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官能小説 同居美人〜番外編〜 ワケありイケメン 松垣洸太〜ワケありの理由〜
「人生をずぶずぶと壊している」
俺は厳しい環境にいたほうが伸びるタイプだと思う。
自分でいうのも何だけど、危機感をバネにできると自分では分析している。
でも、だからといって褒められるのもきらいなわけじゃない。
スタイリストを目指したのだって、きっかけは褒められたからだ。
俺は昔から私服で友達と会うと「センスがいい」といわれることが多く、高校生になった頃には買い物に行くときには俺を呼べと噂になっているほどだった。
「洸太はさ、絶対スタイリストになるべき!」
男女問わず友達からそう後押しを受け、俺は服飾関係の専門学校に進学し、卒業後はカリスマスタイリスト・門前綾子のアシスタントになることができた。
門前さん――俺はずっとモンさんと呼んでいるが――は人使いが荒かったが実力は確かで、アシスタントを務めた5年の間、本当に多くのことを学ばせてもらった。
俺は彼女にのれん分けしてもらう形で独立し、今はもう以前ほど頻繁に顔を合わせることもなくなったが、たまに酒など飲もうものなら、必ずといっていいほど出てくる話題がある。
それが、この話だ。
―――
モンさんのアシスタントを始めて2年ほど経った頃。
彼女の元に、ある大きな仕事が舞い込んだ。
元・子役として活動していた「鈴村りょう」が芸能界に復帰するので、専属スタイリストになってほしいというのだ。
昔からお世話になっているという芸能関係の人が持ってきた話だったのでモンさんは断らなかったが、その実は乗り気ではなさそうだった。
気持ちはわかる。
鈴村りょうはかわいい子だし、子役時代は俺も好きだった。けれど今は……
子役を引退してから数年後、彼女はいったい何があったのか、いつしかゴシップニュースの常連となっていた。
その当時で確かまだ20歳そこそこだったはずだが、スピード結婚にスピード離婚、アル中、深夜の徘徊などなど、奇行が多く取沙汰されていた。
しかもその背後にはいつも違うダメ男がいるらしいことも、格好のワイドショーネタになった。
ゴシップの半分以上は、もともとはごく小さい火種に他人が面白おかしく尾ひれ背びれをつけたものだとわかっている。それでもこれほど常連になるのは、やはり何かあるのだろうと思わざるを得ない。
人生を自分でずぶずぶと壊している人。それが、俺の彼女に対する印象だった。
「洸太、こりゃ、面倒な仕事になるかもしれないよ」
モンさんは小さく溜息をついた。
―――
だが、実際に会ってみると、りょうさんはとても真面目そうな人だった。
ちゃんと時間も守るし、礼儀正しくもある。まぁ大人としては当たり前なのだが、さんざんゴシップ記事を目にしていたので、その当たり前のことをちゃんとするだけでも好印象だった。
「私のことは週刊誌などでご覧になっていると思います。世間をお騒がせしてしまったこと、心から反省しています。これからは心を入れ替えて、真面目に芸能生活を送っていきたいと思ってます。どうかよろしくお願い致します」
モンさんの事務所に挨拶に来た彼女は、そう言って深々と頭を下げた。
むしろほかの芸能人よりしっかりしているぐらいだった。
モンさんも俺も根は単純なので、それだけですっかりりょうさんに対する見方が変わった。
「うん、いいよいいよ。私が迷惑をこうむったわけじゃないしね。過去のことは忘れて一緒に頑張ろう」
モンさんはさっそく、彼女の服のサイズを詳しく知りたいと事務所で簡単な試着会を始めた。
彼女が取り出してきたのは、どちらかといえばふんわりしたかわいいイメージのりょうさんには似合わなさそうな、クールで格好いい系統の服だった。中には男物のジャケットもあった。
が、さすがはモンさんだ。実際に着てみると、見ているこちらがぞくっとするほどりょうさんに似合った。
「りょうちゃんはかわいい子だって見られることが多かったけど、持ち味はそっちじゃないと思うんだよね。ね、こういうほうがじつは好きでしょ?」
「はい……!」
りょうさんの声は小さかったが、本当にうれしそうだった。
「彼女に恋をしている」
