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官能小説 パラレル・ラブ ストーリーB 〜洋輔編〜 シーズン7


「あなたしか 見えていないから」●西原ななみ

私は洋輔さんの意見も聞いて、料理教室に通うことに決めた。

「どれも同じぐらい迷っているのなら、僕は料理教室に行ってほしいな。帰国するたびにななみさんの手料理を食べられたら、とても嬉しい」


楽しみにしてくれるというのなら、習い甲斐もある。実家暮らしが長く続いてしまったせいもあって、料理はもともと得意なほうではなかったけれど、これを機にがんばってみようと思った。


翌日さっそくパンフレットをもらってきて、その日もオフだった洋輔さんと眺めた。

「料理教室の先生は男性? 女性?」

「パンフレットによると男性みたい。スペイン料理が専門だけど、教室では料理の和食の基本を中心に教えてくれるんだって」


洋輔さんの顔がわずかに曇り、口元に複雑そうな笑みが浮かぶ。

「その先生がもしイケメンだったら、ちょっと心配だなぁ」


思わず洋輔さんを見つめてしまう。私からみればいつも冷静沈着なエリートである洋輔さんが口にするとは、今までだったら考えられなかった言葉だった。


――これからは言いたいことを飲み込まないで。何でも話して。


あれは私だけでなく、洋輔さん自身にも向けたものだったのかもしれない。洋輔さんにもきっと、いろんな理由で言いたくても言えなかったことはあったのだろう。

「私、洋輔さんしか見えていないから大丈夫よ」


私が冗談っぽく笑いかけると、洋輔さんは頬に軽くキスをしてくれた。


高遠亮太さんという講師は、まだ若いのに教え方が上手で、私の料理の腕は自分でもよくわかるぐらい短期間で上達した。


いっぽうで洋輔さんの仲はゆっくりと、でも着実に進展した。私たちはメールをそれまでよりもずっと頻繁に送り合った。洋輔さんはフライトで訪れた世界各地の風景の写真を、私は少しずつ増えていく料理のレパートリーの写真を付けて。それはまるで、擬似デートみたいだった。洋輔さんはいつの間にかメールの中で、私を「ななみさん」ではなく「ななみ」と呼び始めた。


<最近、フライトのとき以外はいつもななみのことを考えてしまうよ。今までこんなことなかったのに……>


ニューヨークの夜景の写真とともに送られてきたそんなメールを、枕もとに置いて眠ったりもした。


会えない日々でも、充実していた。


数週間後、待ちに待った次のオフが来た。


空港まで洋輔さんを迎えに行って、タクシーで一緒に彼の家まで行くことになっていた。事前にメールで決めていたことだ。

「会いたかった……」


タクシーの中で、洋輔さんはぎゅっと私の手を握った。私も握りかえす。絡めた指がじんわりと熱くなったように感じた。

繋がれた手

家のそばでタクシーを降りて、近くのスーパーに寄る。洋輔さんの荷物は空港ですでに宅急便で送っていたから、手ぶらで行けた。今夜私がつくる予定の料理の食材を、かごを持った洋輔さんと並んで探す。その間もずっと手をつないでいた。

「もっと、 キスしてほしい」●高木洋輔

家に着くと、まずななみを抱きしめた。


扉を閉めてすぐに。靴を脱ぐよりも早く。


普段の僕なら考えられないことだった。今までならどんなに急ぎの用事でも、まずは部屋に入ってジャケットを脱いで手を洗って、それからやっと取りかかっていたのに。そういったことさえできないぐらい、ななみを求めていた。


抱きしめているだけではたまらなくなって、キスをした。以前、車でしたとき以上に濃厚なキスだった。ななみが舌をほどきそうになると、追って、さらに絡めた。


ずいぶん長い間そんなキスをして顔を離す。改めてななみの顔を見つめると、泣きそうになっていた。


僕はななみの頭を撫でた。

「しょうがないな、もっと素直になっていいんだよ」

約束、したのだから。


彼女はしばらく目を潤ませていたが、やがて「寂しかった」と呟いて、しがみついてきた。まるで子供のような動作だったけど、見上げた顔は大人の女性、それも色気がこぼれ落ちそうに溢れた女性のものだった。

