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官能小説 パラレル・ラブ ストーリーB 〜洋輔編〜 シーズン8
「焦りすぎなのかな」●西原ななみ
洋輔さんと初めて出会ったのは桜の季節。付き合い始めてからは半年が経とうとしていた。
あの頃は新緑が輝き始めた季節だったけれど、今はもう、その葉がすっかり色づいて、あたりを染めている。
半年というのが、結婚を決めるのに十分なのか足りないのか、よくわからない。1、2ヶ月で決める人もいるというし、十年付き合っても結婚しないカップルもいる。人それぞれだということはわかっているけれど、何を基準にしていいのかわからないから悩んでしまう。
(焦りすぎなのかな、私)
洋輔さんとは、「思ったことは何でも隠さずに言い合おう」と約束した。でも、私ばかりが先走っていたらと考えると怖い。ほかの話題と違って、下手をしたら取り返しのつかないことになりそうだからだ。
翌週、洋輔さんが休みで帰国したので、一緒にテニスに行った。
(いつまでもうじうじしていてもしょうがない。それとなくカマをかけてみよう)
行く前にそう決めたものの、うまく話題を振れない。何だか余計にわざとらしくなるような気がして、ひるんでしまう。
「何かあったの?」
何ゲームか終わらせて一緒に自動販売機に飲み物を買いに行こうとしたとき、洋輔さんが聞きにくそうに尋ねてきた。
「何でもないよ」
と私は答えたけれど、答える前にずいぶん間を空けてしまったから、それが嘘であることは明らかだった。
聞きたいとは、ずっと思っている。だけどこれをきっかけに、関係が壊れ始めてしまうかもしれないと考えたら、やっぱり体がすくんでしまった。
洋輔さんが眉根を寄せる。
「また、一人で抱えこむ気?」
「そういうわけじゃ……だから、何でもないってば」
「約束違反だよ、それ」
洋輔さんとの間の空気が、息苦しい、険悪なものになる。洋輔さんは私をまっすぐに見据えていたけれど、私は洋輔さんから目を逸らしていた。
そのとき、洋輔さんの脚に「何か」があたった。
ちょうど洋輔さんの膝丈程度の身長の、小さな男の子だ。小さいながらも一人前のテニスウェアがかわいらしい。
「パパ〜」
と言いながら男の子は顔を上げ、直後に「あれ?」とでもいいたげな表情をした。
二人で澱んでいた重い空気がすぅっと消える。
「迷子?」
洋輔さんはしゃがんで子供と目を合わせると、にっこり微笑んだ。あまり子供が好きそうな性格には見えなかったから、こんな行動に出るのは意外だった。
「すみません!」
声とともに駆け寄ってきたのは、男の子の父親とおぼしき男性だった。
「あっちだって言ったのに走っていっちゃって。ご迷惑をおかけしていませんか?」
「あ、パパッ!」
男の子は「本当の」パパのほうに走っていく。
「いえ、大丈夫ですよ。迷子かと思ったので、よかった」
洋輔さんは男性ではなく、男の子のほうに笑顔を向ける。
男の子の手を引きつつ、頭を下げながら男性は去っていった。「バイバーイ」と手を振る男の子に、「洋輔さんも手を振り返す。
私はその光景を眺めながら、洋輔さんの「約束違反だ」という言葉を何度も頭の中で繰り返し再生させていた。
「洋輔さんの お嫁さんになりたい」●西原ななみ
今までだったら、それでもやっぱり黙っていることを選んでいただろう。でも、私はもうひとりの私と入れ替わってから、「後悔」をより強く意識するようになった。もし明日、この世界が消えてしまったら、洋輔さんと育んできた日々がなくなってしまったら、そして私自身がいなくなってしまったら、「怖かったから」というだけの理由でできることをしなかったのを深く悔やむだろう。
モデルを経験したことも大きかった。誰かに魅力的だと感じてもらえる可能性が自分の中に秘められていたことは、大きな自信になった。モデルを経験してから、私はスキンケアにもボディメイクにも、これまで以上に力を入れるようになっていた。自分だってそうしていいんだとわかったからだ。

私だって、幸せになっていい。幸せになるために、自分から手を伸ばしていい。そうしなかったら後悔する――。
