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官能小説 二度目の恋に落ちたから 8話
何を話そう
(どうしたらいいんだろう)
帰りの電車の中で、蓉子は途方に暮れた。
起こったことの衝撃が大きすぎて、次に何をすればいいのかわからない。良に連絡をするべきなのか。連絡するとして、何と切り出せばいいのだろう。
(可奈、どうしよう)
蓉子は何度もスマホのメール画面を開いたり閉じたりした。何度見ても可奈からの返事は届いていない。
そのかわり、受信箱のいちばん上には日下秋人からのメールがあった。今日の昼過ぎに届いた「撮影データをお送りします」という件名のメールだ。
(元はといえば、日下さんがあんなことをしなければ……)
数日前、日下に後ろから抱きしめられた感触がよみがえる。もう忘れてしまいたくて、頭を横に振った。
日下を憎めたらよかったのだろうか。だが、あのときの蓉子は困ると感じながらも、少しだけ心が弾んだ。
すぐに「そんなことではいけない」と自分を叱ったけれど、叱ったからといって、そういう気持ちがあったことを否定できるものではない。
そんな「引け目」があるから、どうしても日下を責める気になれない。
日下とはあれ以来会っていないが、メールはこれまでと変わらない、感情を交えず淡々とした語り口だった。自分のことはきちんとあきらめてくれただろうか。
次に会ったときには、念のため「その気はまったくないこと」を、もう一度告げておいたほうがいいかもしれない。気が重いけれど。
帰宅すると、体を引きずるようにしてシャワーを浴びた。髪を乾かしてすぐにベッドに倒れ込む。
もう何もやる気が起きない。何かをきちんと考えることさえ億劫だ。
枕元に置いた、キャンパス素材のケースが視界の隅に映った。ケースの中には可奈が送ってくれたラブグッズが入っている。
そのケースを見たくなくて、蓉子は早々に部屋の電気を消した。
衝撃
目が覚めると、汗をびっしょり掻いていた。いやな夢をたくさん見たことは覚えているが、その記憶は曖昧だ。
学校に行く途中、通勤の電車の中で可奈からの返事をやっと受け取った。
『ごめん。今、忙しくてどうしても時間が取れないんだ。またやりとりができるようになったら、こっちから連絡する。蓉子なら大丈夫だから、後ろ向きにならずにがんばって!』
土曜の朝ではあったが、それなりに人の多い電車の中で、蓉子は軽いめまいを覚えた。たまらず吊り革を強く握り込む。
(可奈には頼れない……)
可奈に助けてもらえないとしたら、これから何を指針にして、どんなふうに毎日を送ればいいのだろう。
(ううん、今までが恵まれすぎていたんだ)
自分に言い聞かせる。可奈は忙しい仕事の合間を縫い、休んでもいいはずの時間を割いてまで蓉子の相談に乗って、ラブグッズも送ってくれた。突き放されたように感じてしまう今のこの状態が、本来なら当たり前なのだ。
(がんばらなきゃ。ここまで協力してくれた可奈のためにも)
吊り革を握り直し、蓉子は車窓を流れていく住宅街の風景を見据えた。
だが、その日はさらに蓉子を打ちのめす出来事が待ち受けていた。
夕方、教員室にふらりと良が現れたのだ。
「斉木先生。生徒さんが、先生にお話ししたいことがあると」
事務員に声をかけられて、書類の整理をしていた蓉子は顔をあげた。
「廊下にいらっしゃいます」
事務員はそれだけ告げると、自分の席に去っていった。教員室を出た蓉子はそこにいた良を見て、悲鳴をあげそうになったほど驚いた。
「ど、どうして、高畑さんがここに……」
今日は良のクラスは休みだ。良からの返事も相変わらずなかった。だから、会えないとばかり思っていたのに。
「僕、学校をやめることにしたんです」
「え……っ」
衝撃が大きいせいか、蓉子は良の言葉は「わかる」というよりも、後頭部を殴られたような痛みとして受け取った。
「先生、申し訳ありません」
良は突然、深々と頭を下げた。廊下の向こうを歩いていた生徒たちが、何か異様な雰囲気を感じ取ったらしく、ぽかんとこちらを眺めている。
「僕はお詫びをしてもしきれないことをしました。あんなことをした以上は、もうこの学校にはいられません。だから、さっき届けを出してきました」
「届け…?」
いいんです、気にしないでください。そう言ったほうがいいのだろうか。しかし、気にしないでと言えるようなことではなかった。良だからいいけれど、たとえば日下にあんなことをされたら間違いなく恐怖して、それから激怒する。
(こういうときには、なんて返したらいいんだろう)
肩に力が入る。考えなきゃ。考えて答えなきゃ、良がいなくなってしまう。
でも、答えて、経験がないばかりにまた間違えていたら……?
