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官能小説 恋欠女子とバーチャル男子 Story04〜夫婦生活〜


凜が打ち明けた悩み

仕事がハードで彼がいるも疲れていて、そんな空気にならないし、誘ってもっと疲れさせたら…とためらってしまいます。

普通にスキンシップはあるので、それ以上を求めるのはわがままかとも思うけど、やっぱりさみしい気持ちはあって、どう伝えたらいいのかわからないのです。

***

彼女の悩みにアイはどう答える…!?

決心した

私、伊藤凜は決心した。

 いつまでも悩んでいるだけじゃ問題は解決しない。

 行動しなきゃ始まらない。

 だから思いきって自分から夫をエッチに誘ってみた。

 その結果は……玉砕。

 いいわけみたいになるけど、ちゃんと夫のことは思いやったつもりだった。
疲れていないか、明日はそんなにハードスケジュールじゃないかさりげなく確認して話しかけたつもりでいた。

 でも、だめだった。

「ごめん、疲れていて……どうしても最近、そういうやる気が出ないんだ。凜のせいじゃない。僕が悪いんだよ。ごめん……」

 夫は夫で私への思いやりを感じられる言葉を返してくれたから、こちらもよけいに悪いことをした気分になってしまう。

 ああ、このまましばらくエッチはお預けなのかな。

 隣で眠る夫のこちらに向けた背中を見つめて、小さく溜息をついた。

***

 アイに出会ったのはそのすぐ後だった。

「お悩み解決アプリ」なるものを偶然見つけてダウンロードしてみたのだ。

 私の前に出てきたのは、まだ小学校も卒業していないように見える男の子だった。

 昼間の、誰もいない家の中だったからよかったようなものの、彼が出てきたのが外だったら、子供がいるわけでもない私は相当怪しまれただろう。

「え、子供だなんて聞いてないよ」
「あなたの好みに基づいてこの姿になっているんだけどな」

「子供を好きになる趣味なんてないわ」
「大人の男が苦手なんだろ。不要なストレスが生じないようにって設定なんだ」

 確かに私は大人の、というか男性自体に若干苦手意識がある。
小さい頃からずっとそうだったからセックスも遠ざけていて、夫が初体験の相手だった。
夫を好きになったのは物腰が柔らかく、男性をあまり強く感じさせなかったからだ。

 だから、自分がこんなにセックスを好きになるなんて思っていなかった。
セックスなんて男性の発露そのものなのに。
夫ももしかしたら意外に感じているかもしれない。

「で、君の悩みだけどさ」

 彼は自分の家みたいに気安い様子でリビングの椅子に座った。

「誘うのは確かに大事だよ。相手の気持ちや体調にちゃんと気遣っているのも評価できる。でもその前に踏むべき大事なステップがひとつ抜けてる」
「大事なステップ?」

「そう。だって君は、旦那さんがどういうエッチが好きなのかじつはそんなに知らないでしょう。自分がどんなエッチをしたいのか、相手に伝えてもいないでしょう」
「う……」

 確かにそうだ。
セックスといっても奥が深くていろんなやり方もあるというのは知識としては知っているけれど、私たちのセックスはだいたいワンパターンだ。
夫のリードを受け入れて、正常位か騎乗位か対面座位のどれかをする、そんな感じ。

「それに相手がどういうときだったらエッチをしたくなるのか、何に興奮するのかも知らない」

 うなだれるしかない。
思いやりとはいっても、私は夫自身を一人の人間として思いやってはいなかったじゃないだろうか。
私が気にしていたのは、誰にでも大雑把にあてはまる常識みたいなものでしかなかった。

「でも、どうやったらそんなことがわかるの」
「本人に聞いてみるしかないだろ。超能力者じゃないんだから、心が読めるわけじゃないし」

「え、そんなことを話すのは恥ずかしいよ」
「恥ずかしいことをするからこその夫婦でしょ。何言ってんの」
アイは呆れたように頬杖をつく。

 子供の格好でそんな刺激的なことを言わないでほしい。

「こういうことを照れずにちゃんと話し合うのは大事だよ。相手はどうしてほしいのか、自分はどうしてほしいのか。相手の立場を考えながら話してみなよ」

***

 数日後の夜、夫の好きな料理を揃えて話題を持ち出してみた。

 多少でもゆっくり話せる、翌日が休みの週末。

 いきなり持ち掛けてもびっくりされるだろうから、数日前から「大事な話をしたい」とは言っておいた。

 最初は二人とも口が重かったけれど、お酒を少しだけ入れたせいで徐々に会話が滑らかになっていった。

 私は夫ともっとエッチを楽しみたいこと、でも負担にはなりたくないこと、だから押しつけにならないように、こんなときだったらしたいと思えるタイミングや好みのシチュエーションについて聞きたいなどと話した。

