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官能小説 「妄カラ女子」…spotA〜未由編〜・シーズン6
どう思う? ●小森未由
「あ、えと……は、い、その、少し気になる……程度の人、なら……」
わたしは口ごもった。
「いや、いません! え、あっ、と、いる、ような気も……いえ、いませっ……」
頬がどんどん熱くなる。
わたし、茹でダコみたいに真っ赤になっているんだろうな。
「少し気になる程度の人ならいる」なんて言ってフツーに恥ずかしいせいもあるけれど、ほかでもない相手が今、目の前にいる朝野悠人だからというのがもっと大きな理由としてあった。
朝野悠人は黙りこんだ。ちょ、ちょっと、そこで黙りこまらないで! この空気を早く終わらせて!
でも、朝野悠人は何も言い出さない。仕方なく、自分から提案する。
「こ、この話、もうやめません?」
だが、そうは問屋がおろさなかった。
「あんたさ、俺で妄想したことあったりしない? あと、俺のこと、どう思う?」
ちょ、ちょ、うわぁぁあーーーっ!! 質問がさらにキワドくなっているんですがどうしたら!!
「……うっく」
朝野悠人が、わたしの目をじっと見つめている。表情はわからないけど、伸ばしっぱなしの前髪の下の目が光っているので、どうやらそのようだとわかる。
「少し気になる程度の人……って、それ、もしかして俺だったりしない?」
冗談なの?
本気なの?
表情がわからないから、どっちなのかわからない。
だから、なんて答えていいのかもわからない。
朝野悠人がすぅ、と息を吸う。
な、なんなのっ? 今度は何っ?
だが、次の一言を聞いて拍子抜けしてしまった。
「今好きな人がいないなら、漫画づくりのために、擬似恋人になってほしいんだけど」
「は……?」
今度はわたしが朝野悠人をまじまじと見つめる番だった。ワケがわからなくて、照れとかもう、どっかいった。
「ぎじ……こいびと……?」
「そう。俺さ、担当の編集さんに、恋愛ネタにリアリティがない、気持ちがこもってないって言われたんだ。恋愛経験少ないほうだと思うから、たぶん、よくわかってないんだよね、俺」
「そ、そんなの、朝野さんが好きな人にお願いすればいいじゃないですか」
わたしはジト目で朝野悠人を見上げる。
「今、そんな人いないし、俺はあんたにその気はなくても嫌いじゃないし……」
朝野悠人は最後のほうで、もごもごと言葉を濁した。
……ん、あれ? なんとなくだけど、この人照れてる? 気のせい?
……気のせいだよね。こんなこと持ちかけるような人だもん。
「それにやっぱり、ああいうネタを考えられる相手なら、一緒にいて何か学ぶところもあるだろうなって」
あ……あああああっ! そ、そうだったぁぁぁ! 朝野悠人は妄想ノートの存在を知っている。もしここで「ハイ」といわなかったら……朝野悠人が疑似恋愛できなかったばかりにナイスなネタが生まれてこなかったら……!
協力者という肩書きで、妄想が全国に知れ渡ってしまう!
