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官能小説 同居美人 プロジェクトB 〜想子編〜 シーズン10
「お泊りデート」
出かける場所について、わたしたちは二人で話し合って決めた。
思い出の水族館に行った後、都心のちょっと贅沢なホテルに泊まる。
(お泊りデートかぁ……)
男性経験のないわたしにとっては、男性とのお泊りも初めての体験だ。
(何を持っていけばいいんだろう)
悠さんに聞けば間違いないのはわかるけれど、さすがに一緒に行く相手に聞くことではないだろう。
なので、インターネットで調べたり、一足先に卒業が決まっていたという千織ちゃんに相談したりして、必要だと思うものをリストアップした。
千織ちゃんに相談するのは、恥ずかしくもあったけれど、頼もしさのほうが大きかった。ずっと一緒に暮らしてきて、弱いところも情けないところもお互い見せ合った仲だからかもしれない。姉御肌なところのある千織ちゃんは、素直に頼るといろんなことを教えてくれた。
まずは、基本的なアメニティ類はホテルにあるからいらないけれど、特に愛用しているアイテムだけは持っていかなくてはいけないということ。わたしの場合は、洗顔料のしろつやびじんやヘアミストのヌレナデテ、フレグランスのリビドーといったものだ。それぞれ小分けにして、ポーチに入れた。
それから、替えの下着ももちろん用意するけれど、最初から着ていくのもきれいなものにすること。昼間からずっと一緒なら、どういうタイミングで替えることになるかわからないからだそうだ。そんなことをさらりと言われて、何だかちょっと照れてしまった。
さらに、いざというときのために、下着にパンティライナーをつけておくといいということも教えてもらった。直前でトイレに捨ててしまえば、下着自体はいつでもきれいなままだ。
(あとは……これも持っていかなきゃ)
ひととおり支度を終えると、最後に、いちばん大事なものをバッグに入れた。絶対に忘れてはいけないもの。『プリリーナ・コーティングジェル』だ。
――想子ちゃんのお尻が忘れられないんだよねぇ。
悠さんの言葉が胸の中でよみがえる。冗談だったとしても、褒めてくれたのはうれしい。……ちょっと恥ずかしいけど。
コーティングジェルだけにしたのは、さすがにプリリーナでマッサージしている時間まではないだろうから。少し不安ではあるけれど、これまでずっと念入りに磨いていたのだから大丈夫と自分に言い聞かせる。
(いよいよ、明日……)
全部の支度を終えてベッドに入った頃には、もう12時を回っていた。
「お姫様にしてあげたい」
朝、みんなで朝食をとっていると、悠さんに後で自分の部屋に来てほしいと言われた。
出かける予定はあっても、正確に何時と決めたわけでもない。食事を終わらせると、とくに焦ることもなく、悠さんの部屋を訪ねた。

悠さんはメイク用品を出して、軽くメイクをしてくれた。
「思い出に残る日になるだろうから、きれいにしてあげる」
小さいドレッサーの前に座ったわたしに、悠さんはいつもながらの慣れた手つきでメイクを施していく。
もうすぐこの部屋で、こんなふうにメイクをしてもらうこともなくなるんだと思うと、それはそれで寂しい気がした。
「はい、終わり。で、ちょっと待って」
悠さんがクローゼットの中から何やら取り出してくる。
「はい、これ、プレゼント」
ピンクのリボンのついた、ひと抱えほどある包みだった。
少しはにかんだような笑顔で、こちらに差し出してくる。
「今日は君をお姫様にしてあげたいんだ、開けてみて」
リボンをほどき、包みを開いた。
「わぁ……」
思わず息をのんだ。
白いドレスだった。上品ではあっても派手すぎはしなくて、ほどよく「よそゆき」という雰囲気だ。
「きれい……」
あまりにも素敵で、悠さんの心づかいがうれしくて、涙が溢れてくる。
「泣くのはまだ早いって」
悠さんは苦笑しつつ、頬にそっとキスをしてくれた。
―――
水族館で、わたしは一匹の白い魚みたいだった。
ドレスのスカートはわたしの動きに合わせて、豪奢な尾ひれのように軽やかにひらひらとゆらめく。
「人魚みたいだね。人魚姫だ」
悠さんが笑う。
彼はずっとわたしの腰に手を回していた。
前に来たときには、影法師で手をつなぐだけだった。あれから実際の距離だけでなく、心の距離もずいぶん近くなった気がする。
相変らずイルカショーもやっていたので、二人で並んで観賞した。
悠さんはショーが始まる前に自分のジャケットを掛けてくれた。
でも、今度はそれほど前の席でもない。水が飛んできたとしても、ほんの少しだろう。
そう話すと、悠さんはわたしの頭をそっと撫でた。
「ほんの少しだったとしても、大事な想子ちゃんを濡らしたりしたくないんだよ」
そんなことを面と向かって言われて、真っ赤になってしまう。
白いドレスに、赤い顔。絵にしたら何だか少し滑稽な、でもとても美しい一枚になるだろう。
