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官能小説 パラレル・ラブ ストーリーB 〜洋輔編〜 シーズン3
「私たちは 釣り合わない」●西原ななみ
高木さんと会う日――。
高木さんのフライトの関係で、約束をしてからだいぶ日数が経っていたから、足はかなりよくなっている。それでも負担がかからないよう、それからもちろんお礼の気持ちも表わせるように、彼が買ってくれたヒールのない靴を履いていくことにした。
自分の趣味で買った靴ではないから、ワードローブと合わせるのに多少苦労したけれど、あれじゃない、これじゃないと考えるのは何だか楽しかった。生活の中に自分とは違う人の意見や好みが入ってくるのって、意外と悪くない。
高木さんは高層ビルの最上階にある中華料理を予約してくれたそうで、私は高木さんにダメ出しされないよう、念のため中華料理のマナーの本に目を通しておいた。会う目的を考えれば、高木さんにドSぶりを発揮する機会を与えたほうがいいのかもしれないけど、別に打ちのめされるのが好きなわけじゃない。努力できるところではしておきたい。
当日、最寄りの駅まで迎えに来てくれた車に乗りこむと、レストランには30分ほどで到着した。
レストランに入るまでも入ってからも、高木さんのエスコートには無駄がなかった。
高木さんはその店をよく使っているらしく、私の好みの食材や味を聞くと、それを踏まえたおすすめの料理を出してほしいと店員に簡潔に伝えた。

(ダ、ダメ出しなんてできない……!)
少なくともここまでは、高木さんにはまったく非の打ちどころがない。よほど好みが特殊ではない限り、ほとんどの女性がうっとりするんじゃないかという対応だ。
料理が運ばれてくるまでの間、会わなかったときに何をしていたのかを軽く話し合った。高木さんはフライトで訪れたサンフランシスコやワシントンを観光したこと、私は見た映画や読んだ本について触れた。
どう考えても、やっぱり私たちは釣り合わない。でも高木さんは私がしていたことに対して関心を持とうとしてくれているように見えた。
(高木さん、無理してるみたいだなぁ)
気遣いはもちろんうれしかったけれど、反面、居心地が悪そうにも見えた。私は私で、そんな高木さんのダメなところがないか探りながら、自分もなるべくならダメ出しされないように神経を張り巡らせている。
食事が来ても、そんな雰囲気は崩れなかった。
(落ち着かない〜……)
私たちは結局そのまま食事を終わらせ、店を出た。
エレベーターホールに向かい、来たエレベーターに乗りこむ。私たちのほかには乗客はいない。
何を話そうか迷った。二人きりだと、沈黙がさらに際立つ。
そのとき、エレベーターが大きくがくんと揺れた。
「キスして しまえそう」●西原ななみ
エレベーターはそのまま動かなくなった。
階数表示のボタンが同じところで光ったまま止まっているのを、私はこんなときだというのにぼんやり眺めていた。
正常な思考が、できない。
私は高木さんに壁に押しつけられたような格好になっていた。
さっきエレベーターが大きく揺れたときに、高木さんがバランスを崩したのだ。
顔が近い。
(このまま簡単にキスしてしまえそう……)
一秒ごとにマトモにものが考えられなくなっていく。
「ごめん」
しかし、高木さんは逆にあくまでも冷静に、私から離れた。そのまま私の肩を持って、ちゃんと立たせてくれようとする。
「あっ」
その拍子に、今度は私がバランスを崩す。高木さんに倒れ込むようにして抱きついてしまった。
もう限界だった。顔がどんどん熱くなっていく。
「大丈夫?」
高木さんが耳元で囁く。
高木さんにしてみれば囁いたつもりはなく、体勢上そうなってしまっただけだろう。
私は完全に自分を制御できなくなった。
「だ、大丈夫っ、です!」
どん! と高木さんを突き飛ばしてしまう。
高木さんがよろける。明らかにむっとしていた。
「あのさ……僕だってわざとしたわけじゃないんだ。こういう扱いはないんじゃないかな。 失礼だけど、僕は君をそういう意味の目で見てるわけじゃない。少し自意識過剰なんじゃ……」
(あ、れ……?)