「……もっと、キスしてほしい」


ぞくっとした。


ななみがきちんと約束を守ってくれるうれしさを噛みしめながら、もう一度キスをする。さっきよりもさらに濃厚な、しつこいぐらいのキスを。


いや、今度はキスだけでは止められなかった。唇を少しずつ、ずり下げていく。首筋を唇で甘噛みする。早くなっている脈がいとおしい。


片手で腰をなぞる。豊かな曲線が、服の上からでもわかる。


早く僕のものにしたい。いっそこの場所で、理性なんて捨てて襲ってしまいたい。


そのとき、僕のおなかが派手な音を立てた。

「あ……」

「えっ?」

 同時に唇を離してしまう。

「ご、ごめん。手料理を楽しみにしていたから、何も食べていなかったんだ……」

今まで、こんなことはなかった。失敗しないように、恥をかかないように、先々まで計算するのが僕の常だった。


こんなことは初めてだ。でも、いやな感覚ではなかった。何だか妙にリラックスしている自分がいることに気づく。

「じゃ、すぐにごはんつくるね」


ななみは笑って、玄関先に置いたスーパーのビニール袋を手に取った。

「バスローブの紐を ほどかれる……」●西原ななみ

料理は1時間ほどでできた。あまり時間のかからないレパートリーだったのと、事前に何度か練習しておいたのがよかったみたいだ。練習を家族に見られるのは何だか照れくさかったから、休みの前の日の夜にこっそりやっていた。

「お口に合うといいんだけど」


謙遜ではなくて本当に心配だったのだが、洋輔さんはおいしい、おいしいと何度も褒めながら食べてくれた。すぐにお皿が空になったところを見ると、お世辞ではなく本当にそう思ってくれたのだろう。

「ごちそうさま。こんな料理を帰国するたびに毎日食べられたら幸せだな」


なにげなく言ったふうだったが、簡単に聞き流すことができなかった。


いやが応にも結婚を想像してしまう。

洋輔さんはそれを意図したのだろうか、それとも……


――言いたいことを飲み込まないで。何でも話して。


あのときの言葉がよみがえる。だけどそのことを確認するのだけはやっぱり恥ずかしくて、結局尋ねることはできなかった。


食事が終わってお茶を飲み、しばらくすると、私たちは寄り添ってもう一度キスをした。


二人とももう「そういう」気持ちになっていることは、お互いの目を見れば明らかだった。

「そろそろ……シャワー浴びる?」


それでも、私は洋輔さんのそんな問いに答えるのに、少しだけためらった。


洋輔さんは私のためらいを察したのか、優しく見つめるだけでそれ以上進めようとしない。


伝えなければ……と思った。今の気持ちを。もしもまた別れ別れになってしまったときに、後悔はしたくないから。

「その……いやじゃないの。そのつもりで来たし。でもいざとなったら不安になっちゃって。経験も少ないし、ブランクがあるし、がっかりさせちゃうんじゃないかなって」

「……いいんじゃない? それでも」


こんなときに、たとえば「きっとそんなことないよ」だとか「君と抱き合えるだけでも幸せだよ」だとか、適度に甘く適度に勇気づけてくれるようなことをいわず、そのまま真顔で受け止めてしまうのが洋輔さんらしい。別にそういうことを言われたかったわけじゃないけど。


