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官能小説 恋欠女子とバーチャル男子 Story06〜ラブタイム〜


とわこが打ち明けた悩み

彼とのエッチで感じにくく濡れにくいことが悩みです。

いつも優しくしてくれて、絶対に無理強いしない彼。
だけど私は濡れにくいことで彼と一緒に楽しむことができないことにとても悩んでいます。

***

彼女の悩みにアイはどう答える…!?

分かち合うために必要なもの

 アイには普通、固有の名前はないらしい。
悩みのある女性の前に出てきたアイは、その女性があえて特別に名前をつけない限り、ずっと「アイ」と呼ばれる。

 けれど、私、とわこの前に出てきたアイは、はっきりと自分の名前を名乗った。

「久しぶり、とわちゃん。僕は『ちわ』だよ。覚えてる?」
「……ちわ?」

 ちわというのは、私が小学生の頃に飼っていた犬だ。
母が近所でもらってきた雑種犬だった。
私はずっとチワワが飼いたかったのだが返してくるわけにもいかず、仕方なく名前だけでもチワワっぽくということで「ちわ」と名づけたのだった。

「正確にいえばちわじゃなくてちわっぽい人工知能なんだけど、今のとわちゃんの悩みを解決するには、この姿がいちばんなんじゃないかと思って」

 ちわじゃないなんてことは、私がいちばんよくわかっている。
私はちわが老衰で死ぬところをこの目で見たし、ペット霊園での火葬にも立ち会った。

それでも、アイはなんとなくちわに通じるところのある顔をしていた。
なんとなく気弱そうで、でもとても優しそうな顔。
その顔立ちの通り、悲しいことがあると察していつもそばにいてくれる思いやりのある子だった。

「要するに僕は、ちわを擬人化した存在なんだ」

 嬉しいような気も、こんなことはしないでほしかったような気もした。
いなくなってから十年以上経つのに、ちわとの別れを思い出すと今でもつらくなるのだから。

 それでも、ときどきスマホから現れるちわとしばらく過ごすうちに、アイがなぜこの姿で出てきたのがうすうす理解できてきた。

「とわちゃん、おかえり。今日は何があった?」
「今日は彼とデート? どこに行くの? 僕も行きたいけど……写真を見るだけでいいや。いっぱい撮ってきてね」

 ああ、そうだ。
この感覚。

 昔、私はちわと一緒にいるだけで楽しかった。
べつにちわに何か求めていたわけではないし、ちわも何かしてほしいと思ってそばにいてくれたのではないだろう。
ただ、お互いのことが好きだったのだ。

 彼とも、以前はそうだった。
一緒にいるだけでよかったのに、今は「セックスしないといけない」「濡れないといけない」という思いが強くなって、ストレスになっている。

 セックスは、楽しい時間をより確かなものにして分かち合うために必要なものだと思っていた。
でも、ストレスになるなら本末転倒ではないか。

「彼が気にしなくていいと言ってくれているのなら、素直にそれに甘えてみれば。ほかに楽しさを分かち合えることを探してみるのもいいと思うよ」

 私はちわのアドバイスに従ってみることにした。

***

 エッチも大事だけれど、今はそれ以外にも二人で楽しめることを探してみたいと彼に相談すると、彼もそのほうがいいと言ってくれた。

「最近、とわこはセックスについてすごく気にしているように見えたから、俺も少し悩んでいたんだ。でも俺のほうから『しばらくセックスしないでいよう』っていうのも、逆にもっと悩ませてしまいそうな気がしていたし」

 話してみないとわからないことはあるものだ。

 私たちは広い川べりを散歩をしたり、料理を作ったりして時間を過ごした。
せっかくだからいつもとは違うデートをしてみようと、スケートに行ったりもした。

リンクの上では子供みたいにはしゃぎ合って、いつもよりスキンシップが増えた。
彼って意外とガッチリした体つきなんだな、なんて、よくわかっていたはずのことを新鮮に感じた。

