられるようになると、まわりの人たちのいいところも以前よりももっと見つけられるようになってきた。
ある夜のこと、有本さんがほろ酔いで帰ってきた。
ちょうど眠る直前。部屋で飲んでいた安眠効果のあるハーブティのカップを、キッチンに戻そうと部屋を出たところだった。
わたしは子供のころから神経質で、ベッドに入ってもなかなか寝つけない体質だった。加えてその日は仕事が夜遅くまで長引いてしまい、妙に目が冴えていた。
だから、ハーブティを飲んだのに加え、リビドー ジェルパフューム ディープマスカットも、首すじや耳の裏に少しだけつけていた。
いつしかわたしは、マスカットの香りがすっかりお気に入りになっていた。単にいい香りだと感じるだけでなく、ゆったりとした気分にもなれる。
有本さんは、隣の自分の部屋に入ろうとしていた。
「あ、お帰りなさい」
赤みがかった頬から、お酒が入っているのだとすぐにわかった。
「もう寝るの?」
「はい、明日は朝から打ち合わせがあるので……」
軽く会釈して、通り過ぎようとする。
そのとき、強い力で体を引っ張られた。
何が起こったのか理解する間もなかった。
気づくと、わたしは彼の部屋に連れ込まれていた。
「な、に……」
ほとんど反射的に逃れようとしたが、できなかった。壁に押しつけられ、顔の両側には手を突かれて、狭い檻に閉じ込められたような格好になる。
有本さんの目は、いつもより潤んでいた。
ぞくっとする。うれしいのか、怖いのか、わからない。
こんなことをするのはお酒のせい? それとも……
「俺、嫉妬しているんだよね」
「え?」
有本さんにはあまりにも不似合いな言葉に、耳を疑った。
「想子ちゃんがメイク以外の教科を頑張っていることにさ。どんどんきれいになっているから、心配なんだ。じつはけっこう無理して自分を抑えてる」
有本さんは片手を離し、指でわたしの顎をくいと上げた。
唇が近づいてくる。
今度こそ……キスされちゃう!
「けじめはつけなきゃ」
「だ、だめですっ!」
思わず有本さんを突き飛ばした。
有本さんのことは好きだ。こんなふうに独占欲を見せてくれたことも、本当はうれしい。でも、好きだという気持ちのままに、ちゃんと納得した上で守ろうと決めたルールを破るわけにはいかない。
「何やってるんですか、有本さん!」
わたしは、彼を叱った。
「『卒業したらきちんと付き合う』って約束したのに、こんなことしたら卒業できなくなっちゃいます! けじめはちゃんとつけなきゃ。たとえバレなかったとしても、信じてくれている人を裏切ることになるのは、わたしはイヤです」
有本さんは呆然としてこちらを見つめている。おとなしいイメージのあるわたしが、こんなふうに怒るなんて思わなかったというように。
わたし自身も意外だった。こんなことを言ったら嫌われるかもしれないのに。
「……ごめん」
有本さんはぽつりと呟いた。
「焦ってた。想子ちゃんが本当に俺でいいのか、早く確かめたくて……」
「……有本さん?」
彼の声は、いつもとは比べものにならない弱々しかった。
「本当に有本さんでいいのかって……どういうことですか」
悠さんはうつむきながら、少しずつ話して聞かせてくれた。
派手な仕事をしていて、女性に囲まれることの多い有本さんは、今まで好きになった女性に「遊びの相手」として見られることが多かったという。本気で好きになった人に気持ちを打ち明けて、疑われたり、距離を置かれたりしたこともあった。
「だからさ、今のこの状態がときどき無性に不安になるんだ」
わけのわからないことを言っているとは思わなかった。それは、心に染み入ってくるように理解できた。
(有本さんでも不安になるんだ)
過去に否定されたり、拒まれたりしたことを思い出して。
わたしの抱いていた感情は、そんなに特別なものではなかったのだろう。
「だから、俺のためにも早く卒業して。じゃないと壊れそう」
わたしは有本さんの手を強く、包み込むように握った。
「もちろんです。だから安心して」
その夜は、やっぱり眠れなかった。
有本さんも苦しんでいた。あんなに自信があるように見える人なのに。
うぅん、彼だけじゃない。
スタイリストの松垣さんだって、苦しい恋をしていたことを話してくれた。ときどきすごく寂しそうな表情をする恋愛小説家の福生さんも、何か抱えていることがあるのかもしれない。それに、ストーカーのなぎささんに接触していた料理研究家の池部さんだって。
苦しんでいるのはみんな同じ。内容が違うだけ。以前も思ったことがあったけれど、有本さんの思わぬ一面を見た今、より一層強く実感する。
でもカリスマさんたちは、それぞれの苦しみを背負いながらも、世の人からカリスマと呼ばれるほどに各々の得意分野を極め、今もその地位を譲らない。それどころか、何の面識もなかったわたしたちを導いてくれようとまでしている。
わたしももう、覚悟を決めなければならないのだろう。
また何かに叩きのめされて、また劣等感に塗れることになったとしても。
それでも前に進み、その中で自分だけの自信を手に入れ、磨いていく覚悟を。
翌日、有本さんから謝られた。