高木さんの正論をBGMに、目の前の風景が、ゆっくり、下に流れていく。
膝から力が抜けたんだとわかったのは、座りこんでしまった後だ。
胸が苦しい。呼吸が早い。何だろう、これ。
怖い。こんな狭いところに閉じ込められてしまったなんて。
どうしよう……もしもここからずっと出られなくなったら。
「ちょ……っ、大丈夫か、しっかりして」
高木さんに顔を覗きこまれたけれど、返事ができない。
「すぐに助けを呼ぶ。いいか、意識してしっかり呼吸をするんだ。吸って、吐いて……いいね?」
何とかうなずく。
高木さんは無駄のない動きでパネルの緊急用通話ボタンを押して、マイク部分に口を近づけた。
「僕がいるから、 心配しないで」●西原ななみ
<すぐに作業員が向かいます。申し訳ありませんが、そのままもう少しお待ちいただけますか>
パネルのスピーカーから男性の声が聞こえてくる。高木さんのものより、若干上ずっていた。
「大丈夫、すぐに助けが来るから」
高木さんが振り返り、さっきとはうってかわった優しい声をかけてくれる。
私、高木さんを突き飛ばしたりしたのに……。
「……ごめんなさい」
何とかそれだけ口にした。
高木さんがしゃがみ、私と同じ目線になってくれる。
「いいよ、もう」
高木さんが腕を広げたのが見えた。次の瞬間、私はその胸に抱きしめられていた。 大きな手のひらで、私の背中をぽんぽんと軽く叩いたり、さすったりしてくれる。
「大丈夫だよ。ゆっくり深呼吸して……僕がついているから、心配しないでいい。大丈夫、大丈夫……」
不思議だった。高木さんに近くでそういってもらえると、恐怖が少しずつ薄らいでいった。
動悸がだんだん収まっていく。
どのぐらい経っただろう。やっとまともに話せるようになった。
「私……本当にダメですね。こんなことで取り乱したりして、情けないです」
高木さんの胸の中で呟く。本当にそう思っていた。高木さんはこの状況におののくこともなく冷静に対処したのに、私はといえば腰を抜かしただけだ。
「そんなことないよ。僕は普段から緊急時の訓練をしているから、慣れているだけなんだ。それより、こんなときに怒ったりしてごめん。僕はやっぱり、人の気持ちを考えられないみたいだ」
背中にまわった腕に力がこめられるのがわかった。私もさらに強く高木さんにしがみつく。
高木さんは、優しい。
「そんなことないです……!」
声がかすれてしまったけれど、ちゃんと言えた。
「……案外、かわいいな」●高木洋輔
君をそういう意味の目で見てるわけじゃない――。
西原さんに対して僕は確かにそう言ったが、撤回したくなった。
(髪、いい匂いがする……)
フローラル系というのだろうか、甘いけれど爽やかな香りが鼻腔をくすぐる。
僕が西原さんを抱きしめたのは、ひどく怯えていたからで、他意はない。
こんなときにはまずは落ち着けるのが先決だろうと考え、まず思いついたのが抱きしめるという行為だった。
もちろん、こんなときじゃなかったらしなかった。今は男女というよりは、庇護する者とされる者という関係だと判断した。
「暑い……」
西原さんが呟いた。体を離したほうがいいのかと思ったが、西原さんはしがみついたまま動かない。 下手に刺激しないほうがよさそうだから、彼女のしたようにさせておく。
ふと見ると、メガネが曇っている。
エレベーター内だからエアコンはそれほど効いていないし、何よりぴったり寄り添っているのだからそうなるだろう。
顔の表面に汗をかいているのか、メガネがずり落ちた。なおしてあげようとすると、自分ではずしてしまった。
初めて西原さんの素顔を見た。
(……案外、かわいいな)
まずい。さらに意識してしまう。
だいたい、無防備なんだ。危機感がなさすぎるよ。 こんな密室といえなくもない状況で、男にしがみついて、うっすら汗をかいて、メガネをはずしたりして……。 こういうときじゃなかったら指摘するところだけど、今はしてはいけないというのは、鈍感さにはかなりの自信がある僕でもわかる。
その代わり、今はどうしたらいいのか……
たぶんこのまま、「大丈夫」といいながら背中をさすっているべきなんだろう。
でも、ちょっとつらいな。僕は男で、西原さんは女だ。今は強く、そう感じてしまう。庇護する者とされる者、じゃない。
「大丈夫、大丈夫……」
僕は自分にも言い聞かせるように続けた。 エレベーターはその後数分で動き出し、最寄りの階に止まった。 ホールには救急隊員が待機していた。僕たちがわりに元気なのを見て、皆、ほっとしたようだ。
このときになって、僕は初めて思い出した。 確かエレベーターの中では監視用のカメラが作動していたはず。 ということは、僕が西原さんを抱きしめている映像もバッチリ取られ、管理室で公開されていただろう。
「びっくりしましたね! 人生の中であんな経験するとは思いませんでした!」
(……まぁ、いいか)
エレベーターを出た途端に嘘みたいに元気になった西原さんを見て、苦笑しながら思った。
駐車場に向かう道すがら、彼女は僕を見上げて顔をほろこばせる。
「やっぱり高木さんってすごいですね。あの状況でずっと冷静でいられるなんて……」
