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官能小説 「妄カラ女子」…spotA〜未由編〜・シーズン9


妄想と現実 ●小森未由

北海道から帰ってきた翌日、わたしは改めて、悠人さんから出された「宿題」に向き合った。

瀬野さんも見つかったし、心情的には落ち着いている。もっとも、この後また大変なことがあったみたいだけど、わたしがそれを知るのは少し先の話。とにかく、このときのわたしには、もう彩子に関する心配ごとはないはずだった。

だけど……

(書けないっ! 書けるわけないっ……!)

さんざん悩んだけど、ノートは真っ白なままだった。

やっぱり妄想と現実は違うんだ。

妄想ノートで書いているカゲキなアレやコレ……あれは絶対に現実にはならないという安心感があるからこそ、自由に想像を広げられている。でも今回は違う。書いたことが、現実になっちゃうんだ。

しかもこれは初体験。普段あれだけ傍若無人な妄想を繰り広げているわたしだけど、怖いし不安だった。

それに……正直にいえば、自分が悠人さんにしてほしいことが何なのかよくわからない。きっといろいろ妄想しすぎて、自分が本当に好きなことやしてほしいこと、したいことが何だかよくわからなくなっちゃったんだと思う。

「うーん……」

考えても考えても、案は出なかった。

わたしは仕方なく、真っ白なままのノートを持って悠人さんの家に行くことにした。

……念のため、シャワーを浴びてから。

悠人さんの部屋は、この間に比べて明らかにちゃんと掃除されていた。

髪や服もいつもよりこぎれいになっている。

悠人さんもやっぱり「その気」なんだとわかった。

体がすくみそうになるけれど、ここまで来たら逃げるわけにはいかない。っていうか、ここで逃げたって同じことを何度も繰り返すだけだ。どこかで越えなきゃいけない壁なんだ。

「宿題……できませんでした」

わたしはノートの真っ白なページを開き、素直にそう伝えた。

「確かにわたしはネタを考えるのは得意なほうかもしれないですけど……やっぱりネタと現実は違っていて……その、何をしたいとか、されたいとか、全然思いつかなくて……」

しどろもどろにはなったけど、考えたことは余さずきちんと伝えられたと思う。

怒られたり、不機嫌になられたりするかもと怖かったけれど、そんなことはなかった。

「そうか……初めてのことだもんな。無理させて悪かったな」

悠人さんはうつむいたわたしの頭を、ぽんぽんと優しく撫でる。

そのまま流れるように、ぎゅうっと抱きしめられた。

しばらく抱き合っていると、悠人さんの心臓の鼓動が早くなっていくのがわかった。

「……このまま押し倒していい?」

耳元でささやかれる。わたしもどこかでそれを望んでいたと思う。

わたしが黙ってうなずくと、悠人さんはわたしを優しく包みながらゆっくりと押し倒した。


優しくして… ●小森未由

仰向けになってみて初めて、部屋が明るいのが気になった。

「あ、あの……電気、消してくれませんか。明るいと、恥ずかしくて……」

「あ、あぁ、ごめん」

悠人さんは机の上に手を伸ばし、リモコンと取ってボタンを押す。

いくつかの間接照明を残して、電気は消えた。

優しく抱きしめられたまま、何度もキスをされる。最初はついばむような軽いキスだったけれど、徐々に舌が入りこんでくる、ディープなものになった。

「ん……はぁ……」

息が苦しい。でもこの息苦しさは、なんだかいとおしくもある。

それでも、味わったことのない息苦しさだったから少し怖くて、わたしは悠人さんにお願いをする。

「……優しくして、下さい」

「わかってる」

悠人さんは答えて、キスの場所を変えた。今度は首筋だ。

「……ひゃっ」

ヘンな声が出てしまう。他人には初めて触られる場所。しかも唇なんて柔らかくて、熱いもので。

わたしはちょっと焦った。今の声、何なの? もっと、色気のある声が出なかったの?

