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官能小説 パラレル・ラブ ストーリーB 〜洋輔編〜 シーズン1
「ほら、手を取って」●西原ななみ
「大丈夫?」
私に手を差し伸べてくれたのは、すらりとした長身の、顔立ちの整った男性だった
街を歩いていたら、女性の半分ぐらいが、振り向くまではしなくてもつい目で追ってしまうタイプなんじゃないだろうか。そりゃあ顔の好みには個人差があるだろうけど、彼には清潔感と不思議な物腰の柔らかさがあって、そういうものが嫌いな女性はほとんどいないと思う。
(こんな人も婚活パーティに来るんだなぁ……。十分パートナーがいそうに見えるけど)
つい、ぽーっとしてしまう。
「ほら、手を取って」
動けないでいる私に、彼はもう一度声をかけてくる。急かしている感じのない、あくまでも優しい声。
私ははっとしてその手を取った。
気のせいかもしれないけれど、周囲の女性の視線が痛い。
「立てる?」
「え、えぇ、大丈夫そうです」
痛みは強かったけれど、幸い歩くのに支障はなさそうだ。
「よかった、じゃあ」
彼はその場を去っていこうとする。
「えっ……」
じつは私はちょっとだけ期待していた。これをきっかけに、彼といきなり仲良くなれたりするんじゃないかって。
でも、ここは婚活パーティだ。彼だっていろんな女性と話してみたいだろうし、そもそも私に彼を惹きつけられるほどの華があるとも思えない。
彼はただ、親切だっただけなんだ。
それでも未練たらしく、彼の動きを追う。胸の名札には「高木洋輔」と書かれていた。
(高木さん、か……)
やがてパーティが始まると、私はまた高木さんと話すことができた。
パーティには参加者が男女1対1で話す時間が設けられていて、どんな相手とも必ず2人だけで数分間は話さないといけない。

私は何よりもまず、真っ先にお礼を述べた。
「あの、先ほどはありがとうございます……」
「気にしないで下さい。女性があんなふうに倒れていたら、助けるのは当然だから」
高木さんが渡してくれたインフォメーションシート――参加者がそれぞれ自分の職業や趣味、相手の異性に求めることなどの情報を書いて、お互いそれを見ながら話をする――を見ると、職業の欄にパイロットと書かれていた。
「パイロットだなんて、すごいですね」
驚いたのは、もちろん「ふり」ではない。今までの生活で、パイロットなんて会う機会はなかった。 住む世界が違いすぎた。婚活パーティって、じつはすごいところなのでは……。
「どんな職業の人もそれぞれすごいところはあると思いますけど、確かに努力では誰にも負けなかったと思います」
高木さんは特に気負う様子もなく言う。爽やかな笑顔が眩しい。
彼は私にそれほど興味を持たなかったようだった。趣味などの話を適当にして、私たちのトークタイムはあっさり終わってしまった。
パーティはその後、特に相手を決めないフリートークタイムになった。高木さんは会場の中でもひときわ目立つ、若くてキレイな女性とずっと話していた。
「そんなこと、あるわけない」●西原ななみ
何も収穫がなかった。
私は重い足取りで帰路についた。
婚活パーティでは、何組かのカップルができたと最後にスタッフが発表した。気になる人の名前をパーティ中にスタッフに告げて、もしその相手も同じように自分のことを気になると言ってくれるのなら引き合わせてくれるというシステムがあり、今日だけで5組ものカップルが誕生したらしい。
もちろんこれで即・結婚まで進むわけではないけれど、お互い相手の条件を知った上で惹かれたわけだから、そこまで行く可能性は高いだろう。
高木さんは、ずっと話していた若くてキレイな女性とカップルになっていた。名前まで大々的に発表されたわけではないけれど、カップルになった人たちは会場を出て行く姿が何だか堂々としていたから、すぐにそれとわかった。
私は迷ったけれど、結局、高木さんとカップルになりたいとスタッフに伝えることはしなかった。理由は簡単。恥ずかしかったからだ。こんなところにまで来てなお、私は心のどこかで、運命の相手とは婚活なんてシステムに頼らないで自然に出会いたいと思っていた。会場を出た後、高木さんが話しかけてきてくれたり、偶然帰り道が一緒になったりしたらいい……そんな都合のいいことを考えていた。
(でもどっちにしても、高木さんが私を選んでくれるとも思えなかったけどね)
