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官能小説 恋欠女子とバーチャル男子 Story09〜復活愛〜


萌子が打ち明けた悩み

倦怠期に入って喧嘩が絶えず、勢いで「もう別れる!」と言ってしまった。

彼が止めてくれることを期待していたけれど、彼の方も冷めていたみたいで、そのまま別れてしまった。

もっと素直に冷静に気持ちを伝えられていたら、結果は違っていたと思うと、自分の未熟さを後悔…

彼とやりなおせるでしょうか。

***

彼女の悩みにアイはどう答える…!?

私、彼が好き

 私、萌子(もえこ)の前に現れたのは、別れた彼とどこか面影が似ているアイだった。
すごく似ているというわけではないけれど、ふとしたときの表情が重なる。元彼は、大学の自転車サークルの同級生だった。

「萌子。これからよろしく」

 口調も、そんなふうに言いながら手を差し出して握手を求めるしぐさも、やっぱり何となく元彼に似ていた。

(私、彼が好き)

 アイとともに何日か過ごしながら、私は再確認した。

同時に、バカなことをしてしまった自分への自己嫌悪や後悔も湧き上がってきた。

「彼に謝って、もう一度やり直してもらえないか頼んでみる」

 私は決心をアイに打ち明けた。
アイはその人の性格や状況に応じた姿で現れるという。
だったら彼に似ているというのは、彼とやり直すよう背中を押しているということじゃないだろうか。

 だが、アイは苦笑して首を横に振った。

「僕が彼に似た姿で出てきたのは、今、やり直したほうがいいと思うからじゃない。むしろ、自分の失敗をしばらくの間、新鮮な気持ちで見つめ続けてほしいからなんだ。人間は誰だって自分に甘いからね」
「う……」

 何も言えなくなってしまう。
アイの言うように人間みんなが自分に甘いかどうかわからないけれど、私は自分に甘い自覚はあった。

今だってすでに、後悔よりも「素直に謝ったら許してもらえるかも」という期待のほうが大きくなっている。
いつまでも沈みっぱなしなのがいいことだとは思わないけれど、勝手な期待を過剰に抱いているんだといわれればそれまでだ。

「もう一度付き合ってもらえることになったとしても、今のままならまた同じ失敗をすることになるだろう。反省のないところには学習もない」
「反省、してないわけじゃないけど……」

「これは君の心だけじゃなく、相手の問題でもあるんだ。別れたすぐ後に、もう一度付き合ってほしいなんて言われたら、彼はどう考えると思う? きちんと消化しないまま、勢いだけで謝っていると思われたって仕方がない。相手の立場になって考えるのは、恋愛の基本だよ」

 確かにそうだ。私は彼がどう思うかを考慮していなかった。こちらに何も問題がないのなら、それだけで突進しまうつもりだった。

 やっぱり私は、自分に甘い。自分のことしか考えていなかった。

「相手を試すようなことを言ってしまうのは恋愛あるあるではあるけれど、だからといってしていいことでもない。今は焦らず心身ともに自分磨きをして、彼にまた振り向いてもらえるようにしよう」
「自分磨きかあ……私、彼にとってそんなに魅力のない女かなあ」

「萌子の魅力がなくなったわけじゃない。単に付き合いたての頃よりも新鮮さが減ってしまっただけだよ。つまり倦怠期ってやつだ。倦怠期には、新しい刺激が必要だ。そういう意味でも自分磨きをして、新しい魅力を身につけたほうがいい。何かに向かって頑張っていれば気持ちも晴れるんじゃないかな」
「……そうだね!」

 アイが丁寧に言葉を尽くして励ましてくれたので、少しずつやる気になってきた。

***

 肌や髪を磨くのと同時に、みずからの内面についてもよくよく考えるようになった。

 どうして彼を試すようなことを言ってしまったのか。

 アイの言った通り、倦怠期に陥っていた、つまり関係がマンネリ化していたことが大きいだろう。

 私自身がマンネリを解消する手立てを探し出そうとすればよかったのに、彼が何とかしてくれると無意識のうちに期待していた。
期待を引きずって、でも彼が何もアクションを起こさないものだから何だか無性にイライラして、試すようなことを言ってしまった。

(これからは楽しいことやわくわく、どきどきすることをたくさん見つけられるように、そしてそれを伝えられるように、もっと感性も磨こう。いろんな映画を見たり、本を読んだり、遠くに出かけたりして……)

理由がわかったり、対処法を思いついたりしたからといっても、すぐに変わることはできないだろう。
性格や価値観、感性を変えるというのは、そんなに簡単なことじゃない。

(でも少しずつ、焦らないでやっていこう)

