女性のための無料 官能小説・官能漫画サイト
エルシースタイル(LCスタイル)は、登録商標です【商標登録第4993489号】
ラブコスメが提供する情報・画像等を、権利者の許可なく複製、転用、販売などの二次利用をすることを固く禁じます
官能小説【1話】絶対ナイショのラブミッション〜再会した幼馴染は過保護SPでした〜
引きずったままの初恋
「初めまして、本日から警護にあたります。警視庁警備部警護課第四係、城阪夏生です」
低くも涼やかな、男らしい声音。シンプルながら仕立ての良い黒いスーツに身を包み、私に向かって恭しく敬礼してみせた男性が『城阪夏生』と名乗った瞬間、私は笑みの形を保っていた唇の端を、反射的にひくりと震わせてしまった。
その声も、甘さの残る端正な顔立ちも、嫌味なぐらい均整の取れた身体つきも。初めて相対するはずなのに、どこか懐かしいような気がしてしまう。そんな私の『思い過ごし』を、思い過ごしなんかじゃないと知らしめてきたのは、彼の名前だった。
城阪夏生、――――夏生君。私の、もう十年以上会っていなかった幼馴染。
ややこしい事情によって宛がわれた私の護衛、警視庁警備部警護課のSPとの顔合わせの場が、まさか幼馴染との再会の場になるだなんて、一体誰が予想しただろう。
「ほら、雛乃。挨拶しないか」
「あ、え、ええ。東条雛乃です……よろしくお願いしますね、城阪さん」
あまりの衝撃に呆けていた私は、『お父様』に促されるまま慌てて頭を下げる。必要以上に深々と下げたのは、動揺を取り繕えていないこの顔では、彼に『正体』がバレてしまうと思ったからだ。
それでも、下げていた頭は、いつかは上げなければならない。殊更にゆっくりと面を持ち上げれば、こちらを真っ直ぐに見つめる、黒々とした瞳と視線がかちあって、――――心臓がひときわ大きく跳ねた。
「……」
「……何か?」
「失礼。何でもありません。……事態収束までは、基本的に私が御傍に付きます。雛乃様とお呼びしても?」
「構いませんが、あまり馴れ馴れしい態度は止してくださいね」
やや高めを意識した声音で、高慢な台詞を口にする。その間も彼の視線は私の顔にじっと注がれていて、正直心臓が口から飛び出しそうだ。これ、もしかしてバレてるんじゃないかな。いやでも、顔が似てるって思われてるだけの可能性もあるし……。
心労で既に胃がきりきりと痛んでいる。大体、警護の人ってお父様の側近とかだと思ってた。
まさかちゃんとしたSPが出てくるなんて、聞いてない。やっぱり、こんな仕事受けなきゃよかったかも、――――そんなことを考えながら、私は数週間前に『お父様』から持ち掛けられた話の内容を思い返した。
――――お嬢さんの代役……ですか?