高木さんとカップルになりたいと願った女性はきっと多かっただろう。私がその中を勝ち抜けるとは思えなかった。だいたい、選んでいたのはあの美人なのだし。
収穫があったとすれば、「ああいう場所ではもっと積極的にならなければダメだ」と学習できたことだろうか。「いつか、何か起こるはず」という希望を持っているだけでは、たぶん、何も起こらない。
(それでもやっぱり……自然な感じがいいなぁ……)
「西原、ななみさん?」
自宅の最寄りの駅で電車を降りて、そんなことを考えながら歩いていると、突然後ろから声をかけられた。
振り向くと10歳ぐらいの男の子が立っていた。見るからに頭の良さそうな、優等生タイプだ。
「突然すみません。お話ししたいことがあって……」
「はぁ……」
男の子は自分はカミサマだと言った。私が彼から聞いた話は、にわかには信じられないものだった。当たり前だ。私が転んだ拍子に世界がふたつに分かれて、しかもそのせいで世界が不安定になってしまったので、どちらかが急に消えてしまうかもしれない、なんて。
(そんなこと、あるわけない)
そうは思ったけれど、なぜかいても立ってもいられなくなった。
カミサマが教えてくれた方法を、半信半疑で試してみる。
結果は……手鏡の中で、私はもうひとりの私と確かに会って、話をした。
「信じられない」
向こう側の私が言う。
「信じられない……ね……」
それだけ会話するのが、そのときに私たちには精一杯だった。まずは事態を受け入れることから始めないといけなかった。
「穏やかではいられない」●西原ななみ
私はなるべく時間を空けずに、もう一度婚活パーティに行くことにした。すぐに行動に移したのは、早く婚活したかったからではもちろんない。高木さんに失恋ともいえないレベルの失恋をし、カミサマなんていう正体不明の存在やもうひとりの私と会って、すっかりこんがらがっていたからだ。
こういうときにはとにかく行動しないと、考えすぎて動けなくなる。勢いが余っているうちに次につなげていかないと、何もかもがイヤになってしまう。 前日の夜、足がまた痛みだした。やっぱり病院に行っておけばよかったかなとも思ったけれど、歩けないほどでもない。どうせ週末は病院も休みだし、パーティの後に行けば大丈夫だろう。
今度参加したのは違う会社のパーティだったけれど、システムは大体似たような感じだった。
「あれっ?」
会場に入った途端、自分の目を疑った。
高木さんがいる。
(あの美人とはうまくいかなかったのかな)
気になったけれど、まさか本人に聞くわけにもいかない。 とりあえず、私は私の準備をしなければ。パーティが始まる前に、念のためトイレに行っておくことにした。 女子トイレに入ると、きれいに着飾った女性たちが2人、鏡の前でメイクをなおしながら話していた。
「あの人、また来てるね」
「あぁ、高木さん?」
「毎回ちゃんとカップルになってるのに、なんでだろうね」
個室の中にそんな会話が聞こえきて、思わず耳をそばだてた。
「案外、エッチ目的だけでこういうパーティに参加してたりして……」
「それはないんじゃない? そういう噂が広まったら出禁になりそうだし」
「でも、何度も来ているんだから怪しいよ」
最初のほうこそ、みんなめげずに何度も挑戦しているんだなぁと感心したが、次第に穏やかではいられなくなっていった。
「だけど、確かに変だよね。ハイステータスだし優しそうだし、なのにカップルになってもすぐにうまくいかなくなっちゃうなんて」
私が思ったのとまったく同じことを、女性の一人が口にした。
結局、その日のパーティでも結果は出なかった。
前よりは少し積極的になった私は、少し気になった人の名前をスタッフに告げたものの、その人は私のことはタイプではないようだった。
高木さんとも話したが、前回のお礼を言って、とりとめもない話をしているうちにトークタイムが終了してしまった。盛り上がりとは無縁だった。
彼と向かい合っている間、私はずっとあのトイレでの会話が気になっていた。こんなに優しそうで、実際に優しくしてくれて、少なくとも見た目は誠実そうな人が、まさか……。でも、そう思っても、疑惑や不安は消えていかない。もしかしたらそんな気持ちを見抜かれたのかもしれない。
「今日は3組のカップルが誕生しました!」
パーティ終了のときにスタッフが告げる明るい声が、私にはとてもむなしく響いた。
「少し……寂しくなってきた」●高木洋輔