彼に面影の似たアイがそばにいて励ましてくれるから、頑張ろうと思えた。

***

彼は私と別れてしばらくした後、サークルを辞めていた。
別れた相手が同じサークルにいて、活動するたびに顔を合わせないといけないというのは、やはり何かとやりづらいのかもしれない。

彼とは同じ学部だったが、学科が違うと、あまり姿を見られなくなる。使う教室が離れているのだ。
彼を苦しい気持ちにさせたことにも、なかなか会えなくなったことにも落ち込んだ。

 それでも、下を向いてばかりはいられない。できることをやろう。
あっという間に半年が経った。

さまざまなことに好奇心を持ち、積極的に経験を増やしていこうと日々模索していた私は、最近とくに表情が豊かになったといわれるようになった。

男性から声をかけられることも増えた。

……告白されることも。

正直なところ、心が揺れたこともあった。どんなに頑張っていても、別れた彼とやり直せる保証はない。
私が頑張っていることを彼がどう思うかは、私にはどうにもできないことだ。私の一人相撲に終わったっておかしくない。

(もう、諦めてしまったほうが楽になれるのかもしれない。新しい恋を始めたほうが……)

それでもアイを見るたびに、やはり自分は彼が好きなのだと確信した。

 結果はどうなるかわからない。
でも彼が好きだから、後悔のないようにやれることはやろう。その上で振られるのなら、素直に諦められる。

 そんなとき、彼に新しい彼女ができたという噂を聞いた。

久し……ぶり

自己満足だとはわかっていた。
それでも諦めるために彼に会いたかった。

 同じ学部だったから、偶然顔を合わせることもあった。
それでも、頻繁というほどではない。せいぜい週に一、二度ほどだ。

 だから、会いたいのなら行動を起こさないといけなかった。

(半年前にバカなことを言ってしまったのを、素直に謝るんだ。そして、どうなってもいいから気持ちを伝えよう。じゃないと……諦めきれないよ)

ただ会うだけであっても、彼女のできた相手には迷惑だろう。
でも、頭ではわかっていても、どうしても止められなかった。

 私は後悔していた。
半年前、すぐに謝って気持ちを伝えておくべきだったのかもしれない。
アイだって、絶対に完璧な存在というわけではない。

 といって、アイを責める気はない。
最終的にアイの意見に従うと決めたのは、他ならぬ私自身なのだから。
アドバイスをあえて聞かないという選択肢だってあった。

「あまり……おすすめはできないけどね」

 やはりアイはそう言った。

これまで学んだことから、恋愛は自分より相手の気持ちを重視しなくちゃいけないものだとはわかっていた。
自分だけを見て、自分だけの満足を求めていてはいけない。

でも、たまには自分の満足だって求めないとやっていられない。
そうやって迷惑をかけ、かけられることだって、ときには仕方ないんじゃないだろうか。
人間はそんなに、理性的にばかり生きられるだろうか。

私は自分で思っていたよりも、成長できていないのかもしれない。

 (偶然会ったってフリをしよう)

 彼が使っている教室の周囲を歩き回り始めてから三日目、やっと会うことができた。

「……久しぶり」

 私が現れると、彼は目を丸くした。

「久し……ぶり」
「元気?」

「うん、俺のほうは、まあ。……萌子は?」
「私も元気にやっているよ」

 だめだ。つらい。涙が出そうになってきた。
会えたら話すことを決めていたはずなのに、全部飛んでいきそうだ。

「あのね、私、あのときのこと謝りたいって、ずっと思ってて」
「あのときって……」

「もう別れる! って言っちゃったこと。あれ、本気じゃなかったんだ」
「ああ、うん……」

 彼は困ったように俯いた。

 言わなきゃよかった、会わなきゃよかったという後悔が胸をよぎる。
やらないほうがいいことだとわかっていたんだから、やらなければよかったんだ。

「あのときに、素直に気持ちを伝えられていればよかったと思ってる。あなたが好きで、あなたからの気持ちを確かめたかっただけなんだって。今もすごく後悔してるよ」
「うん……」

