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官能小説 パラレル・ラブ ストーリーB 〜洋輔編〜 シーズン5
「嘘だとすぐにわかっただろうな」●西原ななみ

あまり気乗りがしなかったけれど、私は加藤さんのお見舞いに行くことにした。
最初は何か理由をつけて断ろうと思った。
けれど、もう一人の私は加藤さんとの仲が進展したことを喜んでいた。こういうときって、お互いに対して敏感になっているものだ。恋愛経験が少ない私だけれど、その少ない経験をしたとき、付き合うか、そうならないかハッキリするまでの間は相手の言葉や行動にずいぶん過敏になっていた記憶がある。
「あのとき、好きそうなそぶりを見せていたけれど、あれは私のことを傷つけないための演技じゃなかったかな」
とか、
「好きだって言っていたけれど、勢いでつい言ってしまって、後悔しているんじゃないかな」
とか。
もしここで、私が断ったせいで、うまくいっていたことがぎくしゃくし始めてしまったらと思うと、責任は重大だ。
すごーく正直なことを言えば、こんなことをしている場合じゃなかった。早く元の世界に戻って、微妙になってしまった洋輔さんとの関係を早く何とかしたい。でも焦ってどうなるわけじゃないし、嬉しそうに話してくれたもう一人の私のことを考えると、放ってはおけない。
それでも、不安や焦燥はあっさり表に出てしまったみたいだった。
「ななみさん、何かあった?」
話し始めてしばらくすると、加藤さんは少し聞きづらそうに尋ねてきた。
「え、ど、どうしてですか?」
私はつとめて平静を装う。
「何となくだけど、前と会ったときとくらべて雰囲気が変わったなと思って。何ていうのかな、垢ぬけたというか……」
「そ、そうですか?」
今さらながら気づいたけれど、モデルの経験のせいで、というよりもおかげで、独特の立ち方や座り方などがまだ体に染みついている。
「うん。でも悪い意味じゃない。きれいになった、と思う」
加藤さんはベッドから手を伸ばし、私の指に触れようとした。
思わず手を引っ込めてしまう。
加藤さんの表情が固まった。私も動けなくなった。
気まずい沈黙。何か言わなくてはと思うけれど、何といっていいのかわからない。
「ごめん、いきなりびっくりした……よね……?」
「そ、そんなことないです! 私が、その……ちょっとそういう気分になれなくて……」
すぐに否定したが、空気は元に戻らない。それどころか、余計澱んだ気がする。
「あの……俺、ひょっとして自分で気づかないうちに、ななみさんに悪いこと言ったり、したり、したかな?」
「ち、違うんです!」
「怒らないからさ、何かあったら正直に話してほしいな。今だけっていうんじゃなくて、これからも……」
「本当に、何も……」
それきり、私たちはまた黙ってしまった。
看護師さんが体温測定に来たので、空気が少しだけ明るくなったけれど、それはニセモノの明るさだった。
これ以上ボロを出さないためにも早く帰りたかった。でも、ここで帰りたいと言い出したら、もっとややこしいことになりそうな気がする。私は針のムシロに座るような気持ちで、時間が経つのを待った。一緒に行ったところや食べたものの話もしたけど、うまく答えられなかった。
「また来週も会えるかな」
帰り際に聞かれて、「もちろん」と答える。返事が一瞬遅れてしまったのに、加藤さんはきっと気づいただろう。
加藤さんは話を続けようとしていた。歩みを止める。
「あの……ななみさん、本当にキレイになったよね。もしかして誰かほかに……」
「そんなこと、ないですっ!」
思わず大きな声を出してしまった。
「すいません……大きな声を出して……でも本当に何でもないですよ。ただちょっと最近、体調があまり良くなくて……」
嘘だとすぐにわかっただろうな。だって体調のことなんて、今日は一度も話していない。
看護婦さんがやってきて、私たちに「時間ですよ」と声をかける。私たちはどうしようもできずに、別れた。
「一緒に何とかしよう」●西原ななみ
次のお見舞いの日まで一週間、ひたすら考えた。
もうひとりの私と加藤さんは、恋人一歩手前の関係だ。
これ以上一緒にいたら、きっと「そういう」雰囲気になることも出てくるだろう。
でも私は、同じ西原ななみでも、それを受け入れるわけにはいかない。 この場をしのぐためだけにそんなことをしたら、洋輔さんにも加藤さんにも申し訳が立たない。
