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官能小説 私の知らない私 1話
気の乗らないパーティ
(帰ろうかな…)
レベル高いからとパーティに誘ってくれた由香には悪いけれど、イマイチ気分が乗らなかった。
目の前を行き来する男性たちよりも、明日の仕事のことが気にかかってしまう。もちろん、これぞと思う男性がいれば話は別だけれど…。
私は、せめて由香に声をかけてから帰ろうと、グラスのワインを飲み干すとホテルのパーティー会場の広いフロアに目を向けた。
「次、何を飲まれますか?」
不意に左側から声がして、思わず目を向けた。
明らかに私よりも年下の男性が、私の目と手元のグラスを交互に見ている。男性というより男の子、と言ったら失礼だろうか…。
正直、面倒だ。
目が合ったところで、何も感じるものはない。第一、年下の男性は趣味ではないのだ。
しかしその男は、「白ワインだったんですね」「次は赤にしますか?」と立て続けに話しかけてくる。
もう帰るところだと言いかけたところに、「僕、安岡亮って言います。旅行会社に勤めてます」と自己紹介されてしまった。
仕方なく私も「後藤綾乃です。仕事は、イベント関係…」と返したが、これが、運のつきだった。
名前と顔がマッチしているだの、仕事ではどんなイベントを手掛けているかだのと、質問が増え続ける。
こちらから質問を返すことなどないのだから、興味はないのだと分かってほしいが、まるで気づかないのか、気づかないふりをしているのか…。
話をする、というか聞いているうちに、私よりも7歳も年下だとわかった。
22歳で社会人1年生なのだそうだ。
ますます興味がなくなった。
安岡の友人が彼に声をかけてきた隙に、「失礼します」と言い残して会場を後にした。
金魚のフン
1階でエレベーターを降りて、ギョッとした。
肩で息をする安岡が、エレベーターの前に立っている。私の顔を見るなり、「綾乃さん、ひどいな」とむくれる。
やはり、男の子だ。
チラッと苦笑いで目を合わせて「ごめんなさい」と横を通り過ぎる私に、安岡はついてくる。ホテルを出ても、交差点を過ぎても…。
「ほんとに、私、ここから地下鉄なので」
初めて、私から目を合わせた。一生懸命な、そして寂しげな安岡の視線が飛び込んでくる。私が「ごめんなさい」と言うのと、彼が「脈なしですか?」と言うのが同時で、私は思わず吹き出してしまった。
「初めて、笑ってくれましたね」
無邪気な7歳下の笑顔に、人としての誠意を引き出され、きちんと断るべきだと感じた。
「あのね、ありがとう。でも、脈なしです」と、きっぱりと結論を告げると、安岡の向こうに満月がチラリと見える。
あまりにも無下に好意を振り切ってしまう後ろめたさからか、私は、過去の恋愛を告白した。
すごく好きな恋人がいたこと。
今思えばほとんど依存していたこと。
その恋人に、満月の夜にアッサリとフラれてしまったこと。
そして、それから恋愛に身構えてしまう自分がいることも…。
気のせい…、気のせい…
「だから、満月は嫌いなのよ。で、脈なしなの」
そう言って再び目を合わせようとした瞬間、いきなり抱きしめられた。突き飛ばそうと全身に力を入れるほど、さらに強く男の力で自由を奪われる。
地下鉄の駅のほど近い、人通りも多い道。
「ちょっと、何をするのよ!」
怒りの声を出しながらも、胸に何かが突き刺さる。そして次の瞬間、突き刺さったその場所から、ドクドクと激しい鼓動が飛び出してくる。心臓が、服よりも外に飛び出しているようで、突き飛ばそうにも力が入らない。
「そんな過去の話、脈なしの理由になんてなりません」
年齢は7つも下だけど、身長は頭1つ半分は高い安岡が、上の方から噛みしめるような声を出す。私の胸に突き刺さった何かは、さらに奥まで突き抜けて、暴れる鼓動をむき出しにした。
(この爆発しそうな胸の音が、伝わってしまっているのではないか…)
思わず私は、自分の胸元に両手を押し当て、胸の高鳴りが伝わらないようにと願った。
「でも、だめ」
徐々に力が抜ける安岡の腕をほどくと、私は小さく微笑んで顔を上げる。どうしてもと言うので連絡先だけは交換したが、そのまま地下鉄に乗った。
安岡に話した過去の恋から2年。
こんなに積極的な人に会ったのは久しぶりだから、少しドキッとしただけなのだ。
そう、自分に言い聞かせながら。
⇒【NEXT】「俺のこと、好きですか?」 (私の知らない私 2話)
あらすじ
年下の彼との出会い…気の乗らないパーティで積極的な7歳年下の安岡と出会うも、まったく相手にしない綾乃。
年の差も興味がなくなる理由のひとつであったが、綾乃は過去の恋愛を引きずっていて…