私はすぐ近くにあったベンチに座ろうと洋輔さんを誘った。洋輔さんは私が話すつもりになったのだと察したようだ。
「洋輔さんが婚活パーティに来ていたのは、結婚したい気持ちがあったからなの?」
遠まわしに少しずつ距離を詰めていくなんて器用なことはやっぱりできなかった。
洋輔さんは少し驚いた様子だった。
「そう……だけど。どうしてそんなことを?」
「じゃあ、私のことはどう思ってる? 結婚相手として見ているの? それとも、ただの恋人? 私とは将来どんなふうにしたいと思ってるの?」
できるだけスマートに、できればかわいらしく尋ねたいと思っていたけれど、うまくできなくて、泣く直前の声みたいに震えてしまった。
「もうひとりの私がね、直紀さんと結婚するかもしれないんだって。私、そのことを聞いたとき……うらやましいって思ったの。ほかの人の話を聞いて流されるなんておかしいってわかってる。でも、私も結婚したいって気持ちがあったから」
そこまで言って、いったん息を吸った。新鮮な空気で、冷静になろうと思った。冷静になって、いちばんいいたいことをきちんと伝えよう。
「私、洋輔さんと結婚したい。洋輔さんのお嫁さんになりたい」
……言った。言ってしまった。
これで終わりかもしれない。でも、始まるかもしれない。心臓がばくばく鳴っている。髪の生え際にいやな汗が滲んでいる。まわりのコートでテニスをしている人たちの楽しそうな声が、頭痛のときの痛みのように頭に響く。
洋輔さんはぽかんと私を見つめていた。
終わったんだろうか。これで終わりなんだろうか。私たち。
ずいぶん長い時間が経ったように思えた。実際には短かったかもしれないけれど、よくわからない。
「……僕が今まで悩んでいたことって、なんだったんだ」
「え?」
思わず聞き返してしまう。「どういうこと?」
「結婚したいなんて、ずいぶん前から思っていたよ。でも僕たち、付き合って今やっと半年だろう。仕事の関係で会えない時間も長かったし、プロポーズして、まだ早すぎるって思われるのが心配だったんだ。だからなかなか言い出せなくて……」
眉間にわずかに寄った皺が、洋輔さんの胸の内に偽りやごまかしのないことを示していた。
その言葉は、頭の中で音から意味に変わるのにしばらく時間がかかった。
「人生を賭けてでも きみを取り戻す」●高木洋輔
僕とななみは黙りこんで見つめ合った。
お互い、相手の言ったことを反芻しているのだといわずともわかる。
だが、そんな時間もすぐに終わった。
「ぷっ……」
僕たちは声を合わせて噴き出した。
「まさか……ななみと同じことでずっと悩んでいたなんて」
「本当に。こんなことなら、もっと早く聞いていればよかった」
ひとしきり笑う。その後、僕は周囲を見渡した。
あの男の子と父親はどこに行っただろう。……いた。少し先のコースで、父親が男の子にフォームを教えていた。
僕は二人を指さした。
「僕はななみと、暖かい家庭をつくりたいと思っているよ。いつか僕の子供にもあんなふうにテニスを教えたいし、そのときにはそばにしてほしい」
ななみもそちらに視線を流す。子供を見る目もとが、優しげに潤っていた。
「ななみが入れ替わってしまったときにね、それまでの自分からは考えられないぐらい、パラレルワールドについていろいろ調べたんだ。必死だった。結果的に、僕は役に立てなかったけれど……」
僕はこれから口にするとても大切なことを受け止めてもらえるよう、祈るみたいな気持ちであのときのことを思い出した。
もうあんな思いはしたくない。
「もしもまたああいうことがあったら、人生を賭けてでもきみを取り戻す。僕はななみとずっと一緒にいたい。もうひとりのななみ以上に、きみを幸せにしてみせる」
言いきった。迷いはなかった。
ななみの頬が、みるみる赤くなっていく。
しまった、と思った。確かにいわなくてはいけない大事なことだったけれど、こういう場所でいうべきではなかったかもしれない。そう考えたら、僕の顔も熱くなってきた。
何だか周囲の人たちがみんな、こちらを気にしているように感じてしまう。
「あー……こういうことは、その、ちゃんと話したいな。二人きりで」
照れくさくて、かゆくもない顎を掻いてしまう。