事務所に力があったおかげもあって、りょうさんは復帰後すぐに次々と仕事が舞い込んだ。
その中には、ある人気女性誌のモデルもあった。
その、最初の撮影の日だった。
集合時間から三十分経っても一時間経っても、りょうさんは現れなかった。
担当の編集者が何度もマネージャーに電話を入れたが、「もう少し待って下さい」ばかりで埒が明かない。
それからさらに一時間ほどして、やっとりょうさんが到着したが、同時に現場は凍りついたように静まり返った。
マネージャーはスタジオに入るなり泣きそうな顔で、「すみません!」と頭を下げる。土下座でもしそうな勢いだった。
りょうさんの目は、真っ赤に腫れ上がっていた。
明らかに泣きはらした目だ。きっとマネージャーは時間ぎりぎりまで……いや、もうとっくに過ぎてはいるのだが、とにかく冷やしていたが、どうにもならなかったのだろう。
「仕方ないな」
最初に腹を決めたのは、メイクさんだった。モンさんと長い付き合いで、同じ現場になることも多い人だ。
ちなみにメイクさんの事務所に所属する有本悠くんとは、年が近いこともあってお互いに親近感を持っていた。えーと……たぶん悠くんも持っていたと思う。
「当初の予定を変更して、この顔に合わせた撮影をしよう。こっちは手持ちの道具でなんとかする。スタイリングとカメラは?」
「やるしかないんでしょう。やりますよ」
カメラマンさんが肩をすくめる。
「しょうがないね……洸太!」
モンさんは俺に命じて、事務所から大量の衣装を持ってこさせた。その量、タクシーで五往復分。
こうして撮影は何とか無事に終了した。
経験豊富な裏方が揃っていたから乗り越えられた危機だった。
―――
しかし、災い転じて福となすとはよく言ったもの。
作品ができあがってみると、むしろ当初予定していたよりも鈴村りょうが魅力的に見えるページに仕上がった。
それは、モンさんの事務所で見たような、クールなイメージを全面に打ち出した像だった。腫れぼったい瞼を活かしてこちらを見下すような角度にし、服もそれに合わせて飾りのない、質感の美しさを重視したものにしている。
「事務所の希望では、甘くかわいい感じでってことだったんですけど、こっちのほうがずっといいですね」
上がった写真を見て、編集さんも目を丸くした。
これまでのイメージを覆す鈴村りょうの写真は何だかんだで事務所の許可も取れ、晴れて雑誌に掲載されることになった。
おかげで雑誌の売り上げも伸びた。
とはいえ、それでりょうさんの非が消えるわけではない。
彼女もそのことは自覚していたようで、その後、関係者一人ひとりのもとにわざわざ足を運び、きちんと謝った。
とりあえず、その件はそれで片がついたが、俺はまだ何となく不安だった。
彼女は立ち直りたいと思っているものの、それができない状態になっているのでは……そんな気がした。
―――
しかし、それも杞憂だったようだ。
それからりょうさんは真面目に仕事をこなした。
ただひとつ気になったことといえば、撮影が終わるたびにモンさんに、撮影で使った衣装を買い取らせてほしいと頼むようになったことだ。これまでの彼女のイメージとはまったく違う服を。
といっても、モデルがスタイリストから服を買い取るのは珍しいことではない。モンさんもそのたびに快諾した。
りょうさんは撮影があるたびに以前買い取った服を着てくるようになり、そのことが何か影響しているのかわからないが、だんだんイキイキとしてきた。
(きっと私生活が充実しているんだろうな、よかった)
そう感じられるようになった頃、俺は自分が彼女に恋をしているのに気付いた。
「いつかは……」
しかし、相手は売れっ子芸能人。俺は見習いスタイリストだ。格が違いすぎる。
それでも希望がないわけではない。モンさんのように一人前になれば、少なくとも同じラインには立てる。そうすれば、こっちを見てもらえるようになることだってあるかもしれない。いや、そうしてみせる。
自分に力がない今は、遠くから見ているだけでも仕方がない。でも、いつかは……。
俺はそれまで以上に、モンさんのアシスタント業に励んだ。
―――
そんなある日、りょうさんが事務所を訪ねてきた。しかも菓子折りなんぞ持って。
