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官能小説 キス以上の事をしてほしいのに(インサート・コンプレックス 1話)
溜息
それはコーヒーの湯気かマリカのため息か、本人にもよくわからなかった。
喫茶店で働く彼女こと飯塚マリカは、2つの仕事をこなしている。
1つは、チェーン店の喫茶店のクルー。もう1つは、仮歌シンガー。仮歌シンガーというのは、歌手が本当に声を吹き込む前に、仮で歌詞とメロディをガイドする役割のことを指す。マリカはいつか本物のシンガーになれることを夢見て、仮歌を日々録り続けている。
そんな彼女にも、大切な恋人がいる。名前は橋本耕史。海洋研究員である耕史は、彼女とは全く違う生活をしている人で、なぜ2人が付き合うことになったのか、本人たちでさえ不思議であった。
今日も2人はお互いの仕事を終えて、駅前で待ち合わせをする──。
好き
「マリカ、ごめん。待った?」
「ううん、今来たところだから大丈夫」
息を切らせてきた耕史に、マリカは微笑む。本当は10分前に到着していたけれど、彼の顔をみたらそんなことを言おうという気が無くなった。
それほど、マリカは耕史のことが好きだった。
「お腹すいた? 何食べようか」
手をつないで2人は歩き出す。
「耕史の好きなものだったらなんでもいいよ」
「それは困るよ。決めただろ? 食事をするときは交互に案を出すって。前回は俺がお店を決めたんだから、今回はマリカが決めてよ」
「そうだったっけ? うーん。わかった。じゃあ、あそこどう?」
マリカが提案したのは、チーズをメインにしたレストランだった。今流行の兆しが見えているチーズたっぷりのシカゴピザが名物らしく、きっとお腹いっぱいになるだろう。
それに、とマリカは思う。
あのチーズの店は、ホテル街にほど近い場所に位置する。「その気」になったときにすぐに移動できるのだ。
だが、マリカは喫茶店での自分のため息を思い出した。
(──今日はエッチ、できるかなあ)
耕史はなぜかエッチをあまり積極的にしようとしなかった。なぜなのか、理由はわからない。そのことがマリカには少し不満でもあり、不安でもあった。
(私って、魅力ないのかな)
チーズのレストランに入ると、店中がふんわりとしたいい香りに包まれていた。
「私、このお店初めてなの」
「俺もだよ。っていうか、存在を知らなかった」
「友達がね、美味しいって言ってたんだ」
マリカがはしゃぐのにつられて、耕史も笑顔になる。
「そういえば、仮歌の仕事のほうはどう?」
シカゴピザは手で持ち上げるとチーズがとろりと伸び、まるでどこまでも付いてくる影のようだ。
「うーん、今週はコンペ用に2本録っただけ。歌手として生活できるようになるには、仮歌じゃなくて本番を歌えるようにならないとね」
「そうなんだ、本番ってたとえばどんなのがあるの?」
耕史は目をキラキラさせて尋ねてくる。彼は知らないことがあるととても嬉しそうになるくせがあった。
「そうね、たとえばCMソングとか。私の知り合いはクリスマスの時期になると、チキンのCMソングを歌ってるよ」
「へえ、マリカも歌えるようになるといいな」
そう言って耕史は笑い、グラスを傾けた。食事もそこそこ食べ、そろそろお会計にしようか、という雰囲気のときだった。
「ねえ、これからどうする?」
マリカが甘えた口調で耕史に尋ねる。
彼女の言いたいところは、つまりこの後ホテルへ行こうというものだった。古い考えの人の中には、女の子から言い出すなんてはしたない、と思う人もいるかもしれない。
誰にどう思われていようとも、マリカは耕史に対しては積極的になりたかったし、それぐらい彼のことが好きだった。
「うーん、俺、明日仕事早いからなあ。東京に出張へ行かなきゃならないんだ。マリカは?」
耕史の手がカバンから財布を取り出し、お会計の準備をする。
マリカは少し寂しそうな目をして、その手を見つめた。
「私は、明日遅番だから少しぐらいなら平気……でも、耕史が朝早いなら、無理させちゃだめだよね」
「ごめんね、マリカ」
強がり
