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官能小説 私の知らない私 続編 3話


俺がお仕置き

デートをドタキャンした一昨日、その理由が仕事のミスだったことを隠していた私に、亮は腹を立てている。
初めて見る彼の怒りに、私はひと言も言葉が出ずにソファで隣り合って座っているしかなかった。

7歳も年下の彼氏だから…。
自分の方が社会での経験が多いから…。
しかも、セックスで私がSだから…。
それで正直になれなかったのだと知ったら、彼は何と言うだろうか…。
考えれば考えるほど、私の唇はピッタリとくっついて開かなくなった。

「ちょっと…」

いつもとは明らかに違う声で立ち上がる亮の動きを反射的に目で追うと、彼は視線をこちらに向けた。
何分かぶりにぶつかる視線。
でも私には、何時間も何日も、彼の視線が遠くに行っていたような気がした…。

「ん?」と返事をしようとする直前、彼が私の手を取ってグッと握りしめる。
手の甲に浮く血管からも、怒りが噴き出しそうなほどに強く。

「今日は、俺がお仕置きしなきゃ…」

返事をする隙も与えず、彼は私を抱き上げてベッドへと連れて行き、ストンと寝かせた。

どうして…

仰向けに寝かされて、亮に目を向ける。涙が溢れそうな瞳からは、まだ怒りの色がにじみ出ていた。
「…亮君」としか言葉が出ない私を数秒見つめて、彼は一気に私の唇を塞ぐ。と同時に舌をねじ込んでくる。
息がつまるほどの、長い長い、長いキス。
亮は、私の頬を両手で覆い、時々その手にギュッと力をこめて、私の口の中を隅から隅まで舐めつくした。

唇からは、唾液が溢れる。 自分の唾液なのか、亮の唾液なのか…。 混ざり合いながら顎へ首へと流れてゆく唾液は、この2日間に飲み込んできた涙のような気がした。

「どうして…?」

亮は、瞬間離れた唇の隙間から、ひと言発した。 どうして、仕事のことを話さなかったのか、と。

「だって…」

私も、唇の隙間からひと言だけ答える。

「ちゃんと話してよ。どうして言わなかったのか…」

ジュッと唾液を吸い上げて、彼の舌の動きは、いっそう激しくなった。

「だって…私の方が7歳も年上で…、仕事だって少しは長くしているし…それに、いつも亮君が甘えてくれるのが…嬉しいから…」

舌を絡ませ合いながら、ゆっくりと、少しずつ、私は心の中にあることを言葉にした。
スッと唇を話して、至近距離で亮は視線を合わせてきた。そして

「俺って、そんなに頼りないかな?」

と見つめる。
私は激しく首を横に振った。

「頼りにならないなんて、そんなふうに感じたこと。一度もない…」

そう言葉にした瞬間。私の目から、涙が溢れた。
目尻から耳へと溢れる涙が伝ってゆく。 その涙を、亮は舌でチョンとすくい

「よかった」

とまた唇を合わせた。

涙の粒 涙の川

ヒック…。ヒック…。

キスをしながら泣くなんて、そんな状況があるなんて、これまで思っていなかった。
涙の堤防が決壊すると、そこからは涙が止まらない。 亮は唇を話して「大丈夫?」と再び目を合わせる。 うんうんと頷くけれど、涙はとめどなかった。

「泣いたらダメだって…。我慢してたの。どんなに大変でも、どんなにつらくても、この仕事が終わるまでは泣いちゃダメだって…」

涙と声が半々に混じっていく私を、亮はギュッと強く抱きしめてくれる。

「怒った?」

私は、涙で詰まりながら、恐る恐る声にした。

「怒ってるんじゃないよ。怒るというより、悲しかったかな。 俺ってそんなに頼りないのかなってさ。 まぁ、7歳も年下だから、仕方ないかなぁとも思うんだけどね…」

とぎれとぎれにそう言う彼の胸に顔をうずめて、私は再び首を横に振った。
私は、こんなにも亮を頼りにしていたんだ。 年齢も社会経験も下で、だからこっちがしっかりしなきゃと感じていた亮を、こんなにも頼っていたんだ…。
ひとりのときでさえ、泣かなかったのに…。

「本当はね…。失敗した時、真っ先に亮君の顔が浮かんだんだよ。 話を聞いてほしいって思った。でも、はずかしくて…」

そう、はっきりとしない声で話す私を、亮はさらに強く抱きしめた。

「でも私、恥ずかしいなんて思わなくてよかったんだよね。 だって、本当はこんなに亮君のことを頼りにしているんだもん…。 どうして、すぐに泣きつかなかったんだろう…」

正直な気持ちを言葉にすればするほど、涙の粒が大きくなっていく。
涙の川が広くなっていく。

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あらすじ

はづき
はづき
肌の細胞すべてに、体の動きすべてに、心が宿る。 心が…
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