モンさんと俺は身構えた。りょうさんには申し訳ないが、彼女といえばすなわちお騒がせ、という印象がまだ完全には抜けきっていない。
俺たちに、りょうさんは驚くべき告白をした。
まず、モンさんのスタイリングのおかげで自分に自信がついたと話し、そのことについて丁寧に礼を述べた。
さらに、「こんなことで一方的にお礼をいわれても困るかもしれませんが……」と前置きしてから、こう話したのである。
「私、門前さんにスタイリングをしてもらうようになって、自分を客観的に見られるようになりました。今までよりずっと自分のいいところや見せ方がわかって、自信がついて……それで、今まで付き合っていた男性ときっぱり別れられたんです。相手は何かというと私を監視して、自分の思い通りにしようとする人でした。私も自分に自信がないから、彼に従っていればいいんだと思っていた。でも門前さんの選んでくれた服を着ていると、もっと自分で考えて、好きなように振る舞ってもいいんだって思えるようになりました」
これまでも似たようなタイプの男性と付き合ってきたが、もうそんな男性を選ぶことはないだろう、と彼女は話を締めくくった。
りょうさんの話を聞いているうちに、モンさんと俺の表情はどんどん明るくなっていった。
うれしいじゃないか。自分の師匠のスタイリングが、しょうもない男にひっかかっていた女性に活路を示したなんて。
「わざわざ報告に来てくれてうれしいよ。これからも協力するから頑張ってね」
モンさんにいわれると、彼女はひまわりが咲くような笑顔で「お願いします!」と頭を下げた。
―――
それから数ヶ月、りょうさんは順調に仕事をこなしていた。
こなしているように、見えた。
ある日、事務所で昼のワイドショーをぼんやり眺めていた俺とモンさんは、流れてきたニュースに二人して固まった。
そこにはりょうさんの映像とともに「衝撃! 鈴村りょう、芸能界引退!」という字が躍っていた。
「百年の恋も冷める」
慌てて彼女の事務所に電話した。
モンさんは鈴村りょうの専属スタイリストなのだから、事の真偽を確かめる権利はある。
いや、権利も何もこれは一方的な契約破棄に等しい。裁判沙汰にしてもいいぐらいだ。
だが、そんな堅苦しい話になると思い当たったのは少し時間が経ってからで、俺はただ、悲しかった。
せっかく応援していたのに、こんなことになるなんて。
俺はいい。でも、モンさんはどうなる。
あんなふうにお礼を言っておいて、それなのに何も伝えず勝手に引退だなんて。
百年の恋も冷めていく思いだった。
「俺、りょうさんの事務所に行ってきます!」
俺はたまらず事務所を飛び出した。
―――
りょうさんに会うことはできなかった。
所属タレントが常に事務所にいるわけではないから、会えないのはまぁ覚悟していたが、連絡さえ取ってもらえないというのはさすがに失望した。
情報を確認する電話がひっきりなしにかかってきて、その対応に追われていたとしても、だ。こっちは同業者の中でも、特に同じ船に乗っている仲間といっていいのに。
結局、スタッフに「落ち着いたらモンさんに連絡してほしい」と伝言を頼んだだけで出てくるしかなかった。
が、事務所に帰った直後、俺は自分が無駄な行動をしたと知った。
ほとんど同じタイミングで、りょうさんがやって来たからだ。
明らかにおしのびとわかる、大きなサングラスと帽子姿。
「このたびはお騒がせしてしまって……申し訳ありません」
彼女は深々と頭を下げた。……えっと、何度目だっけ、こういう姿を見るの。モンさんも俺も、ひそかに呆れていた。
だが、
「お世話になった門前さんには知っておいてほしかったんです。今回の真相を……」
なんて言われれば、むげに追い返すわけにもいかない。
モンさんと俺は、りょうさんの話を聞くことにした。
―――
りょうさんが幼い頃から芸能界で活躍していたのは、昔、女優としてデビューしたもののうまくいかなかった母親の願望を受けてのことだった。
母親はりょうさんに、服装や仕草、表情に至るまで「こうするように」と指示した。できあがったのは、絵本の中のお姫様のようにふんわりとした、夢見るかわいい女の子。それは、母親が目指していた姿だった。
だが、実際のりょうさんは、本人もモンさんのスタイリングと出会って初めて自覚したらしいが、もっと活動的で、マニッシュなスタイルや生き方を好んだ。