テーブルでお会計をすませると、2人はチーズのレストランが位置する、ホテル街の入り口で立ち止まった。
「ねえ、耕史。私のこと好き?」
マリカが街灯の死角に耕史を連れていく。ホテルに入れないなら、せめてここでキスぐらい、と思ったのだ。
「うん、マリカのことは好きだよ」
そう言いながらも、彼はホテルに入りたがらない。
それは今に始まったことではなかった。交際を始めて3ヶ月、同じベッドを共にしたのは数えるほどしかない。マリカは次第に、女としての自信を失い始めていた。それを察知したのか、耕史がマリカを暗がりの中で抱きしめる。
そしてそのまま、乱暴に唇を奪った。
「んっ……はむっ、ふ……うぅん……」

耕史の薄い唇が、マリカのぽってりした唇に合わさる。彼の唇は薄いのにあたたかくて、マリカを安心させる。マリカが薄く開けた口の中に、次に耕史の舌が入り込んできた。熱っぽい舌は、ねっとりした感触を与える。それはマリカにとって嫌な感覚であるどころか、嬉しい感触であり、彼女は耕史の首に腕を回した。
「マリカ……好き、だよ。すごく好き」
唇を重ねる間に、耕史は言葉も重ねる。マリカの不安を感じ取っているのか、キスをする時は必ず耕史は「好き」と言ってくれた。
「は……う、あ……んっ……」
耕史のキスは、上手だった。どう上手だったかというと、唇を食むタイミングと舌を入れるタイミングが絶妙なのだ。マリカの口が逃げるのを追い、絶対に逃さない。涙目になるほどマリカは骨抜きにされてしまうし、それを見たときの耕史は少し意地悪な微笑みを瞳で返すのだ。
そんな時、マリカは思う。
(私はこの人が好き。たぶん、耕史も私のことが好き)
好きでなければ、こんなキスできないだろうと考える。おずおずとマリカも舌を差し出し、唇からにゅっと先を出すと、耕史も口から舌を出して絡ませた。2人分の唾液が、舌と舌の間に糸を引く。耕史はそれを、蜘蛛が糸を捕まえるように、口に手繰り寄せてもう一度キスをする。
(こんなんじゃ足りない、もっとしてほしい……)
マリカは視線で耕史に訴えた。街灯の死角であるからはっきりは見えなかったかもしれない。でも、マリカの鼓動は聞こえているはずだし、潤む瞳だって本当は見えていたかもしれない。
耕史はそれに生唾を飲み、一度マリカをぎゅっと抱き締めた。そして抱き締めた手をもぞもぞと動かして、マリカの体をまさぐる。彼女のトップスの中に耕史の手が入り込んできて、マリカの背中に触れる。体温の低めなマリカの背中に触れた手は、熱っぽく、耕史の興奮を表していた。
「耕史……? ねえ、好きにして……」
背中に彼の手の感じを覚えながら、彼の腕の中でマリカが精一杯のことを言った。
「う、うん」
耕史の唇が、今度はマリカの首筋に乗る。吐息がかかると、マリカは身をぶるっと震わせた。
「んっ……。あ、あぁ……んあっ……」
あたたかい吐息が、くすぐったいような気持ち良いような気がする。だが、その声を聞いた瞬間、耕史の手がぴたりと止まった。
「……耕史?」
マリカが不審がって、彼に声をかける。
「……いや、ごめん。やっぱ今日はやめよう? 俺、明日早いの忘れてた」
背中に這わされていた手がするりと逃げ、抱き締めていた腕も遠くなっていく。マリカは目を伏せて、彼の方を見ないようにした。
(やっぱり……私、魅力的じゃないのかな……。耕史にエッチしたいって思ってもらえるような女の子じゃ、ないのかな……)
男に求められることが全てではない、マリカはそう思っていたが、だが好きなひとにこんな反応をされると、悲しい気持ちになってしまう。マリカは心の中がじくじくと膿んだようになりながら、精一杯の強がりで耕史と手をつないで駅まで戻っていった。
⇒【NEXT】耕史がマリカの上に覆いかぶさって、もう一度唇と唇を合わせた。(インサート・コンプレックス 2話)
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あらすじ
いつか本物のシンガーになれることを夢見ている仮歌シンガーの飯塚マリカ。
今日も付き合って3か月の彼氏・橋本耕史とデートだった。
話も盛り上がって楽しくディナーを過ごしていたが、マリカにはある悩みがあって…