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官能小説 本当にあった物語 1話「夏の香り」

期待と不安

シュッとひとふき、智子に勧められた香水を左手首に。
それを右手首にもなじませて、うなじと首元を押さえる。

(今日は…、今夜は…、何か、ある…かも)
そんな言葉が頭に浮かんだ瞬間、ドアの向こうから「奈々、着替えた?」と哲也の声がする。
これから花火大会に行くので、哲也の自宅アパートで浴衣に着替えているのだ。
「あっ…うん。ちょうど今、帯を締めたところ」
「そっか!じゃ、入るよ」
哲也の言葉に、私は焦って“LibidoRose”と書かれた香水の瓶を洋服の入ったバッグに戻す。

哲也と私は、ついこの間、付き合い始めたばかりだ。
この春から大学のゼミが同じで、夏が近づく頃からふたりで会うようになった。
近隣での花火大会のスケジュールを哲也が調べてきて、一緒に行こうと盛り上がっていた。

「奈々は、男友達とふたりでも、花火とか行くの?」というのが、哲也からの告白の始まりだった。それは、そっくりそのまま、哲也に返したい言葉で…。
私も、彼が女友達をふたりで花火に行こうと誘うのかどうか、気になっていた。気になっていたというよりも、そんなことはあってほしくないと願っていたといったほうが正しい。
「行ったこと…ない…よ」
どんな意図で哲也が質問をしているのかは分からないので、私は、言葉も表情も仕草も視線も、すべてが中途半端で答えていた。
「俺とは、友達として、行くの?」
私のあやふやな返事とは違って、哲也の言葉には力があった。意志があった。
私は、その声と言葉の強さに引っ張られるように、視線を彼に向けた。
「俺は、彼氏として、行きたい」
視線が絡んだ瞬間、哲也は、そう告げた。
「うん…私も。彼女として、行きたい」
小さい声だったけれど、その言葉には、私の意志が宿っていたと思う。
目を合わせたまま答えた私に近づき、哲也はギュッと私を抱きしめて「緊張した…」と笑って体の力を抜いた。

あれから、一週間。
私たちは、お互いのバイトや友達との予定で、まともに会えないままだった。
三日前、ほんの数時間会って食事に行き、帰りに駅でキスをした。
それきり、さっき駅に迎えに来てもらうまでは、会っていない。

(今夜は、花火が終わったら、ここに戻ってきて泊まる予定…。何か…あるかも…)
こみ上げるソワソワを抑えきれないまま、カチャリとドアを開ける音に振り返ると、無邪気な哲也の声を笑顔が飛び込んできた。
「いい!すごくいいよ、奈々!」
「よかった…。自分で着るの、慣れてなくて…」
恥ずかしくてうまく目を合わせられない私に、哲也はまっすぐに近づいてくる。
浴衣の肩から袖を指でなぞった後、私の額を右手の人差し指と中指の先でそっと撫でた。

上目遣いに哲也を見る。

「キスしていい?」
哲也の小さな声が、優しい視線と一緒に流れ込んで、私は、魔法にかかったように、ただ頷いた。

「唇も、上手にメイクしてるから」と笑って、彼は額にチュッと唇をつける。
そのまま、私は、吸い寄せられるように彼の胸に頭を預けた。
哲也の心臓の鼓動が、伝わってくる…。
好きな人が恋人になったことに、まだふわふわとした気持ちだったこの一週間だけれど、こうやって哲也の鼓動を感じると、恋人という存在感が胸の中で根を伸ばすように感じられた。

ピピッ…
一時間に一度時刻を知らせる哲也の腕時計が、私の耳元で優しく囁く。

「行かなきゃ」
同時に言って、私たちは花火大会へと向かった。

夜空を染める花火

花火大会への道すがら、哲也は、ずっと私の手を取ってくれた。
さっき、駅まで迎えに来てくれて彼のアパートに向かっている時も手を繋いでくれたけれど…。
そのときよりも、ずっとしっくりと手が馴染む。恋人という自信が、手の感触をこんなにも変えてくれるのかもしれない。



「きれい…」
人混みの中でも、思ったよりも広いスペースを確保できて、私たちは手を繋いだまま花火を見上げた。
大きな音に、一瞬緊張しそうになるけれど、ため息の出そうな色とりどりの光に、体の力は抜けていく。

しばらく連続で花火が打ち上げられた後、少し静かになり、花火のステージとなっていた空は幕を下ろしたように暗くなる。火薬の香りが、人の声や熱気に紛れてほのかに伝わってくるのが心地いい。
「奈々」
暗い中、右上から哲也の声がする。
「ん?」と見上げた瞬間、彼の唇は、私の唇に重なる直前だった。そして、暗闇の中でも見えているかのように、彼は唇を合わせた。
一瞬だったのか、数秒だったのか、それとももっと長いキスだったのか…。正直、分からない。
唇が離れてふたりが並び直したとき、次の花火が上がった。
花火の明かりの中で彼を見上げ、目を合わせる。視線が絡んだ瞬間に、私たちは、同時に微笑んだ。

それから、哲也は、私の後ろに回り、両手を繋いだり肩を抱き寄せたりしながら空を見上げていた。
(香り…リビドーロゼの香り…、するかな…)
時々、そんな不安のような期待のような思いが浮き上がっては、消えた。花火のように…。

もう…いいよね?