母親に何もかも指図される中で、りょうさんは自分が何者なのかがよくわからなくなり、だんだん自分自身の声に耳を傾けられなくなっていった。何をやっても、考えても、それは間違っているような気がした。
その結果、精神を病み、入院したこともあった。
付き合う男性は、押しが強いだけの、性格に問題のある男ばかりだった。
すっかり不安定になってしまった私生活ゆえに一時は芸能界を引退したものの、それが少しずつ安定を取り戻してくると、母親はまたりょうさんを復帰させた。
だがついに、りょうさんは母親と向き合ったのだという。
「芸能界を辞めて、自分自身の人生を歩みたい」と切り出した。
「これからはずっと興味のあったフランス語を本格的に習いたい。ゆくゆくは通訳になりたいの」
母親は当然のように怒り狂った。しかし、りょうさんの決意も硬かった。
二人の主張は平行線を辿ったまま、近づくことはなかった。引退騒ぎはそんな中、どういうわけか漏れてしまった話だったようで、りょうさんにしてみれば、引退するときは事前に各方面にきちんと挨拶をするつもりだったという。
「引退は、します。でも今抱えている仕事はご迷惑にならないようちゃんと片付けるつもりです。こんな形でお伝えすることになるとは思いませんでした。本当に申し訳ありません」
「いや、いいんだ。りょうちゃんだって被害者じゃないか」
涙を浮かべてうつむく彼女に、モンさんは優しい声をかけたのだった。
「止めることはできない」
それからさらに数ヶ月後。
モンさんと俺は、成田空港までりょうさんを見送りに行った。
りょうさんはこれからフランスに旅立つ。念願の語学留学だ。
見送りは俺たちのほかにも彼女の友達や、それからお兄さんもいた。
今回、留学できることになったのはお兄さんの力のよるところが大きかったという。母と妹の騒動を知った彼が、あとは自分が何とかしてやると申し出てくれたらしい。
お兄さんとしても、以前から母の妹へのやり方には疑問を感じていたようだ。だが、りょうさんが母親におとなしく従っていたので、何もできずにいた。
協力するにあたって、お兄さんはりょうさんに約束をさせた。
「何らかの結果を出すまでは絶対に帰ってくるな。日本に帰ればマスコミ対策も面倒だ」
りょうさんはもちろん受け入れた。
見上げれば、各便の出発を知らせる大きな電光掲示板。りょうさんの乗るパリ行きの便の表示が、次第に上がっていく。
別れのときは、刻々と近づいていた。
りょうさんの顔は、晴れやかだった。これまでにも増して。
今朝、出がけに母親から無言で手紙を差し出されたという。中を開くと、便箋には「がんばれ」とだけ書かれていた。
この場にいる人は、みんな一様にうれしそうだった。
今、幸せでもうれしくもないのは、たぶん俺だけだろう。もちろんそんな気持ちは表には出さないが。
りょうさんがこのまま芸能界にいてくれれば、彼女のいる高みを目指そうと頑張ることができた。
だがこれからりょうさんは普通の人になって、しかも俺とは違う世界に住むことになる。そこはきっと、目指そうとしても目指せない場所だ。
それはつまり、恋が終わるということ。
それでも彼女を止めることはできない。
苦しんで、もがいて、戦って、つかみ取った道だ、応援しなければ。
りょうさんが、手を振ってゲートの向こうに消えていく。

俺はいつか自分もモンさんのように、人が夢を切り拓けるようなスタイリングができるようになろうと心の中で誓った。
夢をかなえたりょうさんと再会できたときに、胸を張っていられるように。
―――
それから数年して独立した後、俺は悠くん……今は悠と呼んでいるが、に誘われて、ビューティ道場に入った。
頑張る女性を自分のスタイリングで応援するというコンセプトに惹かれた理由は、語るまでもないだろう。
あらすじ
同居美人の番外編として、7人の男性キャラクターのうちひとりを主人公にした短編ストーリーが登場♪
▼キャラ紹介
松垣洸太 33歳 スタイリスト
カリスマスタイリストのアシスタントから独立。
生まれながらのセンスに努力を重ね、引っ張りだこ。
変わった人が周りに多く、疲れ気味な常識人。
そんな彼のワケありの理由がわかるストーリーが楽しめます!