ななみはこくんとうなずいた。
「家に……帰ろうか」
ななみはもう一度うなずいた。
家に着くと、お茶を淹れてテーブルに向かい合った。
最初に切り出す言葉は、もう決めていた。
「あのさ、できれば、まずは一緒に住まないか?」
こういうときに花でもあれば格好つくんだろう。だけど今日はずっと一緒にいたから、買う時間もなかった。まさかテニスからこんな展開になるとは思っていなかった。
立ち上がって、棚の中から家の合い鍵を出す。
「改めて……結婚を前提に、同棲から始めてほしいんだ。結婚したい気持ちは山々だけど、じゃあすぐにってわけにもいかないだろう。でもその間も、できるだけ長い時間一緒にいて、お互いのことをもっともっと知っていきたい」
鍵はいつか結婚と、それに向けての同棲を提案するときのために、あらかじめつくっておいたものだった。
「家に帰ってななみがいてくれたら……すごくうれしい」
「……お受け、します」
差し出した鍵を、ななみはそっと包み込むように受け取ってくれた。
「ななみのおねだり 聞きたい」●西原ななみ
今日が突然、プロポーズ記念日になってしまった。朝起きたときは、今日がそんな特別な日になるとは思いもつかなかったのに。
「せっかくだから、豪華な食事でもしに行こうか。今からでも予約を取れるところを探して」
洋輔さんはそう提案してくれたが、私は首を横に振った。豪華な食事には賛成だけど、私が何かつくりたい。下ごしらえの時間がないからつくれるものは限られるけど、それでいいなら……と持ちかけると、洋輔さんも賛成してくれた。
「ななみの負担にならないのなら、僕もそのほうがうれしいな。ななみの手料理、大好きだから」
近所のスーパーに手をつないで買い出しに行った後、2時間ほどキッチンにこもって、チキンのトマトソースやブロッコリと海鮮類のサラダなど、数種類の料理をつくった。洋輔さんが選んだ赤ワインにもぴったりだった。
その後、一緒にお風呂に入った。
寄りかかった私の体を、洋輔さんは後ろから攻めた。肩や腰を撫でられているうちにはまだよかったけれど、胸や脚の間を指が躍り出すと、たまらなくなって声が出てしまった。
「あ……あん」
私が声を出すほどに、指の動きも大胆になってくる。片手で胸を揉みながら、片手で襞をなぞり、蕾をそっと摘まむ。お湯の中にいてもわかるほど、トロトロに濡れてきた。
「私、もう……っ」
腕にしがみつくと、洋輔さんは「続きはベッドにしようか」と少しいじわるそうに笑った。
ベッドサイドには、通信販売で買ったローションが置いてあった。ただのローションではなくて、「ラブシロップ」という、口に入れても安心なローションだ。甘い味もついていて、私はチョコレート味を選んだ。
洋輔さんとセックスするようになってから、私の体はどんどん変わっていった。体を重ね合わせるたびに敏感になっている。最初は緊張もあってイケなかったけれど、今では何度も絶頂に達することもあった。洋輔さんもそんな私をいつくしんでくれた。
「肌がつやつやだな」
シロップをお互いの体に塗り合う。少し前の私だったら、セックスにこういうアイテムを使うなんて考えられもしなかった。私がエッチになると洋輔さんも喜んでくれるから、どんどん積極的になっていった。
「甘い……デザートを買わなくて正解だったな。ココ、ぷっくり赤く尖ってフルーツみたいだし」
アソコにたっぷり塗ったシロップを舌で丁寧に舐め取りながら、洋輔さんが笑う。私はといえば、そこをしつこいぐらいに刺激されて、もうほしくてたまらなくなっている。洋輔さんはいつもこんなふうに、私をさんざん焦らしてから、やっと願いを叶えてくれる。
体の中でいちばん熱く火照ったところに、硬いものが侵入してきた。
「んんっ……あぁぁんっ……」
まずは先だけで、入口のあたりをイタズラされる。軽く挿したり、抜いたり。
「いじわる……っ」
もっと奥までほしいのに。私が好きなこと、知ってるくせに。
「じゃあ、お願いして。ななみのおねだり、聞きたい」
「…………」
黙ってしまう。これが初めてではないけど、やっぱり恥ずかしい。
「抜いちゃうよ?」
「……洋輔さんの……奥まで挿れて」
「うん、よく言えた」