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「奈々…」
花火大会が終わってアパートに戻り、玄関のドアを閉めたとたんに、哲也は私を強く抱きしめた。
「浴衣が、着崩れしちゃうかなって思って、ギュッてできなくて…。でも、もう…いいよね?」
質問よりも前に、彼は抱きしめていたけれど、私は彼の腕の中で「うん」と小さく頷く。

「いい香り…。今日、奈々、すっごくいい香りだよ、ずっと」
抱きしめる腕はそのままに、彼は、唇を重ねる。
熱い舌が、激しいほどの勢いで口の中に流れ込む。一瞬、頭全体がジンとしびれて、私は無意識のうちに自分の舌を絡めていた。
「っん…ん…」
声と息が甘く漏れるような切ないキス。
同時に、哲也の手が移動するのを感じる。
彼の手は、浴衣の合わせをはだけさせ、私の太ももへと忍んでくる。
「恥ずかしい…」
重なる唇の合間から、私は、何とか言葉にした。
「ダメ?」
“ごめん”とでも聞こえそうな彼の声に、私は、彼の舌にキュッと吸いつき、さらに激しく舌を絡めて返事をした。
浴衣の中の哲也の指が、太ももの内側へとさらに進む。
柔らかく優しく撫でてくれるその指に、私はすべてを委ねたくなってしまう。
もう一方の彼の手が、襟の合わせを緩め、中に忍び入ろうとする。

「哲也…、シャワー…借りていい?」
夏の人混みでかいた汗を、そのまま、恋人と初めて共にするベッドに持ち込みたくはなかった。

終わらない夜

「あぁあ、俺んちの石鹸のにおいになっちゃった…」
シャワーを浴び終わった私をベッドに寝かせ、上から四つん這いに重なって首筋に顔を埋めると、哲也は本当に残念そうに言った。
「今日、本当にいい香りで、抱きしめたいのを我慢するの、大変だった」
薄暗い部屋のベッドの上で、首筋から胸へと舌を這わせながら、彼は照れくさそうに視線を向けた。きっと私は、その何倍も恥ずかしそうな顔をしている。
彼の肩を撫でながらその温かみを手の平全体で感じていると、彼の手の平は、また、私の太ももの内側を撫でる。
「ぁあ…っ」
ビクリと全身が反応して、次の瞬間から、彼の舌に転がされる乳首と指に撫でられる内ももだけに神経が集中した。
「…っん…あぁ…」
吐息を抑えられないほどに、哲也の愛撫は、何かを優しく溶かすような温度を持っていた。

「濡れてる…」
私の花びらを開いて、哲也が指にすくった蜜を眺めて、彼が本当に私のカラダを溶かし
たような錯覚に陥る。

その蜜を舐めて見せた後、彼は、私の全身にゆっくりと時間をかけて舌を這わせた。
私の表面は、彼の舌によってすべて柔らかく溶かされ、空気との境界を失っていく。

彼自身が私の中に入って来たときには、自分が溶けたチョコレートになって彼を沈みこませているようにさえ感じた。

「うぅぅ…」
哲也の、半分苦しそうな吐息が聞こえると、私は、愛おしさが湧き上がって、腰が大きく揺れた。

「あぁ…奈々…きもちい…奈々の中、すごくきもちい…」
哲也の熱い息が私を溶かし、私の切ない息が彼を溶かす。

私たちは、溶けても溶けても、まだ絡み合った。
何度も溶け切って、また溶かし合った。
暗闇が訪れても、繰り返し夜空を染める花火のように。

「好き…大好き」
溶けるたび、溶かすたびに、言葉にして、私たちは終わらない夜に沈んだ。

END

体験談

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あらすじ

哲也は奈々の最近付き合い始めた彼氏だ。
奈々は哲也と花火大会に行く準備で浴衣に着替えていた。

二人はこの花火大会がきっかけで想いを打ち明け合った。

今夜は何かあるかもと期待する奈々は、
ベッド専用香水リビドーロゼを鞄から取り出し手首にひとふき…。

3日ぶりに会う彼は…

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