「ハイ、なります」
わたしは涙目だった。
これってデート? ●小森未由
疑似恋愛が始まった。
朝野悠人は青春時代、漫画を描くばかりでほとんど恋愛をしなかったらしい。彼女がいたこともあるが、お付き合いは3ヶ月で終わったそうだった。
わたしも妄想だけはしていたものの、付き合ったりデートしたりする妄想はあまりしていなくて、常にいきなりクライマックス! って感じだったので、イメトレすらしていない状態。
つまりわたしたちは、お互い何をしたらいいのかまったくわかっていなかった。
「とりあえず、散歩でも行く?」
数日後、朝野悠人の家に行くと、彼はそう切り出してきた。今日は仕事に少し余裕があるみたいだ。
わたしたちはこの間の並木道に行くことにした。
「こういうのさ、デートだよね?」
「デートでいいんじゃないですか……」
デートかどうか確認してするデート、か……。
朝野悠人はいつものパジャマなのか部屋着なのかよくわからない格好に、ジャケットだけ羽織って出ようとする。
「んじゃ、行こうか」
「ちょ、ちょっと待っ……」
思わず呼び止める。
「あのっ、デートはやっぱりもう少しキレイな格好のほうが……!」
「……キレイな格好って、どんなの?」
うわぁ、あからさまに面倒くさそうだ、この人。
「あ、あの、スーツとかいいんじゃないですかね……!」
つい、目を逸らしてしまった。悪いことを言っているワケではないのに、下心からの提案だからか、まともに顔を見られない。
そう、わたしは朝野悠人のスーツ姿を見たかった。
寝室に戻って着替えた朝野悠人は、やっぱり「妄想の君」だった。
わたしたちは道を歩き出す。やばい、朝野悠人のほうをまともに見られない。あぁ、夢じゃないかしら……妄想の君と、本当にデートできる日が来るなんて。擬似だけど。
「やっぱり手とかつないだほうがいいのかな」
「朝野さんの漫画に必要なら、わたしは構いませんけど…」
心臓が口から3メートルぐらい先まで飛び出しそうになるのを何とか押さえて、できるだけそっけなく答える。
手に、朝野悠人の指が絡んでくる。
(…………!!)
心臓が飛び出さなかったのが不思議だった。
それでも、少し歩くとちょっと落ち着いてきた。
いつもは行き過ぎるカフェに、わたしたちは入ることにした。ピーターラビットの絵本に出てきそうな内装の屋内で、フランス語のメニュー見る。
運ばれてきた紅茶に口をつける朝野悠人を見ていると、妄想劇場の幕が開いていった。
って、あれ? 今日はなんか、様子が違う……
モワンモワンモワワ〜ん♪…
* * * * * *
「ここの店、気に入ってくれた?」
朝野悠人がわたしを見つめて、照れたように微笑む。
「ずっと未由を連れてきたかったんだ」
「えぇ、とても。私、こういうロマンチックなお店、大好きなの」
わたしは目を輝かせてみせる。うれしくてたまらないというように。
「よかった。今日は特に未由の喜ぶ顔を見たかったから、連れてきた甲斐があったよ」