ショーが始まってからもずっと、悠さんは大事なものを守るみたいに、わたしの肩をしっかり抱いていてくれた。
―――
西の空が暮れなずんでいる。
園内のスピーカーから、閉園を知らせるアナウンスが流れてきた。
平日だったから、人の出はそれほどでもなかった。その人たちが、点々と入場ゲートに向かっていく。
わたしは、立ち止まった。
「どうしたの?」
悠さんが顔を覗きこむ。
「不安なの」
わたしは呟いた。
こんなことは今、言うべきではないのだろう。だけどそれは、止めようもなくぽろりと口からこぼれ落ちてしまった。
「一人ではなく、二人で」
「不安?」
悠さんはきちんと足を止め、体ごとこちらに向き直った。
わずかだが眉間に皺が寄っている。
当たり前だろう。今はもし何か言うとしたら、うれしくてたまらないと口にしなければいけないはずの瞬間だ。悠さんにもさんざん迷惑をかけて辿り着いた場所なのだから。こんなことを口にしたからには、悠さんが機嫌を損ねたとしてもおかしくはない。
それでもわたしは、言わずにはいられなかった。
今を幸せだと感じれば感じるほど、この不安を分かち合っていてほしい気持ちが、胸の中で痛いほど疼いた。
この幸せを手にした経緯を、どうしても振り返ってしまうから。
「どうして不安なの?」
悠さんが微笑しながら首を傾げる。
「悠さんが好きすぎるから。また自分でも思いも寄らないことをしてしまったらどうしよう、って。……お姉ちゃんのときみたいな」
わたしは強くなったと思う。でも、「いつでも」強くいられるだろうか。
自分をどこまで信じていいのか、わからない。
「ごめんなさい。ここまで来て、わたし、まだこんなことを言っていて……」
「話そうよ、たくさん」
悠さんの答えは、拍子抜けするほど明快だった。
「俺はいつでも想子ちゃんの気持ちを受け止めるから。想子ちゃんがいっぱいいっぱいにならないように、とにかく話し合おう。違う人間なんだからさ、不安や疑問があればとにかくたくさん話すしかないと思うんだ」
あぁ、そうか。
私は思わず、悠さんをまじまじと見つめてしまう。
「……はい」
肩のあたりにあったこわばりがすぅっと抜けていった。
そうか、これからは一人で強くなるのではなく、二人で強くなればいいんだ。
私の不安を悠さんに受け止めてもらって、私も悠さんの不安を受け止めて。
「たとえば、俺の仕事場は女性が多い環境だけど、何か疑問があったら一人で邪推しないでちゃんと聞いてほしいんだ。もちろん、俺だって想子ちゃんにいろいろ尋ねるつもり。俺だって、たとえ仕事でも想子ちゃんがまわりの男とあんまり仲良くしていたら嫉妬するだろうからね」
いい子でいなくてもいい。人間なんだから、ときには情けないところを見せることだってあるだろう。わたしも、悠さんも。ただ、心を開いて向き合う努力だけは絶対に怠らないようにしよう。
わたしは悠さんの手を、強く握って返事した。
「はい!」
車に乗り込んでからも、いろんなことを話した。
お互い癒されたり慰められたりするだけでなく、きちんと諭せるような相手になろうと、わたしたちは誓い合った。
「恋をして、艶めいた」
ホテルに着くと、まずはチェックインして部屋に入った。食事は最上階のレストランを予約してくれているという。
部屋は東京じゅうの夜景を見渡せそうな高層階にあった。普段落ち込んだり笑ったりしながら目の前のことだけを見据える日々を過ごす街をこんなふうに見下ろすと、達成感とも罪悪感ともつかない不思議な気持ちが沸き上がってくる。
(ずいぶん遠いところまで来たんだな、わたし)
夜景からいつまでも目を離せずにいると、後ろからふわりと暖かいものがわたしを包んだ。悠さんだった。
「たまにはこんなところで泊まるのもいいだろ。今日はゆっくり羽を伸ばそう」
顎を軽く持ち上げられる。唇が近づいてきた。わたしは軽く目を閉じて、その唇を受け止めた。
「さて、じゃあ一度メイクをなおそう」
悠さんは持ってきたメイクバッグをデスクの前に置く。
「え、ひょっとして崩れてますか」
「まさか、俺のメイクはそう簡単には崩れないよ。夜用の、ちょっと大人っぽいメイクにしようってこと」
手招きして、椅子に掛けるよう促す。わたしはいわれるままに座った。
軽くフェイスマッサージをしてもらうと、気持ちがすっきりした。その上で少しだけ濃いメイクを施される。
「よし、完成」
ドレスは同じなのに、人魚姫は少し大人びた。地上の王子様に恋をして、艶めいたみたいに。
「そろそろ行こう」
差し出された手を取る。
部屋を出るとき、悠さんはわたしを抱き寄せた。
「ずっとこの気持ちは変わらないから」
耳元に甘い声。そしてまたキスされた。
―――
レストランは二面がガラス張りで、都会の夜空にぽっかりと浮いているみたいだった。
わたしたちの席はそのうち一面の窓際で、まるで空に突き出しているように見える。