「そんなことないって」
「冷静なだけじゃないです。私、突き飛ばしたりしたのに……ずっと優しくしてくれて。 素敵な人だなって思いました。もうダメ出しなんて、できないかもしれません」
冗談なのか本気なのか、悪戯っぽく笑う。
ダメ出しが目的で僕たちが会っていることを忘れているのか、それとも……。
「ありがとう」
人から褒められるのは、僕にとっては珍しいことじゃない。
でもこんなふうにまっすぐに褒められると、子供の頃の、「褒められてうれしかった」という新鮮な気持ちを思い出す。
僕はすごく久しぶりに、照れた。
「まるで恋人同士みたい」●西原ななみ
エレベーターが止まってしまったことについて、高木さんは何てことないように対応していたけれど、私にとっては大事件だった。
救急隊員の人たちと一緒にいた、ビルの管理会社の人は、私たちが出てくるとすぐに平謝りをして「お詫びをしたいので、管理会社まで来てほしい」と申し出てくれたけれど、高木さんはそれには及ばないと断って歩き出してしまった。そうなったら何だか面倒なことになりそうだと感じた私も異存はなかった。
エレベーターの中は、怖かった。あんな経験、したことがなかったからわからなかったけれど、私は閉所恐怖症なところがあったみたいだ。けれど、一歩外に出たらすっかり気分が楽になった。それどころか、エレベーターに入る前よりも開放感を覚えた。
高木さんに抱いてもらったことについてはびっくりしたし、ありがたかった。それにドキドキした。けれど、それが変に後を引くことはなかった。これまで以上に男性として意識するようにはなったけれど、開放感が影響したのか、さわやかな好意だった。
高木さんも同じように思ってくれたのかもしれない。私たちはそれからあたりを軽くドライブしたり、降りて歩き回ったりしたけれど、お互いへのダメ出しも冗談みたいに軽い感じでできた。まるで恋人同士みたいに。
「そんなにはしゃいでいると、また足をくじいてしまうよ。まったく君は危機管理がなってないな」
「もう、言い方きついなぁ。気をつけて、でいいじゃないですか」
「そういうものかな」
「そういうものですってば」
車で移動していると、いやでなければまた会ってほしいと言われた。断る理由はない。名前も下の名前で呼び合うことにした。密度の濃い時間を過ごしたせいだろうか、私は洋輔さんと実際よりももっとたくさん、一緒に過ごしていたような気持ちになっていた。
会う約束をしたのは、ほぼ1ヶ月後だった。それまではフライトでずっと埋まっているという。
一日の最後には、海の見える公園に行った。いろいろあったけれど今日がとても楽しかったから、自然に手をつないで歩いた。
時間があるときにはトレーニングをしているという、逞しい腕や広い肩に目が向いてしまう。その先にある展開を、何度も想像しそうになった。
その日の夜、私はもう一人の私と話した。今日の報告だ。
だが、異変が起こった。
「え、ちょっと……」
鏡に吸い込まれるような感覚。体がふわりと浮くような……。
「何、これ……っ?」
同じ感覚を、もう一人の私も感じているらしい。
私たちはほぼ同時に鏡を伏せた。何かとんでもない事態が起こりそうな気がした。
(しばらくはもうひとりの私と会わないほうがいいのかも……)
いやな予感がする。
自分の姿を映さないように注意しながら、私は鏡を丁寧に片づけた。
洋輔さんの帰国を待ちながら、日々を過ごした。
その日、私は会社のエレベーターで、高見遥さんと一緒になった。取引先のデザイン会社の社長だ。私たち平社員にも積極的に挨拶してくれる人だったから、以前も少し話したことがある。格好いいなと思っていたこともあるけれど、もちろん何も起こらなかった。
エレベーターの中で、高見さんはまじまじと私を見つめた。
「……なんですか?」
「西原さん、きれいになったね。彼氏ができたんでしょ」
図星、ではないけれど、遠くはない。固まってしまう。 高見さんはそんな私の反応に気づいたのか気づかないのか、相変わらず私を値踏みするような視線を投げかけてくる。
「……決めた。西原さん、今ウチが手掛けてるオーディオ機器のポスターのモデルしてみない?」
「はぁっ?」
本来なら取引先の社長に向けてはいけないような声が出てしまう。 聞けば、高見さんはごく普通の女性をポスターに起用したいらしい。
「ちょっと野暮ったくて普通っぽいんだけど、恋も仕事もがんばっていて、内側から輝いている子、みたいなのがいいんだよね」
「野暮ったい、は余計では……」
ついツッコんでしまったが、あまりにも正直な言い方だったので、逆に少し興味が湧いた。
私にできそうなら……と答えると、高見さんは詳細を教えてくれた。
⇒【次回】パラレル・ラブ ストーリーB 〜洋輔編〜 シーズン4
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あらすじ
洋輔のダメ出しをするという名目で、
洋輔と二人で食事をすることになったななみ。
緊張しながらも、食事を終わらせ乗り込んだエレベーターが突然止まってしまい?!