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官能小説 私の知らない私 2話
もう1度だけ
年下の男とは、こんなにむき出しなものなのだろうか…。
パーティーで知り合った7歳年下の安岡亮は、会ったその日に交際を申し込み、断った私を抱きしめ、連絡先まで引き出していった。
それから2週間後。今、私は、安岡と一緒に静かなバーにいる。
2日に1回は交際を断っているのに、安岡からは毎日メールが来た。
“もう1度会ってくれるまで、諦めがつかない”と繰り返す彼に折れて、“もう1度だけだからね”と突き放すように約束したのだ。
大人の雰囲気が漂うバーに連れてきたのは、22歳の彼なりに、色々と考えたのだろう。
言葉も気遣いも表情も、2週間前より落ち着いている。話は楽しかったし、人柄もいいのがよく分かる。誠実で正直、まっすぐで無邪気なのは、若さのせいだけではなく彼の性格に違いない。
「やっぱり、ダメなのかな。こんな年下、頼りないですよね、綾乃さんには…」
バーを出てしばらく歩くと、安岡はうつむきながらそう言った。
「亮くん、ごめんね。今は、恋愛とか考えられなくて…」
いつの間にか彼を下の名前で呼ぶようになっていた私は、100%本音なのかどうか分からないまま、優しく断っていた。
嫌いなわけじゃない
『もう諦めますって、メールしたいのに、どうしてもできないんです』
そんなメールが届いたのは、安岡を亮くんと呼ぶようになって5日後のことだった。
メールの着信音に飛びついて携帯を手に取る自分に、半分驚いて半分は予想通りだと思った。
そして、メールを開くまでのもどかしさは、予想の何倍も大きかった。
メールの文面に、胸が締め付けられる。
亮はこの5日間、どんな気持ちだっただろう…。このメールを送る時、どんな表情だったのだろう…。
無邪気でよく笑う年下クンのはずなのに、冷たい風の中に立っているような姿だけが脳裏をよぎる。
『そうか…』
私は、何の答えにもなっていない返信をした。
心の揺らぎは、久しぶりに押しの強い人に会ったからなのだと、まだ自分に言い続けていたから。
『そうかって…。嫌いなら、ハッキリ言ってくれればいいじゃないですか!』
感情的な彼の返信に、私は何も返せなかった。
メールの着信音に飛びついてしまうのだから、嫌いなわけがない。でも、簡単に踏み出せるわけでもない。もう、勢いだけで恋愛ができる年齢ではないと、自分ではよく分かっている。
でもそれを、7つも年下の彼にどう理解しろというの…。
そんなことを考えている自分に気づきながらも「そもそもタイプじゃないんだし」と少し強く口にした。
『嫌いなわけじゃないよ』
そう返信したのは、2日後だった。
メールが行き来するうち、自分の気持ちがますます分からなくなる。
『メールじゃ、らちがあかない。会おう』
それを送ったのは、私だった。
それならドライブに、夜景の綺麗な場所があるからと、彼は喜んでいた。
拍子抜けしてしまいそうなほど無邪気に。
月のように…
本当に美しい夜景だった。
「こんな穴場があるんだね」と目を合わせる頃には、私も亮も、心がほぐれてよく笑っていた。
帰り道、坂を下る途中、運転席側のガラスの向こうに満月が見える。
「満月かぁ」と思わず呟く私に「月って、着いてきますよね」と亮もチラリと空を見る。
そして、
「いつも仕事で忙しくしている綾乃さんを月みたいに見守れたらいいのにって。こんなふうに、いつも見えるけれど邪魔にならないところにいられたらいいのにって。この1ヶ月、ずっと思っていたんですよ」
と続けた。
嫌なことがあったら、当たればいいのだそうだ。嬉しいことがあったら、何時間でも話せばいいのだそうだ。
「俺、想いも覚悟も告げました。で、綾乃さん。俺のこと、好きですか?嫌いですか?二択です!」
信号で車も月も動きを止めた時、運転席からの声が少し大きくなった。
これまでになく真剣な表情になっている亮に、抱きしめられた時の高揚が蘇った。
年齢や将来も気になるけど、そんなことは恋をしないために貼り付けた言い訳なのかな…。恋の始まりくらいは、シンプルでもいいのかな…。
「二択!」という亮の言葉が、また耳に飛び込んでくる。
「好き…。かも。二択なら…」
反射的に答える私を、彼はまた突然に抱きしめた。「ありがとう」という声と速い鼓動が、同時に温かく耳に響いた。
⇒【NEXT】「早くこうしたかった…」 (私の知らない私 3話)