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官能小説 二度目の恋に落ちたから 9話
間違い
応接室でソファから立ち上がった日下は、その場を動かず、深々と頭を下げた。
(えっ)
こういうのをデジャヴというのだろうか。この間もよく似た光景を見た。
「申し訳ありません」
頭を下げたまま、日下は張ったような声を出した。
「自分はきっと、この間、斉木さんにとんでもないことをしたのだと思っています」
あれ、言い回しも似ている。
一週間も経たないうちに二度も、違う男性にこんなに平謝りされるなんてどういうことだろう。
「えと……頭を上げてくださいませんか。日下さん」
蓉子が困って顔を覗き込みかけて、初めて日下は頭を上げた。
これまで見たこともなかった、どこか幼い、少年のような必死さを感じさせる色が、日下の目に浮かんでいる。
仕事で来たわけではないことだけは、蓉子にもわかった。
「あの夜に会った方は、斉木さんにとって大事な方だったんですよね。必要であれば、俺から謝りに行きますので」
「意外……です」
呆気にとられたせいか、つい素直な気持ちが言葉になってしまった。
「意外とは」
こちらに切り込む語気の強さは相変わらずだ。たじろいだ蓉子は、正直に言うしかなくなってしまった。
「その、私にとっては日下さんは大人の男性の見本というか……こんなふうに謝ったり、そもそも謝るのが必要だと思うような間違いは起こさないという人という印象が、勝手にですけれど、あったもので……」
経験豊富そうというのが褒め言葉になるのかとっさに判断できなかったので、奥歯にものの挟まったような言い方になった。
「それは光栄というべきなのか」
日下は苦笑した。
「俺だって、それなりにいろんなことは乗り越えてきましたが、間違いは起こします。相手のあることで間違えたら、その相手に謝らないといけないですよね」
どことなく、子供に諭すような口調だった。冗談だと受け取られたのかもしれない。
「……経験はあっても、間違いは起こすんですね」
「そりゃあそうですよ。相手は人間なんだから、これまでの自分のやってきたことだけでは測れません。俺はそんな完璧な男じゃないですよ」
いやみだと勘違いしたのか、日下は肩をすくめかけながらも、おびえたように口元を歪めていた。
「だから、謝ります」
自分の恐れを振り払うかのように、日下は再び声を張った。今度はまっすぐに蓉子を見つめてくる。
「反省しています。これからも仕事相手として、今まで通りお付き合いいただけませんか。本当に、す……」
「ご、ごめんなさい! 私、ちょっと急ぎの用事があって……」
蓉子はさっきの日下に負けずに深く頭を下げてから、応接室を飛び出した。
連絡
そのまま学校を出た蓉子は、ポケットからスマホを取り出した。
電話帳を開き、「高畑良」のアドレス情報を表示する。
メールアドレスと電話番号。聞いてはいたけれど、かけたことのない電話番号に、蓉子は電話をかけた。二人が電話で通話したのは一度だけ。一緒に食事に行ったとき、待ち合わせ場所でうまくお互いを見つけられなくて、良から電話をかけてきた。
3コールほど呼び出し音が鳴った後で、良が電話に出た。
「高畑さん。突然すみません……斉木です」
「はい……」
良は驚いているようだったが、相手が誰かわからずにいる様子はなかった。電話番号をちゃんと登録してくれていたのだろう。
周囲で賑やかな若い男女の声がする。予備校の昼休みだろうか。
どうしよう。言わなくては。ああ、でも、やっぱり怖い。けれど今、ごまかして電話を切ったら、もう二度とやりなおせないような気がする。そんなのはいやだ。
また間違えたら? そのときは……きちんと謝ろう。謝って、やりなおしてもらうようにお願いしよう。さっきの日下のように。
何もしなければ、何も変わらない。ただ、持っているものを失っていくだけだ。
(私はできる限りがんばったわ。たとえうまくいかなかったとしても、がんばったことには自信を持てる)
そして、今度はその自信を少しずつ育てていけばいい。
蓉子は決心したように、ビルの間に広がる空を仰いだ。真っ青な空の真ん中に昇った、真昼の太陽が眩しい。
「私、どうしても高畑さんに伝えたいことがあるんです。今夜、会ってくれませんか」
今度は私から
蓉子は良と食事に行ったビストロを指定した。
平日の夜、ビストロにはそれなりに人は入っていたが、混雑しているというほどでもなかった。