であれば、考えられる解決策はひとつしかない。
パラレルワールドのことを、打ち明ける。
信じてくれるかどうか、わからない。信じない可能性のほうがずっと高いだろう。
でも状況をこれ以上ひどくしないためには、そうするしかない。
だけど次に会ったとき、「そのこと」を最初に切り出してきたのは加藤さんだった。いや、加藤さんは何のことか、まだわかっていないようだった。
「このメールなんだけど……これはななみさんが出したの? もしそうだとしたら、どうしてこんなに話の辻褄が合わないのか、説明できる?」
加藤さんはスマートフォンの画面を見せながら言った。私は息を呑んだ。
<怪我の具合はどうですか? 週末お見舞いに行くという約束、守れないかもしれません。でも遠くから……直紀さんが早く良くなることをお祈りしています。また会いたいです>
メールアドレスは私のものだけれど、私はこのメールを送ってはいない。でも……内容と、送信日時の表示がすべて0になっていることから、わかった。これはもうひとりの私が出したんだ。それがどういうわけか、加藤さんに届いてしまったんだ。
加藤さんが私を怯えさせたり、怖がらせたりしないように気を使ってくれているのがわかる。
もしかしたら信じてくれるかもしれない。
私は、すべてを話した。
「……信じるよ」
話が終わると、加藤さんはむしろ安心したように大きく息を吐いた。
「もうひとりのななみさんも、今頃こうやって必死に、真剣に、信じてもらおうと説明しているのかな。どっちにしても嘘なんてつける人じゃないのは同じだろうから。この間も嘘だってすぐにわかったし」
「か、加藤さん……」
少しずつ、目頭が熱くなってくる。
不覚にも私は泣いてしまった。ずっと一人で抱え込んでいたところに、やっとすべてを受け入れてくれる人が現われたから。
「大丈夫、一緒に何とかしよう」
加藤さんは私の頭をぽんぽんと撫でてくれた。
数日後、「頼りになる友人がいるんだ」と加藤さんはメールを送ってくれた。
<大学で宇宙物理学を研究しているんだ。学部や学科は違うけど大学時代の同級生で、親友でね。性格はちょっとひねくれているけど、35歳の若さで教授にまでなった奴だから、きっと役に立つよ>
加藤さんは次の面会日に彼――秋野要さんというらしい――も呼ぶという。
当日、指定された時間通りに加藤さんの病室に行ったものの、秋野さんはなかなか現れなかった。
「まぁ、昔から気まぐれな奴だったから、どこかで道草でも食っているのかも」
加藤さんは笑ったものの、少し心配そうだ。
「私、ちょっとそのあたりを見てきますね」
私もいても立ってもいられなくなって、病室を出た。
腕時計を見ながら歩く。3時20分。約束の時間を20分も過ぎている。
(普通、20分も遅れるなら連絡を入れるわよね)
そう思いながら顔を上げ、廊下の角を曲がろうとしたときだ。
向こうからこちらに曲がろうとしていた男性と正面衝突した。
「ちょっ、君、大丈夫か!?」
仰向けに倒れた私を、男性が抱え起こす。
まわりの風景がぼやけ、意識がすぅっと遠のいていく。
「しっかりするんだ!」
少し後にこの男性が秋野要なのだと知るのは、私ではなく……もう一人の私だった。
気がつくと、私は家の前に倒れていた。どうやら自転車とぶつかったらしい。
一瞬にして風景が変わったことに、手ごたえのようなものを感じた。
急いで部屋に飛び込み、スマホを確認する。
――元の世界に戻っていた。
「まずは洋輔さんと会うんだ」●西原ななみ
スマホをひととおり確認して、洋輔さんが私のためにいろいろと力を尽くしてくれたことを知った。
<調べものをするだけじゃ、何の役にも立たないのはわかってる。日本に戻ったら、もうちょっと建設的で実現可能な話をしよう。不安だと思うけど、もう少しだけ待っていて>
洋輔さんはそう言っていたが、一人では絶対に得られなかった知識をわかりやすく説明してくれるだけでも、もう一人の私は十分心強かっただろう。
私はすぐに洋輔さんにメールを送り、この世界に無事に戻ってこられたこと、きっかけは誰かと正面衝突したかららしいということを伝えた。
フライト中だったのか、返事は翌日届いた。
<本当によかった! 心から安心しています。結局僕は何の役にも立てなかったけどね……。いろいろと不安だったんじゃない? すぐに会って、お疲れ様を言いたいよ。あと2週間待たせてしまうけど、ごめんね>
