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恋愛のお守り【vol.12】川奈まり子 書き下ろしコラム
恋愛のお守り【vol.12】川奈まり子 書き下ろしコラム
もう二度と恋することなど、ないかもしれないと諦めかけていた私なのに、恋に堕ちてしまった。
生まれて初めて自分から告白をした。
受けいれてもらえた瞬間、世界がバラ色に見えるというのは真実だったのだと知った。
今まで、そんな話は鼻で笑ってきたのだけれど。
――それ以来、バラ色の季節が続いている。
私たちは手をつないで歩く。
町中で手と手を触れ合ったりして嬉しがっている彼と私を見て、いいトシをして、と呆れる人もいると思う。
私自身、恋人との関係を人前で照れる気持ちがないワケではない。
でも、しかたがない。
なぜって、四六時中、彼の肉体を求めてやまない、それが現在の私だから。
彼は私史上でいちばんセックスの相性がいい。
何でもかんでも話せる女って……
彼に抱かれて、私はおおらかになり大胆になった。
開かれてゆくことは、悦びだった。
思いがけず繊細な動きをする舌と指先が、私の小さく縮こまっていた心と体を解きほぐしてくれたのだと思う。
私は近頃では恋人のそれに手をそえて導き入れたり、脚を高く上げて積極的に体位を組み替えたりもする。
今つかっているコンドームは一緒に買った。
肩をくっつけあって二人でパソコンの画面を覗き込んで品物を選んだのだ。
「俺、こんなことするの初めて。こんなふうに何でもかんでも話せる女って……」
あなたが私をそうさせているのだと思いながら私はきいた。
「嫌い?」
「ちがう。逆。最高」
そのコンドームが私たちの手もとに届き、実際に使ってみると、これがまた彼曰く「最高」だったので、私の彼へののめりこみようはひどくなる一方で……。
私が……この私が
彼も、コンドームの箱の底に残った最後の一個をいつまでもとっておくなどと言ったりして、かなりキテいる。
私ひとりが恋に中毒しているのだと寂しいけれど、違うようだ。幸いなことに。
「これをさ、俺たちの記念にするわけ。そうだ。お守りみたいに、いつも持ち歩くかな」
バッカじゃないの、と笑い転げながら、ふと、私が……この私が、客観性ゼロの恋愛を心の底から愉しんでいることに気がついた。
恋は人を変える。これも本当だった。少し驚きながら、私は彼にこう尋ねた。
「私たちって、すっごくいい感じになってきてるね?」
私の恋人は予想どおりの返事をよこした。
「最高にね!」
――世界のバラ色がまた一段と深まった。
恋愛に必要なのは、優秀なコンドームと、笑顔と肉体が雄弁な恋人だとつくづく思った。
次の一箱の最後の一個は、私がお守りにするつもりでいる。