 彼はまだ顔を上げない。

もう潮時だ。これ以上困らせたくない。
せめてこれ以上嫌われないようにしよう。

「新しい彼女ができたって聞いた。ごめんね、こんなこと言われたら迷惑だよね。もう言わないし、あまり会わないように気をつける」

何とか笑顔を浮かべて、踵(きびす)を返した。

うん、これでいいんだ。
これで、気持ちの整理がついた……つけられた、はずだ。

 自分を励ますように、大きく一歩を踏み出そうとした。

 そのとき、右手がふわりと暖かいもので包まれた。

 びっくりして振り返る。

 追い詰められたような表情をした彼が、私の手を握っていた。

「ちょっと、時間ある?」
「え……? あ、ある……けど」

「もう少し、話、しない?」

***

二人だけで話せるところに行きたいと言われた。

しがない大学生の私たちがまず思いついたのはカラオケボックスだ。
3〜4人向けの小さな部屋に入り、ドリンクを注文する。
テレビは消して、BGMがかすかに聞こえる程度にした。

カラオケボックスでのふたり

 彼は注文したアイスコーヒーを半分ほど飲むと、こちらにきちんと向き直った。

「俺も、あのときは悪かったと思ってる。売り言葉に買い言葉っていうのかな、勢いだけで『じゃあ別れよう』なんて答えてしまった。ごめん」
「……」

 私はオレンジジュースを一口啜っただけで何も答えられなかった。

 なんてことだ。
あのとき私たちは、二人とも本当に別れたいと思っていたわけではなかったのだ。

 アイがアドバイスしてくれたことは、確かに一般論としては正しかったのだろう。でもこの件に限っていうなら、すぐに謝るべきだった。
アイはいつでも正しい答えをくれるわけじゃない。正しい可能性が極めて高い助言をしてくれるだけだ。

 涙が溢れ出してくる。
もう、手遅れだ。とるべき選択を誤った。仕方のないことだとはわかっている。
でも、でも……

「だからさ、よかったら、もう一度やりなおしてみないか」

 私は顔をあげた。
自分の耳に入ってきた言葉の意味が一瞬わからなかった。

「とくに最近、萌子はきれいになったから……新しい彼氏ができたのかなって思ってた。でも、できていないのなら、よかったら考えてみてほしい」
「え……」

 涙で喉が詰まる。

「今さらだけど、告白しても大丈夫かなって女友達に相談していたんだ。たぶんそのことが間違って伝わって、彼女ができたんだって誤解になったんだと思うけど」

呆然と彼を見つめる。
今、起こっていることが信じられなかった。

「俺もあれからいろいろ考えた。今はあのときよりも成長できたと思うから、少なくとも同じ失敗だけはしない」

ぽかんと口を開けたまま、私はこくりと頷いた。

***

 もう一度付き合うようになってわかったことだけれど、彼もまた、倦怠期を乗り越えるために無意識のうちに私に何とかしてほしいと思っていたようだった。

 お互いがお互いに多くを求めて、自分では何もしなかったことになる。

 また、家を行き来する生活が始まった。
彼の部屋のインテリアに大きな変化はなかった。でも、本棚に本やDVDが増えていた。

アイは私に心から謝ってくれた。

「アイは悪くないよ」
「でも、結果がこうなったからよかったようなものの……」

「もし、アイのいうことを無視してすぐに気持ちを伝えていたら、何も学ばず、同じ失敗を繰り返していたと思う。結果も上々だし、これ以上の結末はないよ」

 そう伝えると、アイは安心したようににっこりと笑った。

 その翌日にアプリは起動しなくなり、アイも出てこなくなった。

――今度こそ、ちゃんと幸せになろう。相手にだけ頼らないで。
口には出さないまでも、私も彼も心にそう硬く誓っている。

ベッドの上で抱き合い、ひとつになるときの満足感や感度も、以前とは比べものにならなくなった。
きっと「気持ちよくしてもらおう」と期待するだけでなく、自分からも快感を積極的に求める姿勢に変わったからだろう。

積極的といえば、彼をもっと気持ちよくしてあげて、自分の感度も上げたいと、アソコの締まりをよくする「LCインナーボール」を最近は試している。

「あ……っ、萌子、きつすぎだよ……」

 余裕のない表情をするようになった彼が、ますます愛おしくなる。
アソコがキツくなった影響か、彼の形も中ではっきりとわかるようになった。

END

⇒【NEXT】「いいか。お前は今、結構イケてる」(恋欠女子とバーチャル男子 Story10〜失恋〜)

あらすじ

倦怠期の喧嘩の末、勢いで彼と別れてしまった萌子。
でもとても後悔していて…

松本梓沙
松本梓沙
女性向け官能、フェティシズム、BLなどを題材に小説、シ…
poto
poto
毎日小説「夜ドラ」の挿絵も担当。書籍、ウェブ、モバイル…
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