文面を目で追っていた私は、だんだん暗い気持ちになっていった。
(会えるまでずいぶん待たないといけないんだな……)
仕事の都合なんだから、仕方がないのはわかっている。無理をして急かしたりしたら、とんでもない規模で迷惑がかかる職業に、洋輔さんは就いているのだ。
メールをさかのぼると、もうひとりの私と洋輔さんはちゃんと打ち解けられたようだけど、肝心の今ここにいる私は、気まずいと感じた日から会えていない。
理性では、わがままをいっている場合ではないとわかる。入れ替わったりしていなければ、ちゃんと待てたと思う。でも、もうひとつの世界ですっかり疲れ、不安にも寂しくもなっていた私には、つらいことだった。
洋輔さんと今後お付き合いすることになったとして、私はうまくやっていけるのだろうか。今回以上にへこんだり、傷ついたり、不安になったりすることだって、これからきっとあるだろう。そんな中で、たとえ遠くから優しい言葉をかけてもらえたとしても、何日も、何週間も会えずにいられることに、耐えられるだろうか。
受信箱の中には、洋輔さんだけでなく高見さんからのメールもあった。高見さんは相変わらず優しい言葉で私を食事やお出かけに誘ってくれている。
(高見さんと一緒になれたら、こんな気持ちにはならずに済むのかな……)
そんなふうに思って、はっとした。そんなふうに、高見さんを洋輔さんの「代わり」とみたいに考えるなんて、洋輔さんにも高見さんにも失礼だ。
高見さんからのメールには、社交辞令的な返信がされていた。もうひとりの私が気を使ってくれたようだ。
とにかく、待とう。まずは洋輔さんと会うんだ。私は心を決めた。
「心を獲られてしまいそう」●西原ななみ
数日後、私は高見さんから仕事のことで話がしたいと持ちかけられた。
「あの写真、なかなか評判がよくてね。もう少し違う側面から手を加えたものもリリースしてみたいんだ」
撮影した写真の中から何点かを選び、エフェクトや背景を変えて別バージョンをつくりたいという。
「僕たちが選ぶのでもいいんだけど、君の意見も聞いてみたい」
私は頼まれるままに、平日の夜、仕事が終わると高見さんの会社に向かった。今はとくに高見さんと顔を合わせたくない気持ちがあったけど、仕事なら断れない。ギャラだってもらっている話なのだ。
社長室に通される。私と高見さんしかいなかったから少しだけ不安になったものの、まさか高見さんだって自分の会社でヘンなことはしないだろう。それに高見さんが私ごときにそこまで焦っているとも思えない。
大きなテーブルに、引き伸ばされた私の写真が並べられている。キレイなヘアメイクのおかげもあって、こうなってしまうとまるで他人みたいで照れる気持ちも沸いてこない。
「そうですね……自分で気に入っているのはこの写真ですけど、そういう背景にするのでしたら、こっちがいい気がします」
私は高見さんに尋ねられるままに答えていった。
あまり迷うこともなかったせいか、作業はすぐに終わった。
「西原さん、寂しそうだね。何かあった?」
帰り支度を始めようとすると、高見さんが唐突に訊いてきた。心臓が跳ね上がりそうになったものの、何でもないふりをする。
「とくに……何もないですけど……」
「そう? 僕はてっきり、前話していた相手との間に何かあったのかなと思ったんだけど。彼は最近どうしているの?」
私よりも高見さんのほうが数段上手だった。結局私は高見さんに質問されるまま、洋輔さんとなかなか会えず、それについて悩んでいることを話してしまった。
「そう、確かに仕方のないことだけど、つらいだろうね」
話を聞き終わると、高見さんは優しい目をした。
「ドアの鍵を閉めるから、こっちに来て」
手招きに応えてドアのほうに向かうと、高見さんは私の腰をふわりと抱えて、部屋の外に先に出してくれた。レディーファーストをごく当たり前に実行したのだろうと思わせる、いやらしさや不自然さを全然感じさせない手つきだった。
「髪、いい匂いがする」
耳元で言われて、初めて高見さんが至近距離にいることを自覚する。
ふっと洋輔さんのことを思い出す。同時に、高見さんから離れた。
「ごめん」
高見さんが困ったような、悲しそうな顔をする。
なぜか、高見さんから目が離せなくなった。いつもの彼には不似合いな、その表情のせいだろうか。私たちはその場で見つめ合った。