朝野悠人はカバンの中から小さな包みを出した。丁寧にリボンでラッピングされた、手のひらに乗るぐらいの大きさ。
「このプレゼントは、その笑顔で開いてほしかったから」
「……なに?」
受け取って、胸を高鳴らせながらリボンをほどく。
予感はあったが、確信はない。包みからは小さな箱が出てきた。
「わ……ぁ」
開くと、ダイヤのついた華奢なプラチナのリングが台座に清楚におさまっていた。
予感通り、だった。
「これを……わたしに?」
「あぁ」
朝野悠人は力強くうなずく。
これって、これってつまり……?
「未由、俺と結婚してくれ」
* * * * * *
(……まじかー)
まじかー、わたし。
さんざんエロッエロな妄想をしておいて、リアルが充実しかけてきたら、これかー。これなのかー。
「そろそろ出ようか」
朝野悠人がわたしの理想の姿かたちで、のっそりと動き始めた。
わたし、もう自分がよくわからない。
再び並木道に出ると、すぐ向こうに見知った顔がふたつ、あった。
わたしは息を飲んだ。
鉢合わせ ●小森未由
向こうから歩いてきたのは、北村くんと旭くんだった。わたしは慌てて、朝野悠人の手を振りほどく。
あちらもわたしに気づいたみたいだ。
「おー、未由じゃん」
旭くんが片手を上げた。
近くに来たとき、旭くんは朝野悠人を思いっきり睨んだ……気がした。
「どうして二人がこんなところで一緒にいるの?」
北村くんの職場は旭くんの家でもあるから、仲がいいというのはわかるけど、それでもウチの近所を並んで散歩するような間柄じゃないはずだ。
「僕はお母さんがこっちの家に遊びに来たから、ついてきた」
おねえちゃんにとっては実家にあたるわたしの家を、旭くんは「こっちの家」と呼ぶ。
「あ、僕は……清水さんが持っていた経理の資料がどうしても必要だったんで、連絡したら、実家に来てといわれて、それで」
北村くんは弁明するような口調だった。ちらちらと朝野悠人のほうを窺っている。
二人は家で一緒になって、駅に戻るという北村くんを旭くんが送るところだったらしい。じゃあ気を付けて、とわたしはそそくさと去ろうとした。朝野悠人が隣にいる状態で、あまり長く話していたくない。
何より、旭くんは先日、朝野悠人に妙なこと――「未由には恋人候補がいる」――を言ったらしい。
とはいえ、旭くんはわたしの隣の人物が朝野悠人とは気づいていないみたいだった。顔を合わせたことのある相手なら何かしら態度に出そうなものだけど、それがない。たぶん今日はスーツを着てカッチリしているから、わからないのだろう。
朝野悠人のほうも旭くんには何の反応もなかった。まぁこっちは、あれは単なる子供の悪戯だったと思っているからかな。
北村くんも軽く会釈をして、歩き出そうとした。
そのとき、
「ちょっとー、未由、冷たいな」
旭くんが突然大声を出した。
「僕、今日まだ何も食べてないんだよね。そこのファミレスでゴハンおごってよ」
「えぇっ!」
何それ!?
