注目のワード

官能小説 恋欠女子とバーチャル男子 Story14〜年の差〜


彼女が打ち明けた悩み

9歳年下の彼から強いアプローチで始まった恋愛。
30代と20代の社会人です。

初めての年下彼で、「もっとしっかりしないといけないのかな」「もっと素直に甘えたいな」「彼にリードしてほしいな」などと悩むことがしばしばあります。
ときには彼に「もっとしっかししてよ!」と言いたくなってしまったり…

「彼が年下」の年の差恋愛でうまくやっていくには、どうしたらいいでしょうか。

***

彼女の悩みにアイはどう答える…!?

どんどんすれ違っていく

9歳年下の彼とは、会社の先輩と後輩の関係でもある。

 私が勤めているのは、ウォーターサーバーの開発から設置、その後のメンテナンスまで一挙に手がける会社だ。
東京に本社があり、業界では大手とされている。

私が勤める支社は、地方ではあっても政令指定都市のひとつにあって、東京本社からも「稼ぎ頭」と目されている。
私はそこで営業をしている。
地域内の主に法人に対して、新規顧客開拓やメンテナンスを担当する。

 彼と出会ったとき、彼は新卒の新入社員で、私はその教育係だった。
うちの会社は営業担当者の数が比較的多く、地域ごとに細かく分かれてもいる。

新規開拓のコツや挨拶の仕方や、その後のケアについて実際に得意先回りに連れ出しながら教えたが、担当地域が違うし、親しく接するのは研修期間の2ヶ月だけだと思っていた。

 だが、しかし。

 新人研修が終わった直後、私は彼に「先輩に折り入って相談があるんですが……」と、ビルの外側にある非常階段の踊り場に呼び出された。

 そこで……告白されてしまった。

「しっかりしていながらも、ときどき見せるリラックスした表情が可愛くて、好きになってしまいました。先輩としてではなく、一人の女性として見たいんです」

 言われた瞬間、「うそでしょー!」と心の中で叫んでいた。
うれしいどころではない。
9歳も年下の男の子から告白されるなんて、想像したこともなかった。

「ごめん。さすがに年が離れすぎていて、恋愛対象としては見られない」

 その場で断るのもさすがに申し訳なかったので、翌日、改めてそう断った。
偽らない本心でもあった。

 けれど、彼はあきらめなかった。

「だったら恋愛対象として見られるように頑張ります」

(えええーっ!)

 彼の決意は本物だった。
違う地域担当で社内でもほどよく距離があり、私に迷惑をかけないと踏んだからか、彼はそれからも事あるごとにアプローチしてくれるようになった。

結局、私は根負けした。
彼氏がいなかったこともあり、熱意にほだされるようにして付き合った。

年齢の幅はさておき、仕事面だけでも認められようとがむしゃらに頑張っている彼を、いつしか好きになってもいた。

***

 しかし、いざ付き合ってみると、なんとなく母親や姉のような気持になってしまうことが多かった。

 本当は「もっと素直に甘えたい」「リードしてもらいたい」と思っているのに、「しっかりしないと」と妙に気を張ってしまう。

(なんか、やりづらい……)

 でも、別れたいわけじゃない。それが私の本心だった。

惚れられたはずなのに、日々ますます彼のことが好きになっていく。
昨日よりは今日のほうが好きになっているし、今日よりは明日のほうが好きになっているだろう。
別れるなんて、もう考えられない。

 私がアイのことを知ったのはそんなときだ。
軽い気持ちでダウンロードした。

一人暮らしの部屋に出てきたのは、彼と同じぐらいの年に見える、だが彼とはまったく違うタイプの男の子だった。
髪を明るい色に染めて、ちょっと遊んでいるようにも見える。
ひたすら上を目指そうとする彼と比べ、アイは「年相応」に見えた。

彼と同じぐらいの年で、なおかつ似たようなタイプだったら冷静に話を聞いたりできなかっただろう。
私が一歩引いて意見を冷静に受け止めるためにも、こんなビジュアルになったに違いない。