エスコートしてもらってついたテーブルには、ハーフボトルのシャンパンが用意してあった。
ボーイさんが指先にまで神経の行き届いた手つきで、フルートグラスに注いでくれる。
「卒業おめでとう」
「ありがとうございます」
悠さんが差し出したグラスに、そっと自分のグラスを触れさせる。
エスコートにも、このレストラン全体の雰囲気にも、正直なところわたしは「呑まれて」いる。でも、フリでも堂々としていたくて、頑張って背筋を伸ばしていた。悠さんとメイクとドレスで美しく飾り立ててもらって、びくびくしているわけにはいかない。
料理は魚と野菜をふんだんに使ったヘルシーなものが多かった。肉料理を多くするとお腹にもたれるから、でも足りなかったらルームサービスを頼もう、と悠さんは言い添える。いろんなことが初めてのわたしに、気を使ってくれたのだろう。
それでも、今夜のことを考えるとどうしても緊張してしまう。
いよいよ、初体験……。
「これからわたしの中に……」
「お風呂に入ろうか」
部屋に戻ると、まずそう言われた。
わたしは黙ってうなずく。一緒に入ろうという意味だということは、いくら何でもわかる。
悠さんはバスタブにお湯を張りに行ってくれた。
わたしは一人で部屋で待つ。
ベッドは当然ひとつだ。大きなダブルベッド。明日の朝、ここで目覚めるわたしは、今までのわたしとは違う自分になっている。
うれしい。でも、少しだけ怖い。
夜景はあまりにも美しいのに、もうわたしの心を奪ってはくれない。わたしの心は今、「そのとき」に向かってだけ引きつけられている。
「準備できたよ」
バスルームから悠さんが顔を出した。
中に入ると、照明が暗めに調整されていて、ガラス窓の向こうの夜景がよく見えるようになっていた。もともと備えつけられていたらしいバスタブ際のキャンドルに火が灯され、お湯に火影を揺らめかせている。
悠さんはわたしを抱き寄せるとキスをした。さっきとは違う、深くて、長いキス。こわばりをほぐすように、舌を丁寧に絡ませてくる。わたしはただ、その動きについていく。
「ん……はぁ」
唇と唇が離れると、やっと息を吸うことができた。息もつけないほどのキスというのは、こういうことをいうのかもしれない。それとも、もっと器用で慣れている人なら、上手に息継ぎをするのだろうか。
悠さんの唇が今度は首すじに振ってくる。ちゅっと音を立てて軽く吸ったり、舐めたり。動脈の通っているところをさらけ出してキスをされるのは、何だかぞくぞくする。命まで預けているからだろうか。
ドレスのファスナーに指がかかったのがわかった。悠さんにしがみつく指に力が入ってしまう。
ファスナーを下されたドレスがぱさりと軽やかな音を立てて床に落ちる。今、わたしは白のレースの下着だけ。この日のために買っておいた、総レースの豪華なランジェリーだ。パンティはTバックにしている。悠さんが……わたしのお尻を好きだと言ってくれたから。
悠さんはしばらく肩から背中、そして腰を撫でていたが、やがてその手はお尻に行き着いた。気のせいか、ほかのところよりもじっくり味わうように触っているように感じる。プリリーナ・コーティングジェルで念入りにお手入れをしていて、よかった。
ほどなくして指先がブラのホックに触れた。
「いい?」
尋ねられて、うなずく。
レースがするりと体を滑り、胸の頂まで悠さんの目の前にあらわになった。
「きれいだ」
恥ずかしくて、心臓の鼓動が早くなる。でも、いやな感覚じゃない。
「こっちも」
パンティの横のリボンに指がかかって、そのままそっと下された。
愛する人の前で、わたしは何も隠さない姿になった。
悠さんは自分も急いで服を脱いだ。ちらりと視線を流すと、暗くてよく見えなかったけれど、「そこ」はすっかり大きくなっているようだった。
(あれが、これからわたしの中に……)
脚の付け根の部分がきゅんと熱くなる。
「中、入ろうか」
促されてバスタブに入ると、悠さんに後ろから抱きかかえられる格好になった。
振り向いて、さっきみたいなディープキスをする。そうしながら悠さんはわたしの体のいろんなところに指を伸ばしていった。
肩や腰や太腿……それから、胸や、脚のあいだ。
「は……っ」
触れられるたびに走る甘く痺れるような感覚に、息とも声ともつかないものが出てしまう。
さらに指は内腿に届き、その奥へと進んでいった。
「あ……」
でも、まだ中には入れないで、まわりの花びらを弄んでいる。指で突いたり、摘まんだり。
「あ……ん」
「ぬるぬるしてる」
耳たぶを噛みながら、悠さんはそっと囁く。
お尻に悠さんのものが当たっている。硬くて、大きい。
「お願い、優しくして……初めてなの……」
わたしはきれぎれな声でお願いした。
⇒【NEXT】優しく押し倒され、キスをされた。最初は軽く、頬や口に何度も、何度も。(同居美人 プロジェクトB 〜想子編〜 シーズン11)
あらすじ
悠との初めてのお泊りデート。
男性経験のない想子は期待と不安が入り混じって…