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官能小説【7話】絶対ナイショのラブミッション〜再会した幼馴染は過保護SPでした〜
将来のお嫁さん
――――大きくなったら、美冬をお嫁さんにしたい。
ふわふわとした浮遊感に身を委ねる私の前に、ほんの五歳ぐらいの頃の夏生君が現れて、真っ赤な顔でそんなことを言う。ああ、これは夢だ。昔の記憶を辿る夢。このころの夏生君、可愛かったなあ。
浮遊感は徐々に強くなり、まるでシャボンが弾けるように目の前の光景が掻き消える。そのまま意識はふわりと漂って、やがて始まったときと同じく唐突に、夢の外へと放り出されてしまった。
優しい声音
ここで迎える何度目かの朝だ、――――瞼の裏に感じる陽光に、揺蕩う意識がそう囁く。
同時に、まだもう少し寝ていたいと思ってしまうのは人間として普通の反応だろう。私は首元の布団を手繰り寄せ、顔を埋める。そのまま寝付けそうなポジションを探して足先をシーツへ滑らせていれば、少し離れた場所でドアが開く音がした。
「美冬?もう起きないと間に合わなくなるけど」
「んん……」
「……早く起きないとキスするぞ」
どことなく柔い、優しい声音が私を覚醒へと促そうとする。軽く肩も揺さぶられて、ゆるりと瞼が持ち上がった。
きす、――――キスかあ。ぼんやりとした頭で数秒考え、私は小さく頷く。
「うん……して」
「……いいんだな?」
「うん……?」
ぎしりとベッドが軋む音と共に、乾いた唇へと柔らかなものが触れる。最初は優しく触れていたそれが徐々に深く、咥内まで浸食していく感覚。熱く濡れた粘膜同士が絡み合うたびに、じわじわと快感が降り積もっていき、身体が熱を溜め込んでいく。
「ん、んん……っ」
「は……ン、美冬、きもちい……?」
気持ちいい。とろ火で炙られるように少しずつ昂っていくのは、幸せで、気持ちいい。溢れそうになる唾液を飲み込んで、もう一度小さく頷けば、彼の舌が褒めるように喉の入り口を撫でてくれて、――――ふと唐突に、その感覚が妙に生々しいことに気が付いた。
「んっ……!?」
「ああ、ようやく『ちゃんと』起きたな。おはよ……、っン」
喉奥で笑った夏生君の唇が、今度は激しく噛みついてくる。咥内を我が物顔で蹂躙され、舌を強く吸われて、呆けていた頭に電流が走った。
「待っ……ぁ、んっ、さっきの、寝ぼけてて、」
「分かってるよ。でも、自分の発言には責任持たないと。……な?」
「ァ、んん……っ、は、だから、待って、懇親会に遅れる……!」
「はいはい」
軽い調子で私をあしらった夏生君は、今度はスタンプでもするように何度も何度も私の唇をついばんだ。柔く唇を押し当てられてしまえば、満足に喋ることすら出来ない。可愛らしいリップ音が響き、快感だけでなく、心の充足感までもが高まっていくのがよく分かる、――――それでも、このまま呑気に睦み合っているわけにもいかない。
「んん……も、だから!私が、っん、依頼主側なんだから……言うこと、聞いてってば……!」
「だめ。はい、もう一回」
再び歯列を割って潜り込んできた舌が、せっかく覚醒した私の頭をとろとろに煮蕩かしていく。ん、ん、と甘い悲鳴が飲み込まれて、身体の輪郭すらもシーツに溶けていくような感覚を味わって、――――
「……準備は手伝ってやるから大丈夫だ。安心して、俺に委ねてろ」
おとこのひと
「――――なんて言ってたのに、遅刻しそうじゃないですか」
「大丈夫、間に合います。もう受付も済ませましたし」
「お父様との約束の時間は、開場より早いと言ったでしょう……!」
懇親会の会場に何とか辿り着いた私は、『東条雛乃』の仮面を被ったまま夏生君を睨みつけた。彼は素知らぬふうに爽やかな笑みを浮かべ、「それは失礼致しました」と嘯いてみせる。
散々キスで蕩かされた後、慌しくホテルを出てきたせいで、ろくに準備も出来ていないままだ。付けるように言われていたアクセサリーも、まだ半分以上付けていない。
『お父様』との集合場所は、懇親会の会場より上の階だ。そこへ早足で向かいながら、夏生君に手渡されたアクセサリーを順番に身に付けていく。
「指輪と……あとは、イヤリングです。歩きながらで付けられますか?」
「ええ」
最後にイヤリングを付けたところで、ちょうど集合場所へと到着する。『お父様』はもう既に到着していて、私が慌てて謝罪をすれば鷹揚と手を振ってみせた。捜査官たちを脅し、私に囮役を強要したのと同じ人とは思えないような優しい笑顔に、すうっと胃の腑が冷えていく。