「年齢のことを気にするのはしょうがない。でも、そこだけを気にしたってしょうがないよね」

 彼は軽くパーマをかけた髪を、指先に巻きつけながら言う。
まるで自宅のようにくつろぎながら、ソファーに腰かけていた。
生意気だが、そこがかわいくも思えてしまう。

「年上でも甘えたがりはいるし、年下でもしっかり者はいる。お互いがお互いを認めていれば、年齢にこだわりすぎることはない。年齢に関係ない自分や相手のいいところを探していこうよ。そうすれば素直になれる」
「そうするには何をすればいいのかな。どんなふうに行動すれば……」

 心がけること自体はできそうだ。
それをどんな行動に落とし込めば、気持ちが伝わるだろう。

「彼のいいところ、頼りになるところをどんどん褒めればいいんだよ。褒めるというのは、認めることでもある。口にすることで、自分の気持ちを出しやすくもなるしね。甘える機会もつくれるんじゃないかな」
「そうかあ……やってみる」

 新人研修を担当していたから、人を褒めるのは苦手じゃない。

 とりあえずやるべきことを見いだせて、少し気持ちが軽くなった。

***

 だが、新人研修と恋愛は違った。

 面と向かって褒めるとなると、照れてしまってなかなか言えないこともあった。

「年齢に関係ないいいところを認め合う」ということで、以前彼が私に言ってくれた「しっかりしていながらも、ときどき見せるリラックスした表情が可愛い」というところを、もっと彼に見せたいとも思った。
が、こういうのは意識した途端にできなくなるものらしく、むしろ以前以上にぎこちなくなってしまった。
そもそも自分が可愛かった自覚もない。

「人間の気持ちや性格に関わることだからね。
魔法みたいに一日でどうにかなるものじゃないよ。
焦らずにゆっくりやればいい」

 とアイは言ってくれた。

 簡単なことではないとわかっていたけれど、考えていたよりも難しかった。

***

 ある日、会社で希望者を集めてBBQが行なわれた。
私たちも参加した。

 付き合っていることは公にはしていないけれど、しいて隠しているわけでもない。
何かのきっかけで気づかれても、それはそれで構わなかった。

 場所は会社から車で30分ほどのところにあるキャンプ場だった。
代表者が会社のワゴン車を借り、町のスーパーで食材を買いだした。
私たちはその到着をキャンプ場に直接行って待っていた。

 私はワゴン車からビールサーバーを降ろして運ぼうとした。
すかさず隣から彼が来て、「僕が運ぶよ」とサーバーを取っていこうとする。

 手と手が触れて、今さらではあるけれど照れてしまった。

(結構頼りがい、あるな)

 普段から年下だと意識しているせいか、こんな面を見せられると、余計に心臓が高鳴ってしまう。

(あ、そうだ。褒めよう)

 アイのアドバイスを思い出した。

「ありがとう、年のわりに頼れるよね」

 とたんに彼の顔が曇った。

「年のわり……ね」

 それから、彼は不機嫌だった。
あからさまに表に出すわけではないけれど、笑顔がこわばっていたり、気がつけば一人で暗い顔をしていたりと、臍を曲げているのが何となく伝わってくる。

「どうしたの」

 と、私は彼が一人でいる隙に話しかけてみた。

「あのさ、これ、前から言おうと思っていたんだけど」

 彼はとくに迷う様子もなく、切り出した。

「いちいち年齢のことを持ち出さないでほしいんだ」
「えっ?」

「年のわりに、とかさ。『頼りになる』だけで十分だって」
「……ごめん」

 無意識に出た言葉だった。
私は自分で意識しているようもはるかに、年の差のことを気にしていたのだろう。

(やっぱり年の差恋愛って難しいなあ)