こんなことで悠人さんに幻滅されたらどうしよう……。

でも悠人さんは、熱のこもった声でこう言ってくれた。

「未由の感じてる声、かわいい。もっと聞きたい」

今度は首筋に、キスとは違う、温かいものが這うような感触。

悠人さんの舌だった。

「……っは、ぁ」

熱い痺れのような感覚が湧き上がってきて、思わず悠人さんにしがみつく。

「未由をもっと感じさせたい」

悠人さんが、服の上から胸に触れる。

わたしの胸は小さいほうじゃないと思うけど、悠人さんはどう思ってるんだろう。このぐらいの大きさの胸、好きかな。

「……んっ」

普段はお風呂に入るときぐらいしかしっかり触れないところを、悠人さんは服の上からとはいっても丹念に、丁寧に触る。揉む。単に気持ちいいというよりは、それを通り越して興奮してしまって、息が荒くなってしまう。

「怖くない?」

「だ、大丈夫……です……」わたしは漏れる息の合間に何とかうなずく。

「……かわいい」

指の動きがどんどん一箇所に集中してくる。いちばん感じやすい、頂点の部分に。

そんなにそこばかり責められたら、わたし……

そう思っていると、ふいに悠人さんの手が離れて、わたしの服をまくり上げた。

「あっ」

驚く暇も与えず、悠人さんはわたしの脇腹やおへそに軽いキスをする。

同時に手が、どんどん下のほうに降りていった。

スカートを少しずつめくり上げ、手がふとももをにじり上がる。

「……っ!」

下着の上からではあったけど、「そこ」に触れられて、わたしは大きく息を吐いた。

「濡れてる。下着の上からでもわかる」

うん、わたしにもわかる。でも恥ずかしいから……言わないで……


初めての… ●小森未由

わたしが恥ずかしがっているのに気づいてはいるのだろうけど、悠人さんは手を止めない。

もっとも、わたしのほうも……止めないでいてほしかった。

「きれいだよ。もっと見たい」

おへその上まであがった上着をさらにめくると、ブラがあらわになった。

今日、このときのために選んだ下着。勝負下着といえるほど派手ではないけど、レースのきれいな、清楚なデザイン。シンプル一辺倒な下着しか持っていないわたしには珍しい、かわいい下着だった。妄想女子だった自分がどうしてこんなものを買ったのかよく覚えていないけど、もしかしたら少しは現実に期待したかったのかもしれない。

「……あっ」

ぼんやりそんなことを考えていると、悠人さんはわたしを現実に引き戻すかのように、ブラのホックに手を伸ばした。わたしの背中を少し浮かせて、ホックをはずす。

ブラがはずれてずり上がり、胸があらわになった。

「脱いで」

わたしの腕をするりとブラが抜けていく。

「やだ、恥ずかしい……」

手で胸を隠そうとしたけれど、悠人さんはそれを横に押さえつける。

「きれいだよ。隠さなくていい」

悠人さんの声は魔法の呪文みたいに体を縛りつけた。恥ずかしいのに動けなくなる。

「あっ!」

悠人さんの手が、今度は直接胸に触れる。皮膚の生々しい感触。自分の胸が、悠人さんの好きなように形を変えられているのがわかる。

「あんっ……」

頂点を指で弾かれたり摘ままれたりすると、声が出てしまった。

「ここ、感じるんだ」

悠人さんは今度は唇と舌で胸を愛撫してくれる。最初はまわりのほうから、ゆっくり。さっきすごく感じたところには、なかなか触れてくれない。

「悠人さん……!」

悠人さんの頭をぎゅっと抱きしめる。焦らさないで、そう言いたかったけど、声に出すのは恥ずかしい。

でも、悠人さんは受け取ってくれた。その部分にやがて、舌が伸びてきた。硬くなったそこを、舌で丁寧に転がしたり、吸ったりする。もう片方は、指でたっぷり愛撫してくれる。

「あぁぁっ!」

わたしは体をのけぞらせた。

「未由のここ、もうトロトロ」

下着の中に指を入れて、悠人さんはその部分をなぞった。最後にその上の小さな蕾をちょん、と突く。

「はぁ……っ」

ぞわりと快感が駆け抜けて、わたしは体をのけぞらせた。

ちゅ、ちゅっ……と粘膜が濡れて擦れる音がする。悠人さんはしばらく、指でその入り口を丁寧にほぐしてくれた。

「あ、あ……」

自分でもほとんど触ったことなんてないのに……こんなに気持ちよくなるなんて。

指でよかった、と正直思う。もし口でされたりしていたら、逃げ出したくなっていたかもしれない。初めてだし、そんなところをいきなりまじまじ見られるのは……やっぱり恥ずかしい。

悠人さんは自分も服を脱いだ。毎日家にこもって仕事をしているわりには、意外と贅肉がついてない。アソコがぐっと反り返っていて、見たくないと思いながらも、どうしても視線を注いでしまう。

クッションの下に悠人さんが手を差しこむと、コンドームが出てきた。ちょっと覚束ない手つきでコンドームをつける。

「入れるよ」

覆いかぶさってきた悠人さんに、わたしはうなずく。

「……痛い!」

わたしは呻く。

ゆっくり入れてくれているのはわかったけれど、それでも痛かった。体を麻酔なしで裂かれるとしたら、こんな痛みなのかもしれない。濡れているのに、入らない。わたしのが小さいんだろうか。それとも初めてはみんなこういう感じなの?