「でもわたしたち……わたし、今、カフェから出たばかりなんだよね」
「それとこれとは話が別。北村くんも急ぎじゃないみたいだし」
何がどう別なのかわからないが、旭くんは強引だ。
私が渋っていると、旭くんはなんと朝野悠人に声を掛けた。
「ねぇ、お兄さんもよかったらどう? そこのファミレス、今なら4人以上で入ると全員クーポン券がもらえてお得なんだ」
いやいや、クーポン券とかいらないし!
「それはお得だな。行くか」
えぇっ!
「あのファミレス、ネームが詰まったときや打ち合わせでよく使うんだ」
だからってクーポン券につられなくてもいいでしょおぉぉっ!
「よし、じゃあ決まり」
旭くんは意気揚々とファミレスに向かった。
なんとなく、気まずい雰囲気だった。
「あの、こちらは北村くん……北村さんといって、わたしの小学校の同級生で、今は姉の会社に派遣されて働いていて……」
わたしの紹介に、北村くんはぺこりと頭を下げる。少なくとも見た目だけはキリっとした朝野悠人に、距離を感じているようだ。
「こちらは朝野さんで……わたしが週に何度かアシスタントをしている漫画家さん」
「あ、あなたが!」
北村くんが目を大きく開いて、朝野悠人をまじまじと見つめた。
「あなたが、って……俺のこと何か知っているんですか?」
「その……小森さんから、アシスタントのバイトをしているとお話を聞いたことがあったので」
「そうなんだ、よろしく」
朝野悠人は特に気にもせず、ぺこりと頭を下げた。
「未由、紹介足りてないでしょ?」
旭くんは腕を組んでわざとらしく溜息をつく。
「旭くんのことはこれから紹介するよ」
「僕のことはいいんだよ。そうじゃなくて……北村くんは未由の恋人候補でもあるじゃん。ちゃんと言っておかなきゃ」
ぶっ! と北村くんが飲んでいた水を吹きそうになる。
「「は……はぁぁぁっ?!」」
わたしと北村くんは声を合わせて旭くんを覗きこむ。
旭くんがどうしてこんなことを言い出すのかわからない。
「ああああ旭くん、そそそそれ、いいいいいいったい、どどどどういうことっ!」
「どうもこうも、未由と北村くんは……」
「やっぱりちょっと待ったぁぁぁ!!」
次に何を続ける気なのか不安が湧き上がったので、わたしは旭くんを連れて二人で別のテーブルに移った。
嫌いなタイプ ●朝野悠人
あのガキンチョがいったい何を考えているのか興味があったから、俺はクーポン券につられたふりをしてついてきた。ガキンチョのほうは俺の格好があのときとは違ったからか、俺だとは気づいていないようだ。
だがガキンチョは、すぐに小森サンに別の席に連れ去られてしまった。恋人候補がどうのなんてでっかい声で騒がれれば、たとえ本当だろうが嘘だろうが、そりゃいやだろう。
……で、そうか、この人――今、俺の前に座っている、イケメンなのに妙にマジメそうなこの北村くんって人が、小森サンの恋人候補ってわけか。あのガキンチョのタワゴトじゃなければ、だけど。
この間小森サンが言っていた、「少し気になる程度の人」というのは、この人なのかな。でも確かに、動きや目線を見る限り、小森さんに気があるんだろうなってわかる。
初対面の人と何を喋っていいのかわからなくて、俺は黙っていた。
すると北村くんが何か決心したように口を開いた。
気弱そうなのに、目だけは鋭く光っている。俺は少しだけたじろぐ。
「あの……小森さんのバイトって、短期ですか?」
「え、どういう意味?」
思いっきり首を傾げる。俺は小森サンの都合がつくなら、この先もずっと続けてほしいと思っていると答えた。
北村くんの眼光がさらに鋭くなった。
「これはあなたが真面目に漫画を描いていることを理解した上でいいたいんですが……女性がああいうエロティックな漫画を、夜遅くまで男性と二人だけで描いているなんて誰かに知られたら、彼女の将来にもよくないと思います。そのあたりはどんなふうに考えているんですか」
「はぁ、特に何とも。ていうか、小森サンがそう言っていたんですか?」
「そういうわけじゃないんですが……」
あぁ、どこにでもいるんだなー、こういうウザい奴。当事者の意見なんて気にせず、自分の思いこみだけで、「悪」のイメージを一方的に持っている誰かを糾弾する奴。自分はいいことをしているつもりだから、余計タチが悪い。エロい漫画なんて描いていると、偏見を振りかざす自称正義人とか自称常識人にターゲットにされやすいけど、コイツはその典型だ。
はっきりいって、嫌いなタイプだった。
「でも、どうしても彼女じゃなきゃだめなんですか? 他に男性を雇うことはできないんですか?」
「んー、考えておきます」
「真面目に聞いて下さい」
「聞いてますよ。あ、ひょっとしてここで『これだからエロ漫画家は』とか言っちゃいます?」
何だかイライラしてきたので挑発してやると、北村くんはかぁっと顔を赤くした。怒ったかな?
それにしても、これが小森サンの「気になる人」か。どんな相手だったとしても、好きな人ならまぁよろしくやって下さいと思っていたけど……なんかねぇ。
「すいません、仕事残ってるんで、そろそろ」
俺は席を立つ。
「小森サン、帰ろう」
向こうの席でガキンチョと一緒にパフェを食べていた小森サンに声をかけた。
……ていうか、結局食べてるじゃん。
家に戻って作業を始めたが、予想していたよりも時間が長引いてしまった。
昼間歩いて疲れたせいか、小森サンは作業机でうたたねをしてしまう。長引いたとはいえ、仕事はひと段落していたので、すぐには起こさないことにした。
「……さん」
ん? 今、小森サン、何か寝言言ったな。
「……悠人さん」
……………………はい?
……あの、どんな夢見てるわけ? しかも苗字じゃなくて、名前?