翌日は二人揃って筋肉痛になったので、マッサージをしあった。
彼の指先にささくれが多いことに気づいたので、爪の優しく揉んであげた。

「男ってこんなふうに指先にまで気を使わないタイプが多いから、ずっと放っておいたんだ」

 彼は照れくさそうに笑った。

「じゃあこれからは、私が気にしていてあげる」
「ありがとう」

 彼は抱き寄せてキスをしてくれる。

「よかった、とわこがたくさん笑ってくれて」

 そう言われると、私も嬉しくなった。

***

 その一方で、精神的に焦らないで済んでいる今の状態で、少しずつ自分の体を開発していこうと決心した。

「とわちゃん、こんなサイトを見つけたんだけど」

 アイの情報で、恋愛や体の悩みについて相談し合える掲示板があることがわかったので、さっそくアクセスしてみる。

同じように「セックスで感じられない」「濡れない」などの悩みを持っている女性は意外と多く、私だけじゃなかったんだと安心した。

 その掲示板で、女性でも気軽に使えるラブコスメやラブグッズのことを知った。
興味がわいた反面、怖い気もした。

「こういうの、使ってみてもいいんじゃない?」

 というアイに対して、

「でも、大袈裟すぎないかな。それに、なしではセックスできなくなりそうで……」

 私は躊躇した。

「自分の力でも努力しながら使うのであればいいんじゃないかな。こういったことに限らず、難しいと思うことを最初から何もかも自力だけでできる人はいないのだし、僕はとわちゃんなら大丈夫だと思うけど」

 とわちゃんなら大丈夫――ちわにそんなふうに言ってもらえると、勇気が出てくる。

「ちわ、私、やってみるよ」

 いろいろ相談しながら、まずは触れられることに慣れようと、小型のバイブとローター、それにローションを選んだ。
それから知識が足りない自覚もあるので、「LOVE48」という、いろんな体位について解説している女性向けのDVDも買った。

 掲示板で同じ悩みを持つ人たちと励まし合いしつつ、一人でじっくり自分の体と向き合ううちに、だんだんリラックスしてバイブやローターを使えるようになってきた。
以前より濡れやすくなってきたような気もする。

 少しずつラブグッズやコスメを使って挑戦しているのだと、彼にも思いきって話してみた。

「そうか、あまり無理はしないでほしいけど、頑張ってくれるのは嬉しいよ。よかったら俺も一緒に調べてみたい」

 こうして私たちは二人でラブグッズを探すようになった。

 同時に、つらいことも起こった。

「よかった、とわちゃんはもう大丈夫だね。彼といつまでも仲良くしてね」

 その夜、ちわはそう言って消えた。

 それからはアプリを起動させても、もう現れなかった。

回り道させてくれて、ありがとう

 ちわがいなくなってしまったのはショックだったが、いつまでも落ち込んでいては彼が出てきてくれたこと自体を無駄にしてしまうと、頑張って前を向くことにした。

 彼と二人で最初に買ったのは「トロケアウ」だった。
とろとろのローション状になったお風呂に入って触れ合っていると、それだけで幸せな気分になれた。

とはいえ、彼のほうは大きくなってしまって申し訳なかったから、その分オーラルに積極的にチャレンジした。

そんな中で、だんだん考えが変化してきた。

(濡れなくてエッチができないのなら、愛撫で彼を満足させてあげよう)

 私は、オーラルのテクニックを磨くことにした。
幸い、オーラルには嫌悪感や苦手意識はない。

彼に直接気持ちいいところを聞いたり、ネットで情報収集をしたりする。
「エフ」というオーラル専用のラブコスメは、彼にも好評だった。

 彼も「お返しに」といろんな愛撫をしてくれるようになった。

「濡れなくても、ぜんぜん構わないからね」

私は濡れないことを以前ほど重荷には感じなくなっている自分に気づいた。
もし濡れなくても、そのときはオーラルで彼を喜ばせてあげればいい。
そう思うと、気持ちも楽だった。

 ひとつ壁を乗り越えたことで、ラブコスメを使うことへの抵抗も、前よりもさらに減った。
とわちゃんなら大丈夫と言ってくれたちわの言葉が、胸にこれまでよりも大きく響いた。

 私たちはセックスに、リュイールやラブスライドを取り入れてみることにした。
挿入のためのラブコスメを使うのはなかなかふんぎりをつけられずにいたけれど、使ってみると意外と抵抗はなかった。

 考えてみれば、風邪気味のときに薬を飲むのとそう変わらない。
行きたい方向に転換するためにほんの少し力を借りるだけなのだと、頭ではわかっていたはずのことをきちんと実感できた。