「君は魅力的だ。まだ彼と恋人ではないのなら、君を好きになってもいいかな。僕は君をずっと見ているし、君のために時間もつくるよ」
男性にしては高くて柔らかな高見さんの声は聞いているだけでも心地よくて、少し気を抜いたら、心を獲(と)られてしまいそうだった。
「……ごめんなさい」
だから私は、それだけしか言えなかった。よけいなことを言ったり考えたりしたら、隙ができてしまいそうだったから。
高見さんは車で送ってくれるといったけれど、私は電車で家に帰った。
「顔を見てすぐに抱きしめた」●高木洋輔
長かった。
次の休暇で、僕はやっとななみさんに会えた。
顔を見てすぐに、我ながら信じられないことではあったけれど、抱きしめてしまった。といっても軽く肩を抱いた程度だけれど。それでも、感情にまかせた行動をとるなんて、今までの僕からすれば考えられなかった。
それにそこは、車の中とはいっても屋外だった。ちょっと前の僕なら、人の目だって大いに気になるところだったに違いない。
僕は焦っていたのだ。ななみさんとの間が何だかぎくしゃくして、そのまま仕事に入ってしまって、今度はななみさんが「もうひとつの世界」のななみさんと入れ替わってしまって……肝心なことをちっとも話せていなかった。
それにななみさんのまわりに見え隠れする、「彼女をモデルにした男」への不安もあった。
エレベーターに閉じ込められたあの日から、僕の中でななみさんの存在はどんどん大きくなっていった。ダメ出しをしながらも、深刻にしすぎずに笑ってもくれるななみさん。離れてみていっそう、彼女がどれだけ自分にとって大事な人だったのかわかった。
腕の中でななみさんが小さく震えたので、照れているのかと思い、すぐに解放した。だけど僕はバカだった。彼女は照れているんじゃなかったんだ。
車を走らせて、以前二人で行った海の見える公園に向かった。近くにはほかにも大きな公園があったが、僕の向かったところは比較的小さくて人も少ない。いわば隠れた名所だった。
歩き始めて、そっとななみさんの手を取った。また振り払われるんじゃないかと少し心配だったが、「こちらの」ななみさんは黙って僕の手を受け入れてくれた。
「ななみさんが入れ替わって……僕にとってどれだけ大事な人だったのかがよくわかったんだ」
公園の中ほどまで歩いたところで、僕は思いきって自分の気持ちを話した。
「これからはもっと、お互いのことを深く知っていきたいんだ。僕はななみさんのことを大事にしたい」
ななみさんは頬をうっすらと赤くして、じっと黙っていた。
なぜか、その横顔はあまり幸せそうには見えなかった。
僕は――やはり少し……焦っていた。
周囲に人の気配がないのを素早く確認すると、ななみさんの肩を抱いた。ななみさんがはっと息を呑む。気にせず指で顎をくいと持ち上げ、唇を近づけた。
「いやなら、逃げていいよ」
余裕があるように微笑して囁いたが、ななみさんは動かなかった。
僕は唇をななみさんの唇に近づけていった。少しずつ、少しずつ。
だが、その動きは唇が触れ合う直前で止まった。

ななみさんが、泣いていた。
「どう……して……」
声を出すのがやっとだった。
「私のこと好きなのに……大変なときにそばにいてくれないの……?」
ななみさんの声は子供のようだった。
「私も洋輔さんのことが好き。だけど……好きだから……大変なときにすぐ会ってほしかった……」
「そりゃあ僕だって、会えないのはつらいよ。だからこそ仕事がないときはいつもそばにいて抱きしめて……」
弁解しようとしたが、ななみさんはすぐにそれを止めた。
「ごめんなさい……私、洋輔さんが仕事で忙しいのは理解しているのに……私……」
すべてを言われなくても、ななみさんの気持ちはわかる。 僕は少し考えた。そうして思いついた提案は、僕にとってもつらい内容だった。 ななみさんにきちんと、二人のことを考えてほしい。そのためには……
「少し、距離と時間を置いたほうがいい?」
僕はななみさんの耳もとに呟くようにして尋ねた。
⇒【次回】パラレル・ラブ ストーリーB 〜洋輔編〜 シーズン6
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あらすじ
もう一つの世界の自分と話していたとき、
体がねじれるような感覚に襲われてしまった。
そのまま気をうしなったななみは、
気が付くともうひとつの世界の自分と入れ替わってしまったようで…?!