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官能小説 私の知らない私 最終話
心の波間に
対面座位で、果てそうになる亮に、目を逸らしてはダメと言いつけるように放って、まっすぐに視線を結ぶ。
(このままじゃ、亮、昇り詰めてしまう…ダメ…)
昇り詰めさせてはダメだと思っていることにも、自分自身で驚き、ザワザワとした胸の波を感じていた。
その波間で、亮の耳に口を伸ばし、軽く歯を立てた。
「っう…っ」という彼の声が耳に届くと、「怖い?」と自分の口から予期せぬ言葉が出てくる。
「ちょっと…」と少し震える声で応える亮を、もっと強く抱きしめたくなる。
「こうして歯を立てられると、これからどうなるんだろうって思って、果てそうになるのが少し遠のくでしょ?」
ますます声が深まる自分に、半分は驚いて、半分は驚くのをやめていた。
「綾乃さん…」とだけ返事をする彼に「やめてほしい?」と質問を続けると、亮はすぐさま首を横に振る。
「亮君はね、こうされる方が好きなのよ。私のことを縛るより、ずっとね」
「あぁ…。綾乃さん…。うん、果てるのが、少し遠のくんだけど…。なんか、違うものがくるんだ…」
どこまでも甘くてどこまでも切ないシワを眉間に刻む亮を眺めていると、脳裏に浮かぶ“私の知らない部屋”が一層くっきりと際立った。
従順な彼
「ふふ…まだまだ、ダメよ」
亮の眉間にスッと中指を1本なぞらせると、彼を仰向けにした。
自分のリードで女性上位に持ち込んでいくことに、私はもう、少しも驚いていなかった。
「大好きよ…」
ゆっくりと目を合わせる。強烈なほどに硬く満ちた中心とは裏腹に、柔らかくて従順な瞳が飛び込んでくる。
「うん、綾乃さん…大好きだよ。だから今日は、たっぷり満足してもらおうとしたのに…」
途切れ途切れにそう言う亮に「じゃ、今のこれは、不満?」と口調をはっきりとさせて尋ねる。
すぐさま、またかぶりをふる彼に、目だけで笑いかけると、私は腰の動きを激しくした。
「あぁ、綾乃さん、いいのかな…。俺が男なのに…。俺が、綾乃さんを気持ちよくしなきゃ…」
「誰が、そうしなきゃいけないって決めたの?亮君、義務感で私を抱くの?」
「そうじゃない…。ただ、気持ちよすぎるよ。このまま、甘えたくなっちゃうよ…」
亮の息は、ひとつ言葉を口にするたびに柔らかく悶えていった。
感じたことを素直に言葉にする彼に、愛おしさがさらに深まる。
私の知らない私
「いいのよ、甘えてほしいんだから…」
その言葉が口から出たとき、“私の知らない部屋”の中に私自身が見えた。
ここは、私の知らない部屋ではないの…?
そこには、私がいる。今まで、私自身も出会ったことのない私。私の知らない私。
「いいの?綾乃さん…」
亮の声を聞きながら、私の知らない私が微笑んでいるのを感じていた。
こんな私がいたなんて…。
満月は、男だけじゃなくて女までむき出しにするのかしら?
「もちろん。大好きな恋人が甘えてくれたら、嬉しいのよ。それに私、もしかしたら、ずっと亮君に、こうしたかったのかもしれない…」
いっそう激しく腰を振り乱しながら目を合わせ、その視界の隅で彼の眉間のシワがさらに強くなるのを認めた。
それを見ると、泉の中も全身の肌も、一段と熱くなる。腰のうねりがますます激しくなる。
はぁはぁと吐くふたりの息も、さらに熱く迫りくる。乱れながらも、その乱れる息が合っていく。
「綾乃さん…、ほんとに、ダメだよ。どうしよう…」
息まで苦しそうな彼の顔つきと声に、私は、体力も快感も限界を感じながら、全身をうねらせ、ぶつけていった。
「あぁっ…ごめん、綾乃さんっ」
極限の表情を見せて果てる彼。その姿を見届けると、無数の幸福感の粒が弾けて私に降りかかった。
彼を攻めたいというのも、本音。でも、それ以上に私は、彼を気持ちよくしたいんだ。ただただ喜ばせたいんだ…。
そう気づくと、亮への愛が泉の奥からさらに湧き上がって、噴き出す。
「あぁ…」
上ずった声と共に、私も快感の渦へと一気に巻き込まれた。
ぐったりと亮に体を重ねて「幸せ…」と呟くと、彼はうんうんと頷く…。
そこにいるのは、もう、私の知らない私ではない。
亮を愛するありのままの私。
これから、この私で、たくさん亮を幸せにしよう。
汗ばんだ腕で彼を抱きしめながら、出会ったばかりの私自身に、微笑みながら誓った。
<END>
⇒【NEXT】「口の中で、どんどん大きく硬くなっていく…」(私の知らない私 続編 1話)