「無理しなくていいよ。痛いならやめるから」

悠人さんは言ってくれたけど、わたしは黙って首を横に振った。

痛いけど……止めないでほしい。

奥まで悠人さんが欲しい。

悠人さんはぎゅっとわたしを抱きしめて、さっきよりももっとゆっくり、少しずつ入れてくれた。

「入ったよ」

歯を食いしばっていると、優しい声が降ってきた。

「ゆっくり動かすね」

言葉の通り、わたしを優しく揺らすように悠人さんは動いた。痛いままではあったけれど、だんだん慣れてくる。

その痛みの中に、少しだけ快感が潜んでいることに気づく。それは、いつかわたしのものになる確信があった。

激しく動かすとまだ痛いかもしれないから……といって、悠人さんは「出さないで」くれた。

終わってからもわたしたちはいつまでも手をつないで、じっと寄り添い合っていた。


これがリア充 ●朝野悠人

未由が帰った後、俺は大きく息を吐いた。

無事に終わったよかった。とにかくそれしかなかった。

リードはしたものの、俺だってそんなに経験があるほうじゃない。それどころか、年にしては少ないほうだろう。

それに、未由のことはずっと好きだったから……正直、途中で暴発したらどうしようかとヒヤヒヤしていたところもある。

それから数週間――。

あれから何度かセックスするようになって、俺も未由もずいぶん慣れてきた。未由もだんだん痛がらなくなってきたし、おかげで俺も未由の中で……っていってももちろんコンドームはつけた状態だけど、イケるようになってきた。

未由はまだ恥ずかしがってはいるけれど、少しずつセックスが気持ちよくなっているみたいだ。

俺の手で開花しているんだと思うと、何だかうれしい。

漫画の仕事は漫画の仕事でしっかりこなしつつ、休みの日には恋人らしくデートしたりセックスしたりする。

幸せな日々だった。これがリア充ってやつなのか。今まで漫画ばかり描いてきて味わえなかったものを、やっと手に入れられた気分だった。でも、もっと早く欲しかったとは思わない。これまで知らずにいたおかげで、未由と出会えたんだから。

幸せではあったけれど、不安がまったくないわけではなかった。

(こんなにフツーなことをしていて、いいのだろうか)

未由はそもそも、あんなネタ帳をつくれるほどのエロ発想力の持ち主なのだ。何のためにあんなネタ帳をつくっていたのか理由はなかなか教えてくれないが、とにかくそのレベルたるやなかなかのものだ。そのへんのエロ漫画家なんてはるかに凌駕しているだろう。

そんな女の子が、優しくされるだけの普通のセックスでいつまでも満足してくれるだろうか。

いつかもっと激しいものが欲しくなる……いや、もうすでに欲しがり始めているのではないだろうか。

俺たちはそろそろ、もう一歩先に進まないといけないのかもしれない。

といっても、いきなりガツガツ進んでは未由も怯えるだろう。

俺は未由がいない間に、何かヒントを拾えないか、未由のネタ帳を開いた。

スキャンしたページをPCの画面上で開いていく。

(何となく……このキャラって妙に親近感を感じるんだよな)

俺は最初のほうのページにあった、スーツ姿で無口な男性のネタを何度も読み返した。

これならいけるんじゃないか。なぜか、そんな確信がある。

(いやがられたらすぐに止めればいいし……うじうじ悩んでいるうちに取り返しがつかなくなるよりはいいだろう)