ほどよく賑やかな店内では周囲に声が聞こえることもなさそうだ。
あの後、蓉子は応接室に残してきた日下に突然出て行ってしまったことを詫び、午後の授業を終わらせて、それからここに来た。電話を切った直後こそ落ち着かなかったが、時間が少しずつ冷静にしてくれた。
注文をとりに来た店員に、まずは二人分のジンジャーエールを注文する。食事は大事な話をしてからだ。でなければ、進むものも進まないだろう。
良はこれから水に溺れることがわかっているような青白い顔をしていた。それでいて瞳にだけは、何か固い覚悟を宿していた。日暮れかけた海辺に灯る灯台の光のような、小さいが確かな明かりだった。
「高畑さん。答えをお待たせしてすみません」
運ばれてきたジンジャーエールに口をつけて唇を濡らしてから、蓉子は良を改めて見つめた。良の輪郭がきゅっと引き締まった気がした。
蓉子も心を決めた。今日一日で何度心を決めたかわからない。けれど、これで最後だ。
「私も……高畑さん、いえ、良さんが好きです。だから……付き合ってください」
蓉子の気のせいだったかもしれないが……良は目に見えない何かにぶつかられたように、一瞬体をのけぞらせた。しかしすぐに両手をテーブルに突き、その力に持っていかれまいとするように耐える。
ぐぐぐ、と音が聞こえそうな様子で歯を食いしばり、力に逆らって、体を前のめりにした。イケメンなのが関係しているのかどうかわからないが、妙な迫力があった。
「斉木さん……蓉子さん!」
「は、はい」
「……ありがとうございます。うれしいです」
良はすっかり力が抜けたかのように、テーブルにつっぷした。あるいは、お辞儀をしたつもりだったのかもしれない。
初めての
数日後、蓉子は良とお互いバスローブ姿で向き合っていた。目の前には白いシーツが眩しいダブルベッドがある。
シャワーは別々に浴びたから、お互いの全部はまだ見せ合っていない。
二人は、良が予約してくれた海辺のホテルの一室。
告白したときに、蓉子は自分の秘密も打ち明けた。「これまでさんざん大人びた振る舞いをしてきたけれど、じつはほぼエッチの経験がない」ということを。
良は、まったく気にしない様子だった。
「俺だって、あまり経験ないですよ。だから、これから気持ちよくなれることを二人でいっぱい見つけていきましょう」
付き合って数日後、「これが蓉子さんの初めてってことにしちゃいましょう」良は思い出に残るようにと豪華なホテルを予約してくれた。
食事はここに来るまでに済ませてきた。ホテルの最上階にあるイタリアンだ。ワインでわずかに酔ったが、それが心地いい。
良は蓉子がセカンドバージンだということを気にしなかった。
あっけらかんと言われて、少し照れてしまったほどだ。
良は蓉子を抱き寄せた。耳元で囁く。
「脱がせて……いいかな」
調理準備室のことをまだ気にしているのか、やけに慎重に進めているように感じる。
蓉子は黙ってこくりとうなずいた。ここまで来たらそんなこと聞かなくてもいいのに、少しもどかしい。けれど、セックスに限らずいろんなことを試してみて、よかったことや今イチだったことを探して、初めてかけがえのない二人だけの幸せをつくり上げていけるのだろう。
良の手が蓉子のバスローブの紐をほどく。バスローブがはらりとはだけて、肩から滑り落ちた。
バスローブの下は、今日のために選んだランジェリーをつけていた。薄いレース生地に、小さなバラの花があちこち散っている。フランス製の高級なもの。これが「初めて」なら下着にまで気を使いたくて、ちょっと奮発してしまった。
「あ、や……っ」
いざとなると恥ずかしくて、胸とアソコを手で隠してしまった。ただでさえレースは薄くて、乳首もヘアも透けているのだ。
「手、取って。きれいだよ。その下着、似合ってる」
だから、もっとよく見せて。そう言って良は蓉子の手首を握って下ろさせ、胸元に唇を近づけてきた。調理準備室での、強引だった良を思い出す。
ちゅっ、ちゅっと音を立てて、胸の上のほうに何度もキスをする。
「あ、んっ……」
思わず腰を引こうとする蓉子だったが、良にしっかり腰を抱かれてしまっているので逃げられなかった。
→NEXT:良は蓉子の胸元に、何度もキスの雨を降らせて…(『二度目の恋に落ちたから 最終話』)
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あらすじ
蓉子のところにやってきた日下。以前の一件から、日下に対して警戒をしていた蓉子だったが…。