でも、その正直さは私にとってはもはや、ほほえましいものだった。

「それに今よくなかったとしても、それはつまりこれからどんどん良くなっていくってことだろ? だったら、その過程を見られるのも僕はうれしいけど」


私は思わずふき出してしまった。

「洋輔さんって本当に正直。でもすごく優しくて……不思議な言葉」


そう、今はもう、彼が本当に伝えたいことが、表面的な言葉を超えてわかるようになってきた。

「僕にとっては、そう言ってくれるななみの言葉のほうが魔法の呪文みたいだ」


洋輔さんは私の頬を包み、ゆっくりキスをした。


シャワーは洋輔さんから先に浴びた。私がシャワーから出てくると、洋輔さんがベッドの上で待っていた。


すでに部屋は薄暗くなっている。


ベッドに腰かけると、洋輔さんに抱きしめられた。

「ずっと、こうしたかった……」


耳元で囁かれながら、バスローブの紐をほどかれる。

「ひとつになっても いい?」●西原ななみ

バスローブを脱がされ、ベッドの上に仰向けになる。


部屋が薄暗いとはいっても、裸を見られるのは恥ずかしい。腕で隠そうとすると、「隠さないで」とはっきりいわれた。


これまではっきりものをいいすぎることについてダメ出ししてきたけど、今ばかりは何もいえない。それどころか、体の奥から甘い疼きが湧き上がって、クセになりそうだ。

「きれいな体なんだから、隠さなくていい」


目を逸らすことぐらいしかできない私に、洋輔さんはほほえむ。洋輔さんが言うのなら、信じてもいいのかもしれない。

「よく見せて、触れさせて……離れている間も忘れないように」


洋輔さんが覆いかぶさってきて、再びとろけるようなキスが始まった。だけど今度はキスだけじゃない。手が肩をなぞり、鎖骨を経て、胸に触れる。

「は……っ」

軽く揉まれただけなのに、息が荒くなってしまう。乳首が少しずつ硬くなっていくのがわかる。まだ始まったばかりなのに、体がすっかり敏感になっている。下半身も……熱い。


私も、洋輔さんとずっとこうしたかったから。


洋輔さんの指が、硬くなった乳首を優しく摘まんだ。

「あんっ!」


たったそれだけのことで、体を反らせて声をあげてしまう。


唇を離して、洋輔さんはその部分を今度はゆっくりと舐めた。舌で転がしたり、つついたりされるたびに、私は甘い声をあげて、その頭にしがみつく。

「気持ちいい?」


洋輔さんが顔を上げて笑う。いつもと同じ穏やかな笑みなのに、少し意地悪そうな色も滲んでいる。もっともっと私を翻弄しようとしている。

「もっと気持ちよくしてあげたい。ななみも、僕のことずっと忘れないでいるように」


手がするすると腰を滑っていく。しばらく太腿の内側を撫でられていると、知らず知らずのうちに脚が少しずつ開いていった。その芯がじんわりと熱く、湿っているのがわかる。

真綿で撫でるように、ごく繊細な指づかいで、洋輔さんはそこに触れた。

「ひゃっ!」


久しぶりすぎる感覚に、腰がぴくりと跳ね上がる。だけど指は離れない。優しいけれど、優しいまましつこく絡みついている。キスと同じ。

私はその感覚に少しずつ慣れてきたのだとわかると、洋輔さんは今度は上のほうの小さな蕾をつついた。

「あぁっ!」


一歩間違えれば痛みにもなりそうな衝撃が、絶妙な力加減で快感になっていた。洋輔さんを迎え入れるスイッチを、完全に入れられた気がした。セックスなんてもう何年もしていなかったはずなのに、洋輔さんの指と唇であっという間に感じる体になってしまった。