洋輔さんは腰を上げて、奥まで挿し入れてくれた。
「はぁっん、ああああっ」
気持ちいいところをこすられる快感に、洋輔さんにしがみついた。
その夜、カミサマの夢を見た。
カミサマは洋輔さんの家のダイニングテーブルに一人、座っていた。もしかしたら夢ではなかったかもしれない。
彼は私を見ると、唐突に話し始めた。
「世界をふたつとも残せるかもしれない。その方法は……」
だがそこで、背後の闇がカミサマを包んだ。カミサマはもがいたが、そこから逃れることはできなかった。私はといえば、体が動かなかった。
後にはただ、静寂だけがあった。
「手放しでは 祝えない」●西原ななみ
それからカミサマを見ることも、彼に夢で会うこともなかった。気になったけれど、どうしようもできなかった。
洋輔さんの次のお休みの日、同棲に向けての挨拶をするため、二人で私の実家に向かった。
「いつもななみがお世話になっています」
お母さんは明らかに緊張した面持ちで、洋輔さんにお茶をお菓子を勧めた。なぜか妹も結婚後の新居からやって来た。何か心配な私がどんな相手を連れてくるのか、気になったらしい。
お父さんはいない。今日は必ず家にいてほしいと頼んでいたのに、朝からどこかに出かけてしまったという。
(まったく、こんなときに何を考えてるのかしら)
ぶしつけを謝ると、洋輔さんは気にしていないと答えてくれたが、わずかであってもマイナス査定はついたことだろう。初対面だというのに幸先が悪い。
その代わりだというわけでもないだろうけど、お母さんはよく喋った。お喋りな性格を、初めてありがたく感じる。
「パイロットだってお話は聞いていましたけど、そんな方にうちの娘が釣り合うのかどうか……」
遠まわしに探っているのは、私と洋輔さんが知り合った経緯だ。最初は私に聞いたが、「友達の紹介で……」とか何とか言葉を濁したので、気になっているのだ。だけど婚活パーティで知り合ったのだと本当のことをいうのは、少し気恥ずかしい。
洋輔さんは、
「友達のパーティです。自由参加制の大規模なパーティだったんですよ」
と答えた。まぁ、間違ってはいない……気はする。
妹のほうは気づいているのか、にやにやしていた。
そこへ、お父さんが帰ってきた。
「はじめまして、高木洋輔と申します。ななみさんと結婚を前提にお付き合いさせていただいています」
お父さんが席に着くと、洋輔さんは頭を深く下げて挨拶をした。きびきびとした動作が頼もしい。
「はじめまして。ななみの、父です」
お父さんはそれだけいうと黙ってしまった。
普段から喋るほうではないが、かといって無口というわけでもない。どうしたのだろうと、女性陣3人がこっそりお父さんを窺う。
「失礼ですが……パイロットというのは、基本的には家を頻繁に空けるのですよね」
やっとお父さんが口にしたのは、そんな質問だった。
「はい。僕は国際線担当ですから、どうしても家に帰れない日は多くなります」
「そこが、どうしても引っかかってね」
お父さんが、暗い、しかしはっきりした声で言った。
「引っ越しが多かったせいか、ななみは子供の頃から寂しがりでね。高木さんのお仕事の話を聞いたとき、そんなことを思い出してしまった」
「お父さん、もう二人とも大人なんだし、当人同士がそれで納得してるならいいじゃないの」
お母さんが呆れたように口を挟む。
お父さんは心配症でも、とくに子供たちに甘かったわけでもない。なのに、こんなことを言い出すのは意外だった。だからこそ、私は何も継げなくなってしまった。お父さんの次の言葉だけが、気になる。
「病気になっても一人だし、下手をすれば出産も一人で乗りきらないといけないかもしれないんだろう。それを考えると、どうしても手放しでは祝えないんだ」
反対、というほど強い語調ではない。だけどもうひと押し何かがあれば、すぐにそちらに転じそうだった。
このままでは、洋輔さんとの結婚はお父さんを置いてけぼりにして強引に進めなければいけなくなるかもしれない。でもお世話になってきたお父さんだもの、そんなのはいやだ。
私は……
あらすじ
洋輔との結婚を意識し始めたななみ。
彼はどう思っているのか確認したくてもなかなか言い出せず…