 夫は単に疲れていることも大きいけれど、そのためにどうしてもリードできないことに彼自身が不満を感じてしまい、億劫になると打ち明けてくれた。

(そうか、そんなところを辛く感じていたんだ。話してみなければわからなかったな)

 夜中まで話し合って、私たちはとりあえず現段階での結論を出した。

別にいつでも夫がリードする必要はない、私からももっと積極的になってみるということ。

セックスだけが愛情表現になってしまったら、セックスできないときにストレスになってしまう。
一緒に楽しめるものをほかにももっと探してみること。

それから、二人とも今以上に体調に気を配るようにすること。

 結果的には、勇気を出して話してみてよかったと思える内容だった。

***

 それからはお互い疲れやストレスを溜めないように、腕によりをかけた私の手料理を楽しんだり、ドライブに行ったり、いろんな入浴剤を入れて一緒にお風呂に入ったりした。

 私は昼間の空いている時間を利用してマッサージを習いにいくようになった。
夫の疲れを少しでも癒してあげたい。

 セックスをしたいときにはちゃんとそう伝えるが、断られても焦ったり、悲しくなったりすることはなかった。
夫の気持ちがわかった今では、どういう理由があって断ったのか理解できるようになっていたからだ。

 そんなときには代わりにマッサージをしてあげることもある。
セックスとまったく同じ満たされ方はしなくても、これはこれで心が通じ合っているように感じられて、幸せだった。
ときにはマッサージからセックスになってしまうこともあって、嬉しい誤算だった。

 夫がいないときでも、自分磨きに力を入れた。

 肌に触れたいと感じてもらえるようスキンケアに今まで以上に力を入れたことはもちろん、好きな女優さんのDVDを見て色気のあるしぐさを研究したり、いろんな本を読んで女性の美しさや性的な魅力とは何か自分なりに考えてみたりした。

 セックスのテクニックも勉強した。
四十八手について解説したDVDを買ってみたり、お菓子のケースを使ってこっそりフェラの練習をしたり。

「自信を持ってリードできる女になる!」

 それが目標だった。

そういうことなら、喜んで

 いつも使っているコスメに、リビドーロゼやヌレヌレも取り入れた。

使い始めてすぐ、「いいにおいだね。ドキドキする……」と首すじに鼻を近づけられてくんくん香りを嗅がれたり、「今日の唇、色っぽい」とキスされるようになった。

 それだけで終わるんじゃなく、そこからセックスになることも多い。
以前と比べるとセックスの回数は確実に増えていた。

 ラブコスメって本当にこんなに効き目があるんだ!
と驚きもしたけれど、ただ使っただけじゃなくてほかにもいろんなことを頑張ったから相乗効果もあったんだろう。

 自覚している自分のいちばん大きな変化は、もともと目標にしていた通り、素直に、そして積極的に誘ったり、リードできるようになったりしたことだった。

(こんなことをしたらエッチすぎるって引かれないかな)

 昔だったらそんなふうに不安に思ったであろうことも、ちゃんと話し合った今ならできる。
誘うときはただ言葉にするだけじゃなく、「今日はダメ?」と甘えてみたり、「少し寂しいから甘えてもいい?」とボディタッチを入れたりすると彼もその気になりやすいということがわかった。