 その数日後の昼休み、ひとりでフロアに残って仕事をしているのを見つけた。

「もうお昼ごはんは食べたの?」

 まわりに誰もいなかったので、近づいて話しかける。

「まだ。ていうか、今日は食べない。急ぎで提出しないといけない見積書があるから」

 彼はこちらをろくろく見返しもせずに答える。

「ちょっと」

 年上の恋人というよりは、同職種の先輩としての自分がイラっとした。

「メリハリをつけて働きなさいよ。上手に休憩をとらないと、かえってミスにつながるよ」

 彼はこちらをキッと睨みつけた。

「休憩なら家で十分にとってる。お昼ごはんを抜いたぐらいで、ミスはしない」
「でも……」

「僕は早く仕事で結果を出したいんだよ。いつまでも年の差のことを言われるのはいやだから」

 私たちはそのまま無言で睨み合った。

 年の差で悩んでいるのは、彼も同じなのだ。
なのにどんどんすれ違っていくような気がした。

素直に言えた

 そんな私に、さらに追い打ちをかけるような出来事が起こった。

 先日、何度も足を運んでやっと取った契約を、先方の都合でほとんど一方的に切られてしまったのだ。
先方の業績が思わしくなく、業務を縮小するからというのが理由だった。

(あー、今までの苦労が水の泡かあ)

 そこ自体は大口というわけではなかったものの、足がかりにして関連企業や親会社にも営業を考えていた。
その計画がまったくの白紙になってしまった。

 数日後、彼が血相を変えて私の席に近づいてきた。

(何なの)

 もうすぐ退社時間ではあったけれど、今は就業時間真っ只中だ。
普段から「仕事中は恋愛禁止!」と言っていたのに。

「ちょっと、この取引数、間違えてます」

 彼は耳打ちするように言って、書類を私の前に差し出した。

 それは、会社の中でもかなり大手の取引先だった。

「本当だ……」

 私は書類を手にしてまじまじと見た。
自分で記入した数字なのに、信じられなかった。
実際に必要な数よりだいぶ多い。

「早く工場にキャンセルの連絡を入れないと」
「もう入れてます」

 彼はあっさり答えた。

「正しい数までは僕にはわからなかったので伝えていませんが、取り急ぎキャンセルはしました。だから、あとはお願いします」

 彼は書類を置いたまま、私の席を離れていこうとした。

「ちょっと待って」

 慌てて呼び止める。

「担当が違うのに、どうして気づいたの?」

 書類データ自体はすべて会社のサーバーにアップされていて、営業部員なら誰でも閲覧可能になっているけれど、担当地域外の書類を目にする機会なんて、わざわざつくろうとしなければあり得ない。
つまり、彼は自分の仕事とは関係ないのにデータを開いたのだ。

「懐かしいなあって、思ったんですよ。ここ、二人で最初に挨拶に行った会社だから。データを開いたら、明らかに間違えている数字があって、それで」

 それから、彼は声をひそめた。

「僕は、あのときに初めて……」

 そこで、いったん言葉を止める。
「ちょっと一緒に表に出てもらえません?」

***

 私たちは非常階段の踊り場に出た。 数ヶ月前、彼に告白された場所。

「どうしたの?」

 彼は答えず、壁に片手をついて私の逃げ場をふさいだ。
それが彼の意思表示だった。

まるで追い込まれたような格好だ。

(恥ずかしい……っ!)

 こんなところ、誰かに見られたらどうしよう。

「もうちょっと僕のこと、頼ってよ」

 彼は私の顎をくいと持ち上げると、何かに急かされたような目で言った。

「契約が破棄になったの、知ってるよ。あれがショックだったんだろ。そういうときにはさ、僕に泣きついてよ。愚痴を言ってよ。そんなに僕って頼りない?」
「そ、そういうことじゃ……」