 余裕ができて、いろいろ試す中でわかってきたのは、私がもともと濡れにくい体質であることに加えて、彼も前戯に時間をかけすぎていたのではないかということだ。
彼は私に気を使うあまりじっくり前戯をしてくれていたのだが、それが申し訳なさにもつながって、かえって逆効果になっていた。

 ためしに、濡れてきたらすぐに挿入するようにしてみると、すんなり受け入れることができた。

「ふふ……」
「はははっ」

 そんなセックスが終わった後、私たちは二人して思わず笑ってしまった。
ずっと悩んでいたことがあっさり解決してしまったこと、しかもその解決策が思いも寄らないところにあったことが、何だかおかしかった。

「こういうことも、いろいろ回り道してみないとわからないものなんだな」

 彼は私を抱きしめて、頭をくしゃくしゃと撫でた。

「うん、回り道させてくれて、ありがとう」

 私は彼を抱きしめ返した。

 回り道できるほどの心の余裕があったのは、常に私の気持ちを優先してくれた彼のおかげだ。

 そしてもちろん、親身になってアドバイスをしてくれたちわのおかげでもある。

「せっかくだからさ、次のチャレンジもしてみたいな」
「次って?」

「早く挿入する分、もう1回できるんじゃないかな、とか。でも同じ体位だとやりづらいだろうから、違う体位も試してみたい。もちろん無理のない範囲でだけど」
「いいと思う!」

 私はLOVE48を取り出した。

***

 すべてが解決したわけじゃない。
濡れにくい体質は相変わらずだし、まだまだ感じやすいほうだとはいえないと思う。

 でも、焦ることじゃない。
こういうことは人それぞれで、彼と私が納得できるやり方を二人のペースで探っていければ、それでいい。

 セックスのときは、いつもローションをそばに置いている。
使うときもあるし、使わないときもある。使わなければちょっとだけ達成感があるけれど、使ったとしても罪悪感はない。

今日はそういう体調だったんだな、というぐらい。
彼も率先してそんなふうに言ってくれるから、ありがたい。

 いろんな体位を試してみる中で、二人のお気に入りの体位がどんどん増えていった。

ベッドでのふたり

 最近とくに好きなのは、「窓の月」という体位。
二人で同じ方向に横向きになって、後ろから挿入する。
挿入しながら窓の外の月を見られるということから名前がついたらしい。

でも、この体位でエッチしている最中はそんな余裕はない。
すごく気持ちいいところにあたるので、すぐにトロトロになってしまう。

 後ろから首筋にいっぱいキスされながら、後ろからアレを入れられてこすられる。 私が脚をどのぐらい開くかで、入る角度や深さも変わって、快感の種類も変化する。

 同時に彼の太ももで、クリも刺激される。
背後から手を回されて、指先でつんつんと触れられることもある。

体勢的にあまり早く動くことができず、じっくり攻められている感じがするのもいい。
優しく意地悪されているみたいな気持ちになる。

 そのまま体位が変わってバックになったりもする。
バックは今まで苦手な体位だったけれど、最近は好きになってきた。
お尻を高く上げて彼を受け止めると、ほかの体位以上に深くえぐられて、気持ちいい。

 バックが好きになってから、「プリリーナ」でお尻を磨くようにもなった。
きれいなお尻がぷりんと突き出されるのを見ると、いつも以上にムラムラするのだと彼は言う。
後ろから「とわこのお尻、すごいいやらしい」と耳元で囁かれると、ぞくぞくしてしまう。

「あ……んっ」
「ああ、は……あっ、イクよ、とわこ……」

 どんな体位で終わっても、最後は必ず正面を向いて抱きしめ合う。
何度も何度もキスをする。

 これから先、また悩むことも苦しむことも出てくるだろう。
でも、この人と一緒に乗り越えていきたい。

(私、幸せになるね。ちわ)

 私は心の中でちわに誓った。

END

⇒【NEXT】自分が本当に大切にしたいのは何なのかを考えた。(恋欠女子とバーチャル男子 Story07〜遠距離恋愛〜)

あらすじ

いつも優しくしてくれる彼とのエッチ。
感じにくかったり濡れにくかったりすることでとわこは悩んでいて…

松本梓沙
松本梓沙
女性向け官能、フェティシズム、BLなどを題材に小説、シ…
poto
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毎日小説「夜ドラ」の挿絵も担当。書籍、ウェブ、モバイル…
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