とろとろの蜜を塗りつけるように、その部分をじっくりこねまわす。気が遠くなりそう。

「そろそろ、ひとつになってもいい?」


私はぼんやりしながらうなずいた。今はただ、このまま導かれたい。


洋輔さんがコンドームをつけた。

「入れるよ、痛かったら言って」

かき分けられる。体が開かれていく。濡れていたので、痛くはなかった。

「あ……あぁぁっ!」


少しずつ、深く、洋輔さんが入ってくる。受け入れていく。そして、つながった。奥まで達したのが、わかる。

「動かすね」

「んっ……」


答えるかわりに、洋輔さんにしがみついた。そうしなければ飛んでいってしまいそうな波がこれからやってくるのが、何となくわかったから。

「ななみ、愛してる……」

「あ……あぁぁんっ!!」

洋輔さんがゆっくりと私をこすり上げた。

「もう一回したい」●西原ななみ

翌日は、予定では朝からテニスに行くことになっていた。

「たまには二人で体を思いっきり動かそう。そうすれば不安も吹き飛ぶかもしれないし」


そんなふうに洋輔さんが提案してくれたのだ。だけど結局、昼前まで準備ができなかったので、今回はキャンセルにした。


準備ができなかった理由は、朝もエッチしてしまったから。


起きてすぐ、ベッドの中で抱きしめ合ったりキスをしたりした後、私は洋輔さんに朝食で何か食べたいものはあるか尋ねた。洋輔さんは余りものでつくれるものでいいと答えてくれた。


こういうときのほうが、かえって腕の見せどころかもしれない。私はバスローブを羽織って、キッチンに向かった。スクランブルエッグと簡単なサラダ、それにフレンチトーストぐらいならつくれそうだ。


冷蔵庫から卵を取り出していると、洋輔さんにふわりと後ろから抱きしめられた。左手がバスローブの中に潜りこんできて、右手がバスローブの紐をほどこうとする。


お尻の少し上あたりに、硬くなったモノが当たっていた。耳元で「もう一回したい」と

囁かれる。

「ちょ、ちょっと待って……こんな明るいところで……ベッドじゃないところでなんて、恥ずかしい……」

「恥ずかしがるななみ、見たい」


手首をつかまれて抵抗できなくさせられ、バスローブを床に落とされてしまう。


こんなときだというのに、じわじわ濡れてきた。洋輔さんはすぐに気づいて指摘してくる。

「ななみも喜んでるみたいだけど」

「そ、そんなこと……」


否定すればするほど濡れてくる。

「脚、開いて……ここで立ったまま後ろから入れたい」

べつに強引にされているわけでもないのに抗えないし、不思議なことに嫌悪感も沸かない。洋輔さんはこういうシーンでも、天然ドSみたいだ。


洋輔さんに攻められるまま、私たちはキッチンでつながった。


その日は結局、近所に買い物に行っただけだった。


夜、私が帰るとき、洋輔さんは家の鍵を渡してくれた。これからは自分がいなくても、好きなときに来てほしいという。


そうしてまた、数週間会えなくなった。


私は週末になると洋輔さんの家を訪れて、掃除をしたり、洋輔さんのベッドで眠ったりした。


それからも洋輔さんと何度か会って、一緒に時間を過ごした。テニスにも行った。


そんなことが続いたある日のこと、私はもうひとりの私から、直紀さんの両親に会うのだという話を聞いた。


突然の話だったらしく不安そうではあったけれど、彼女はもうプロポーズもされている。結婚への階段を順調に上っているように見えた。


でも、私のほうは……


洋輔さんの口から、結婚の話はまだ出てこない。

そもそも婚活パーティに来ていたぐらいだから、願望がないわけではないはずだ。

洋輔さんは私とのこと、どう考えているんだろう。私が焦りすぎているんだろうか。でも、このまま何の変化もなく付き合っていくのは、年齢的にも不安だった。

――――言いたいことを飲み込まないで。

洋輔さんはそう言った。だけどこれは、すごく繊細な、将来を左右する問題だ。さすがに考えてしまう。

私は……


⇒【NEXT】「私、洋輔さんと結婚したい。洋輔さんのお嫁さんになりたい」(パラレル・ラブ スストーリーB 〜洋輔編〜 シーズン8)

あらすじ

洋輔に会えない間に寂しくないよう、ななみは料理教室へ通うことに決めた。
講師が男性だと聞いた洋輔はイケメンだったら嫌だなと軽く嫉妬を見せ…

松本梓沙
松本梓沙
女性向け官能、フェティシズム、BLなどを題材に小説、シ…
poto
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毎日小説「夜ドラ」の挿絵も担当。書籍、ウェブ、モバイル…
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