「問題ないよ。悪いが、ここの控室で会が始まるまで待っていてくれ」
「……はい」
「私は会の最終準備があるので、これで失礼しよう。城阪君、娘を頼むよ」
「お任せください」
東条正芳が踵を返し去っていく。その背中が見えなくなったところで、夏生君はちらりと後ろのドアを振り返った。
「入りましょうか。私が確認しますので、前に出ないように」
「……分かりました。お願いしますね」
そっとドアが押し開かれ、私は彼に続いて控室の中へと足を踏み入れる。そこに居てください、と指し示されたのはパーテーションの前で、私は夏生君が部屋を一通り調べる間、大人しくそこで立ち尽していた。
夏生君は『部屋の中に誰かいないか』ということから、『コンセントタップが盗聴器でないか』までをきっちり調べ終わったところで、一瞬視線をドアの方へ遣った後、パーテーションの裏へと私ごと引っ込んだ。
「えっ、何?」
「……いいから、」
夏生君は低い声で言葉を遮ると、私の顔を肩口へ引き寄せた。
僅かに緊張を孕む彼の様子からも、ドキドキしている場合ではないと分かっているのに、――――見た目よりしっかりとした胸板に、彼がきちんと『おとこのひと』の身体をしているのだと、まざまざと実感してしまう。世界中のどこよりも安全な場所だと思える腕の中で、私はそっと目を閉じる。
ふと、部屋のドアが開く音がした。
「え……」
「静かに」
鋭い瞳をさらに眇め、夏生君がパーテーションの向こうの気配を窺う。
入ってきたのは重い足音で、恐らく男性だ。一瞬『お父様』かなとも思ったけれど、夏生君の気配がじりじりと剣呑になっていくのを感じて、すぐに違うと気が付いた。何かを探すように部屋中を歩き回るそれに、じわりと不安がこみ上げる、――――パーテーションの隙間からちらりと見えた顔は、やはり知らない顔、で。
先ほどまでとは違う、嫌な心音が耳の奥で鳴り響く。しばらくの間、足音はそのまま部屋に滞在していたけれど、ややあって来たときと同じように突然出て行った。ぱたんとドアが閉まる音がして、夏生君が深く溜息を吐く。
「……行ったな」
「うん……」
まだうるさく鳴り立てる心臓の、どくどくという音を聞きながら夏生君にもたれ掛かる。『東条雛乃』の仮面はあっさりと剥がれてしまったけれど、夏生君はそれには何も言わず、ただ優しく後頭部を撫でてくれていた。
男が私を探していたという確証はない。ただ誰かが入ってきたという、それだけのことのはずなのに、どうしてか妙に恐ろしくて堪らなかった。
私が落ち着くまでの間に捜査員への報告を済ませたらしい夏生君は、「もう大丈夫」と私が離れたのを合図にゆっくりと立ち上がる。釣られるようにして私も立ち上がると、彼は場所を変えようと提案した。
「でも、ここにいろって言われたし……」
「……ここにお前がいると蘭丈家に知らせたのは、恐らく東条正芳だ」
「え?」
「疑わしい人間に情報を提示し、お前に危害が加えられるのを狙ったんだろ。そうすれば犯人が捕まるか、お前が誘拐されて自分の元に連絡が来るかの二択だ。後者の場合、お前を切り捨てれば彼の損害はゼロになる」
そういう作戦だろう、――――淡々とした声音に、怖気がぶり返す。囮になるということがどういうことなのか、ようやく実感したような気がする。また急激に顔色を悪くしていく私を見て、夏生君は微かに苦笑してみせた。
「大丈夫だ。言っただろ、ちゃんと守るって。……信じられないのか?」
「……夏生君の大丈夫はあんまり信用出来ないなあ」
「お前な」
さっきだって大丈夫なんて言って、お陰で遅刻しそうになったし。
混ぜ返したのは、ふざけられるぐらいに余裕が出てきたのだというアピールだ。幼馴染をやっていただけあって、すぐに気付いたらしい夏生君は、何だか呆れたような顔で私の額を指で弾く。
「――――とにかく移動するぞ。場所が割れてるなら、会場付近の人目に付くところの方が安全だ」
⇒【NEXT】夏生君を押しのけ、東条正芳が私の手を掴む。締め付けられる痛みが手首に走り、思わず『東条雛乃』の仮面が歪み…(絶対ナイショのラブミッション 8話)
あらすじ
――――大きくなったら、美冬をお嫁さんにしたい。ほんの五歳ぐらいの頃の夏生君が現れて、真っ赤な顔でそんなことを言う。そんな夢を見ていたら柔らかいものが優しく唇に触れる。徐々にその感覚は生々しくなっていき…