――ごめん、あの夜のことは、悪かったと思ってる。
まだはっきりと覚えている、「初めての彼」の声。顔はもう忘れかけているパーツだってあるのに、そうきっぱり振られた声は忘れられない。その声が頭の中で何度も繰り返される。
間違えていたら、またあんなふうに振られるのかもしれない。
顔を上げた良は、強く下唇を噛んでいた。その痛みのせいなのか、表情が歪んでいる。
「もう目の前に現れないので、許してください」
もう一度、良はさっきより深くお辞儀をする。そして、去っていこうとした。
待って。待ってください。そう言いたい、たった一言。でも、一言がどうしても出せなかった。
良が廊下を歩きだす。背中が少しずつ離れていく。ひとつひとつの動きが、目に焼きつくように、ゆっくりとして見えた。
一連になった一瞬一瞬が、かけがえのない瞬間なのだと教えるように。
右手の、中指の指先がぴくりと震えた。蓉子にできたのは、たったそれだけだった。
途方に暮れて
ぬけがらのようになりながらも、何とかその日の授業をこなして家に帰った。
家に着くと服を着替えもせず、シャワーも浴びず、枕元のケースからラブグッズを出してベッドに並べた。
ローション、プチドロップ、バイブ……。ベッドの上で、良との初エッチを夢見てカラダを磨いていたグッズたちに向き合って座る。もし誰かがこの姿を見ていたら、蓉子が可奈のかわりにラブグッズにアドバイスを求めているようだと思っただろう。
(私から高畑さんに告白してみようか)
さっきからずっと、そんな考えが頭の中を駆け巡っている。
蓉子のほうから好意をはっきり示しさえすれば、良はきっと戻ってくる。
(もう、そうしないといけない時期なのかもしれない。でも……でも、私は、まだ……)
自信がない。
ラブグッズを使っていろいろ試したとはいえ、十分な知識や経験のない状態で心を開いて良を受け入れて、本当に大丈夫だろうか。
また間違えて、失うのはいやだ。
(傷つきたくない)
テーブルに置いたスマホは、鳴らない。蓉子はラブグッズを見つめたまま、夜遅くまで考え込んでいた。
突然の訪問
自分の休日でもある日曜日を挟んで、蓉子は月曜日に学校に行った。
良からの連絡はなく、自分の答えも出せていない。答えが出ないというより、正確には勇気を出せないといったほうが正しい。
午前中のクラスを終えて教員室でお茶を飲んでいると、この間の事務員がまた蓉子に話しかけてきた。
「お客様が来ています。応接室にお通ししました。急ぎで確認したいことがあるそうで」
「どなた?」
「日下さんとおっしゃっていました」
どん、と胃の底に尖った重い石を置かれた気分になる。
会いたくない。だが、「急ぎの確認」というのが気になる。蓉子に直接見せて意見を聞いて、早急に対応したい写真のデータなどが出てきたのかもしれない。
(いやだけど仕方ない。仕事は仕事)
ドアをノックしてから応接室に入ると、日下がはっとした面持ちでソファから立ち上がった。蓉子は身構えた。
あらすじ
良の誤解を解こうとした蓉子だったが、なんと良に伝えていいかわからない。しかし、良から驚きの一言が…。