――――そうなんだ。君と娘は、顔立ちも背丈も良く似ているから是非君に頼みたい。護衛はきちんと付けるし、報酬も弾むから、少しの間だけ『東条雛乃』として過ごしてくれないか。
一身上の都合で会社を辞めてから一ヶ月が経ったその日、これから先の資金繰りに頭を抱えていた私は、登録していた派遣会社の紹介で彼、――――政治家の東条正芳に会うことになった。そして提示された仕事が、彼の娘である東条雛乃の代役としていくつかのパーティーに出る、というものだったのだ。
正直、大して大手でもない派遣会社の紹介先に、国民全員が名前を知っているような大物政治家がいる時点でかなり胡散臭かったし、『娘の代役』という仕事の内容にも著しい不安はあったものの、結局は破格の報酬につられる形で、私はその仕事を引き受けることになったというわけである。つまるところ、私は東条雛乃でも何でもなく、完全な別人だ。
代役としての仕事は今日が初日。まずは、条件にも出ていた護衛との顔合わせをしたのち、代役業をしている間の拠点であるホテルの一室に移動。それ以降は護衛と相談しつつ、事態収束まで東条雛乃の振りをする……という予定になっている。『事態収束』も何も、その『事態』が何なのかはまだ教えてもらっていないのだけど、一人だけとはいえ、政府関係者や要人警護が仕事のSPが出てくるということは、――――ああやっぱり、早まったかもなあ。
「雛乃、あまり失礼なことを言うんじゃないよ。……申し訳ない、城阪君だったかな?この通り我が儘な娘だが、よろしく頼む」
にっこりと微笑むお父様が夏生君の肩を軽く叩き、敬礼を解かせた。
この様子だと、私の『東条雛乃としての振る舞い』は概ね上手く行っているようだ。少々きつい物言いが彼女の癖らしく、生来人との間に波風を立てないように生きてきた私が真似するにはハードルの高い言動だが、これも致し方ない。
何故なら、仕事の条件として言い渡された項目の中に、――――誰にも正体を気付かれてはいけない、というものがあったから、で。
「勿論です。誠心誠意お守り致します」
す、と夏生君の視線が横へと滑り、私を捉える。浮かんでいるのは人好きのする爽やかな笑みだったけど、その視線は何かを確かめるかのように、私の輪郭を滑っていった。緊張から、ひゅ、と喉が鳴る。
夏生君は聡い人だ。私がボロを出せば、すぐにこちらの正体を見破るだろう。それに、今は物腰が穏やかで紳士的なSPといった風情だけど、昔の彼は私に対して過保護で、ちょっぴり意地悪だった。『身代わり』なんてしてるのがバレたら、きっと怒られる。いや、――――それとも、怒られないどころか気付かれてもいないだろうか。
彼に正体を気取られ報酬が貰えない上に怒られる、なんてことになったら嫌だけど、私は気付いたのに夏生君のほうは気付いてくれないとなると、それはそれで少し胸が痛むのも事実だった。
だって、私は。
「それでは、雛乃様。行きましょうか」
十数年前から変わらず、ずっと夏生君への初恋を引きずったままなのだ。
壁に追い詰められて
「ここです。お入りください」
「ええ」
連れてこられたホテルの一室は、私では逆立ちしたって借りられないであろう、豪華な造りの部屋だった。『東条雛乃が気に入ってよく利用するホテル』とだけは聞いていたので、見慣れない部屋に対する微かな困惑を気合いで封じ込め、私は夏生君の後に続いて部屋へと足を踏み入れる、――――
「……え?」
どん、と背中がドアにぶつかった。
自分の体勢がどうなっているのか分からず、私はぱちぱちと目を瞬いてしまう。背中にはドアの冷たく硬い感触。眼前にはスーツの胸元がアップで映し出され、顔の辺りには何かが覆いかぶさってきているせいで、影がかかって。
「――――なあ。お前、美冬だよな?」
耳元で囁かれた、低く涼やかな声音。今の今まで聞いていた彼のものと同じのはずなのに、決定的に口調が違った。まるで昔の夏生君のような、どことなく粗野で、少しだけ優しい響き。そこに『美冬』という三音が合わさって、彼は容易く私の心臓を止めてしまう。