勉強ばかりの子供時代を送ってきた。
医者の両親には、医者になれとずっといわれていた。ほかにとくに夢らしい夢もなかったので、いわれるままに勉強していた感じだ。
だけど高校2年のとき、見てしまった。
毎年恒例の家族での海外旅行に行くとき、空港で、巨大な旅客機が滑走路をターミナルに向かってゆっくりと向かってくるのを。
いや、僕が見たのは、正確には飛行機「だけ」じゃない。そのコックピットにいたパイロットのほうに、ずっと意識を注いでいた。
(あんな巨大なものを、小さな人間が動かすなんて……)
それは僕にとっては大きな衝撃だった。空港の大きなガラス窓の前で、しばらく固まってしまうほどに。
僕は両親に、医者ではなくパイロットになりたいから、進学先を変更したいと打ち明けた。
反対を覚悟していたが、両親は逆に喜んでくれた。今まで子供らしい夢を語ることもなく、とくに仲のいい友達がいるようにも見えず、勉強ばかりしていた「つまらない優等生」だった僕が、自分から何かをしたいと言い出すなんて大した成長だと。
こうして僕は進路を大きく変更し、理系大学の工学部に入学した。卒業後、大手航空会社の自社パイロット養成試験を受け、合格。数年間の研修を経て、まずは副操縦士として勤務した後、去年、機長に昇格した。
パイロット養成試験も、研修も、それまでの勉強とは比べものにならないぐらい厳しく、難しかった。ついていけなくなったらそこで即脱落。補修なんて親切なものはない。一度に数百人もの人の命を預かる仕事なのだから当然だろう。
それでも、やりがいはあった。もともと何か目標をつくり、そのためにひとりでコツコツ努力するのがきらいな性格ではなかったから、むしろ楽しかった。
だけどその性格は、仕事で目標を達成するのには役立っても、人間関係には成果をもたらさなかった。
人間関係は努力すればしただけ、結果が返ってくるなんてことはない。努力だけではなかなか磨けない、その場の空気をさりげなく読めたり、相手の心の変化を器用に拾えたり、距離を的確に測れたりする感覚のほうがよほど役に立つ。そういう感覚は幼年期から思春期に友人との付き合いを通して自然に磨かれるもので、僕はそのあたりの時期に勉強ばかりしていたから、そういう部分が極端に発達していない。
仕事をこなす上での人間関係なら構築できる。表面だけの、仕事でしか関わらず、仕事のことしか話さない関係なら、大抵の人とうまくやっていける。
でも、深い付き合い……とくに女性との付き合いは、だめだ。35歳なんていう年になった今も苦手意識がある。仕事柄女性にはちやほやされることが多いけれど、そこから先になかなか進めない。だからよけいに苦手になる。悪循環だ。
女性にとって、僕は自分ばかりか他人にまで厳しい人間に見えるそうだ。自覚はまったくない。
数年前までは、こんな自分は結婚なんてできなくても仕方がないと思っていた。でも、35歳を過ぎたあたりから、少し……寂しくなってきた。
僕は、このまま厳しい人といわれ続けて、ひとりで人生を終えていくのかな。
だから婚活パーティに参加してみた。でも、やっぱりいきなりうまくいくもんじゃない。
興味を持ってくれる女性は多いけれど、だいたい2、3回会うと「高木さんとは合わないみたいです」と断られる。
「最初は優しそうに見えたけど、けっこう冷たいんですね」
ついこの間の婚活パーティでカップルとして成立した女性にも、結局そんなことをいわれて、それ以降連絡がとれなくなってしまった。
あぁ、僕はこの先、ずっとひとりなんだろうか。
「これも一種の天然ドS」●西原ななみ
まずい。……痛い。
私は人目も気にせず、道に座りこんでしまった。
婚活パーティの会場を出てから、足の痛みが徐々にひどくなっていた。せめて家まで持たせたかった。 けれど、家どころか会場の最寄りの駅に着く前に歩けなくなってしまった。
(こんなことなら、ちゃんと治療してから来るんだった)
後悔したけれど、先に立たず。
道を行く人が私を見ては目を逸らし、通り過ぎていく。
そのとき、私の少し前でBMWが止まった。クラクションが小さく二つ鳴る。何となくそちらを見ると、なんと高木さんが乗っていた。
最初、高木さんは私のそばにいる誰かに向けて鳴らしているのだと思った。
だって私たちはそれほどの仲がいいわけじゃない。あたりをきょろきょろすると、もう2回、クラクションが鳴った。
高木さんはこちらを見ていた。
(え、まさか、私……?)
