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官能小説 私の知らない私 続編 2話
血の気の引く大失敗
心臓の音が、1秒ごとに大きく、速くなっていく。
心臓が、大きくなっていく…。
仕事の資料に目を通しながら、私は血の気が引くのを感じていた。
「金額が…、全部違ってる…」
イベント関係の会社に勤めている私は、企画書を書くことも多い。 重要だと念を押されている仕事での企画書で、肝心の金額の部分が、ことごとく間違っている…。
ミスに気づいたのが、プレゼンの10分前。
もうクライアントの事務所が入っているビルまで到着していて、今さら企画書を刷り直すことは不可能だ。
「う…上野さん…」
私は、一緒に来ている上司に上ずった声で話しかけ、ミスについて話した。
「ちょ…後藤」
私が指差した部分を見直すと、上野さんは私の名前を呼んだまま、声を失ってしまった。
デートどころじゃ…
“ごめん、亮くん。今夜、急に仕事になって、行けなくなっちゃった…”
プレゼンを終えて社に戻り、コーヒーを飲みながら亮に連絡を入れる。
今日は、亮の住むアパートに遊びに行く予定だったのだが、そんなことを言っている場合ではなくなってしまった。
企画書の間違いは、急いで直してプレゼンに向かった。
上野さんが、先に時間通りに先方へ向かい、私はビルのロビーで急いで金額を計算し直してから、約束の5分遅れで後を追った。
企画そのものは気に入ってもらえたが、時間に遅れたことは言い訳のしようがない。 だから、そのままにしておくわけにはいかない。 ただ、私のミスで大切な信用を失いかけたのだ。
企画は気に入ってもらえたとはいえ、あともう1つ。
何か、クライアントをうならせる何かがほしい。
それでなければ、あまりにも恥ずかしい凡ミスが、帳消しにならない。
そう感じていた。
恥ずかしさを振り切るようにアイデアをひねり、明け方近くにタクシーで帰宅した。
亮の怒り
「綾乃さん、今日ちょっと、おかしいよ。何かあった?」
デートをドタキャンした翌々日。明日は亮も私も休日で、今夜はおうちデートだ。
キッチンで夕飯の片づけをしている私に近づいてくる亮に、私は「うーん、大丈夫だよ…」と返した。
「ふーん」
亮は冷蔵庫からビールを1本取り出してリビングに戻っていく。
小さくため息をついて、私は洗い物を続ける。新入社員のような凡ミスを、7歳も年下の恋人に平気で言えるはずもない。
彼は、いつも私の仕事を応援して、尊敬するとまで言ってくれている。
そんな彼に、どの口が“計算ミスで大事なクライアントを失うところだった”と言えるというの…。
一昨日と昨日、ひどい寝不足になりながら、なんとか今日クライアントに新しいアイデアを盛り込んだ企画を届け、喜んでもらえた。
(ひとまずこれで仕事の方は落ち着いた…)
ほっとしながら亮の待つリビングに入ると、同時にあくびが出て、次の瞬間に彼と目が合った。
照れ隠しに笑うけれど、彼は少しも笑っていない。
ビールをひと口、ごくりと飲み込むと、音を立ててグラスをテーブルに置いた。
「どうしたの?亮君…」
「どうしたの?…それはこっちのセリフだよ。
絶対大丈夫じゃないでしょ?何が大丈夫なの?言ってみてよ」
怒っている…。私の様子がおかしいことに、気づいたのだろう。私は、思わず小さな息を吐きながら、顔を両手で覆った。
「ごめん、感情的になって…。綾乃さん、何があったの?」
立ち上がった亮は、私の手を取ってソファに座らせ、自分も隣に腰を下ろした。
「実は…」
私は、少しずつ、仕事の失敗について話した。
話すだけで自己嫌悪するのも正直なところだけれど、「うんうん」と頷きながら聞いてくれる亮を見ると、不思議と詳しく話したい気持ちにもなっていた。
「…というわけで、今に至ります」
そう言って顔を覗き込むと、亮は一瞬だけ目を合わせて逸らせ、ため息をついた。
「綾乃さん、大変だったね」
絞り出すような声に、私は「うん」と答えるのが、精一杯だ。
「てかさ。どうして言わないの?どうして今まで黙ってるの?俺、最初に言ったよね?つらいときには八つ当たりしていいって…」
今までも、小さなケンカはしたことがある。
でも、こんなに強い口調の亮は、見たことがなかった。
決して目を合わせない視線と思い切り握っている手から伝わってくる怒りに、私は何もできなかった。