決して酔った勢いではないが、いい香りがして、普段から秘めていたことがとめどなく溢れてしまったと、彼は言った。
「いいんです。そんなときもありますよ。わたしだって、有本さんにはたくさん受け止めてもらいましたから」
笑うと、有本さんはほっとした顔を見せてくれた。
わたしも千織ちゃんも、順調に卒業への道を進んでいた。
そんなとき、池部さんからある相談を受けた。
「出ていこうと思っている」
「卒業に向けて大変なときにごめんね、想子ちゃんなら、わかってくれそうな気がして……」
「お世話になった分を少しでもお返しできるのならうれしいです。どのぐらい力になれるかはわかりませんが、お話しして下さい」
そんなやりとりの後に池部さんから打ち明けられた内容に、わたしはただただ驚いた。
池部さんは、なぎささんに思いを寄せているそうだった。
だからこそ放っておくことができず、結果的に彼女のストーキングの手助けとなるようなことまでしてしまった。
「じつは僕は、想子ちゃんと千織ちゃんが卒業したら自分もビューティ道場を出ていこうと思っているんだ。自分がこんなに混乱したままじゃ女性を幸せになんてきっとできないし、またみんなにも迷惑をかけてしまうと思う」
「そんな……」
池部さんがそんなことをする必要があるだろうか。悪いのは、こういっては何だがなぎささんだ。
わたしは止めたが、池部さんはもう決めたと言った。
「でも、僕がここを離れたら、なぎさちゃんが僕と連絡を取り合う理由がなくなる。きっと彼女は僕から離れていくだろう。それだけがとても寂しくて、ね。相談というよりは、想子ちゃんだったらこんなときどうするか聞きたかったんだ。僕たち、少し似ているような気がしたから」
池部さんは微笑んでいたが、泣き顔の上に無理に薄い仮面をかぶせたように、その笑顔はいびつに見えた。
「少し、時間を下さい」
考えた末、わたしはそれだけ答えた。
こんなことまでするのはお節介だろうか。
それに、篠村さんだってたぶんいい顔はしないだろう。
でも、池部さんがわたしに本当に望むのは、ただ意見を言うことだけではないはずだ。
彼は明らかに、助けを求めていた。
わたしはたぶん近いうちに卒業する。でもお世話になった人が悩んでいるのを見過ごして自分だけ幸せになって、それでよかったとしたくはない。それを仕方がないと思える人間にはなりたくない。
やれることは、やろう。
わたしは以前なぎささんと別れるときに交換した連絡先にメールして、そのときに貸したジャケットを返してほしいので会ってくれないか頼んだ。
なぎささんのほうも、ちょうどジャケットがクリーニングから戻ってきたので、連絡しようと思っていたという。
わたしたちは道場の最寄り駅からは離れた、大きなターミナル駅の近くのカフェで待ち合わせをした。
「あぁ、池部さんね。知ってるよ、彼の気持ちなら」
なぎささんが池部さんを拒絶するようなことにならないよう、関係ない話題からカマをかけつつ少しずつ話を進めていこうとしていたのに、彼女はあっさり話の終着点近いところまで一気にジャンプしてみせた。
もっとも、あんなに心配されて気づかないほうがおかしいのかもしれない。
「いい人だよね。彼のことを好きになれたらよかったって思ってる」
それはつまり、今現在はまったく脈がないということだろう。
「今もまだ、やっぱり有本さんのことが好き?」
わたしはもうひとつ気になることを尋ねてみた。
「悠、ね……」
なぎささんは半分ほどになったアイスコーヒーをストローでかき混ぜ始めた。さっき入れたミルクも砂糖も、もう十分に溶けきっているはずなのに。
「好きというより、はっきり決着がついていないから執着が残っている感じかな」
「決着?」
「うん。私、なんだかんだで悠にふられていないんだよ。はっきり『お前とは付き合えない』って言われたらすっきりするのに、それがないから希望を持っちゃうの。もう無理だって理性ではわかっているんだけどさ。逆に、そう言ってもらえたら次に行けると思うんだよね。私がストーカーしてたのって、悠からそんな言葉を聞きたかったっていうのもあるような気がする」
その後、あたりさわりのないことを話して、わたしたちは別れた。
有本さんがなぎささんをきちんとふれば、なぎささんが池部さんに目を向けてくれる可能性が出てくる。
わたしは悩んだ。
有本さんに、なぎささんに会ってもらえるよう頼むかどうか。
下手をしたら、有本さんへの恋心が再燃してしまうこともあり得る。ずっと彼のことを考えていたというのだから、直接会うことが劇薬に近い効果をもたらしてもおかしくない。
いっそ牽制として、わたしと有本さんが好き合っていると先に伝えてしまうのはどうだろう。
でも、感情が高ぶってストーカーにまでなったなぎささんのことだ。それで強いショックを受けたら次はどんな行動を起こすか、予想がつかない。
じゃあ、ずっと隠し続けるべきなのか。そんなことができる?
わからない、どうするべきなのか……
あらすじ
有本からキスを迫られるも道場の掟を守り「卒業したら」と約束した想子。
一方、以前有本のストーカーだったなぎさについて池辺から相談を受け…