作業台のPCに、スキャンして保存したネタ帳の画像を表示する。
(小森サンって……こういうこと考えているんだよな……)
寝顔と見くらべていると、少し、胸がざわついてきた。
ノートの1ページには、こんなセリフが書かれていた。
――俺のものにしてやる。
(寝言で人の名前を言ったりしてると、これ、現実にしちゃうぞー)
俺は小森サンの寝顔に、心の中で話しかけた。
変わるのが怖い ●小森未由
朝野悠人のところでアシスタントを始めて、1ヶ月が過ぎようとしていた。
疑似恋人になってからは数週間だろうか。もっとも「恋人らしいこと」といえば、手をつないでデートらしきものに出かける程度しかしていないくて、あとはもっぱら部屋で漫画の手伝いをしているだけだけど。
でも二人きりでエッチな漫画を黙々とつくりあげているのだから、ある意味、恋人らしいともいえるのかもしれない。……いや、いえないか。
それはともかく、再びネタ出しの機会が巡ってきた。
前回と同じく、実際に動いてみながら……
「女の子はやっぱり、後ろから抱きしめられる感じが好きだと思います」
わたしがいえば、朝野悠人は、
「こんなふうに?」
後ろからふわりと抱きしめてくる。
あぁ、マズい。心臓の鼓動が早くなってしまう。なんたって相手は妄想の君なんだもの……
わたしは慌てて振り向き、髪の毛ボサボサ、ラフな姿の朝野悠人の顔を見て気持ちを鎮める。妄想の君じゃなければ大丈夫。失礼な話だけど。
「あとは……女の子の体に何かトロトロした食べ物を塗って舐め回すってのもエッチかな」
「トロトロした食べ物って何がいいの?」
「チョコとか、練乳とか、はちみつとかですかね」
そういえば味のついているローションなんていうのもあるんだよね、最近は。
「やってみる?」
朝野悠人はコーヒーでも飲むかと誘うように尋ねてきた。
「へっ?」
「はちみつなら家にあったはず」
わたしは何も答えられなかった。
やるとしたら裸になるわけで、これまでのネタ出しも十分エッチだったけど、それを一気にぶっちぎっちゃうわけで……それはつまり……
「冗談だよ」
何も言えずにいるわたしに、朝野悠人はさらっと言った。表情は、やっぱりわからない。
(何……何なの、今のは……)
気を取りなおして、わたしは続ける。
「壁ドンは女の子の憧れなんで、マイナーチェンジをすれば何回もやってもいいと思いますね」
「マイナーチェンジ?」
「壁に押しつけられるだけじゃなくて、もう片方の手で顎を持ち上げられるとか……」
「こうかな」
朝野悠人はわたしを壁に押しつけて、顎をくいっと持ち上げた。
……まずい。視線が、ぶつかってしまう。
わたしは目を逸らした。
でも、朝野悠人は逸らさない。
早く逸らしてよっ! ていうか、早く離れて! これはあくまでも、ネタ出しなんだから……!
もどかしいぐらいに長い時間が流れた気がしたけど、実際はたぶん、一瞬だったんだと思う。
朝野悠人は、言った。
「あのさ、俺あんたにそんな気はまったくないってあの甥っこに言ったけど、あれ、嘘だったんだよね。わりと気になってた」
わたしは自分の肩が跳ね上がるのを、他人の体のように感じた。
――嘘。わりと気になってた。
朝野悠人の声、頭の中で何度も響きすぎて、だんだん意味がわからなくなっていく。
私の顎は持ち上げられたままだ。唇が、近づいてくる。
「…………っ!」
これは妄想じゃない!
わたしは朝野悠人を押し返した。そのまま荷物をかき集めて、家を飛び出す。
「あ、ちょっ……小森サン!」
焦った声が背中に届いたけれど、わたしは振り返らなかった。
朝野悠人のことは、確かに好きだ。
でもわたしは朝野悠人が好きなのか、それとも妄想の君が好きなのか、よくわからない。
今日中にネタを出さなければといったから、わたしが出てきてしまって彼は困るだろうが、戻ったらそれが返事にしまうかもしれない。だとしたら、もう戻らないほうがいいのだろうか。
北村くんが言っていたことが頭の中でよみがえる。――夜に女性が一人であんな仕事場で……。
今は夜ではないけれど、確かに正しいのかもしれない。もしかしたらこれから正しくなるのかもしれない。
朝野悠人とは、離れたくない。でも、戻りたくない。戻るのが怖い。戻って心も体も、わたしたちの関係も変わってしまったらと考えると、怖い。
わたし、どうしたらいいんだろう。
⇒【NEXT】耳元でそっと囁かれる。わたしはといえば、その耳まで真っ赤になっていた。(「妄カラ女子」…spotA〜未由編〜・シーズン7)
あらすじ
悠人に引かれはじめた未由。
そんななか、悠人本人から未由に好きな人がいないかと質問される。
未由の気になるまさにその相手質問され、動揺と混乱で真っ赤になりながら彼の質問に答える未由に悠人は…。