立ち上がろうとするが、やっぱり無理だった。
私が動けないとわかったらしく、高木さんは一度車のエンジンを止めて運転席から降りてきてくれた。
「足、どうしたの? また転んだ?」
高木さんは私の肩を抱いて立ち上がらせてくれる。
「いえ、この間くじいたのが、また痛んできて……」
「歩けないのはまずいね。病院に行こうか。体重預けて」
「そんな、悪いです」
私は慌てる。うれしいことはうれしいし、この状況では助かるけど、そこまでしてもらう義理はない。
「でも、ここでずっとうずくまっているわけにもいかないだろ。ほら、進んで」
結局私は、高木さんの車に乗り込んだ。
車に乗ると、高木さんは路駐できそうなところを探して、スマートフォンで週末の夜でもやっている病院を探してくれた。
「あの日は大丈夫みたいだったのにね。あの後、病院には行ったの?」
「いえ、行ってなかったんです」
私はうつむいた。高木さんの声自体は優しかったけれど、なんだか責められているようにも感じたからだ。 ほんの少しだけ浮ついていた私の心は、すぐに引き締まった。
「じゃあ急にひどくなったとか?」
「急にというか、昨夜から少し痛かったんですが……」
「なんで病院に行かなかったの? 放っておいたからひどくなったんじゃない」
「まぁ、そうですが……」
「じゃあ、自業自得だね。読みが甘かったんだ。それはつまり、自分に甘いともいえる」
高木さんはスマートフォンの画面に視線を落としたまま言う。横顔だけは優しげだ。 確かにそうなんだけど、初対面に毛が生えたような私に、そんなに畳みかけなくても……。
「でも、まさかこんなに痛んでくるなんて思わかったんです」
私は言い返した。さらりと冷たいことをいわれたのに、少し驚きもした。
だが、高木さんはさらに続ける。
「あの転んだ日だって、僕は君のすぐ後ろにいたんだけど、まわりをきょろきょろしていたよね。あれじゃ転んでも仕方がないよ。未来には常に最悪なことが起こる。そう思って備えるぐらいでちょうどいい。僕はそうしてる。たぶん仕事柄のせいだけどね。君はまずはもう少し周囲をよく見る癖をつけたほうがいいかもしれないね。いつか君だけが困るんじゃなく、誰かに迷惑をかけるかもしれないし。今回は足をくじいたぐらいで済んでよかったんじゃないかな」
えーと。これって……この気持ちって……。
……いづらい。この空間にすごくいづらい。
言っていることはすごく極端だけど間違ってはいない。ここまで長々といわれても、言い返せない。
でも、息苦しくなる。パイロットというからには、自分にすごく厳しいんだろう。それをこちらにも当たり前のものとして求めてきている感じだ。しかも、ものすごい自然体で。それが当然だと何の疑いも持たずに。
自覚のない完璧主義。相手を追いつめているのに気づかない。これも一種の天然ドSといえるのかもしれない。
――確かに努力では誰にも負けなかったと思います。
爽やかな彼の笑顔を思い出す。きっとそれが自然なことだと思っていたから、てらいもせずに言えたんだ。
かなり変わっている。なかなか彼女ができない理由は、この性格のせいなのでは……。
私、この人と一緒にいていいんだろうか。これ以上先に進みたいと思えないのだとしたら、下手に借りをつくらないほうがいいんじゃないだろうか。
幸い、少し座ったおかげで足の痛みはだいぶ引いてきた。また痛くなったらタクシーで帰ればいい。
私は……
あらすじ
参加していた婚活パーティで転んでしまったななみ。
そんな彼女に声をかけて手を差し伸べてくれたのは、
物腰柔らかな誠実そうな男性で…。