私の本当の名前は、小濱美冬。夏生君の幼馴染の『美冬』だ。じわりと湧き上がる嬉しさに、指先が甘く痺れる。
忘れられてなかった。私はまだ、彼の頭の片隅にでも居場所があったのだ、――――そう思うと嬉しくて、少しだけ泣きたくなる。
「東条雛乃の振りなんてして、どういうことだよ」
止まっていたはずの心臓が、嫌な音を立てた。
詰問するような響きに冷や汗が噴き出る。そうだった、呑気に「忘れられてなくて嬉しい!」とか言ってる場合ではなかった。私は今、東条雛乃であり、小濱美冬であることは誰にもバレてはいけなかったのに。
浮かれていた気持ちが一息に萎み、嬉しくない壁ドンへのドキドキが膨れ上がる。何か言わなければ、という焦燥に突き動かされるまま、私は乾いた唇を震わせた。
「……な、」
「な?」
「何を言っているのか分かりません。どきなさい」
「……」
「馴れ馴れしくしないで、と言ったはずよ」
動揺をひた隠し、『東条雛乃』の仮面を被った私は、殊更きつく尖った声で夏生君を突き放す。覆うように顔の横に付かれていた腕を押しのけると、それは思いの外あっさりと引っ込められた。逃げるように背を向けても、「シャワーを浴びてきます」という牽制が効いたのか、追いかけてくることもない。
ただ、冴えた煌めきを放つ黒々とした瞳が、じっとこちらを見つめているような気がした。
鎖骨のほくろ
「……言い過ぎたかな」
頭を冷やせば、後悔も湧いて出る。
シャワーを終え、脱衣所で私は大きく溜息をついた。昔の私は夏生君にひどく懐いていたし、今でも顔を見れば慕わしく感じてしまう。そんな相手にきつく当たるのは、思ったよりも苦しい。
本当は会えて嬉しいのに。あんな風に壁際に追い詰められるのだって、ネタが正体のことでなければときめいたのに。十数年前から胸の奥で燻ったままの初恋が、しくしくと痛んで仕方ない。
「はあ……」
とりあえず着替えよう……と身体に巻いていたバスタオルを取ろうとしたところで、はたと我に返る。
着替えはキャリーバッグの中だ。夏生君から逃げるため、そのままバスルームに飛び込んだ私は、もちろんキャリーバッグを置いてきてしまっている。
少し悩んだものの、背に腹は代えられない。ぱっと行ってぱっと戻ればいい。私はバスタオルをきつく巻き直し、そっとバスルームから抜け出した。確かキャリーバッグは入り口付近に置いたはずだ。夏生君が別の場所に移動させた可能性もあるけど、ひとまず、――――
「……何をしてらっしゃるんですか」
「エッ」
「男のいる空間でバスタオル一枚は感心しませんね」
背後からした声に、先ほどの比じゃないぐらいの冷や汗が噴き出た。恐る恐る振り返った先には、怖いぐらい爽やかに微笑む夏生君がいて、火が付いたように顔が熱くなった。反射的にタオルの淵を握りしめ、私はじりじりと肌を灼く彼の視線から逃げるように、一歩、二歩と後退する。
「あ……っ、ち、ちょっと、見ないで、」
「見ないで、と仰られましても……雛乃様が、――――」
夏生君の言葉が、中途半端なところでふつりと切れる。大きく見開かれた目に、薄く開いた唇が、彼が何かに驚いたことの証左だ。その、私の首元へと向けられた視線を追って目を落とせば、自分の鎖骨辺りが視界に入る。
なんてことのない、普通の鎖骨だ。少しだけ骨が浮いていて、そのラインの少し下に二つ並んでほくろがあって、――――
「……あ」
「雛乃様、その鎖骨にあるほくろですが、」
私の幼馴染も、そこにほくろが二つあるんですよ。
すっと潜められた声が、微かに笑みを含んだまま私の耳へと届けられる。咄嗟に鎖骨を手で覆うも、手遅れなのは明白だった。私はすたすたと近寄ってきた夏生君によって再び壁際へと追い詰められ、優しく、それでも有無を言わせぬ力で、鎖骨を隠していた手を剥がされる。次いで、彼の少しかさ付いた指先が、二つのほくろをゆるりとなぞり上げた。
ぞくり、と背筋に疼くような感覚が走る。肌が粟立ち、胸よりも胃よりも下、身体の奥が微かに熱を灯した。