決心すると、次はネットでホテルの検索をした。こういうのは雰囲気も大事に違いない。

そこそこの格のレストランのついたシティホテルを選び、予約をする。

あとは当日、スーツを着て、髪も整えて……

俺は未由に電話をして、一度「ちゃんとした」デートをしようと誘った。


いつもと違う ●小森未由

まさか妄想の君とこんなことになるとは……。

妄想の君、もといスーツ姿の悠人さんと食事を終えたわたしは、ぎこちない動きで部屋でシャワーを浴びていた。

あまりの緊張に、普段は飲まないお酒を少しだけ飲んだけど、全然まわってこない。

部屋では先にシャワーを浴びた悠人さんが、わたしを待っている。

バスローブを羽織って部屋に戻ると、悠人さんが読んでいた本をサイドテーブルに置いて、わたしを抱きしめてくれた。

いつものように優しいキス。

でも、いつものように優しく押し倒され……はしなかった。

悠人さんはわたしを強引ともいえる強さを押し倒すと、あっというまにバスローブを剥ぎ取ってしまう。

「やっ……」

裸を見られるのには多少慣れてきたけれど、こんなにいきなりなのは恥ずかしい。

いつもと違うのは、それだけじゃなかった。悠人さんはバスローブの紐でわたしの手首を縛り上げてしまった。

未由にキスする悠人

そのまま、有無をいわせずディープキス。

「んんふっ……む……」

指が下半身に伸びてくる。

何、これ。どうしたの? 悠人さん。

でも、こんな求められ方をしているのに、わたしのそこはもうぐっしょり濡れていた。

「やだ……っ」

「じゃあ、やめようか? こんなに濡れてるけど」

悠人さんは指を躍らせて、わざと音を立てる。

悠人さんの声にも、その音にもぞくりとする。

恥ずかしいけど、強引なのは少し怖いけど……ここで終わりにされるのは、いや……

「やめないで……」

わたしは消え入りそうな小さな声でお願いをする。顔がほてっていた。

深い口づけが何度も交わされる。悠人さんはわたしの胸や腰のラインを堪能するように丁寧に撫でる。

「あ、あぁ……っ」

悠人さんのものが、ゆっくり入ってきた。

「あ……気持ちいい……」

いつにも増して濡れているそこは、いつにも増して悠人さんを深くのみこんでいるように感じられた。

ゆっくり腰を振って、やがて果てて……

いつもなら、そうなるはずだった。

でも今日は、何もかもが「いつも」と違った。

「え、ちょっ……」

手首の紐を解かれ、わたしの体は悠人さんの腕の中でくるりと後ろ向きになった。四つん這いにさせられ、お尻を高く上げさせられる。妄想の中で何度もとっていた、バックの体勢。

「こんなの、恥ずかしい……っ」

その言葉に説得力なんてないの、自分でわかってる。アソコが熱くてたまらくなってるのが、自分でわかるから。もしかしたら、悠人さんをほしがって太腿のへんまで垂れているかもしれない。

「あ……あぁぁっ!」

背後から悠人さんの手が乳首とクリトリスを執拗に弄ぶ。どんなに感じて悶えても、悠人さんは許してくれない。膝がガクガクする。

じゅるじゅるにだらしなくなったアソコにおしおきをするように、太くて熱くなったものが突き刺された。引き抜かれては、また突き刺される。その間も指の動きは止まらない。

気持ちいいところを全部責められて、自分の体が自分のものじゃないみたいだった。

「あ……やぁっ……おかしくなっちゃう……っ」

頭の中が白く霞んでいく。

「未由、イクよ……」

悠人さんの囁きが、真っ白になった頭の中に響き渡った。

わたしは泣いていた。なぜ泣いているのか、自分でもよくわからない。

たぶん、恥ずかしかったんだと思う。

あまりにも乱れてしまった、あまりにも感じてしまった自分が恥ずかしかったんだと。

妄想の中ではさんざん乱れまくっていたくせに、現実のわたしは、恥ずかしがり屋の普通の女の子だった。

「いやだった……?」

困ったような顔をした悠人さんが、頭を撫でてくれる。

わたしは黙って頭を振る。悠人さんにいやな思いをさせたくなかった。

「わたし……恥ずかしくて……すごく感じちゃったから……だから……」

なんとか、それだけ言えた。


⇒【NEXT】幸せだった。でも……何かが違うような……気がした。(「妄カラ女子」…spotA〜未由編〜・シーズン10)

あらすじ

悠人が未由に出した「宿題」、それは妄想ノートに悠人にされたいことを書いてくること。
いつもならスラスラと書ける妄想ノートもそれが現実となると…。

松本梓沙
松本梓沙
女性向け官能、フェティシズム、BLなどを題材に小説、シ…
poto
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毎日小説「夜ドラ」の挿絵も担当。書籍、ウェブ、モバイル…
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