今まで漠然と感じていた距離が、どんどん埋まっていくように感じる。

アイに報告すると、
「じゃあ、僕はそろそろ必要ないね」

 なんて妙なことを言いだした。

「ちょっと、それ、どういうこと」
「僕たちは、ユーザーの悩みが解決すると消えるんだ。というか、アプリ自体がなくなる」

「そんな……」

 生意気なコドモだと思っていたアイだけど、親身になってくれたのは間違いない。

「そんな顔するなって。べつに落ち込むようなことじゃない」
「でも、アイがいなくなったらいやだよ。これからも話を聞いてよ」

 そう言うと、アイはちょっと寂しそうに笑って「考えておく」と答えた。

***

 久しぶりにゆっくりホテルにでも行って過ごさないかと夫から誘われたのは、それから少し経ってからのことだった。

 ホテルとはラブホテルじゃない、ちょっと高級なシティホテルだ。

「いいの? そんなところ」

「俺も最近ちょっと働きすぎていたからね。自分がゆっくりしたい気持ちもある。それに……いや、正直にいえば、こっちのほうが理由としては大きいんだけど」

 夫はそこで、ちょっと照れた。

「凜、最近俺のためにすごく頑張ってくれているのがわかるから。きれいになってくれたお礼、かな」
「……本当に?」

その場で飛び跳ねてしまいたいぐらい嬉しかった。
誰より「きれいになった」と言ってほしい人にそう言ってもらえて、そんな特別な時間までプレゼントしてもらえることが。

「そういうことなら、喜んで」

 最近はお化粧にもファッションにも今までよりも力を入れていたけれど、その日はいつも以上に頑張って支度をした。

 普段ではなかなか外食の選択肢に上がらない高級なレストランで食事をしてから、チェックインする。

 部屋に入ってすぐに強く抱きしめられ、激しいぐらいのキスをされた。

「ん……はむっ……」

 ひたすら求められ、むさぼられるようなキス。
それだけで頭の中が白くなってしまいそうだ。
まだ夜は始まったばかりなのに。

「ごめん、いきなり求めすぎだね」

 夫は唇を離すと苦笑した。

「うぅん、嬉しい。今日はいっぱい……しよ」

 私は夫の頬にキスを返した。

 まずは大きな浴槽にお湯を貯める。

「じゃーん」と私が出したのは、この日のために買っておいたトロケアウだった。
溶かすとお湯がローション状になる入浴剤だ。
専用の粉を入れればお湯に戻るので、流すときも詰まることはない。

「うわっ、エロい!」

 夫はローションになったお湯を前にして目を輝かせた。
爽やかなグレープフルーツの香りなのにどこかしら複雑な奥深さも感じるのは、フェロモンに似た成分だというオスモフェリンの影響だろうか。

 さっそく服を脱いで浸かる。
いつもみたいに夫の脚の間に座っているだけなのに、いつもよりずっとムラムラしてくる。
皮膚の感覚が変わって、肌をなぞる夫の手にいつもよりいっぱい反応してしまう。

お風呂に入るふたり

「あ……っ」

 耳をそっと噛まれながら胸を揉まれたり、アソコを指先でツンツンされたり。ほんの少しの刺激でも、ぬるぬるのせいで痺れるような快感になる。

 私も負けずに夫の感じるところをいっぱい攻めた。
アソコの根元を握りながら、もう片方の手で亀頭部分をさわさわする。

「あっ……ちょっと、この感じ……やばい」

 夫のほうも同じように感じているみたいだ。

 最後のほうは体が敏感になっていたせいか、キスしているだけなのにイキそうになってしまった。

 ここでは我慢して、お風呂から出ることにした。

部屋に戻ると、その日ふたつめのとっておきを出した。
メープル&ナッツ味のラブシロップ。

「これもローションなの。でも普通のローションと違うのはね……」

 自分で胸に塗ってみせる。
膨らみがぬらぬらと輝いて、その頂点の乳首がピンと勃った。

「食べられるローションなんだ。ね、舐めてくれる……?」

 その胸を夫に見せつけるように突き出した。

 唇が近づいてくる。

「ん……甘い……」
「あ……や、そんないきなり激しくしちゃ……っ」

 夫は音を立ててローションを舐めたり、吸ったりし始めた。
食べられるローションだからこその舌の動きは、ただ舐めるだけのそれとは少し違っている。
遠慮がなくて、文字通り捕食される側になった感じだ。

「これ……おいしいし、すごいいやらしい気分になる」

 夫が私のアソコに塗り込む。
私も彼のアソコにたっぷり垂らして、二人でシックスナインをした。
夫が私のアソコを指で開いて、奥まで舌を差し入れてくる。

「あ、ああんっ……」
「凜のここ……おいしい。もう……入れてもいい?」

 結局私たちはその晩、一度ではとても足りずに二度もして、大満足で家に戻ったのだった。

***

 アイは本人が宣言していた通り、それから出てこなくなった。
アプリもいつの間にかスマホから消えていた。

 もちろん寂しい。
でも彼は、抱えきれない大きな幸せを残していってくれた。

 大好きな夫といつまでも幸福な時間を刻んでいきたい。
だからこれからも何かあればちゃんと言葉にして意志を伝え合って、ひとりよがりにならない自分磨きを続けていく。
アイは消えてしまったけれど、アイが教えてくれたことは私の胸にいつまでも残るだろう。

END

⇒【NEXT】俺、理絵のいいところを全然わかっていなかったんだな(恋欠女子とバーチャル男子 Story05 愛情表現)

あらすじ

凜は夫とのセックスレスに悩んでいた。
誘ってみるも、今夜も玉砕。

そんな時アプリの中でアイに出会い…

松本梓沙
松本梓沙
女性向け官能、フェティシズム、BLなどを題材に小説、シ…
poto
poto
毎日小説「夜ドラ」の挿絵も担当。書籍、ウェブ、モバイル…
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