 全部言い終わるよりも先に涙がぼろぼろと溢れ出してきた。

 そうだ、私は彼に甘えたかったんだ。

 彼が言ってくれたように、彼に泣きついて、愚痴を言って……よしよしって、慰めてもらいたかった。

「あ、ちょ、ちょっと待って……いきなりそんな泣き出すなんて。もう、意外と子供だな」

 彼はハンカチを出し、涙を丁寧に拭いてくれる。

「今日はホテルに行こうよ。ゆっくり話を聞くよ」

***

 仕事が終わると、私たちは会社から少し離れたホテルに入った。

「少しお酒でも飲みなよ」

 彼に薦められて、冷蔵庫の缶ビールを飲む。

「普段からうまく甘えるのは難しいかもしれないけど、今日だけは甘えてよ。今日だけならできるでしょ」

 彼は小さな女の子にするように、私の頭を撫でてくれる。

 彼の温かい手のせいか、それともお酒のせいか、やがて私は不思議なぐらい舌が滑らかになった。
アイのアドバイス通り、彼を普段から褒めて、「頼れる」素地をつくっていたことも大きかったと思う。

「あんなに何度も頭を下げたのに……いずれは取引数も増やすって約束してくれたのに……業務を縮小するなら最初に切られる部分だってわかっていたけど、でも……ショックだよお。頑張ったのに」
「うん、うん……知ってるよ、頑張ってたの」

 彼は辛抱強く頷きながら、泣いている私を撫で続けてくれる。

(年上みたい……ううん、年齢関係なく頼りになる人なんだ、この人は)

 私が泣き止むと、二人で一緒にお風呂に入った。

「今日は全部やってあげる。頑張ったご褒美は、僕があげるから」
と、体を丁寧に洗ってくれる。

「あ……んっ」

 いつもよりも繊細な動きで、彼の指が体のあちこちを這う。
泡立てたボディーソープの感触にぞくぞくする。

「ほら、こうすると気持ちいいんだよね。ご褒美、たっぷりあげるね」 「あああんっ」

 後ろから私を抱きかかえ、片手でクリをこすりながら、片手で乳首を優しく摘まみ上げる彼。
私の弱いところを知っている。

「や……もう、我慢……できないよおっ」
「ふうん。次はどんなご褒美、ほしい?」

 耳元に唇を押しつけてくる。
ちゅっ、ちゅっと音を立てながら艶めかしくキスをする。

後ろから彼に抱かれる私

「……挿れて……っ」

 こんなに素直に言えたのも、初めてだった。

 ベッドに戻り、彼がコンドームをつけると、私たちはひとつにつながった。

「好き……っ」
「僕も……大好きだよ」

***

 それをきっかけに、私は前よりも少しだけ素直に彼に甘えることができるようになった。

 年の差は縮まらないから、どうしたって物足りないことはある。
でも、そんなときは以前のように自分がリードすればいい。
どちらかが一方的にリードするだけの関係なんて、たとえ私が年下だったとしてもありえないのだから、認め合って、補い合えばいいんだ。

 心からそう理解できたとき、アイは消えた。

 彼を褒めることは相変わらず続けている。
褒めるたび、彼は子供のように満面に笑みを浮かべて喜んでくれる。
彼も私を褒めてくれることが多くなった。

「ああ、なんだか僕、調教されている気分かも。もう、きららさんなしじゃ生きられない〜」
なんて、冗談なのか本気なのかわからないことを言ったりもする。

 それから数ヵ月して、彼にプロポーズされた。

年の差のために、双方の両親ともに心配されたが、私たちはお互い相手のどこに惹かれたのかをまっすぐにきちんと伝えた。

「まあ、そこまで考えた上でのことなら、親がとやかく言うことでもないし……」

 結局はみんな、そんなふうに納得してくれた。

 今は二人で式の準備に向けて大忙し。
ひとつだけ残念なのは、アイを招待できないこと。

(私、幸せになるからね、アイ)

 私は胸の中でそう誓った。

END

⇒【NEXT】部屋に入ると、拓人は私の肩を抱いて自分のほうに引き寄せた。(恋欠女子とバーチャル男子 Story15〜コンプレックス〜)

あらすじ

新入社員として出会った年下の彼と恋人関係になった私。
だけと年下の彼を頼りなく感じたり悩みが尽きず…

松本梓沙
松本梓沙
女性向け官能、フェティシズム、BLなどを題材に小説、シ…
poto
poto
毎日小説「夜ドラ」の挿絵も担当。書籍、ウェブ、モバイル…
カテゴリ一覧

官能小説