「彼女とは、小さい頃に何度も入浴したことがあるんです。そのときも……ここに、ほくろがあった。よく覚えてますよ」
「っ、……た、またまでしょう。私とその幼馴染とやらは関係ありません!大体、同意もなしに触るなんて……!」
「たまたま、ですか」
「そうです、私は貴方のことなんて知らないし……っとにかく、放して……!」
反射的に上げた声は震えていた。ほとんど泣き出しそうになっているのは、羞恥と混乱がないまぜになって胸を占拠しているからだろう。バレちゃいけないのに。恥ずかしいのに。どうしてこんなことするんだ、とつい彼を睨みつけてしまうのは、多分怒りでも何でもなくて夏生君への甘えだった。夏生君なら私に優しくしてくれるはずなのに、という子供じみた甘え、――――それを感じ取ったのかは定かじゃない。
スイッチが切り替わるように、夏生君の気配が変わる。ただでさえ近かった顔がぐっと寄せられて、耳朶に触れてしまいそうな距離で、彼の喉が笑う。
「なあ、美冬。――――そういえばお前、鳩尾にもほくろあったよな?」
違うって言うなら、見せてみろ。
彼の男らしい指が、バスタオルの淵にかかる。止める暇もなかった。その指がくい、と引かれて、――――あっけなくバスタオルがほどけていく。
おとこのひと
「あっ……ゃ、うそ」
「これでも人違いだって?」
鳩尾にぽつんと浮かんだ小さなほくろに、夏生君が笑みを深めた。
バスタオルはかろうじて胸の先に引っかかったものの、鎖骨からなだらかに続く谷間も、まろいお腹も全てが彼の眼前に曝け出される。爆発したかと思うほどの衝撃が心臓を襲い、私の足が急激に力を失っていく。よろけた私を支えたのは、腰に回された夏生君の腕、で。
「ほら、何とか言ってみろよ」
「た、たまたま、です……」
「ふうん?」
くすりと笑った唇が、鳩尾のほくろへと柔く口付ける。ちゅう、と吸い付かれる感覚に腰がじくりと疼いた。
「じゃあ、いっそ全部確かめるか」
彼のもう片方の腕が膝裏へと回り、ふわりと身体が浮いた。お姫様抱っこだ、と思えたのは一瞬で、感慨に浸る間もなく慌ててバスタオルを掻き寄せる。
さっきから展開が急すぎて、頭も心臓も全く付いていけていない。私は夏生君に何を見せて、何をされて、――――これから何をされるんだ。
すたすたと迷いない足取りで部屋の奥へと向かう夏生君は、ややあって私をベッドの上に下ろした。高級ホテルに相応しい上質なシーツが、無防備な素肌に触れて、ひどく居心地悪い。
「ッ、な、何するんです、か……」
「だから言っただろ、全部確かめるって。……まずは、足首」
夏生君の手が再び膝裏に回り、右足首だけを恭しく持ち上げられる。短い悲鳴と共にバスタオルを押さえた私をちらりと見遣って、彼は男らしく薄い唇をそこへと落とした。
「ん……それから、右膝の内側。太腿の上、腰骨……」
「ぁ、っや……、待って、」
「ああ、肋骨の上にもあったな……」
ほくろの場所を確かめるかのように、全身にキスが落とされていく。薄いのにひどく熱い唇にまさぐられ、私は切れ切れの嬌声を上げた。夏生君に、触られてる。ぜんぶ見られちゃってる。そう思うと疼き始めていた身体の奥が一層甘く緩んで、思わず太腿を擦り合わせてしまう。
大体、私のほくろの場所なんて、どうして覚えてるの、――――美冬だと自分からは明かせない以上、そんな恨み言一つすら言えない私は、シーツの上で彼に弄ばれるまま身悶えるしかない。
「は……っ、ここ、胸のすぐ下にも……二つ」
「ッん、ちがう、の……っ、ぁ、だめ」
「違わない。……反対にもあっただろ、見せて」
低く掠れた、『おとこのひと』の声が私を唆す。下腹部が甘い予感にひくりと震える。
熱を孕んだその瞳に、呑まれてしまいそうだと思った。
あらすじ
雛乃の護衛に宛がわれたSPは、もう十年以上会っていなかった幼馴染だった!?
雛乃には、誰にも正体がばれてはいけないという任務があった。
だけど幼馴染の彼はごまかせず、壁に追い詰められて…