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官能小説【9話】秘密、蜂蜜、果実蜜
友人の訪問
作:三松真由美

日曜の朝、シリアルに蜂蜜とミルクをかけて一人用の小さなテーブルに着く。甚におはようのスタンプを送る。小皿に盛ったブルーベリーにキスをして一粒食べたときだった。チャイムが鳴る。インターホンを覗くと、紅羽が立っている。頭痛を起こすほど嫌なことをされた相手。裏切り者の元友人。自分の生活からいなくなったはずの紅羽がなぜ。
「話したいの…」
伏目がちで神妙な顔つき。青ざめている。ただ事ではないと部屋に入れる。
「…唯香に悪いことしたからバチが当たった。樫田、詐欺師だった…海外でお金盗まれて困ってるから口座にお金振り込んでって言われて。信じちゃった」
「いくらとられたの」
「85万」
「うわ、大金じゃない。警察行った?」
「うん。でも3週間経ってもつかまんない。まあ、しかたない。山梨の地主とは見合いしたけど断られた…。ネイルに石ついてる女性は怖いんだと。今どき、メタルスタッズつけてる女子なんて珍しくないっしょ。時代遅れの男なんかこっちもヤダし」
「マナー教室まで行ったのに、派手ネイルで見合いしたの?」
唯香は吹き出してしまった。
「詰めが甘いのよ。紅羽は昔っから。爪で見合い失敗か!アハハハ」
二人から笑いが溢れた。
「ブルーベリー食べなよ。いい女になるにはビタミンたっぷりのフルーツ食べなきゃ」
紅羽の目が心なしか潤んでいる。紅羽が一粒つまむ。唯香がいたずらっぽく言う。
「ねぇ、色っぽい食べ方してみて」
紅羽が舌先で粒をチロっと舐める。
「うちら、朝からエッチだね」
唯香は髪をかき上げ、挑発ポーズで紅羽を笑わせる。
女の友情はもろいと思っていたが、弱っている友には寄り添いたくなるのもまた不思議な感情だ。
生徒の旅立ち
その日、広夢からLINEが届いた。
『明日、保健室で話すつもりだったけど待ちきれない。唯香先生、僕、卒業したらマレーシア行くことになった。おとうが一緒に住もうって。英語は早いうちに叩き込めって。大学行くのがすべてじゃない。現地でビジネス教えてやるって言うんだ。おもしろそうだから飛ぶぜ!』
小学生みたいだったのに、いつの間にかずいぶん逞しくなっている。甚とのことは明日、話そう。きっとわかってくれる。
カレの悩み
甚はパン屋のイートインコーナーでパン屋が作る桃のタルトをじーっと見つめている。大量のお菓子を作る研究。素材の研究。均一の味を出すにはどうすればいいか、と考えながらも唯香との情けない初めてのSEXシーンがよぎる。
唯香にあきれられたのではないか。大人の男に取られてしまうのではないか。スムーズなSEXってどうやればいいんだ。ネット動画を見てもピンと来ない。
男がこんな乱暴なことしてもいいのか。痛くないのか。あきらかに唯香の入り口よりこっちのコロネのほうがでかいじゃないか。痛いに決まってる。コンドームは、いつつける。考えれば考えるほど、唯香に会うのが怖くなる。
大学のゼミの友達に聞いてみるか。いや、そっち系の話はしたことないから引かれるだろうな。
2回目のSEXでうまくいかないと、がっかりさせてしまうに違いない。あの日からSEXに自信がなくなり、ひとりでしてもイケなくなってしまった。
「まずいよ。まずい。エッチできない彼氏なんて…ふられる…」
唯香に送るLINEはSEX以外の話題のみにしている。新しいお菓子のレシピや広夢のマレーシア行きの話題。
スライスされてゼリーで固められた桃をフォークでつつく。唯香の胸の谷間を思い浮かべる。どのくらいの強さでつっつけばいいんだ。
斜め前の丸テーブルに目が行く。学生らしいカップルがメロンパンを二人でかじり合っている。身体をぴったり寄せている。あんなに自然に彼女に触ることができるやつがうらやましい。桃を口に入れる。甘く煮詰められたシロップの味が切ない。
あらすじ
一人優雅に朝食をとろうとしていた日曜の朝、突然自宅のチャイムが鳴った。
インターホンを覗くと、自分を裏切った友人、紅羽の姿が。
様子がおかしい紅羽を家に入れ、話を聞くと…。